【完結】訳あり追放令嬢と暇騎士の不本意な結婚

丸山 あい

文字の大きさ
186 / 247
煌めきの都

虚妄ノ影 Ⅱ

しおりを挟む
 片翼族は古い種族であるが、現存する種族。数は他に比べて少ないものの帝国にも暮らしていて、マイャリスも見たことはある。

 文字通り、彼らは片方の翼しかもたない種族。普段は、それをしまっていて、外見は人間と変わらないが、決定的に違うのは、目元の米粒ほどの石。__角、と呼ばれている器官。そして、黒髪に血のような相貌もかれらの特徴である。

 そして宿命も独特で、彼らは必ず双子で生まれ、明確に寿命に限りがある。双子どちらも生きていれば、半世紀__50歳まで生存し、片方だけになってしまったら25歳で命が絶えてしまう種族だ。

 明確に寿命がわかっている彼らは、忘却こそ罪とし、世界のすべてを網羅せん、と__手段は不明であるが__ありとあらゆる出来事を記憶して受け継いでいるとされている。

 短命であるが、それの反動でか個々の能力は高く、帝国ではよく重用されている。

「確かに、祖国を出て兄弟ともども帝国民となった。アドルフォルはイェソドで文官として、私は龍騎士見習いとしてそれぞれ国籍を得た」

 帝国では国の発展のため、外つ国の者にたいして大きく門戸を開いている。

「__だが、どうやっても私にとって祖国は祖国だ。それを、帝国の長の一門のかつての行いによって蹂躙された」

 昏くぎらつく眼。すぃ、と不気味に細められたそれに、マイャリスは息を飲む。

「……すべて奪われた。すべてなくなった。対して、神子を生み出した帝国は、豊かなまま。民は龍室と神子との関わりを知らぬまま、のうのうと生きている。我が祖国の皆も、そうして生きているはずだったのに……っ!」

 ロンフォールにしては語るに連れ熱が言葉に帯びて、最後は吐き捨てるよう。

 自分が楯突いてもこれほど熱を帯びたことがなかったから、マイャリスは驚いていた。

 そこまで言ったロンフォールは、ひとつ呼吸を正す。

「__復讐せずにいられるか?」

 落ち着いた口調にこそ戻ったが、苛烈なそれが滲み出ていた。

 __あぁ……だから、なんとも思わなかったの。

 憎い帝国の民だから、殺すことに躊躇はなかったのか。

「国の中からある日突然、大規模な魔が溢れたら__そんなこと、戦神の膝下である帝国でおきるはずもないから、想像すらしないお前たちへの一番の復讐だろう」

「……それに父を誘ったというのか」

 リュディガーの声が、低くなった。

「我ながら愚かな兄だ。龍室がことの発端だと説明しても……。せめて静観していれば、死ぬことはなかったというのに」

 ロンフォールが言った刹那、風が奔った。

 リュディガーが驚くほど疾く地を駆けたのだ。

 リュディガーが駆けるのとほぼ同時に、ロンフォールの足元近くで黒い棘が無数に生えた。それは、間違いなくロンフォールを捉えようと伸びるのだが、一瞬にして棘の尽くが斬り伏せられてしまった。

 直後に間合いに入ったリュディガーの刃を、得物で受け止めるロンフォール。

 呆気にとられるほど瞬く間に起きてしまった出来事で、マイャリスは目を見張って二人を見ていた。

「国家転覆罪は即死罪、か?__まさか私刑ではあるまいな? 龍帝の狗」

 喉の奥で嗤うロンフォールに、リュディガーは無言で鍔迫り合ったまま。

「__あの時、草の根をかき分けてでも探して殺しておけばよかったよ。お前も、お前の母ベルヒタも」

 鍔迫り合うリュディガーが身を引き、わずかに前のめりに体勢を崩したところで一閃を繰り出す。対して、器用に得物を滑らせて受け流すロンフォールは、その流れを利用して横に振るう。すると、周囲の黄金色の草が宙に舞ったのと同時に、甲高い音がして、リュディガーが弾き飛ばされた。

