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煌めきの都
虚妄ノ影 Ⅰ
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「__確かに……叔父の名は、ロンフォールだったと聞いている」
「そう。どこにでもある、よくある名前だ」
「……父の姓は、ラヴィルではない」
「フィスクム。アドルフォル・フィスクム」
「違う」
にたり、とロンフォールは不敵に笑む。それはどこか、哀れみを含んでいた。
「__あぁ、そうか。婿入りだとも知らないのか。お前はあの当時、6歳とかだったか……? リュディガー・チェーニ」
「__っ」
「そもそも、私もラヴィルではない。ロンフォール・フィスクムと言う。__帝国で言うところの、外つ国の者だ。我々、兄弟は」
マイャリスは息を呑んで、リュディガーとロンフォールを見比べる。
__似て……いる……?
明らかに似ている、とは言いにくい両者。
ロンフォールもそれなりに上背はあるがリュディガーほどではないし、髪の毛や瞳の色も似た系統の色ではあるが、それだけで身内だとは断定できない。
言われて見て、まじまじと見比べて、そうしてようやっと辛うじて、目元が似ているかもしれない__その程度の似通り方だ。
「驚いたよ。甥っ子が龍騎士にまで出世して__いや、あのときは元龍騎士という触れ込みだったな。いずれにせよ、立派になって目の前に現れるとは思いもせなんだ」
「……貴方の言葉が真実だとして、身内だと気づいたから、登用したのか?」
「いや。……私も薄情者だよ。すぐには気づけず。ただ、誰かに似ているな、と考えてはいた。しばらくして、アドルフォルの面影だと気づいた……といったところか。__スコルをアドルフォルに受肉させた時に」
ぐぐっ、とリュディガーが得物を握る手に力を込めた音がした。
「どうしても、スコルには一時的に受肉させる体が必要でな……。アドルフォルの体が有ったのを思い出して、使った」
「……父を殺したのは、貴方か」
「ああ」
あまりにも素っ気ない答え。
ぞくり、と寒気がマイャリスの背中を走った。
__そうだわ……この人はそういう人。
使えるかどうか。障害であれば取り除くだけ。
「__協力を拒まれただけではなく、密告をされそうになったのでな」
ロンフォールは、目を伏せてあらぬ方を見やる。
「密告……?」
「祖国の復讐」
「復讐?」
ぎろり、とリュディガーを睨みつけるロンフォールの眼。それはとても昏く光っていた。
「__瘴気に飲まれてしまった我が祖国だ」
「……ブロークリントのことか」
その国での変異は、最近の出来事__帝国では知らない者はいないほどの出来事だ。
ブロークリントは西の大陸にある王国。
帝国とはそれなりに国交があったが、ある存在が王国に誕生したことにより断絶した。__神子の誕生だ。
この世には、神の寵愛を注がれた子__神子という者が生まれる。その神子という存在はいくつかあるが、中でも“禍事の神子”と呼ばれる存在は、文字通り災の元凶とされていた。
よりにもよって、ブロークリントにはそれが生まれたのだ。
禍事の神は神子を目印に干渉をしてくる。その表れが魔穴__そうした側面もあるのだそう。
魔穴は瘴気の穴。瘴気は禍事の神の残滓__禍事の神が手を伸ばそうとするからこそ生じるとも謂われている。
禍事の神と戦神は、神代に於いて最も激しく対立したとされている。そして戦神が勝利を収めた。
諸国にとって禍事の神子は恐怖の対象で、手に余る存在。故に、戦を司る神をその身に下ろしている龍帝と、世界に誇る龍騎士団がいる帝国で禍事の神子を掌握しておくことが適している。それがわかるからこそ、諸外国は禍事の神子が生まれたとなると、帝国へその子供を託す。
だが、それをしなかった国がブロークリント王国である。
禍事の神子__禍事の神の力を利用して、帝国と並び立とうとし、さらには帝国へ侵攻を目論んだ。
帝国では再三特使を派遣したがこれを拒絶し、国交を断絶。最終的には、瘴気に飲まれてしまい、今では魑魅魍魎跋扈する瘴気の大地である。
「“禍事の神子”を利用しようとしたせいだろう。ブロークリントが利用しようとせず、大人しく帝国の要求に応じて引き渡しておけば__」
