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第三章 新魔王誕生編

マモン・シルヴァニア

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 ワタシは魔都シルヴァニアで魔人として産まれた。

 魔王リリスと人族の男との子、髪は赤いが魔族特有の鋭い犬歯は無い。
 父親は見たこともない。母リリスと人族の父が恋に落ちて産まれた子ではない。
 兵器としてに過ぎない。

 このままではリリスにこき使われる。
 ワタシは欠陥品を演じた。

 演じたとはいえ、面と向かって欠陥品と言われた時は落ち込んだ。リリスはワタシに対しての愛を微塵も持ち合わせていない。
 ワタシもリリスに従ってやる義理もない。あの女には憎悪の感情以外何もない。


 ◆◆◆


 ワタシは男に生まれたけど、心は女だ。
 かなり早い段階で気付いてはいた。けど、誰にも言えない。モレクにも、メイドのエナリアにも。

 
 ある日、エナリアに頼み事があって部屋に行った。部屋には居なかった。
 開いたクローゼットからエナリアのワンピースが見えた。

 ワタシは、それを着たいという衝動を押されきれなかった。

 可愛い……こんな服を着て外を歩けたらな。お化粧もして、もっとお洒落して出歩きたい。

 ガタンと入口から音がした。
 モレク……。

「モレク……いや、違うんだ……」

 シーッとモレクが静止する。
 
「マモン様、女の子の服を着たいという気持ちは悪いことじゃありませんよ」
「ホントに……? ワタシ、男なのに悪いことしてない?」
「マモン様にだけ言うわね、私もなの。私も男に生まれたのに、心は女なの……」

 モレクもワタシと一緒だった。
 何かが解放された気がした。
 自然と涙が出てきた、二人で抱き合って泣いた。


 エナリアもワタシ達を理解してくれた。
 モレクとエナリアはワタシの恩人。

 でも、本当の自分を解放したからなのか、ワタシの中に凶暴性が芽生え始めた。

 それはワタシには悪いことじゃない。
 母であるリリスを殺すその日まで、ワタシの中の悪が育つならそれでいい。


 ◆◆◆


 15歳でモレクと一緒に魔都を出た。

 ノースラインでAランク冒険者になり、ウェザブール王都に行った。

 王都で出会ったショーパブという華やかな場所。お化粧をして煌びやかな服を着てショーをする。ワタシ達が輝ける場所はここだ。


 仙族のアレクサンドと出会い、ショーパブ『リバティ』を開店した。

 でも、バカにされる事が多いこの仕事は、やっぱりワタシには合わない。最初は楽しさが勝っていたけど、客への殺意が大きくなって半殺しにしてしまった。
 ワタシの凶暴性で店の子達に迷惑をかける事になる。もう、この店には出られない。


「アレクサンド、ワタシはリバティにはもう出ないわ」
「そうだろうね、客を半殺しにしてしまっては流石にね。王都の裏側を見てみるかい? いくらでも鬱憤を晴らせるよ。なんなら殺してもいい」

 
 王都は四方の門から王城に向けて大通りが通っている。門や通りから離れると、全く違った景色が広がっていた。 
 どこの町にも無法者がいる。王都は広い、その分社会から溢れる者は多い。

「へぇ、煌びやかな王都でも、路地に深く踏み込めばこんな世界が広がっているのね」

 周りを囲む高い城壁のせいで昼でも薄暗い。
 清掃は行き届いていない、無法者達が至る所でケンカをしている。

「あぁ、こんな所が沢山あるよ。王都は広いからね」

 少し歩けば睨まれる。
 目が合うだけで絡まれる。

「おい、待てよテメェ。気持ち悪ぃ格好しやがって」
「あら、ワタシの事?」
「テメェ以外誰がいんだよ。殺すぞオカマ野郎」
「オカマ野郎は失礼ね。ねぇアレクサンド、こいつ殺してもいいの?」
「あぁ、好きにすればいい」

 ワタシは単純な暴力でそいつを痛めつけた。拳に直接、相手の骨が砕ける感触が伝わる。顔面の形が変わるまで殴り続ける。魔法では味わえない高揚感。

「あら、死んじゃったわ。ねぇ、アナタ達も殺して欲しい?」
「……いや、悪かった……こいつの非礼は詫びる……」
「じゃ、この死体はアナタ達が処理しときなさい」

 ワタシの中の悪が歓喜している、心が高揚しているのが分かる、ここなら暴力が許される。
 ワタシはアレクサンドと毎日のようにスラム街を練り歩いた。


 ここ以外にも王都の四隅には同じようなスラム街が広がっている。

 魔族と人族のミックスの噂は『魔人マモン』と言う名で広がっていった。
 もう、王都の悪党でワタシ達に逆らうものは居なくなった。暴力を振るおうとも相手がいない。

「人を殴るのも、もう飽きたわね」
「キミは本当にいい顔をして人を殴るね。ゾッとするよ」
「アナタに言われたくないわね。ワタシより悪党のクセに」
「他の町に行ってみるかい? その方がボクもレディに手が出しやすい」
「好きねアナタも。いいわ、出ましょう」


