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668・手に入れた平穏
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アルファスで静かに過ごしていた私は女王陛下に呼ばれる事となった。なんでもダークエルフ族との戦いを終幕させるきっかけを作った功績に応じた褒賞を与えたいのだとか。
あまり気を遣わなくていいのに……とも思うが、王族の末端に名を連ねる者として断る訳にもいかない。という訳で、私は雪風とファリスを連れて中央都市リティアへと向かう事にした。
ジュールも行きたがっていけれど、陛下直々の手紙にはファリスを連れてくるように書かれていたから諦めてもらった。今はまだ戦争が終わった直後。いつダークエルフ族がまた争いを起こすかわからない以上、戦力を大きく割くわけにはいかない。お母様の判断だった。
ファリスの方もオーク族の男性と狐人族の女性を連れているようだし、余計にね。
――
「いつ来てもここは広くて大きいですね」
中央都市リティアの入り口付近で鳥車から降りた狐人族のククオルは行き交う人々を眺めて感心していた。
「……いつ来ても慣れないな」
「オルドさんもこれからは慣れた方がいいですよ。ファリス様の護衛なんですから」
「わかっている」
ぶすっとした顔のオーク族のオルドがククオルに嗜められて余計に眉をひそめていた。緊張しているのもあるだろうが、元々こういう人混みが得意ではないのかもしれない。
「二人とも、ティアちゃ――エールティア様がいるんだからあまりはしゃぎ過ぎないでね」
一番驚いたのは彼らいる時のファリスの態度だ。凛としていて澄まし顔な彼女なんて見たことがない。雪風も驚きに顔が固まったくらいに意外だった。私が知っている彼女は甘えたがりで、昔のジュールよりはかなりマシとはいえ、私と一緒にいることを第一に考えているような子だった。他人に興味がなく無愛想な態度を取っていた頃を知っているだけに、余計に今の姿が信じられなかった。
「……どうにも慣れませんね」
「そ、そうね」
雪風がこそっと耳打ちしてくれる事に僅かに頷いた。彼女もファリスの態度に違和感があるのだろう。ぎこちない様子でファリスとオルド達を見つめていた。
「二人ともどうしたの?」
そんな私達の気持ちを知ってか知らずか普段よりしっかりしているファリスは首を傾げていた。
「いいえ。女王陛下自らの呼び出しだから盛大なお祝いになると思ってね。雪風が今から少し緊張してきたって」
とりあえず妥当そうな答えを言っておこう。どうせ雪風も普段より動きがぎこちないから間違いではないしね。鬼人族だけあって戦いに慣れてはいてもこういう事には慣れていないのだろう。今からこれではいざパレードなんかあったら石像になってしまうのでないだろうか?
「こ、こほん、僕は至って平常です」
おまけにわざとらしく咳をしていたりとかね。
「仕方ないでしょう。我らは本来、このような祝い事とは無関係。慣れているのは御二方くらいです」
「私達が褒賞を貰うわけじゃないのですから気を楽にすればいいですよ」
オルドに賛同してもらい、ククオルにアドバイスをもらったおかげか、多少落ち着きを取り戻した。
「わたし、別に慣れている訳じゃないんだけど」
ファリスの抗議も今の彼らには届いておらず、ちょっとぶすっとした顔も可愛らしいなと思いながら傍観に徹する事にした。せっかく仲良くやっているんだしね。
「そういえばなんでリティアの入り口で降りたんですか? どうせなら城の中まで行けばよかったのでは?」
率直な疑問を向けてくれるククオル。こういう正直な質問は嫌いじゃない。
「簡単な事よ。やっぱり久しぶりのリティアだから見ていきたいのよね。貴方達もよく見ていきなさいな。これが私達が戦って得られた成果。取り戻した日常なのだから」
せっかくリティアに来たのだ。不安を取り除かれたみんなの姿をもっとよく見ていたい。そう思うのも不思議ではないだろう。問題としては私もファリスも有名になりすぎているからフードで顔を隠さないといけない事くらいかな。
「ティアちゃんってそういうの好きだよね。人の営みって言うか、生活している姿見るの」
「そう……かもね」
ファリスの言葉に私は何となく自分がなんでこんな事をしたのか悟った。前世では私はずっと一人だった。死ぬ前にようやく理解者が一人現れてくれたけど……それも敵対者で、結局戦うしかなかった。私が損して他人が得をするだけの関係。それが私の全てで、薄汚い世界を生きてきた。だからこんな風に日の当たる明るい場所で生きている人達に憧れていたのだろう。
「誰もが笑顔で過ごしている。そんな姿を見て私も同じように楽しく生きていたい……そう思うのも悪くないでしょう」
「……そうですね。私達が命がけで守った彼らの笑顔。それをこうして見ると胸の奥が暖かくなります」
いち早く反応してくれたのはオルドだった。その巨体に似合わない言葉選びに意外性を感じながらも、共感してくれた事に素直に嬉しかった。
「ならもっとよく見て回りましょう。それくらいの時間はあるよね?」
