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第二章 大陸冒険編
ロナルド少年 新生活
しおりを挟む領主の屋敷の門番に取次をお願いする。
もう顔見知りだ、すぐに案内してくれた。
「オリバーさん、いつもいきなりすみません」
「いや、構わないよ。今日は珍しい連れが一緒だね」
「初めまして! ロナルド・ポートマンです! 12歳です!」
「ポートマンか、ルナポートの出身かな? 漁師に多いファミリーネームだ」
「はい、代々漁師だったと聞いてます。でも俺の夢は、王国の騎士になる事です!」
「オリバーさん、ロンは逸材ですよ。一人でロックリザード三体を瞬殺する」
「ほう、それは大したもんだな……すまないが、騎士の登用試験は15歳からだ」
ロンは露骨に落ち込んでる。
その為に来たんだもんな……。
「おい、ロナルド君、そんなに落ち込むな。君はまだ12歳だ。ユーゴ君が薦めるような逸材だ、時期が来ればすぐに登用することを約束する。試験は受けてもらうがね」
「ホントですか……?」
「オリバーさん、ロンにエマの店の黒服として働いて貰うことにしました。昨日も一人追い返しました」
「それは適任だ。ロナルド君、15歳になったらすぐに来なさい。これは王国の決まりだ、勝手に変えることはできない。それまで冒険者として力をつけてくれ。そして、エマを補佐してくれ」
「分かりました! 更に強くなることを約束します」
「朝にも強くなっとけよ」
「うん、頑張るよ……」
やっぱり年齢制限はあるよなぁ。
「オリバーさん、面会ありがとうございました。エマとロンをよろしくお願いします」
「あぁ、ロナルド君がいれば、私達の出番は無いかもな。また会おう」
領主オリバーさんの屋敷を後にした。
「よし、目覚まし買うか。朝起きれない奴は、冒険者にも騎士にもなれないからな。肝に銘じておけよ」
「はい……」
目覚ましを買って、ロンの家を探しに不動産屋に行く。
「この子の家を探してるんですけど」
「あぁ、子供なら保証人がいるね」
「この子はSランクの冒険者ですよ」
冒険者カードを見せると、店主は目を見開いた。
「本当だな……こんな子供が……なら問題ないよ。好きな部屋を選べばいい」
偽造が出来ない冒険者カードは、身分証明の最上級だ。高ランクカードは年齢に関わらず、持っているだけで身分が保証される。
職場から近いほうが良いのかな。
エマの家から近くてもいいな。
「俺、そこまで広くない部屋が良いな、掃除めんどくさいし。あとは、風呂トイレは別がいい」
一応こだわりがあるのね。
「じゃあ、これがいいな。見に行くかい?」
うん、エマの家も店も近いな。
三人で歩いて部屋を見に行く。
「うん、ここがいい!」
「キレイに使えよ? これからの三年が全て騎士への道だ。早起き、掃除、身の回りの全ての事が出来ないと、騎士の皆との共同生活は出来ないぞ」
「うん、がんばる!」
「ここはいつから入れますか?」
「家賃は銀行からの引き落としでいいだろ? ここは一昨日掃除したとこだ、今日からでもいいよ。水道の手続きはしとくから。ほらよっ、鍵だ」
いきなり押しかけていい物件に出会えたもんだ。
次はエマの家に行こう。
呼鈴を鳴らす。
「エマ、ユーゴだけど」
「あぁ、ロン君も一緒か。上がって」
ロンは女性の部屋に上がるのにキョロキョロしている。
「ロンの騎士デビューはお預けだ。あと三年はフリーだ」
「そうなんだ。残念だったねロン君……」
「ロンの家も決めてきた。もう今日から店にも出れるよな? こいつをよろしく頼むよ」
