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第四章 四種族対立編
覚悟とは
しおりを挟む円卓にそのまま昼食が運ばれてきた。
話しながらつまめる様なサンドイッチとコーヒーや紅茶。王達も意外と普段のランチはこういう軽い物を好んで食べるようだ。
神龍レイは相当お腹が空いていたのだろう、とても美味しそうにサンドイッチにかぶりついている。だが所作は丁寧だ。
食事をしながら話は進む。
「アレクサンド達は魔将サタンの思念を見た様だが、悪鬼ラセツの思念はまだだな。今現在は軍事演習中で動く気配も無い」
「アレクサンドとは?」
仙王の千里眼の能力と共に、レイに魔族と鬼族の現状を話した。
「なるほど、某がこうして話せている事を考えると、ラセツも身体を得る可能性が高い。奴が復活するとなれば厄介だ」
「では先回りして台座を壊すかの。レイ殿の洞窟を守っていた様な魔物が居るのであろう?」
「何がいるかは知らないが、居るだろう」
ゼウスはあの魔物を天界の二種族に対抗する為の試練のように言っていた。
「レイさん、ゼウスとサタンが協力してこの世界を創ったのなら、さらに四人が協力して新たな種族を創るのが天界二種族に対抗するのに良かったのでは?」
レイはため息混じりに答えた。
「某もそう進言した。しかし、長年争って来た過去がそれを許さなかった……全く稚拙な二人だ。台座を守る魔物はゼウス殿とサタンが創った、ゼウス殿の話の通り其方らの力を試す為だ。ゼウス殿の想いは種族間の争いによる戦力の増大、某の想いは種族間の連携による戦力の増大だ。其方らを見ていると某の想いの通りになっていると見るが」
「確かに我々は、仙族と龍族の戦闘法を掛け合わせ戦力を増大させた、さらに魔族の戦闘法も手に入れた。しかし、魔族と鬼族も我々と同等の力を得ている。しかも向こうには天界二種族の混血がいる。こちらのソフィアはこの世界に来た時は子供であった故に天界の戦闘法を知らない」
レイは大きく頷き話を進めた。
「我々の天界への恨みを全て排除し、新たな種族に託そうと進言したのは某だ。要らぬ記憶と感情を残すとそれに反発するものが出てくる、貴殿らの想いは天界には繋がらんとな。建前はそうだが、某の本音は其方らには争いなど無く平和に暮らして欲しかった」
「しかし、種族が違えば争いは起きる。貴殿の想う様にはならなかったのが現状だ」
「しかし今は、二種族づつがそれぞれ協力関係にある、大した進歩だ」
昼食のサンドイッチを皆が平らげ、午後のティータイムとなり、緩やかな時間が過ぎている。神龍レイはかなり聡明な平和主義者である様に感じる。天界二種族への恨みを晴らしたいという想いは微塵もない様だ。
「レイさん、あなたの想いは伝わってます。オレ達も戦など無く平和に暮らしたい。でも向こうが攻めて来るなら、大切な人達を守る為にも迎え撃たないといけない、そうなれば必ず死者が出る。そして、オレ達も敵を殺めなければいけない……」
オレの言葉に続いてエミリーとトーマスも口を開いた。
「私には魔族と鬼族側についた仙族の父がいる、私の親族たちを殺した仇です。殺したいほど憎いけど奴らは強い、味方の命を失ってまで復讐は……」
「僕も魔族側に殺したいほど因縁のある奴がいます……何の罪も無い僕の一族を全滅させた憎い奴です。でも、エミリーと同じく僕の恨みを晴らす為に仲間の命を危険に晒すことは出来ない……」
オレ達の言葉を聞いて仙王が組んでいた腕を解いて喋り始めた。
「今でこそ龍族とは友好関係にあるが大昔には敵対していた、山脈で隔たれていた為に戦闘にはならなんだが。我々が手を組んだところで魔族と鬼族がいる、敵対勢力がある限り戦は無くならん。ユーゴが言ったように大切な者を守る為には敵を迎え打たねばならん。しかし、躊躇すればさらに仲間が死ぬぞ」
「左様、儂ら龍族は戦から降りたが、それは民を守る為。しかし敵対勢力がある限り矛を収めてはならん。故に儂らは自らの鍛錬を怠る事は無かった、有事に備えるためだ。今がその有事、儂らは大恩ある仙族達と共闘せねばならん。ユーゴ、有事の際に里を守る覚悟があるかとお主に問うたはずだ、その覚悟を聞いたからこそお主を儂自ら鍛え上げた。忘れたか?」
