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151・歓喜の中の鬼
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決闘が始まってから少しだけ時間が経過する。普段の決闘なら、多少観客席がざわついたり、解説席のシューリアが色々と言ってくるんだけれど……今ではほとんどの音が聞こえてこない。唯一雪雨とアルフの応酬だけが聞こえてくる。
観客が息をのんで静かになるのも無理もない。互いに肉弾戦のみの戦いを繰り広げられているけれど、雪雨は未だにあの大刀――『金剛覇刀』を抜いていない。アルフの方もまた、武器を抜かずに拳一つで応戦している。
『ははは! 楽しいな! アルフゥ!』
『そうかい? 僕はそうでもない、よ!』
互いの拳がぶつかった瞬間、雪雨は懐に身体をねじ込んで、残った拳をアルフに叩きつける。しかしアルフは、それを読んでいたかのように受け止めて、足を引っ掛けようと水面蹴りを放った。それを嫌った雪雨が距離を取ると、二人とも最初の時のように向かい合った。
『はは、その大きな刀は飾りかな? 一度も抜いてないじゃないか』
『ふはは、準備運動してるだけだ。そう急かすなよ。今から……しっかり刻み付けてやるからよ!』
雪雨が背中の『金剛覇刀』をすらりと抜いて、切っ先をアルフに向ける。相変わらず美しくも雄々しい刀だと思うけれど……今の雪雨と合わさってより輝かしい光を放っているようにすら見える。
「綺麗……」
ぽつりと呟くレイアの言葉に、私も静かに頷いて同意した。以前相対した時よりもずっと洗練された闘気を感じる。荒々しくもまっすぐに突き進む彼らしい力強さを感じて……以前よりも遥かに強くなっているのを感じる。
『へえ……中々サマになってるじゃないか。だったら――』
アルフも対抗するように剣を抜いて……それを適当に放り捨てた。
『……あ、あれ? どうしてアルフくんは剣を捨てたんでしょう? ガルちゃん、どう思う?』
『答えは一つしかあるまい。最上級の魔導の行使。強き者に敬意をもって応える素晴らしき姿勢だ』
『え? 何言ってるのか全然わかんないんだけど……』
知っている者には答えを言っているんだけれど、何も知らない人には難解にしか聞こえないのだろう。まだ一年生のリュネーやレイアも首を傾げている。この中で唯一気付いてるのは雪風くらいかな。
不敵な笑みを浮かべているアルフが何をしようとしているのか理解した私は、どこか期待してその光景を見つめていた。
『【人造命剣・ドラゴニティソウル】!』
自らの魂を武器にして呼び出す『人造命具』。アルフが呼び出したそれは、黒を基調とした柄をした片刃剣だった。剣にしては少し分厚くて、柄は竜の翼を象っているみたいだ。剣の背から先の方は刃とは違う材質で作られていて、メタルブラックと呼んだ方が相応しい。腹の部分には鮮やかな赤い宝石のようなものがあしらってあり、それ一本がまるで剣の形をした黒竜のように見える。
雪雨の『金剛覇刀』が古き時代からの脈動を感じるのなら、アルフの『ドラゴニティソウル』は竜という存在の荘厳さを表しているみたいだ。
様々な『人造命具』を見てきた私でも、思わず見惚れてしまいそうになる。
『っは……はっははは! あーっははっははは!!』
アルフの呼び出した『人造命具』をまじまじと見た雪雨は大きな笑い声をあげた。モニターに映るアルフは、訝しむような表情を浮かべてるけれど……私には彼が笑う気持ちがなんとなくわかる。
雪雨はどこまでも強敵と戦う事を求めてる。普段の彼はそういう戦闘狂な側面は影に潜んでいるけれど、一度それが表面化したら止められない。
だから、雪雨は歓喜の中にいるんだろう。『人造命具』を使える程の実力者と戦える。自らをより一層高みに上げてくれる存在との戦いを待ち望んでるような男だからね。
アルフとは少し話しただけだけど、そういう事とは無縁だったんだろう。全く理解できていない様子だった。
『……どうした? おかしくなったのか?』
『いいや、ちげぇよ。俺はずっと待ってた。強敵と戦える時をよ』
戦意が湧いて来たのか、獰猛な笑みを浮かべて『金剛覇刀』を構えた雪雨は、既に心の高まりを抑えられる状態を超えてるように見えた。
『さいっこうに滾ってきた! アルフ! 俺の渇きを……俺の飢えを少しでも満たしてくれよ!!』
『お断りするよ。僕は、美味しくないからね』
やっぱり挑発で返してきたけれど、雪雨の方は既にそんなことを気にしている精神状態じゃないみたいで……『金剛覇刀』を振りかぶって真っ直ぐに突撃していく。
『【光嵐・疾風怒濤】!!』
魔導が発動したその瞬間、雪雨は光に身を包み、それが複数に分散する。空中にも散らばったそれらは、風を纏って順番にアルフの方に向かっていく。一番最後に突撃していったのが恐らく本体だろう。
『へえ……』
アルフは興味深くそれを眺めていたかと思うと、彼の方も応戦するように魔導を発動させる。……けれど、ちょっとおかしい。魔力の流れが口の方に移動しているように見える。
『【ドラゴティックロア】!!』
魔導を発動して、一気に口の方から放出したそれは、白と黒が混ざり合った熱線のようなものが雪雨に向かって放たれた。