「本当にいいのね? 私は大歓迎だよ!」
「エマさん、お願いします! 仕事教えてください!」
「まだ部屋に寝具も家具も何も無いんだよ。慣れるまでコイツの生活を見てやってくれないか? 金は結構持ってるから」
「もちろん、ロン君がこれからの店の頼みだよ。任せて!」
「そうか、ありがとう。これ、ロンの住所ね」
「とりあえず布団と日用品はいるよね。あとは、黒服か。作りに行かないとね」
三人で買い物に行った。
エマとロンは姉弟みたいだ。
仲良くしてくれるだろう。
オレの空間魔法があるから、家具もある程度買った。
ロンの部屋に運び込み、エマとロンが仕事に向かうのを見送った。店の服ができるまでは、シャツとデニムパンツだな。
◇◇◇
腹が減ったな。
冒険野郎に行くか。
入口付近で、トーマスとジュリアがエミリーと飲んでる。
「おぉ、着いてたのか」
「あぁ、お帰りユーゴ。いい里帰りが出来たよ」
「ユーゴ、ロンはどうだった?」
「あぁ、いい逸材拾ったんだって?」
「騎士の登用試験は15歳からだってさ。三年間は違う仕事を斡旋してきたよ」
オレもビールを注文し、ツマミを食べる。
「オーベルフォールはどうだった?」
「みんな練気術に感動してたよ。魔族の戦闘法も伝授してきた。戦力が跳ね上がるね」
「里も同じだ。里長はやっぱりとんでもない人だった……」
「ユーゴ、例のもの!」
あぁ、そうだった。ロンの事で忘れてた。
「ジュリアにプレゼントがある!」
「なんだなんだ?」
刀をジュリアに渡した。
「里の名工が打った刀だ、オレ達の刀と同じ一級品の上位だよ」
「おぉ……欲しかったんだよ刀!」
「だいぶ長めの太刀だね」
ジュリアは刀を抜いて、ライトの下にかざした。
「芸術品だよこれは……ありがとう。大事にするよ!」
「メンテナンスは僕に任せて!」
「あ、ヤンさんが刀の抜き打ちチェックして、しっかり手入れしてるなって褒めてたよ!」
「怖っ……真面目にしててよかった……」
「さて、アタシたちはカジノに行くよ! 今日はアタシがここの支払いをするよ!」
あぁ、一応気にはしてたんだ。
「ありがとう。ごちそうになるよ」
二人は店を出ていった。
「トーマス、ロンを紹介しとくよ。エマの店に行こう」
「あぁ、分かったよ」
エマの店に着いた。
今日も大盛況、一応席は空いてるな。
「いらっしゃい! あ、トーマス君だ!」
「やぁ、ジェニーちゃん。遊びに来たよ」
「ここに座ってよ!」
カウンターに座って、水割りを頼む。
「いらっしゃいませ……みっ……みずわりおまたせしました……」
緊張してるな……そりゃそうか。
「ロン、紹介するよ。オレの仲間のトーマスだ」
「よろしくな。ロン君」
「ロナルド・ポートマンです! よろしくお願いします!」
「それくらい元気に接客したほうがいいぞ?」
「いらっしゃい二人共、ロン君大人気よ。昨日の話が結構広まってるんだ」
「あぁ、噂がまわるのは早いもんなぁ」
「ゆっくりしてってね!」
交代でニナちゃんが来た。
「ユーゴさん。昨日はありがとう」
「いや、オレじゃなくてロンだよ?」
「ロン君を鍛えたのはユーゴさんでしょ?」
「いや……途中からだけどね……ニナちゃんも飲もうよ!」
「ホントに? いただきまーす!」
ニナちゃんと水割りで乾杯した。
「お二人はここの常連なんでしょ? 何度もこの店を救ってくれた二人だって、話を聞いてずーっと会いたかったんだ」
「いや、それはユーゴだよ。僕は横で見てただけだ」
「いやいや、謙遜は良くないなトーマス。オレを攻撃から守ってくれたのはトーマスだ」