その通りだ。
躊躇すればさらに仲間が死ぬ、覚悟を決めないと……五年もあるからと結論を先延ばしにしていた。
二人の言葉を聞いてトーマスとエミリーも項垂れている。
「そうですね……その為に鍛錬を積んできた。それは大切な人達を守る為です」
「すみません、甘えてました……」
「まてまて、我々は別に叱っている訳ではない。1000年の平和のうちに生まれた君達にその自覚を持てと言うのは酷だ。しかも君達はまだ20年程しか生きておらん」
「戦が始まれば皆懸命に戦う、誰も死にとうは無い。ユーゴに問うたのは覚悟だ、儂らを筆頭に軍に所属する者は常に死の覚悟を持っておる、お主らが気に病む必要は無いという事だ」
いや、完全に甘えていた。
有事の際は里を守ると返事をしたのはオレだ……決めた、オレは心を完全に切り替える。
仙王がさらに話を進める。
「魔王マモンとアレクサンドの暇潰しから事態は悪化したと言っていい。アレクサンドは同族とはいえ危険な男だ、それを放っておいた我々に責任がある。エミリー、一人で戦おうなどと思うなよ、君には多くの仲間がいる。トーマス、君にもだ」
「はい、ありがとうございます」
「僕も自覚を持ちます、ありがとうございます」
トーマスとエミリーは真っ直ぐに仙王に向き直って返事をした。
五年で奴らを圧倒する力をつけてやる。そして元凶であるマモンとアレクサンド達、魔神ルシフェルを潰す。
「では鬼国にあるラセツの台座を壊しに行こう。厄介なものは潰しておくに越したことはない」
「うむ、それが良い」
話も煮詰まり、聞き手に回っていた神龍レイが口を開く。
「よし、某もついて行こう、其方らの戦闘を見せてもらいたい。助言出来ることもあるだろう」
「本当か? 我々の知らぬ戦闘法があれば教えて貰いたい」
「向こうには混血とはいえ悪魔族が居るのだろう、であるならばその戦闘法を皆が習得する可能性は高い。現に今軍事演習中だと言っていたな」
「レイさんも知らない戦闘法ですか?」
「見たことはあるが方法は知らない」
神族の戦闘法、母さんも子供だった為知らないらしい。それを習得すればさらにオレ達の戦闘力は上がるかもしれない。
「さて、問題はその場所であるな」
あ、そうだ……場所なんて皆知るはずがない。
ジュリアが手を挙げた。
「王都には少ないが稀に鬼族を見かける、そいつらが知っている可能性は無いか?」
「そうだな、それに賭けるしかないか」
「では、オレ達が行ってきます」
「そうか、ユーゴ達に任せよう、我々はオーベルジュ城に居る、報告はいつでも構わん」
オレ達四人はすぐ街に鬼族を探しに出かけた。
「鬼族を見かける事なんてかなり稀だもんな」
「あぁ、前回いつ見たかも忘れたよ」
「一番可能性があるのはギルドだろうね、ここには二つのギルドがあるし」
「とりあえず南のギルドに行ってみようよ」
城を出て南の大通りを南下し、南のギルドに着いた。中を見回すが、お目当ての鬼族はいない。もう顔見知りのカウンターのオッサンに声をかける。
「おう、あんたらここ最近見なかったな。またワイバーンいじめか?」
「いや、今回は依頼じゃないんだ。早速本題なんだけど、鬼族の冒険者って最近見た? 家とか知ってたら教えて欲しいんだけど」
オッサンは眉間にシワを寄せて腕を組んだ。
「鬼族か……そういやここ最近見ねぇな……北のギルドに行ってみな、王都にいねぇって事はねぇだろうし」
「場所はすぐ分かる?」
「あぁ、北の大通り沿いだよ」
「ありがとう、これ取っといて」
お礼に一万ブールをカウンターに置いて出口に向かって歩き始める。
「おい! 良いのかよこんなに!」
それには答えず笑顔で手を挙げといた。正直一万ブールくらいはもう小銭感覚だ。
北エリアに向かおう。
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