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119話 取り引き

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「はぁ…存在さえも知らんとはな。情けない。

わしが直々に説明してやるから、しっかり聞いておるのじゃぞ?

精霊王とは、

全ての階級の精霊と、精霊界以外の全ての世界に干渉できる唯一の存在じゃな。

まぁもっとも干渉といっても、

世界を丸ごと破滅に追いやるなど、

精霊の経験の積み場所を、大きく減らされてしまうような時くらいしか動かんがな。」

ただの光なのに、なぜかどや顔のような態度が目に見えるようで、リンドはイラっとする。

「そんなヤツが俺になんの用だよ?

あっ、お前か⁈

俺をここに引っ張りこんだのは⁈」

「はぁ…そりゃそうじゃろ。

どんな精霊だろうと、

自分からこのわしがおる場所へ来ることはできんのじゃから。

他の精霊と同じで、

位の高いものは、それより下の世界に行くことができるが、

位が下のものが、それより上の世界に行くことはできん。

わしは全ての1番上に立つ存在じゃからな。

わしから降りて行くことはあっても、ここにはわしが呼ばん限り、何モノも入れんよ」

精霊王は何も知らないリンドに対して、やれやれ、と言った風に話す。

「へぇ、じゃあお前ずっとここに1人なの?寂しいねー」

とリンドは嫌味で応戦した。

「まぁ、そうじゃが、実はそうでもないんじゃがな。」

精霊王は全然負けない。

「どっちだよ」

「ふぉっふぉっふぉっ、まぁ気にするな」

「気になんかするか!」

リンドの悪態を気にもとめず、光は話を続ける

「それで話なんじゃが、

実はワシはお前のことを前々から存外気に入っておってな。

気骨があるし、大事な人を救いたい熱心な思いもいい!

何より見ておって退屈せん」

「は?俺はアンタの退屈しのぎのために苦労してるんじゃない‼︎」

「まぁ、まぁ、落ち着かんか。

そんなことわかっておるわ。

それでじゃな、まぁお前にちょっと手を差し伸べてやらんこともないと思ってな。

どうじゃ?ワシとひとつ取り引きをせんか?

精霊王による干渉を、そうそう簡単に行うわけにもいかんのでな。

お前にも多少のリスクは背負ってもらわねばならん。」

「手を差し伸べるって、何してくれるんだよ?

それを聞かないことには取り引きになんか応じられるわけないだろ」

「ふむふむ、具体的にはな、あの公子の体にお前を戻してやろう」

「ナニ⁈いいのか⁈

のった!しよう!取り引き!

お前は何がほしいんだ⁈」

リンドは即答すると、矢継ぎ早に聞いた。

「お前じゃ」

「⁈⁈⁈」

思わずドキッとしたリンドは

「は?どういうことだよ⁈」

と言うとふわふわ光の姿で後ろへ下がった。

「そう怯えんでいい。

何も取って食おうなどということではない。

あの公子の生を終えたら、もう少しワシのもとで修行して、

ワシの後を継いでほしいんじゃよ」

「は?俺が精霊王になるのか?」

「そうじゃ」

「うわぁ、いやだ!

こんな世界に1人で…ってえ?人間界でいうところの何年くらい続けるんだ?」

「だいたい十万年周期くらいで引き継いできておるな」

「はぁ⁈そんな長いの⁈

絶対嫌だ!

…でも、でも今戻らないともうティアを幸せにできないし…」

最上級精霊は、

その位になったと同時に経験値は最大ということで、

人間や生き物の器に入れなくなり、

人間界やその他世界に降りたければ、姿を消して生き物を見守る存在となる。

今回リンドが公子に転生できたのは、

案内人の頃から仲の良いジョルジュが、

何か知らないがそれができる方法が一度だけなら特別にできるとかなんとか、

よくわからないことをごちゃごちゃ言って、俺を器に落とし込んでくれたおかげだった。


…あれ?

でも干渉できる唯一の存在が精霊王で、

それ以外にそんな特別なことできるヤツがもしいたら、

精霊王があのさっき見た映像を映す光の玉で確認して、捕まえたりしないのか?

と考えていると…

パァァァっと今まで目の前にいた精霊王の光がはじけて小さくなり、薄い虹色の光が現れた。
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