異世界聖女召喚(仮)

如月 桜

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22.おいしぃものには目がありません。

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 そのあとは、ノアと合流をし、すでに荷物をまとめ終わっていたエルフたちとともに精霊界を渡り、目下村とも言えない国づくりをしている場所へと向かった。
 夕暮れ前には建設途中の家の前庭に到着することができた。
 ひとまず、今日は前庭の空いている場所に簡易テントを張って彼らは眠ることになった。とはいっても、いまだにお家が建たないから私もノアとセイのあったかふわもこ毛皮にくるまって寝るんだけどね・・・・・・。
 翌朝、日の出とともに目が覚めると、いつものように朝ごはんを作る。
 チート魔法でいろいろとやばい改造をした野菜と、数日前にセイがとってきてくれたウサギの肉を入れたスープと今日も焼き立てのパン。
 いつでも焼き立てのパンが食べれるように、暇なときにせっせと焼いてはアイテムボックスに放り込んでいるので、毎日毎食、焼き立てのパンが食べれるのだ。
 スープの味を見て、香辛料を入れて、味を見て、ってしていると、いつの間にかエルフの女の子が隣に来ていた。
 じぃっと、私の手元を見ている女の子。
 しばらくは気にせず作業をしていたのだが、相変わらずじぃっと物珍しそうにスープを見ているので、ん、とわずかに悩んでから、自分用の木の椀にスープをついで女の子へと差し出した。
「食べてみる?」
 首を傾げ聞けば、女の子はびくりと体を震わせた。
「―――――――」
 しばしの硬直の後、おそるおそる手を伸ばしてくる女の子。
 何だろう・・・・・・野良猫にご飯上げてるような気分・・・・・・。
 しばらく待ってみる。
 かなりの時間をかけて、女の子は私の手から木の椀を受け取った。
 それでもすぐに口にするのではなく、ひくひくと匂いをかぎ、くるくると椀を回してみては、中身を確かめている。
 そんなに危ないもの作ってないはずなんだけどなぁ・・・・・・。
【できたか?】
 朝起きると、さっさと人の姿に戻るノアが寄ってきて聞いてくる。
「できたよ。セイは?」
【エルフの長と話中だ。先に食べておけと言っていた】
「じゃぁ、先に食べよっか」
【今日中には家も完成するそうだぞ】
「じゃぁ、やっと、屋根のある場所で寝れるのね」
【一応な。家具などはあとでセイが見繕ってくるといっていたから、もうしばらくは床で寝ることになるだろうな】
「ノアとセイの毛皮あったかくって好きだからいいよ」
 むしろ、ずぅっとライオンさんにくるまれて寝るってのもいいなぁ、とかおもうんだよねぇ・・・・・・。
 大きめの寝室を作ってくれてるらしいから、ノアとセイが一緒に寝れるだけのスペースがあったら、ふかふかのじゅうたんを探して、クッションとかいっぱい買って、床でごろ寝でもいいなぁ・・・・・・。
【今日の予定はどうするつもりだ?】
 自分の木の椀を差し出しながら聞いてくるノアに、私は「んー」と悩みながらも、スープをノアの木の椀の中へと注ぐ。
「とりあえず、エルフの人たちの住む場所の確保かなぁ・・・・・・当面は誰も来ないだろうって思ってて、前庭の畑分しか開拓してなかったからなぁ」
【そういう話は、セイがつけてるだろ。一応獣人族も来る予定なのだろう?】
「どうだろうねぇ・・・・・・昨日話をしたときの反応だけ見ると、何とも言えないなぁ・・・・・・セイったら、言いたいことだけ言ってさっさと帰っちゃうんだもの」
【まぁ、難しいことはセイに任せておけ。あれはあれでかれらの世の渡り方を理解しているからな】
「あ。ノア。そろそろお肉がきれそうなの。またお願いできる?」
【ん、わかった。あとでとりに行ってこよう。何がいいとか希望はあるか?】
「特にないよ」
【捌いて持ってくればよいのだな】
「お願いします」
 どうにも、動物の捌くのはできないのです、というと、ノアはよしよし、と大きな手で頭を撫でてくれる。
【お前のできないことは俺がやると言うたであろう。そのための誓いでもあるのだからな】
「ノアさん、無駄にイケメン成分放出しないで。耐性のない私には劇薬なのよ」
 一房髪をすくいあげ、ちゅっと、口づけを落とすノアにそういうと、ノアはさらにいたずらっぽく笑った。
【いい加減なれぬか】
「ノアの無駄なイケメン顔にはいまだになれません」
【セイは平気であろう】
「セイはどちらかというと、女性みたいに見えるんだよねぇ・・・・・・口調とかもあいまってさぁ」