 ◆◆◆


 王都の北東に位置する、王国最北端の町。久しぶりのノースライン。
 ワタシの希望でまずはここに腰を据える。
 
 お金はある。
 いいホテルに長期宿泊すればいい。チェックインを済ませ、夕食に出かける。 

「この町の料理が忘れられないのよね。お酒も美味しいのよ。王都にも似たようなスパイス料理はあったけど、ここのは別格だわ」
「へぇ、それは楽しみだな」

 数年前の記憶を辿り店を探す。

「あぁ、あったわ。ここよ」

 店に入る。
 田舎は王都ほどセクシャルマイノリティに理解がない。

「やっぱり変な目で見られるわね、鬱陶しい」
「まぁ、仕方ないんじゃないか? ボクの青い眼も同じだよ。少数派はどこの世界でも住みにくいさ」
「そうね、なら自分の国を創るのも面白そうね」
「なるほどね。国を奪うのが手っ取り早そうだ」
「リリスを殺して、魔都をワタシの国にするのも面白いわね」
「そりゃいいね、賛成だよ」
 
 その為には、もっと強くならないとね。
 あの女は強いから。

「じゃ、アレクサンド、改めてよろしくね」
「あぁ、旅の相棒だ。よろしく」
「乾杯」

 はぁ、美味しい。

「このフルーツのお酒が美味しいのよね」
「んー、ボクはウイスキーとかの方が好きかな……確かにこのスパイス料理は美味しい。これにはビールが合いそうだ」

 本当にここの料理は美味しい。
 当分堪能できる。

「本当は旅の共はレディがいいんだけどね」
「何を言ってるの。アナタは飽きてすぐに捨てるじゃない」
「ならその都度取り替えればいい」
「物のように……本当に女となるとクズね……それに、ワタシの心はレディよ? ちょうど良いじゃない」
「ボクがレディに求めるのは心なんかじゃない。キレイな容姿と身体だよ」
「ストレートなクズね」

 
 ◆◆◆


「ねぇアレクサンド、何かを痛めつけないと爆発しそうだわ。こんな小さな町で殺しをする訳にもいかないし」
「一番手っ取り早い方法があるじゃないか。依頼を受けて魔物を殺しに行こう」
「あぁ、そうね。人族ばっかり殺しすぎて忘れてたわ」

 久しぶりの冒険者ギルド、王都と比べるのは酷ね。少ない依頼に目を通す。

「SSランクは無いのね」
「ギルドの依頼なんて人族の生活範囲内でしか無いからね。害が無ければ依頼にはならないのさ」
「なるほどね。じゃ、とりあえずSランク受けて、山を北上して暴れる?」
「あぁ、そうしようか」


 Sランクの依頼は帰りでいい。
 とりあえず山を越えて飛んでいく。

「ねぇ、こんな山の上に人族が住んでるわよ」
「本当だな。ん? 髪が赤いぞ? 魔族じゃないのか?」
「よく見なさいよ、赤茶色よ」
「あぁ、本当だ、少し茶色がかってるな」

 髪が赤っぽい人族か……自分を見てる様ね。

「イライラするわ……集落に魔法ぶっ放してやろうかしら」
「まてまて、あまり問題は起こすなよ」
「バレやしないわよ」

「……ん? 向こう見てくれ。あれ、火山じゃないか?」
「そうね、魔法ぶち込めば噴火するかしら?」

 気力のボールを何個も作り、全てに火の自然エネルギーを混ぜた魔力を圧縮する。

「行くわよー!」

『連続火魔法 炎熱地獄ブレイジングヘル!』

 火山の火口に無数の火魔法が降り注ぎ、火口を広げていく。

「少し地が揺れてるようね、来るわよ」

 大爆発と共に火山が噴火した。

「キャーッハッハ! やったわ! 大噴火よ! マグマの自然エネルギーなんてなかなか無いわよ、取り込んでおきましょ!」

 粘度の低いマグマが、一気に赤茶髪の人族達を飲み込んだ。

「キャーッハッハッ! 見て見て、逃げ惑ってるわ!」
「確かに絶景だな。しかし性格の悪いヤツだなキミは」

 集落は全てマグマに飲み込まれた。
 煙がモクモクと上がっている。

「あー、スッキリしたわ。当分この記憶を見返して楽しめるわ。もう魔物なんてどうでもいいけど、金儲けして帰ろうかしらね」
「あぁ、そうかい。ボクの事を忘れてないか? 魔物はボクが殺るよ」

 
 帰りにSランクの魔物を狩って帰った。

「はぁ、酒が美味いわね」
「ボクが言える立場じゃないけど、キミも相当な悪党だね」

 横の席の男達が話しているのが聞こえる。

「おい、今日の火山の噴火で『センビア族』全滅らしいぞ」
「あぁ、そうみたいだな。前の地質調査の結果じゃ、千年以上は噴火してないんだろ? その兆候も無かったって。何でいきなり噴火したんだろうな……」
「まぁ、ここに被害が無かったのがせめてもの救いだな」
「あぁ、ゆっくり酒も飲めなかったかもしれないからな。あの赤茶髪も見ることが無くなるのか……可哀想にな」

 ふぅん、センビア族って言うらしい。
 あの赤茶髪は民族特有なのね。

 今日は楽しかった。
 夢でも楽しめそうね。

 数ヶ月はここに滞在しようかしら。
 
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