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第二章 大陸冒険編
ウェザブール王都
しおりを挟むレトルコメルス最後の朝。
ホテルの朝食を楽しもう。少し早く起床して向かう。
皆考える事は一緒か。
「ユーゴ、おはよう!」
「やっぱり、ここの朝食は皆楽しみたいよな」
「うん、当分食べられないと思うとね」
「野営の料理も美味いんだけど、やっぱり最後はな」
これから王都に向かう。
オレ達の脚なら二日ほどの道のりだろう。
「さぁ、向かおうか。ここじゃ結局あいつらは居なかったな。数年間は滞在してたって情報を得ただけでも良しとするか」
「王都は魔都に近い。魔人達の拠点が魔都なら、情報がある可能性は高いね」
ホテルをチェックアウトし外に出た。
浮遊術に練気を混ぜて、超高速で移動する。陸の敵の相手をする必要はないが、晩飯の調達は必要だ。
「あー! でっかい牛がいるよ!」
「すき焼きだー!」
久々に龍胆を持っている。
やっぱりしっくりくるな刀は。
浮遊術で体が軽い。
その上自然エネルギーで更にパワーアップした強化術を施している。体が綿のように軽い。
このスピードで繰り出す斬撃は、自分でも恐ろしい。
『剣技 斬罪』
大きな牛の魔物の首をはねた。
こいつの名前は知らないが、Bランクくらいだろう。依頼で名前を知ることがほとんどだが、こいつの依頼は無かった。
「処理しとくよ。周りの魔物狩っておいてよ」
魔物達よ、オレらに出会った事は不運だったな。いてもBランク程度の魔物だ。
一日の移動距離は今までの比じゃない。たまに見かける冒険者や商人に二度見される。オレ等の移動速度は異常だ。
いつも通り日が暮れる前には野営地を見つけないと。気にしながら移動していると、いい感じの河原があった。
オレたちの野営地は水風呂があるかどうかで決まる。いい感じの川や湖があれば早く切り上げる。
「今日は僕がご飯を担当するよ。昨日ジュリアに、龍族のご飯を作るって約束したんだよ」
「じゃ、オレはサウナの準備するかな」
「私達はテントの設営だね!」
「了解だ! アタシは今日から洗濯を担当するよ! 皆、早く水着に着替えな!」
なんだと……?
「ジュリアがしてくれるのか?」
「あぁ、エミリー教えてくれよ」
「どうしたの……ジュリア」
「アタシはこの旅で変わるよ!」
ジュリアが張り切っている。
皆の仕事が終わった頃には、サウナの温度はいい感じになってる。オレはもうすでに汗だくだ。
一足先に川に飛び込んだ。
「ユーゴ! フライングはダメだよ!」
「やってみろよ! 火入れは熱いんだよ! 今は夏だぞ!」
「そうなのか。今度教えてよ!」
皆でサウナに入り、川に飛び込む。
リクライニングチェアも一脚追加している。
皆で並んで休憩する。
気持ち良すぎて皆は一言も発さない。もう、サウナに言葉は要らない。
「さて、飯にするか」
「そうだね、火を入れよう」
「ジュリア! ごはんだよ!」
「ん……あぁ、寝てたよ……」
さて、具材の準備は済んでいる。
鍋に火をつける。
「ジュリア、これがすき焼きだよ。生卵につけて食べてみてよ」
「え……? 生の卵に……? こんなにいい匂いなのに、台無しにしないか?」
「いや、生卵ありきなんだよ、すき焼きは」
「これが牛の魔物の肉か。随分薄く切るんだな」
ジュリアが肉を口に入れた。
「うんまぁぁ――! なんだよこれ!」
「な? オレ達の大好物だ。ちなみに、龍王の大好物でもある」
「これが龍族のお酒だよ。大吟醸を振る舞おう」
「うまぁー! すき焼きに合うなこれは。香りがいい」
ジュリアも醤油の虜だ。
いつか里に招待したいな。
「ジュリア、昨日買った麺出してくれる?」
「あぁ、これのことか? トーマス、見つけた時えらく興奮してたよな」
「見てくれよ二人共」
「これは……うどんか!」
「あぁ、野営のすき焼きをうどんで〆る事ができるんだよ! 里で買い忘れたのに気づいたときは本当に落ち込んだよ……」
「ジュリア、まずは食べてくれ」
「パスタにしては太いな」
ジュリアは上品な国の出身だ。麺をすするのに音はたてない。
「うんまぁァァ――! すき焼きの旨さを全てこの麺が吸っているな!」
「いやぁ、最高だなすき焼き……ジュリアも気に入ってくれて良かった」
◇◇◇
次の日の夕方、ウェザブール王都に着いた。
