ドスグロ山の雷人伝説殺人事件 

二廻歩

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指示役

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夕食までの短い間に被害者候補二人から話を聞く。
三〇四号室。黒木の部屋。
千田の証言をもとに黒木を追及中。

「ばれてるのか。そう俺たちは非道の限りを尽くして来た。今さら否定しない。
だがそれがなぜ知られたのかが問題だ。誰も分かるはずがないんだ」
タバコを灰皿でもみ消し真剣な表情を見せる。
そう彼自身の問題だ。このまま放置してもこちらとしては一向に構わない。
被害者が増えるだけ。増えればその分手がかりだって。決定的証拠を残すことも。

真剣な表情で睨みつけるから怖さは倍増。
こちらとしてはあまり良いこととは言えない。
それにしても全館禁煙なんだから灰皿を置くなよな。
どうせこの男が持ち込んだんだろうが。

「それで黒木さん。誰かに話した覚えはありませんか? 」
「いや全然。いくらなんでもよこんな話ベラベラ誰かに話すと思うか? 」
「そうですよね。罪悪感から…… 」
「それはない! ただばれたらシャレにならねいだろう。
仲間にも絶対に言うなと言ってある」
素直に答える黒木。果たして私をそんなに信用していいのか?
探偵は人の弱みに付け込んで金儲けをするのが商売。
依頼人の秘密を守るがそれ以外には無頓着。
そうすると私は彼からは信用されているらしい。
その信用も期待も場合によっては裏切ることだってある。

「そうですか。うーん」
「どうやって知り得たかもう分かってるんだろお前は? 」
「いえその辺のことはまだ…… ただ動機は詐欺かと思われます」
断定はできないが被害者たちはおそらく彼らの仲間。
「良いぜ認めるさ。俺たちは詐欺を繰り返してきた。それも数えきれないほど多く。
だから他の者には漏らすなよ。絶体に秘密だからな」

「それはもちろん。でもなぜです? 」
犯人はもうすべてお見通しだろう。だから無意味な気もするが。
「思い出したんだよ。何度もしつこく文句を言ってた奴の顔をな」
「誰ですかそれは? 」
「ほら隣の部屋のうるさい婆さんだ。それからあの男も見たことがある」
「あの男? 」
「そうだ。いつも震えてる気弱そうなメガネの男」
特徴は間違いなく龍牙さんだ。
黒木は龍牙の顔を覚えていたらしい。
まさかどちらかが犯人?
 
「なぜ俺たちを恨む? 確かに悪さをしたのは認めるが全財産を奪った訳でもない。
ただ色仕掛けにやられたある意味自業自得の奴らさ。騙される方が悪いんだ」
悪びれる様子もなく笑い飛ばす。
どう言う神経をしているのだろうか。
それとお婆さんはなぜ騙された? 別件? 別班?

「ひき殺したことを覚えてないんですか? 」
追及する。
「ああ、あれか。確か千田が悪さをしたんだったな。だが俺には関係ない」
すべてを千田に擦り付けて言い逃れする気らしい。
どこまで自分勝手なのだろう。
「あなた方が詐欺を発覚させないためにやったことでしょう? 」
「だから俺は関係ない! 千田が事故を起こした。ただそれだけだ。
恨まれる覚えはないね」
悪党は悪党らしく振る舞うのがいい。下手に改心されても面倒なだけ。
次のターゲットの可能性がある一番の被害者候補なのだから。
「言い訳は結構。それよりもまだ話してないことがあれば今すぐ話してください。
真犯人に繋がる糸口になるかもしれない」
「そうは言ってもよ…… ああこの際言っておくか」
黒木の突然の告白。

「俺たちは今回依頼を受けて動いている。舞台も物もすべて依頼人が用意したもの。
奴は素性を明かさなかった。もしかすると今回の殺人事件はそいつの仕業かもな。
奴の脅しに屈して仕事することになったからな。本当は俺も乗り気じゃなかった。
もう悪徳な商売から足を洗おうとしていたところだ。それなのに無理矢理…… 
断ればばらすと脅されていた。だから今回の計画も仕方なくだ。俺たちは悪くない」
終始言い訳。悪くないと繰り返すばかりで反省の色がまったく見られない。

「しかしあなたがこの計画のリーダーだと聞きましたが」
「ああ千田に聞いたのか。いやだからそれは俺が指示しないと動かないのさ。
指示役が必ず一人はいなくては物事は進んでいかない。そう言うものだ」
確かに言う通りかもしれないがどうも口が上手いからか騙されてる気がする。
さすがは詐欺グループのまとめ役。説得力だけはある。
出来れば言い訳せずに過去と向き合い反省してくれればいいんだが。


                   続く
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