 おかっぱ頭に割合中性的な服装と口調も相まって、きれいなおねぇ様を見ているようなかんかくなんだよねぇ、セイは・・・・・・。
【まぁ、意識してもらえているから良しとするか】
 なんて思いながらの発言に、なぜかふむふむとうなずきつつ、満足げなノアさん・・・・・・。
「私の心の平穏を返して」
【そういう割には寝るときは一緒でないと嫌というではないか】
 人間の女はよくわからん。と言いたげに言われた。
「だって、ノア、あったかいんだもんっ!!それに、おっきぃライオンさんと一緒に寝るのは永遠の夢だったのです!!」
【そういうものなのか】
「そういうものなんです!」
【ん、今日のも美味だった。それでは狩りへと行ってくるかの】
 空になった椀をおき、ノアはライオンの姿へと変わると、行ってきます、と言いながら顔を私の頬へとスリスリさせて、それから、ぺろりと舐めて森へと駆けていた。
【アイツ、絶対に確信犯よねぇ】
「あ、セイ、お話終わったの?」
【終わったわよ。当面の予定だけは決めてきたから、ご飯を食べながら話しましょ。で、モモ、この子はどうしたの?】
 ノアと同じく、自分の椀を出しながら、私の横へと腰を下ろすセイ。
 ちらりと横目で見たのは、相変わらず私の木の椀を持っているエルフの女の子。
「興味津々って感じで見られたからあげてみたんだけど、エルフの人には口に合わないのかなぁ」
【そんなことないと思うわよ。ほら、あんたも食べてみなさいよ。モモのスープはおいしいのよ】
「でも、いい加減スープとパンとお肉だけの生活も飽きるよねぇ」
【そう?】
「うん。そろそろ味噌とか調味料もつくらないとなぁ・・・・・・」
【モモの食べ物に対するこだわりはすごいわよねぇ】
「そう?」
【そうよ。まぁ、いいわ――――――とりあえず、決まったことを言うわね。エルフたちは、前庭からもう少し行ったところを切り開いて生活するってことに決まったわ。それでね、モモがほしがっていた水路だけど、エルフたちも生活用水として水がほしいから、この近くにまで水を引くようにお願いしといたから】
「わー、助かるぅ。水路どうやって引いたらいいのか悩んでたんだよねぇ」
【その辺の技術は、ドワーフを連れてきたら解決するから、知り合いのドワーフにお願いすることにしたから】
「―――――――――へ?」
【あんたねぇ、遊牧民やってるエルフにそんな技術があるわけないでしょーが。知り合いのドワーフが、今のこの世界のやり方につかれたって言ってたから、こっちに引き込もうと思ってるのよ。あそこは村単位でやってくるだろうから、にぎやかになるわよー。てことで、今日はドワーフの勧誘に行ってくるから、モモはおとなしくしてるのよ。さー忙しくなるわよぉ。あぁ、そうそう、あとね、エルフたちが、モモの前庭に植えてる野菜が気になるんだって。あとで長と数人のエルフが来るだろうからちょっとわけてあげて】
「それはいいけど・・・・・・」
【あと、たぶん、食の向上ってことで、パンの作り方とか言われるわよぉ】
「教えるのはいいんだけど・・・・・・私、魔法と融合してやってるから、これ、教えろって言われても教えられるのかわかんないよ?」
 向こうの世界の技術をベースに、こんな感じかなぁ、で魔法を使って醗酵とかやっちゃってるから、教えろと言われて教えることができるのかっていう自信がない。ていうか、これ、生地を醗酵させるのに、三種類ぐらいの魔法組み合わせてるから、ほかの人にできると思わないんだけど・・・・・・。
【十中八九、作れないでしょうねぇ。一応、その旨も伝えてるから、あんたは気にしなくっても平気よ。ただ、一度そのパンのおいしさを知ってしまったらもう無理でしょうねぇ・・・・・・物々交換っていって、ひっきりなしにやってくるようになるわよぉ】
「え、なにそれ、パン屋さんしろってこと?」
【それもいいんじゃないの?】
「えー魔法で野菜の品種改良して遊びたいのに」
【ある程度改良したらエルフや獣人族に株分けして育てさせなさいよ。それでお互いのバランスがいいでしょ?施しをもらうだけじゃぁだめなんだから】
「んー、まぁ、そう、だね・・・・・・株わけ事態はすぐにできるから、お米と麦をそれぞれにお願いするかぁ」
【役割分担って大切よ。あと、料理の仕方ぐらいは教えてあげなさい。あんたの料理、特別においしいんだから】
「それぐらいなら」
【そろそろノアが大物連れて帰ってくる頃合ね。それじゃ、あたしは出かけてくるから、お土産に何かほしいものある?】
「クッションとお布団とふかふかのじゅうたん」
