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第四章 学園編・1年後半

第176話 隙あらば戯れる姉妹

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 ベッドで休んでいた私だけど、やっぱりお昼になるとお腹が空いてしまう。なので、ベッドを起き抜けてモモが居るだろうボンジール商会のブースへと向かった。姉妹一緒にご飯を食べようと思ったからだった。
 ボンジール商会のブースへとやって来た私は、昨日と変わらない人だかりに正直驚いていた。
「ちょっとすみません、妹と話があるので通して頂いてもよろしいかしら」
 私がこう声を掛けると、最初こそ「なんだこのデブは」というような視線を向けられたものの、フィレン王子、リブロ王子の婚約者である私だと気が付くと、それこそどこぞの海のように真っ二つに人の群れが分かれて道が開いてしまった。そこを通ってブースの中へ向かうと、
「お姉様、もう大丈夫なのですか?」
 モモが驚いた顔をして私を見てきた。そうだった、私捻挫してて動けないとか言ったんだったわね。
「ええ、魔法が効いてもう大丈夫ですわよ。それよりもモモ、一緒にお昼にしませんこと?」
 私がお昼に誘うと、いつもなら即答で了承してくるモモが、珍しく渋っている。どうやらボンジール商会の手伝いをしているので、そこが気になっているようだった。
「何も心配しなくていいよ。家族の邪魔をするような野暮な事はしないから。ささっ、お昼を食べてきなさい」
 接客途中のギーモがモモを気遣っている。やりますわね。評価が上がりましてよ。
「申し訳ございません。でしたら、お言葉に甘えて、そうさせて頂きます」
 モモはギーモに頭を下げると、私と一緒にボンジール商会のブースから脱出したのだった。
 ボンジール商会のブースから離れて、食堂へと向かう私たち。その途中、モモが心配そうな顔をして私に確認をしてくる。
「お姉様、本当にもう足は大丈夫なのですか?」
「ええ、見ての通り、もう完全に治ってますわよ」
 私は立ち止まって、その場で飛んだり回ったりする。まだ90kgを超える巨体とはいえど、その動きはスムーズだった。ただ、飛び跳ねた時には着地の際にものすごく重い音が響いていた。
「……本当にもう大丈夫なのですね。私、安心しました」
 うん、モモも安心してくれたようで私も安心したわ。
 そうこうしているうちに、私たちは学園の食堂へと到着した。この食堂だけは相変わらず学生と教職員しか使えない事になっており、いつもの混み具合なので実に助かるというものである。
 食事を注文して受け取ると、私たちは窓際の席を選んで座った。
「あの、お姉様」
「なんでしょうか、モモ」
 おずおずとしながらモモが私に問い掛けてくる。
「午後はどうなさるおつもりですか?」
「そうですわね。剣術大会は負けてしまいましたので、午後はずっと見学でしょうか。フィレン殿下とサクラ様の試合をそれぞれ観戦させて頂く予定ですわ」
 私は考えながらそう答えた。すると、モモはちょっと寂しそうな顔をしてしまう。
「さすがに婚約者でありながら、殿下の試合を見ないわけには参りませんからね。他者の戦いから学ぶものもありますから、来年のためにも全試合観戦しますわ」
「そう……なのですね」
 モモが見るからにしょんぼりしている。そんなに私と居たいのね、愛い奴愛い奴。
「モモ、心配しなくていいのよ。明日と明後日は一緒に居てあげるますからね」
 私がそう言うと、モモはぱあっと顔を明るくしていた。本当にうちに引き取ってからというもの、私にべったり気味なんだから。ちょっと姉離れをさせる必要はあるけれど、まだ13歳だものね。少し気が引けるかしらね。
 ただモモにべったりされながら食事を取っている私だけれども、正直まったくもって気は抜けない状態が続いている。それは何かと言えば、この乙女ゲーム世界の最大の問題である『100kg問題』である。
 主人公であるアンマリアは太りやすいという体質を持っているのだ。無事に100kgを切れたとはいえ、簡単にリバウンドをしてしまう体質なのだ。きちんと運動をしていても、下手に食べ過ぎてしまえば100kg超過なんて簡単にしてしまう。ステータスで常に確認できるとはいえど、一度超えてしまえば再び減らすのは至難の業。何度ゲームではノーマルエンドになった事やら……。そのくらいには気を遣うものなのである。
 過去何回か説明させてもらったけれど、この『100kg問題』というのは、悪魔の断罪ルートが発生する条件なのよ。これを発生させてしまえば、悪魔の三択によって断罪ポイントを貯めさせられて、一定値を超えれば処刑されるという最悪のエンディングを迎えるルートが開放されてしまう。これだけは絶対避けなければならないのよ。
 まったく、妹と戯れている間でもこういう事を気にしなければならないんだから、本当に勘弁してほしいわ。
「ほらほらモモ。慌てて食べないの。口元が汚れてるわよ」
「あ、ありがとうございます、お姉様」
 食事が終わった時、モモの口周りがソースでべったりしているので、私はそれをハンカチでそっと拭い取ってあげた。するとモモは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにお礼を言っていた。あとで聞いた話、そんな私たちの様子を見ていた周りは、実にほっこりとした表情をしていたらしい。姉妹の戯れもほどほどしないといけないわね。私は萌えを提供する気なんてまったくないんだからね。
「それでは、今日は一緒に帰りましょうね、モモ」
「はい、お姉様」
 食堂を出た私たちは声を掛け合うと、それぞれの目的地に向かうために別々の方向へと歩いていった。
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