 弾き飛ばされたリュディガーは草地を転げながらもすぐに身を起こして、目に力を込めてロンフォールを視界に納めていた。

「そんなに驚いた眼で見つめることもなかろう。これでも、そこそこに剣の腕に覚えはある__伊達に龍騎士見習いにまでなってはいないのだ」

 皮肉っぽく言うロンフォールの言葉に、え、とマイャリスは彼を見た。

 そんな経歴は、マイャリスは知らない。

 __龍騎士は帝国の誇り……。

 龍帝に不変の忠誠を近い、龍帝の言葉の具現者、体現者としての立場を弁え、龍帝の威光を遍くに広げる存在が龍騎士。

 龍騎士見習いといえど、その矜持は持ち合わせていて、皆龍騎士になろうと精進するものだ。

 __そうでは……ないの?

 これまでの養父の行動のどこにも、その片鱗を見た例がない。

「何故、不思議がる。外つ国の者にも、龍騎士への門戸は開かれているだろう」

「……片翼にまでなっていたというのか?」

 龍騎士見習い__それは、入団試験を受け通過した者のことを指し、片翼、とも呼称する。

「氣多廟で行方不明になった者がいる__聞いたことはないか?」

「……」

 リュディガーは目を細め口を引き結ぶのみで、答えはしない。ただ、マイャリスには、なんとなくであるが、彼が認めているように見えた。

「知っての通り、氣多廟も不可知の領分。その表層にあると言っていい」

 氣多廟は、龍騎士がかつての英霊と縁を結び、奇跡の力を得る場所。そこは、帝国にとって聖域と言える。

 一般人は__帝国人でさえ、明確に氣多廟の場所を知ることもなく、一生を終える。それほど秘匿された聖域。

 __不可知の表層……魔穴同様、間違えれば堕ちることもあり得る……。

「堕ちた……のですか、貴方は」

 マイャリスが問う。いくらか喉が乾いていて、声が出しにくかった。

「堕ちた、か……。まあ、そう言ってもいいだろうな」

 すい、と薄い色味の青い眼がマイャリスに一瞥をくれ、再びリュディガーへと向けられる。

「__帝国に対しても、龍帝に対しても含むところがある私だ。だから、私の意思だったとも言える」

「……何を言っている?」

 ロンフォールはやおら得物を持ち直し、白刃に手を添える様に軽く撫でた。

「祖国を想っていたら……道が目の前に開けて、気がついたら祖国にいた。__瘴気渦巻く我が祖国に」

 パキパキ、と乾いた音が手を添えた白刃からし始めた。

 音の源である白刃に、明らかにヒビが走りはじめたのが見える。

「そこでこれを得た」

 ロンフォールが、白刃を撫でる手に力を込め、今一度撫でる__否、擦る。

 すると、白い硝子片のように表面から剥がれ落ち、その下から漆黒の刃が現れた。

 弧を、ひとつ、ふたつ、と連続して歪に描く刀身は、白刃の時よりも長さも厚みも増している。柄には邪魔としか見えない刃のような棘がいくつか生えた得物。

 その見た目からはかなり重さは増しただろうに、しかしながらロンフォールの構えは白刃の頃と変わらず重さを感じさせない。

「あれに、剄られてはならん……っ」

 先程よりは落ち着いたものの、痛みを押し殺したようでありながら、アンブラがリュディガーにも届くようやや強めの口調で言葉を零した。

「あれで、剄った結果が、あの使用人たち」

「博識な呪い師殿には、流石にわかるか」

 脂汗をにじませる額__眉間に深い皺をよせ、見るからに不愉快という顔のアンブラは、まっすぐロンフォールを睨みつける。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】姫将軍の政略結婚

ユリーカ
恋愛
 姫将軍ことハイランド王国第四王女エレノアの嫁ぎ先が決まった。そこは和平が成立したアドラール帝国、相手は黒太子フリードリヒ。  姫将軍として帝国と戦ったエレノアが和平の条件で嫁ぐ政略結婚であった。  人質同然で嫁いだつもりのエレノアだったが、帝国側にはある事情があって‥‥。  自国で不遇だった姫将軍が帝国で幸せになるお話です。  不遇な姫が優しい王子に溺愛されるシンデレラストーリーのはずが、なぜか姫が武装し皇太子がオレ様になりました。ごめんなさい。  スピンオフ「盲目な魔法使いのお気に入り」も宜しくお願いします。 ※ 全話完結済み。7時20時更新します。 ※ ファンタジー要素多め。魔法なし物理のみです。 ※ 第四章で魔物との戦闘があります。 ※ 短編と長編の違いがよくわかっておりません!すみません!十万字以上が長編と解釈してます。文字数で判断ください。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。

専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

処理中です...