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ヴァイオレット

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翌日、朝食を取るため部屋を出て食堂に向かう。

「おはようございます。お嬢様」

角を曲がるとマンクスフドとぶつかりそうになった。

「おはよう、マクス」

騎士達の食堂はここでは無いのにどうしてここにいるのか不思議で何かあったのかと尋ねようとするより早く「公爵様に食事を終えたら部屋に来て欲しいと言われたのです」と教えてもらう。

「そう。なら、また後でね」

「はい」

少し会話をして別れる。

アドルフの事を話すのだろう。

今この屋敷に仕える者達の中で信じられるのは、マンクスフドくらいだからだろう。

他の者が信じられないからというより、マンクスフドは絶対にあり得ないという確信があるから伝え一緒に裏切り者が誰か捜すよう頼むのだろう。

食堂に着くと既にヘリオトロープがいた。

カトレアとサルビアは部屋でもう食事を済ませたたと伝えられた。

食事はヘリオトロープがずっと話しかけてくるのでいつもより食べ終わるのに少し時間がかかってしまった。

話をするのは嫌いでは無いので問題はないが、第一印象から随分と変わった。

話すことが嫌いな印象を受けていたが意外と人と話すことは好きみたいだった。

後でメイナードから聞いた話だとヘリオトロープはマーガレットが食堂に来るまでずっと朝食を食べるのを我慢していた、と。

「一緒に食べたいから来るまで待つ」

そう言って来るまでずっと待っていた。

それを聞いて申し訳なくなり、「明日からは遠慮することなく先に食べて構わない」と伝えると「一緒に食べたいから待っていたいのです」と言われた。

家族揃って食事するときなら問題ないが暫くは難しそうだと思い起きるのは少し遅くてもいいかと思って寝過ごそうと考えていたが、ヘリオトロープが待つと言っている以上そうするわけにはいかないと諦める。

「わかりました。ではこれからは一緒に食べましょう」

「はい。ありがとうございます」

青年のような美しい笑みではなく、少年のような愛らしい笑みを浮かべ喜ぶ。

ヘリオトロープもこんな風に笑うのかと少し驚くも、こっちの方が素敵だなと思った。



「これから何をしますか」

ヘリオトロープはマーガレットの護衛を務めることになったのでこれからはずっと傍にいる。

朝食を終えサルビアの元に行くとマンクスフドはカラントに騎士としての在り方や剣術を教えたりで忙しいのでマーガレットの護衛はできないと伝えられ、ヘリオトロープに一任された。

マーガレットはサルビアにアドルフの様子を心配で。尋ねた。

サルビア曰く、今は大丈夫ということだった。

その言葉が引っ掛かり後で練習場を訪ねようと決めた。

だが、その前にヘリオトロープとこれからの事を決めるため部屋に行こうと言う。

マーガレットはお茶を使用人達に用意させた後下がるよう命じ人払いをした。

「クラーク様。担当直入に聞きます。呪術師とは一体何なのですか」

呪術師がどんな存在で何をするのかは勉強したので知っているが、そもそもの疑問としてどうやって呪術師が生まれ何を目的として呪術を使い始めたのか気になった。

「それは、残念ながら私ではお答えすることはできません。呪術師とは人ならざる者、人に仇なす者、その者を滅せねば世界は滅びる、とそう教えられたことしかわかりません」

神官であるヘリオトロープなら何か知っていると思ったが、流石にそれは知らなかったかと。

どうやって知るべきか頭の中で考えていると「ただ……」とそう言い話しを続ける。

「ただ?」

「聖女か代理人になれば話は変わります」

「どういうことですか」

「呪術師のことを知れるのはそのどちらかなのです。翼に選ばれれば教えてもらえますが、神殿の奥にある隠された部屋に入るにはどちらかにならないといけないのです。その部屋に呪術師やこの世界のことが記された秘密があるのです」

昔一度探したことがあるが見つけられなかった。

聖女か代理人にならないと見つけられない秘密の部屋。

「つまり、聖女か代理人になればこの世界のことがわかると?」

信じられない目でヘリオトロープを見る。

「はい」

歴代代理人はそうだと言っていた。

聖女は同じ魂をもった者しかなれない。

生まれ変わりでなければなれない。

「その者達はどうやって選ばれますか」

未だどちらも見つかっていない。

何か法則があるのなら当てはめる人物を見つけ出し選ばれた暁に呪術師のことを教えてもらおうと考えた。

「わかりません」

首を横に振る。

「聖女に関しては生まれ変わりだとご存知だと思いますが、代理人に関してはどういう選考基準で選ばれているか歴代神官達にもわからなかったそうです」

マーガレットも昔神殿に訪れたとき歴代代理人の絵を見て見た目も性格も全員違うなと絵からでも感じた。

使徒の人にどういう人だったか一人一人教えてもらい、全員心が美しい人なんだな、と思った意外同じところがなかった。

「そうですか」

手掛かりがないのでは捜すことは不可能。

諦めるしかないかと。

現れないときは十年近く現れず神官達で何とかしていた時もあったと聞いたことがある。

マーガレットの二度の人生で死ぬまでの間に聖女も代理人にも現れなかった。

もしかしたらまだ生まれていないのかもしれない。

もし、そうならどうすることもできない。

こうなったら自力で呪術師のことは調べるしかない。

ヘリオトロープが考え込んでいるマーガレットに声をかけようと口を開こうとした瞬間、扉を叩く音がした。

「入っていいわ」

ヘリオトロープが傍にいるので何も心配はないと誰か確認もせず入るよう命じる。

「失礼します」

「メイナード。どうしたの」

人払いしたことは使用人達から知っているはずだが、わざわざ来たということは何かあったのかと。

裏切る者が見つかったか、人が死んだのか、ここ数日で起きた嫌なことを考えてしまう。

メイナードがこれから何を言うのか気になってしまい口元に視線がいってしまう。

「はい。ヴァイオレットが先程目を覚ましました」

時間にすれば一秒にも満たないほどの短さだが、マーガレットにはメイナードがそう言うまでの時間が数十秒に感じる程長く感じた。
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