雪雨が【光嵐・疾風怒濤】で作り出した光の分身を掻き消していく。見るからに凶悪な威力を誇るだろうその熱線は、真っ直ぐ雪雨に向かう。普通なら動じるような場面のはずなのに、彼は……まるでその瞬間を待ちわびるように目を爛々とさせていた。
観客が息をのんで静かになるのも無理もない。互いに肉弾戦のみの戦いを繰り広げられているけれど、雪雨は未だにあの大刀――『金剛覇刀』を抜いていない。アルフの方もまた、武器を抜かずに拳一つで応戦している。
『ははは! 楽しいな! アルフゥ!』
『そうかい? 僕はそうでもない、よ!』
互いの拳がぶつかった瞬間、雪雨は懐に身体をねじ込んで、残った拳をアルフに叩きつける。しかしアルフは、それを読んでいたかのように受け止めて、足を引っ掛けようと水面蹴りを放った。それを嫌った雪雨が距離を取ると、二人とも最初の時のように向かい合った。
『はは、その大きな刀は飾りかな? 一度も抜いてないじゃないか』
『ふはは、準備運動してるだけだ。そう急かすなよ。今から……しっかり刻み付けてやるからよ!』
雪雨が背中の『金剛覇刀』をすらりと抜いて、切っ先をアルフに向ける。相変わらず美しくも雄々しい刀だと思うけれど……今の雪雨と合わさってより輝かしい光を放っているようにすら見える。
「綺麗……」
ぽつりと呟くレイアの言葉に、私も静かに頷いて同意した。以前相対した時よりもずっと洗練された闘気を感じる。荒々しくもまっすぐに突き進む彼らしい力強さを感じて……以前よりも遥かに強くなっているのを感じる。
『へえ……中々サマになってるじゃないか。だったら――』
アルフも対抗するように剣を抜いて……それを適当に放り捨てた。
『……あ、あれ? どうしてアルフくんは剣を捨てたんでしょう? ガルちゃん、どう思う?』
『答えは一つしかあるまい。最上級の魔導の行使。強き者に敬意をもって応える素晴らしき姿勢だ』
『え? 何言ってるのか全然わかんないんだけど……』
知っている者には答えを言っているんだけれど、何も知らない人には難解にしか聞こえないのだろう。まだ一年生のリュネーやレイアも首を傾げている。この中で唯一気付いてるのは雪風くらいかな。
不敵な笑みを浮かべているアルフが何をしようとしているのか理解した私は、どこか期待してその光景を見つめていた。
『【人造命剣・ドラゴニティソウル】!』
自らの魂を武器にして呼び出す『人造命具』。アルフが呼び出したそれは、黒を基調とした柄をした片刃剣だった。剣にしては少し分厚くて、柄は竜の翼を象っているみたいだ。剣の背から先の方は刃とは違う材質で作られていて、メタルブラックと呼んだ方が相応しい。腹の部分には鮮やかな赤い宝石のようなものがあしらってあり、それ一本がまるで剣の形をした黒竜のように見える。
雪雨の『金剛覇刀』が古き時代からの脈動を感じるのなら、アルフの『ドラゴニティソウル』は竜という存在の荘厳さを表しているみたいだ。
様々な『人造命具』を見てきた私でも、思わず見惚れてしまいそうになる。
『っは……はっははは! あーっははっははは!!』
アルフの呼び出した『人造命具』をまじまじと見た雪雨は大きな笑い声をあげた。モニターに映るアルフは、訝しむような表情を浮かべてるけれど……私には彼が笑う気持ちがなんとなくわかる。
雪雨はどこまでも強敵と戦う事を求めてる。普段の彼はそういう戦闘狂な側面は影に潜んでいるけれど、一度それが表面化したら止められない。
だから、雪雨は歓喜の中にいるんだろう。『人造命具』を使える程の実力者と戦える。自らをより一層高みに上げてくれる存在との戦いを待ち望んでるような男だからね。
アルフとは少し話しただけだけど、そういう事とは無縁だったんだろう。全く理解できていない様子だった。
『……どうした? おかしくなったのか?』
『いいや、ちげぇよ。俺はずっと待ってた。強敵と戦える時をよ』
戦意が湧いて来たのか、獰猛な笑みを浮かべて『金剛覇刀』を構えた雪雨は、既に心の高まりを抑えられる状態を超えてるように見えた。
『さいっこうに滾ってきた! アルフ! 俺の渇きを……俺の飢えを少しでも満たしてくれよ!!』
『お断りするよ。僕は、美味しくないからね』
やっぱり挑発で返してきたけれど、雪雨の方は既にそんなことを気にしている精神状態じゃないみたいで……『金剛覇刀』を振りかぶって真っ直ぐに突撃していく。
『【光嵐・疾風怒濤】!!』
魔導が発動したその瞬間、雪雨は光に身を包み、それが複数に分散する。空中にも散らばったそれらは、風を纏って順番にアルフの方に向かっていく。一番最後に突撃していったのが恐らく本体だろう。
『へえ……』
アルフは興味深くそれを眺めていたかと思うと、彼の方も応戦するように魔導を発動させる。……けれど、ちょっとおかしい。魔力の流れが口の方に移動しているように見える。
『【ドラゴティックロア】!!』
魔導を発動して、一気に口の方から放出したそれは、白と黒が混ざり合った熱線のようなものが雪雨に向かって放たれた。
雪雨が【光嵐・疾風怒濤】で作り出した光の分身を掻き消していく。見るからに凶悪な威力を誇るだろうその熱線は、真っ直ぐ雪雨に向かう。普通なら動じるような場面のはずなのに、彼は……まるでその瞬間を待ちわびるように目を爛々とさせていた。
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