「お前たち、帝国民はそう言うのだよな。アドルフォルもそうだった。__“禍事の神子”を生み出したそもそもの原因は、龍帝にあるというのに」
え、とマイャリスは驚きに言葉を失った。
何の冗談だろう、とは思うが、見つめるロンフォールは冗談を言っている風ではなく、ただただ疑問が増す。
「……何を、言っているのです? 何故、龍室が__」
「最初の禍事の神子は、龍室が生み出した。__継承戦争の折、禍事の神の力を行使しようと、現龍帝の腹違いの兄が自身の妹を捧げて、な」
現龍帝には、腹違いの兄がいた。
兄は、父帝の側室との間に生まれた子。
当時は獣人族と人間族は長らく続く戦争にあり、これを平定すべく獣人の姫を正室に据え、その間に生まれた子__帝国では男系男子のみが継承権を持つ__を皇太子とする取り決めが交わされた。
人間と獣人の間の半獣の帝はまさに有効の象徴__になるはずだった。
側室に長男が、翌年、正室に次男が生まれた。
しかし、帝国に属する殆どは人間族のため、父帝が崩御した際、帝国側は人間の純血である側室の長男を擁立した。それは紛れもなく約定を違える行い。これが発端で、継承戦争が起こった。
その時、絶対的な力を欲した純血な兄は、事もあろうに禍事の神と取引をし、これに対抗するために、弟である現龍帝は戦神をその身に降ろした。その結果、見事現龍帝は戦いに打ち勝ち戦を平定し、帝国を統一できた。
そしてその頃から、禍事の神の神子がこの世に生まれるようになった。神子を欲する禍事の神がよく手を伸ばすようになり、魔穴がこの世に生じるようになったと謂われている。
__その取引に、実の妹を利用していたというの……?
それは、知られざる出来事だ。
側室との間には、御子が3人__長男と、長女と、次男。確かに皇女は存在した。しかし、当時の戦乱の中、三男とともに薨去したとされている。
「私は、我が祖国へ帝国が表立って派遣する特使とは別動として派遣されていた、密使の一人。土地勘があるからその任務を与えられていた」
「何」
「そして、魔が溢れた当時そこにいて……祖国の惨状を目の当たりにした。……同じ任務にあたっていた片翼族の龍騎士が、祖国の有様に絶望していた私を憐れみ、その事実を教えてくれた。子々孫々と受け継がれてきた、彼らの知識のひとつとして」
ロンフォールは、目を細めてどこか遠くを見ているようだった。
「そう。どこにでもある、よくある名前だ」
「……父の姓は、ラヴィルではない」
「フィスクム。アドルフォル・フィスクム」
「違う」
にたり、とロンフォールは不敵に笑む。それはどこか、哀れみを含んでいた。
「__あぁ、そうか。婿入りだとも知らないのか。お前はあの当時、6歳とかだったか……? リュディガー・チェーニ」
「__っ」
「そもそも、私もラヴィルではない。ロンフォール・フィスクムと言う。__帝国で言うところの、外つ国の者だ。我々、兄弟は」
マイャリスは息を呑んで、リュディガーとロンフォールを見比べる。
__似て……いる……?
明らかに似ている、とは言いにくい両者。
ロンフォールもそれなりに上背はあるがリュディガーほどではないし、髪の毛や瞳の色も似た系統の色ではあるが、それだけで身内だとは断定できない。
言われて見て、まじまじと見比べて、そうしてようやっと辛うじて、目元が似ているかもしれない__その程度の似通り方だ。
「驚いたよ。甥っ子が龍騎士にまで出世して__いや、あのときは元龍騎士という触れ込みだったな。いずれにせよ、立派になって目の前に現れるとは思いもせなんだ」
「……貴方の言葉が真実だとして、身内だと気づいたから、登用したのか?」
「いや。……私も薄情者だよ。すぐには気づけず。ただ、誰かに似ているな、と考えてはいた。しばらくして、アドルフォルの面影だと気づいた……といったところか。__スコルをアドルフォルに受肉させた時に」
ぐぐっ、とリュディガーが得物を握る手に力を込めた音がした。
「どうしても、スコルには一時的に受肉させる体が必要でな……。アドルフォルの体が有ったのを思い出して、使った」
「……父を殺したのは、貴方か」
「ああ」
あまりにも素っ気ない答え。
ぞくり、と寒気がマイャリスの背中を走った。
__そうだわ……この人はそういう人。
使えるかどうか。障害であれば取り除くだけ。
「__協力を拒まれただけではなく、密告をされそうになったのでな」
ロンフォールは、目を伏せてあらぬ方を見やる。
