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レベリング永久機関の完成

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 私の店が王宮御用達に認定されたことは瞬く間に広まった。
 もちろん、賊の侵入もピタリと止んだ。

 店の問題が解消された私は、善人よしとのレベリングを手伝うことにした。

 善人のレベルは30まで上がっていたが、他の二人の勇者に比べると低い。
 鋼太郎こうたろうは42、駿しゅんは53と、かなりの開きがある。

 この世界では通常、魔物や魔族を倒して経験値を得ることでしかレベルは上がらない。
 つまり、より強い魔物を多く倒すことができるかが、レベリングの鍵となる。

 ただ、レベリングには膨大な資金が必要だ。
 強い敵を倒すには良い装備が必要になる。
 
 それに、今では私の店で販売している白ポーションも戦闘には欠かすことのできない重要なアイテムだ。
 
 効率の良い資金稼ぎには、強い魔物を倒すのが一番手っ取り早い。
 強い魔物ほど魔石や素材の価値も高いからだ。

 しかし、パーティのレベルが低ければ強い魔物を倒すことは出来ない。
 攻撃も通りにくくなるし、受けるダメージ量も増えてしまう。

 そう、今のままでは、善人が彼らに追いつくことはないだろう。
 なぜなら、他の勇者の方がレベルも高く、装備も良いものを持っているのだから。

 だけど、それは今のままだったらの話だ。
 
 鋼太郎や駿という勇者になくて、善人にだけあるアドバンテージがあった。

 それが私の存在だ。

 私は紅茶を飲む片手間に、大鏡に映る善人たちの様子を眺める。
 善人たちの目の前にはワイバーンが立ちふさがっていた。
 
 レベルは66で今の善人たちに敵う相手ではない。
 普通であれば。

『くっ! なんだってこんな場所にワイバーンが!?』

『そんなことを言っている場合じゃない! 僕がいくよっ』

 善人がワイバーンに向かって剣を振るう。
 攻撃を受けたワイバーンは『ギャウ!?』と叫んでいるけれど、攻撃をし返す様子はない。

 善人は首を傾げながらも攻撃を続けると、やがてワイバーンは地に伏して動かなくなった。

『やったじゃねえか、ヨシト!』

 肩で息をしている善人に、盾使いの男が肩を叩いている。

『すごいです!』

『ああ、さすが勇者だね』

 神官の少女と魔道士の女性も善人を褒め称えていた。

『そんなことないよ。こいつの動きが鈍かったから』

『確かにな。手負いだったのかもしれねえ。だが、大物を倒したんだ。レベルも上がったんじゃねえか?』

『うん、30から33に上がったよ』

『おお!』

 善人たちが色めき立っているのが鏡越しでも分かる。

 さすが30以上もレベル差のあるワイバーン。
 経験値の入りが多い。

 この調子でどんどん送りこもうかしらね。
 
 私は、善人たちから数百メートル離れた場所を転移魔法で繋ぐ。
 半径50センチほどの空間なので、視認することは困難だ。

 その穴に私が魔力を込めた魔石を放り込む。
 以前造った魔物を召喚できる魔石だ。

 この魔石から生まれた魔物。
 倒せば魔石や素材をドロップするどころか、なんと経験値まで得ることができるのだ。

 倒した段階で召喚機能は失われてしまうのが欠点ではあるが、さしたる問題ではない。
 大事なのはどれだけ強い魔物であっても、召喚者の命令に従うということだ。

 先ほど善人が倒したワイバーンも私が召喚したものである。
 無抵抗だったのも、私が何もするなと命じたからに他ならない。

 こうやって無抵抗な強い魔物をどんどん善人の目の前に送り込めば、レベリングは容易くなるだろう。
 攻撃が通りにくいといっても、攻撃し続ければいずれ倒れるのだ。

 善人は他の勇者よりも恩恵が少ないのだし、一番遅れてこの世界にやって来ている。

 なら、私が女神の代わりに恩恵を与えてもいいわよね。

 私は魔王城近辺にしか登場しない魔物を転移魔法で送り込んで、善人のレベリングを行った。

 レベリングを2週間ほど続けると、善人のレベルは79になっていた。
 パーティのレベルも65にまで上がっている。
 ちなみに鋼太郎は47、駿は56だ。

 他の勇者が強い魔物と戦おうと思っても、そう簡単に遭遇するわけではない。
 一定以上の強さを持つ魔物は街の近くには現れないのだ。

 レベリングはこのまま続けていくとして……あの装備でいいのかしら?

 連日強い魔物を倒してきたことで豊富な資金を得た善人たちのパーティは、他の勇者たちよりも良い装備を身に着けている。

 ただ、それは街で売っている装備の中では、だ。

 街で売っている装備程度で魔王に傷がつけられるとは思えない。
 それは一度交戦した私がよく分かっている。

 私なら別に特別な装備なんて必要ない。
 この世界のレベルの上限は99のようだけど、私はその上限を軽く突破している。
 魔王を倒すのは素手で充分でしょう。

 けれど、善人が魔王とまともに戦おうと思ったら、レベルを99にしただけでは無理だ。
 特別な武器が必要になるだろう。
 
  まあ、レボルは話の通じる相手だし弟のカイルも可愛いから、出来れば討伐以外の方法を取りたいところだけれど。

 そういえば、レボルが興味深いことを言っていたわね。
 魔族は人間の国を侵攻したことは一度も無い、それなのに人間どもは勇者を送ってくるって。

 複数の女神が1つの世界を管理していることと関係していそうよね。

「セバス」

「はっ」

 声と同時に音もなく空間が歪み、黒い執事服に身を包んだセバスが姿を現した。
 魔石による転移門が完成したので、私の部屋と店を繋いでおいたのだ。

「女神について調査をお願いしていたわよね? 何か分かった?」

「はい。この世界は3人の女神を崇めている宗教が主流となっているのですが、元々は別の女神を崇めていたことが分かりました」

 アシュタルテ、イシュベル、フローヴァとは別の女神か。
 面白いわね。

「その女神を崇めなくなった理由は?」

「なんでも、世界に蓄積した淀みにその身を蝕まれて邪神へ堕ちたとか」

「へえ」

 ということは、この世界のどこかに邪神と化した女神がいる可能性が高い。

「私も心当たりを探ってみるから、セバスも邪神について調べてちょうだい」

「承知いたしました」

 邪神に堕ちたとしても元は女神だ。
 女神のことは女神に聞くのが一番手っ取り早い。

 私は話を聞くべく、転移魔法を使用した。
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