【わかったわ。すぐに戻ってくるから、ノアの言うことを聞いておりこうさんに待っとくのよ】
「はぁい。いってらっしゃぁい」
 ひらりと姿をおっきなくまさんへと帰ると、そのまま走り去っていくセイ。
 にしても、ノアとセイを送り出してもまだスープに手を付けていないエルフっこ。
 さて、どうしたものか・・・・・・。
 とりあえず、私もスープとパンを食べるか。
 ごそごそとアイテムボックスの中から予備の椀と焼き立てのパンを取り出す。
 スープを椀へとよそって、いっただっきまぁす。
 んー、この何とも言えないトマトっぽい味とジャガイモが癖になるなぁ。
 乳牛とかないのかなぁ。あるなら酪農でもしながらチーズ作ったりできるのになぁ。あとでノアに聞いてみるかぁ。
 にしても、チート魔法で作ったパンはふっくら柔らかくっておいしぃなぁ。確かに、この味を覚えてしまったら、あのカチカチのパンは食べられないよなぁ。
「ごちそうさまでした。よし、ノアが帰ってくる前にハーブの準備しとくか」
 にしても、このエルフっこ、なんでスープ欲しそうな目で見てたんだろう。結局、怖がって食べないのに。
 まぁ、知らない人から渡されたものをほいほい食べるなって教えられるのが当たり前だからそんなものか。
 別にいいけどさ。
 さてと、ひとまずスープをつくった鍋をアイテムボックスに放り込んで、岩塩とその辺で拾ってきたハーブと出してすり鉢でまぜまぜまぜ。終わるころにはノアも帰ってきたので、そのままお肉を寝かせる準備をします。
 アイテムボックスに放り込んでおくと、時間が進まないからねぇ、お肉は少し寝かせるとおいしいので、大きめの葉っぱにくるんで家の厨房の棚になおします。冷蔵庫ほしいって言ったら、何それって聞かれて、こんな感じのもの、っていったら、セイがそれっぽいものを探してきてくれた。
 魔石が埋め込まれていて、そこに魔法をためておくと、じわじわと箱の中が冷やされ続けるものらしい。
 魔法が使えること前提のアイテムですね。
 現状困ってないけど、魔法が使えなかったら涙目のアイテムだな・・・・・・。
 って言ったら、だから、お蔵入りになっていたのよ。
 と教えてくれた。
 あ、やっぱりお蔵入りになっていたのですね。
 そうこうしてるうちに、エルフの長と何人かのエルフがやってきた。
 かたっ苦しい挨拶を抜きにして早速セイから聞いていた野菜のことを話す。
 獣人族が来ることもふまえて、とりあえず、エルフには麦を作ってもらうことにした。
 この麦も、もちろん、しっかりちゃっかり品種改良済みだ。
 その辺でほったらかしにしておいたって、元気に育つぐらいに丈夫で、なおかつ、きめ細かく面倒を見た時と同じぐらいの収穫量と品質が出るようにしている。
 育て方について大雑把に説明をしてから、すでにある株から麦の種を取って、前庭の隅っこに埋める。
 ちょこっとチート魔法を使って発芽させて、ある程度の大きさになって魔法を使うのをやめる。
 そのころには、エルフの長、レイネは口をあんぐりと開け、惚けていた。
 同じく、レイネと一緒に来ていたエルフの二人もぽかぁんと大きな口を開けて呆けていたが、まぁ、無視しよう。
 麦はこんな感じね、という。
 それから、果物の木をいくつかと野菜の苗をいくつか育ててもらうようにお願いした。
 代わりにこっちはパンを提供するっていうことで落ち着いた。
 やっぱり、あのパンに使っている魔法は私ぐらいしか使えないみたいだ。
 ちっ、みんなが使えたら、楽できると思ったのに・・・・・・。
 あ、でも、それ専用の室を用意して、今まで寝かせるところまで魔法でしてたけど、そこを魔法でやらないようにしたら、結構楽できたりして・・・・・・。
 ん、要実験案件ですね。
 そういえば、あのスープを渡したエルフっこ。
 レイネさんたちが来たら、やっとスープに口つけてた。
 一口飲んだ瞬間、ものすっごく目をキラキラさせて、それからは一気に飲み干していたから、まずくはなかったのだろう。
 で、それを見ていた、レイネさんについてきていたエルフの一人が、ぜひ作り方を教えてほしい、と言ってきたので、夕食の時にでも教える、ということで合意した。
 昼ごはんまでの時間はそんな感じで過ぎていった。
 もう少し品種改良したいんだけどなぁ、とか思いつつ。
 でも、あまり生態系を崩すのもいけないしなぁ。
 あぁ、でも、完全にここで管理をして、自生しているのは改良してないから、いいのかなぁ・・・・・・。
 むずかしぃなぁ・・・・・・。
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