「密告……?」
「祖国の復讐」
「復讐?」
ぎろり、とリュディガーを睨みつけるロンフォールの眼。それはとても昏く光っていた。
「__瘴気に飲まれてしまった我が祖国だ」
「……ブロークリントのことか」
その国での変異は、最近の出来事__帝国では知らない者はいないほどの出来事だ。
ブロークリントは西の大陸にある王国。
帝国とはそれなりに国交があったが、ある存在が王国に誕生したことにより断絶した。__神子の誕生だ。
この世には、神の寵愛を注がれた子__神子という者が生まれる。その神子という存在はいくつかあるが、中でも“禍事の神子”と呼ばれる存在は、文字通り災の元凶とされていた。
よりにもよって、ブロークリントにはそれが生まれたのだ。
禍事の神は神子を目印に干渉をしてくる。その表れが魔穴__そうした側面もあるのだそう。
魔穴は瘴気の穴。瘴気は禍事の神の残滓__禍事の神が手を伸ばそうとするからこそ生じるとも謂われている。
禍事の神と戦神は、神代に於いて最も激しく対立したとされている。そして戦神が勝利を収めた。
諸国にとって禍事の神子は恐怖の対象で、手に余る存在。故に、戦を司る神をその身に下ろしている龍帝と、世界に誇る龍騎士団がいる帝国で禍事の神子を掌握しておくことが適している。それがわかるからこそ、諸外国は禍事の神子が生まれたとなると、帝国へその子供を託す。
だが、それをしなかった国がブロークリント王国である。
禍事の神子__禍事の神の力を利用して、帝国と並び立とうとし、さらには帝国へ侵攻を目論んだ。
帝国では再三特使を派遣したがこれを拒絶し、国交を断絶。最終的には、瘴気に飲まれてしまい、今では魑魅魍魎跋扈する瘴気の大地である。
「“禍事の神子”を利用しようとしたせいだろう。ブロークリントが利用しようとせず、大人しく帝国の要求に応じて引き渡しておけば__」
「お前たち、帝国民はそう言うのだよな。アドルフォルもそうだった。__“禍事の神子”を生み出したそもそもの原因は、龍帝にあるというのに」
え、とマイャリスは驚きに言葉を失った。
何の冗談だろう、とは思うが、見つめるロンフォールは冗談を言っている風ではなく、ただただ疑問が増す。
「……何を、言っているのです? 何故、龍室が__」
「最初の禍事の神子は、龍室が生み出した。__継承戦争の折、禍事の神の力を行使しようと、現龍帝の腹違いの兄が自身の妹を捧げて、な」
現龍帝には、腹違いの兄がいた。
兄は、父帝の側室との間に生まれた子。
当時は獣人族と人間族は長らく続く戦争にあり、これを平定すべく獣人の姫を正室に据え、その間に生まれた子__帝国では男系男子のみが継承権を持つ__を皇太子とする取り決めが交わされた。
人間と獣人の間の半獣の帝はまさに有効の象徴__になるはずだった。
側室に長男が、翌年、正室に次男が生まれた。
しかし、帝国に属する殆どは人間族のため、父帝が崩御した際、帝国側は人間の純血である側室の長男を擁立した。それは紛れもなく約定を違える行い。これが発端で、継承戦争が起こった。
その時、絶対的な力を欲した純血な兄は、事もあろうに禍事の神と取引をし、これに対抗するために、弟である現龍帝は戦神をその身に降ろした。その結果、見事現龍帝は戦いに打ち勝ち戦を平定し、帝国を統一できた。
そしてその頃から、禍事の神の神子がこの世に生まれるようになった。神子を欲する禍事の神がよく手を伸ばすようになり、魔穴がこの世に生じるようになったと謂われている。
__その取引に、実の妹を利用していたというの……?
それは、知られざる出来事だ。
側室との間には、御子が3人__長男と、長女と、次男。確かに皇女は存在した。しかし、当時の戦乱の中、三男とともに薨去したとされている。
「私は、我が祖国へ帝国が表立って派遣する特使とは別動として派遣されていた、密使の一人。土地勘があるからその任務を与えられていた」
「何」
「そして、魔が溢れた当時そこにいて……祖国の惨状を目の当たりにした。……同じ任務にあたっていた片翼族の龍騎士が、祖国の有様に絶望していた私を憐れみ、その事実を教えてくれた。子々孫々と受け継がれてきた、彼らの知識のひとつとして」
ロンフォールは、目を細めてどこか遠くを見ているようだった。
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