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21章 聖女と魔女とエルフ

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 いい加減に聖女と勇者の血が入っていることに気がついてもいいのではないのだろうかと、シェリーはため息が出てしまう。

 人族に黒髪はいないと言っていい。異世界のを持っている者以外。
 そして、ラースの魔眼。これはラースの一族の血が濃い者しか現れない。

 最低でも話し合いの途中で気がつくと思っていた。だから、敢えてユーフィアの話を先送りにしたのだ。この姿で聖女と勇者の血を持つとなれば(認めたくはないが)、シェリーの後ろにはあの勇者の存在を示すこと(絶対に認めたくないが)で聖女に関する話が進みやすくなると思っていた。
 特に薬の話は色々と問題が生じてくるのが目に見えていた。だから、スムースに話を進める為に勇者の悪名を使おうと思っていた。
 絶対に嫌なので自分からは言いたくなかったが、これは脅し文句として自分から言ったほうがいいのだろうかとシェリーは思い始めていた。

「我らの前でため息を吐くとは、何様のつもりだ!」

 シェリーのため息が聞こえてしまったらしい。やはり、思惑通りに事が運ぶなんて甘い考えだった。他の種族への無関心。いや、見下し具合が半端なかったということなのだろう。
 シェリーは目の前の者達ならきっと歪められる前の言葉を知っているであろうと思い、とある言葉を口にする。

「ラースはシャーレン精霊王国に連れて来てはならない。以前そのような神託を承ったそうですね」

 その言葉に騒いでいた二人の暴言が止まった。なぜそれを知っているのだという顔をしている。

「私の姿を見て何も思いませんでしたか?」

「勇者と聖女ビアンカ様のお子だな」

 今まで何も話さなかった藍色を持つエルフの男性がシェリーの言葉に答えた。その言葉に青髪の女性と紫髪の男性が後ろに控えていた人物を振り返って見た。

「ええ、それがどういう意味を持つかおわかりですか?」

「我々を脅すということですか」

 シェリーの言葉にエルフの族長が反応する。そして、後ろに控えている藍の髪の男性は腰に佩いている剣に手を添えている。

「そう捉えていただいても構いません」

 シェリーが言い終わるか終わらないか、という時に巨大なテーブルが真っ二つに割れた。シェリーの後ろの壁まで亀裂が走り、隙間から青い空が見えている。
 亀裂の元をたどれば、剣に手を添えたままの藍色のエルフが立っていた。
 エルフの族長と青髪の女性の隙間からシェリーに向かって攻撃を仕掛けたのだろう。

 そして、シェリーはというと亀裂の横でカイルに抱えられていた。

「いきなりの攻撃はやめてもらいたいな。ここは話し合いの場だからね」

 何故か床から立ち上がる素振りを見せているイーリスクロムが呆れたように言う。いや、本当に椅子から床に蹴落とされたのだ。すぐそこでカイルに抱えられているシェリーに。

「なぜあなた達はあなた達にとって都合が悪いものをすぐに排除しようとするのですか?」

 ユーフィアが両手に銃を構えながら言った。それにならって隣にいるクストまで剣を抜いてしまっている。止める役である狐獣人の女性を見るとこれまた双剣を抜いている。止め役の意味がない!

 シェリーはため息を吐きながら、カイルに下ろすようにいい、そして亀裂を元に戻す。

「『リカバリー』」

 真っ二つ割れた巨大なテーブルも壁の亀裂も元通りの姿に戻った。

「武器を収めて席に着いてください」

 シェリーは話し合いの場ではなくなってしまったところを無理やり話し合いの場として戻そうとする。

「はぁ。はっきり言って、私は話し合いは成り立たないと思っていましたよ。私の要望が通らないこともわかりきっていたことですし」

 そう言いながらシェリーは席についた。視線を上げれば、相変わらず冷笑を浮かべているエルフの族長。それと両隣のエルフは警戒心を持って睨み付けている。その後ろには未だに剣に手を添えたままのエルフ。

「私も聖女として仕事をしなければなりませんので、あなた方に監禁されるわけにはいかないのですよ。いつまでも過去の栄光に縋っているエルフ族にですね」

「下等生物が。聖女と言えばこちらが手を出さないと思っているのですか?」

 エルフの族長はシェリーに冷たい視線を向けながら手をシェリーの方に向ける。何かしらの魔術を放つつもりなのだろう。
 しかし、エルフの族長は唖然とした表情をして己の手を見た。そして、シェリーを睨み付ける。

「貴様!何をした!」

 苛ついたように大声で言葉を放つエルフの族長に対し、シェリーはいつも通り淡々と話す。

「この周辺一帯の魔力干渉をしていますので術が紡げないようになっています。ああ、魔力を奪うということはしていませんので、安心してください」
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