「で、ユーゴさんはエマさんの彼氏なんでしょ?」
「え……? そうなの?」
「え? 違うの?」
「正式に言ったことは無いな……オレ冒険者だから、ずーっとここに帰ってこないこともあるしな。ロンを見つけて正直ちょっとホッとしてるんだ。あいつならこの店を守れる」
「んー、愛だねぇユーゴさん」
「あまりからかうなよニナちゃん!」
『バァァァン!』
楽しく飲んでいると、おなじみのパターンでドアが開いた。
「おい、中のガキ! 表出ろ!」
もう、客も店員も慣れたもんだ。
冷やかな目で見ている。
「エマさん、行ってきますね」
「うん。ロン君、気をつけてね」
「オレも見てくるかな」
トーマスと外に出た。
ロンが五人の屈強な男達に囲まれている。
子供相手に……どんな大人だこいつら……。
「おいガキ、昨日は世話になったな」
「世話になった? あの平手打ちがそんなに気持ちよかったですか?」
「もうそんな減らず口叩けなくなるぞ。やっちまえ!」
五人はそれぞれ武器を構えた。
丸腰の12歳を囲んで武器を……まぁ、この場合は大人の方が可愛そうだ。殺されても文句は言えない。
「おじさん達、僕素手なんだけど?」
「うるせぇ! ぶっ殺す!」
一斉に各々の武器でロンに襲いかかった。
ロンは守護術で防ぐ。その隙に包囲の外に出た。
「へぇ、いい守護術だね。確かに逸材だ」
後ろから練気銃で一人の両脚を撃ち抜いた。
こっそり教えといた。こいつらの相手にはちょうどいい術だし。
「こいつ……」
「怯むな!」
ロンは浮遊術で浮いた。
「このガキ……飛べるのか……」
「おじさん達、俺に勝てそう? 無理な事くらい分かるよね?」
皆が怯んでる。
「子供の俺を囲んで、武器まで抜いたんだ。当然、死の覚悟はあるんだよね?」
「クッ……」
「よし、希望通り殺してあげるよ」
ロンはゆっくり降りて、練気銃で一人づつ両足を撃ち抜いた。
「うがぁ!」
「フグッ……」
もう全員動けない。
「最期に何か言いたいことある?」
「もうここには来ねぇ……」
「は? 許してもらえる気でいるの?」
「いや……頼む……殺さないでくれ」
「俺を殺す気で来たくせに? 分かった、おじさん達を雇った人の居場所を教えてよ」
「あぁ、分かった……」
男は紙に書いてロンに渡した。
「雇い主まですぐに売るんだね、このクズ野郎。這って失せろ」
ロンは店に入っていった。
「な? あいつ凄いだろ?」
「うん……どんなやつが来ても大丈夫そうだ……」
五人の男たちに近づいた。
「なぁ、多分次はあんたらの雇い主と来るんだろうけど、今度はマジで殺されるぞ?」
「あぁ、そうだな……何なんだあのガキは……オレはもう降りる」
「一応雇い主に報告しとけよ」
五人の脚を治してやった。
「すまねぇ……もう二度と来ねぇとあの子に伝えてくれ。雇い主にも来ないように伝える」
「あぁ、分かったよ。お前らドア壊してるけど?」
「あぁ、支払う……」
オレ達も店に入った。
皆、何事も無かったかのように飲んでいる。
「エマ、さっきの人達がドアの修理代って置いていったぞ」
「あぁ、ありがとう。もうドアの修理何回したか……」
鋼鉄のドアにするのも違うしな……。
「オレらは帰るか。ロン、頑張れよ!」
「うん、ユーゴさんは明日の朝出るんだよね?」
「あぁ。みんな、また来るよ!」
「ユーゴ君、トーマス君、またね!」
もうこの店は大丈夫だな。
ホテルに帰ってゆっくり休んだ。
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