レトルコメルスよりも厳重に囲われた都市だ。豪華な門には、とんでもない列が出来ている。やはり王が住む場所だけあって、検問も厳重に行われているようだ。
オレたちはいつも通り通行手形所持者用の通路を通る。
オレ達は若い、ジュリアも見た目はオレ達とそう変わらない。SSランクのカードを見せると驚かれる。
冒険者カードで通行手形所持者用通路を通るには、Aランク以上でなければならない。低ランクカードは依頼品を金で買えるからだ。高ランクの依頼品も金で買えるが、相当高い。
Aランク以上のカードを所持している者は、相応の実力者か金持ちという事になる。
ということで、SSランク所持者のオレ達はとんでもない実力者な訳だ。
ちなみに、冒険者カードは絶対に偽造ができない。詳細は知らないが、多分魔力が関係しているんだろう。
ウェザブール王都は、仙神国に似た町並みだが自然が少ない。レトルコメルスとはまた違った大都会だ。
人族だけじゃなく魔族も見かける。でも化粧はしていない。すごく背の高い角のある人も見かけたが恐らくあれが鬼族だろう。鬼人が暴れて以降、数百年の平和だ。人族の世界に興味がある他種族も移住しているのだろうか。
「私は12年ぶりかな。やっぱりよく覚えてないな」
「アタシはエミリーと出てからは数回しか来てないな」
「とりあえず、いいホテル探そうか」
「とりあえずは一週間くらい宿泊予約しようか?」
「そうだね、ご飯食べながら相談しよう」
王都は見事にそびえ立つ二つの城の周りを囲むように発展した街だ。東西南北の四つの門から、二つの城に向けて街道が整備されている。その街道に沿って、城に近づくほど豪華な建物が増えていく。
門に近い場所でも街道沿いは比較的綺麗な建物が多いが、少し路地に入ると華やかな街道沿いとは違った印象を受ける。
それでもオレにとっては大都会だ。路地裏の方が合ってるかもしれない。
「とりあえず、ホテルは良いとこに泊まりたいな。城に近い場所に泊まろうよ」
「そうだな。ベッドと布団はフカフカな方がいい」
しかしホテル多いな。
選べないぞ。
「お、いい感じの酒場があるな」
「本当だ、見たことあるような店構えだけど」
「そりゃ見たことあるはずだよ。店名が『冒険野郎』だ」
「ほー! 王国内に店舗広げてるんだね!」
ならホテルは決まった、冒険野郎の道向いのこのホテルだ。サウナがあるかどうかの確認が必要だが。
「うん、サウナはあるみたいだ。セキュリティも当然しっかりしてるな。でも、武具を預かっておいてください……」
「トラウマだね、ユーゴ……」
「じゃ、お風呂入って酒場に集合しようか」
「また後でね!」
◇◇◇
風呂が広い。
サウナと水風呂が温度別に三種類ずつある。
一番熱いサウナに入ってみた。
「うぉぉ、これは熱いな……レベルが違うぞ……でも、いつもよりドライだな。水かけていいのか?」
少しすると、一礼して誰かが入ってきた。
「皆様、本日担当させていただきますボブです。熱風エンターテイメントをお楽しみくださいませ」
なんだ? 何が始まる?
ボブは大量の焼石に、水をぶっかけた。
『ジョワァァァ……』
「あっつ……温度が高い分熱いな……」
「これは今までで一番熱いね……」
するとボブは大きなタオルを振り回し、客に向けて仰ぎ始めた。
「うおぉぉぉ! アッチィィー!」
「ダメダメ! 火傷するってこれ!」
さすが熱風エンターテイナーボブ。
これはすごいぞ!
これは水風呂が凄そうだ……。
「皆様、おかわりはよろしいですか?」
なんだと……?
ボブからの挑戦だ。SSランクの名がすたる、受けて立とう。
「よろしくお願いします」
『ジョワァァァ……』
ボブがタオルを振り回して、さっきより強く仰いできた。
「アッチィィー!!」
「ヤバイヤバイヤバイ!!」
オレたちは飛び出て、一番冷たい水風呂に飛び込んだ。
「ヒャアァァ! 冷たっ! というか痛い!」
「これはダメだ!!」
いつもくらいの水風呂に入る。
「はぁ……体が大パニックだな……完敗だよ、ボブ」
「今までで一番水風呂が気持ちいい……」
このあとの休憩は過去イチだった。
凄かったな……熱風エンターテイメント……。
応援ありがとうございます!
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