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513・無頓着な気持ち(ファリスside)

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 ダークエルフ族の拠点からかなり離れた場所ではあるが、監視をするにはもってこいの高台。そこに簡素ながらも防衛用の拠点と見張り台を作り上げ、今は交代で見張らせていた。

「……で、集まってもらったのは他でもない。今回攻略しようっていうあの拠点の事なんだけど――」

 そしてひと際大きなテントの中。そこにはファリスと彼女に召集を掛けられた者達がいた。ルォーグを初めにあまりファリスに従順ではない者数名と彼女に従っていればおこぼれが預かれるだろうと考えている者数名。そして中立の者達だ。普段であれば決して一同会する事はなかっただろう。

「いつものようにファリス様が先頭に立って攻略するという訳にはいかないのでしょうか?」

 最初に声を上げたのは彼女に追従している者達の代表だった。危険な事にはファリスに矢面として立ってもらって、自分達は後ろからちょこちょこと旨味を味わう――そんな下衆いことを考えている一部の連中の代表とも言える。もちろんそれが全体とは言わないが、声を大にするのは大体こういう連中という訳だ。

「それに思うところがあるからこうして彼女本人から招集を掛けたという事でしょう。ならば私達がしなければならないのは、あの拠点をどう攻略していくか……それに尽きるでしょう」
「しかしあれだけの人数が守りを固めている場所にどうやって攻め入ると? それこそ単体で強大な力を持つ者でもなければ不可能ではありませんか」

 ルォーグの隣で上げられた声は、すぐさまファリス派(ととりあえず仮定された者達)に反発されてしまう。確かに強固な守りを築き上げられている中、無用心にも攻めていくなど自殺行為に近い。攻城戦なんてものは基本的に攻める側が不利なのだ。それを理解しているからファリスの圧倒的な火力で一気に制圧したい気持ちが湧いてくるのだ。

「ファリス様はどうお考えですか?」

 ここでファリスの方に視線が行く。このまま話し合っても埒があかない。集めた本人なら何か妙案を出してくれると考えたのだろう。

「……以前、ティアちゃ――こほん。エールティア様と似たような拠点を攻略した事があるの。その時はわたし達二人きりだったけど……エールティア様が拠点内部を攻略している最中に大きな光が降り注いで、それでほとんど消えてまったわ」

 ごくりと喉を鳴らす音が聞こえる。つまり、今回もそうなる可能性があるという事なのだ。

「今回は見張れる位置に陣を張ったまま、しばらく手を出さない方がいいと思うの。わたしが最大火力で消しとばしても良いけど……」

 それをすれば、本当に跡形も残らないだろう。物資自体はシルケットからかき集めたものでもあるし、回収したい物も中には存在する。ティリアースと違ってダークエルフ族の情報も少ないこの国にとって、拠点を抑えるのは重要事項の一つと言っても良いだろう。流石にこの提案は通らず、ひとまず間諜を送り込んでみる事が決定された。
 もちろんリスクは存在する。ここで間諜の動きを捕捉するような魔導や道具があれば、一発でバレてしまいかねない。しかもそれで得られる情報は少ないと踏んだり蹴ったりな状況になりかねない。

「まず隠密性もそうですが、なにより重要されるのは生存性だと思います。『生きて戻る事』それを全う出来るだけの能力の持ち主を送り出すのがいいでしょう」
「だけど、それでもし死んだら? 有能な人材を失った挙句何の成果も得られなかった……なんて事になったらどうするのにゃ?」

 ここで相対するようにぶつかりあう二つの派閥を横目に、ファリスは既に意識が会議の方に向いていなかった。
 間諜の選択など、彼女には全く関係のない事なのだ。所詮自分は戦場でのみ活躍出来るということをしっかりと把握している証拠だった。

「ファリス様、あまり気が乗らないみたいですね」

 その様子を不満そうにしていると見えたのか、ルォーグはどこか困ったような笑みを浮かべていた。

「別に。わたしも自分で言っててないかなって思ってたし、誰か腕の立つ人を潜入させるのは間違っていないもの。ただ、わたしには関係ない話というだけ」

 戦いにならないのならば、自分の出る幕はない。はっきりとしたファリスの態度にルォーグは頭を抱えそうになる。例え本当にそうであったとしても、そんな態度では下の者達が不安に思ってしまう。それをファリスは理解していなかった。

「それでも少しは興味のある素振りをしていてください。上に立つ者として、下の者を見守るのもまた役目ですよ」

 深いため息が溢れそうなのを堪え、会議の邪魔にならないように小声でファリスを諌めるも、肝心の彼女はきょとんとしていて全くそういう事に対する自覚はなかった。
 彼女にとって下の者というのは足元の雑草と同義だった。部下というものを持った事がないファリスに今の説明は理解出来ない類のものであり……それを知らなかったルォーグは心の中に更なるもやもやを溜め込む事になるのだった。
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