ファリスがここぞとばかりにした提案に同意した私達はそれから少しの間だけ町を見て回った。改めて手に入れた平穏を何度も噛み締めるように。
あまり気を遣わなくていいのに……とも思うが、王族の末端に名を連ねる者として断る訳にもいかない。という訳で、私は雪風とファリスを連れて中央都市リティアへと向かう事にした。
ジュールも行きたがっていけれど、陛下直々の手紙にはファリスを連れてくるように書かれていたから諦めてもらった。今はまだ戦争が終わった直後。いつダークエルフ族がまた争いを起こすかわからない以上、戦力を大きく割くわけにはいかない。お母様の判断だった。
ファリスの方もオーク族の男性と狐人族の女性を連れているようだし、余計にね。
――
「いつ来てもここは広くて大きいですね」
中央都市リティアの入り口付近で鳥車から降りた狐人族のククオルは行き交う人々を眺めて感心していた。
「……いつ来ても慣れないな」
「オルドさんもこれからは慣れた方がいいですよ。ファリス様の護衛なんですから」
「わかっている」
ぶすっとした顔のオーク族のオルドがククオルに嗜められて余計に眉をひそめていた。緊張しているのもあるだろうが、元々こういう人混みが得意ではないのかもしれない。
「二人とも、ティアちゃ――エールティア様がいるんだからあまりはしゃぎ過ぎないでね」
一番驚いたのは彼らいる時のファリスの態度だ。凛としていて澄まし顔な彼女なんて見たことがない。雪風も驚きに顔が固まったくらいに意外だった。私が知っている彼女は甘えたがりで、昔のジュールよりはかなりマシとはいえ、私と一緒にいることを第一に考えているような子だった。他人に興味がなく無愛想な態度を取っていた頃を知っているだけに、余計に今の姿が信じられなかった。
「……どうにも慣れませんね」
「そ、そうね」
雪風がこそっと耳打ちしてくれる事に僅かに頷いた。彼女もファリスの態度に違和感があるのだろう。ぎこちない様子でファリスとオルド達を見つめていた。
「二人ともどうしたの?」
そんな私達の気持ちを知ってか知らずか普段よりしっかりしているファリスは首を傾げていた。
「いいえ。女王陛下自らの呼び出しだから盛大なお祝いになると思ってね。雪風が今から少し緊張してきたって」
とりあえず妥当そうな答えを言っておこう。どうせ雪風も普段より動きがぎこちないから間違いではないしね。鬼人族だけあって戦いに慣れてはいてもこういう事には慣れていないのだろう。今からこれではいざパレードなんかあったら石像になってしまうのでないだろうか?
「こ、こほん、僕は至って平常です」
おまけにわざとらしく咳をしていたりとかね。
「仕方ないでしょう。我らは本来、このような祝い事とは無関係。慣れているのは御二方くらいです」
「私達が褒賞を貰うわけじゃないのですから気を楽にすればいいですよ」
オルドに賛同してもらい、ククオルにアドバイスをもらったおかげか、多少落ち着きを取り戻した。
「わたし、別に慣れている訳じゃないんだけど」
ファリスの抗議も今の彼らには届いておらず、ちょっとぶすっとした顔も可愛らしいなと思いながら傍観に徹する事にした。せっかく仲良くやっているんだしね。
「そういえばなんでリティアの入り口で降りたんですか? どうせなら城の中まで行けばよかったのでは?」
率直な疑問を向けてくれるククオル。こういう正直な質問は嫌いじゃない。
「簡単な事よ。やっぱり久しぶりのリティアだから見ていきたいのよね。貴方達もよく見ていきなさいな。これが私達が戦って得られた成果。取り戻した日常なのだから」
せっかくリティアに来たのだ。不安を取り除かれたみんなの姿をもっとよく見ていたい。そう思うのも不思議ではないだろう。問題としては私もファリスも有名になりすぎているからフードで顔を隠さないといけない事くらいかな。
「ティアちゃんってそういうの好きだよね。人の営みって言うか、生活している姿見るの」
「そう……かもね」
ファリスの言葉に私は何となく自分がなんでこんな事をしたのか悟った。前世では私はずっと一人だった。死ぬ前にようやく理解者が一人現れてくれたけど……それも敵対者で、結局戦うしかなかった。私が損して他人が得をするだけの関係。それが私の全てで、薄汚い世界を生きてきた。だからこんな風に日の当たる明るい場所で生きている人達に憧れていたのだろう。
「誰もが笑顔で過ごしている。そんな姿を見て私も同じように楽しく生きていたい……そう思うのも悪くないでしょう」
「……そうですね。私達が命がけで守った彼らの笑顔。それをこうして見ると胸の奥が暖かくなります」
いち早く反応してくれたのはオルドだった。その巨体に似合わない言葉選びに意外性を感じながらも、共感してくれた事に素直に嬉しかった。
「ならもっとよく見て回りましょう。それくらいの時間はあるよね?」
ファリスがここぞとばかりにした提案に同意した私達はそれから少しの間だけ町を見て回った。改めて手に入れた平穏を何度も噛み締めるように。
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