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第3話 極寒の地で死を覚悟した瞬間
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深い、深い闇の底に沈んでいくようだった。
手足の感覚はなく、思考すらも凍りついていく。
ああ、これが死ぬということなのか。
意外と苦しくはない。ただ、静かで、冷たくて、すべての責任から解放される安らぎだけがある。
走馬灯のように、これまでの人生が駆け巡った。
物心ついた時から、私は「聖女」として育てられた。
遊びたい盛りの子供時代も、恋に憧れる少女時代も、すべてを祈りと魔力の修練に捧げてきた。
『エルナ、お前は国のために生きるのだ』
父である公爵の厳格な声。
『エルナ様、もう少し効率よく魔力を抽出できませんか?』
神官たちの要求するような視線。
『エルナ、君はつまらないな』
カイル殿下の飽き飽きした顔。
私の人生は、誰かの期待に応えるためだけのものだった。
そこに「私」という個人の意志は存在しなかった。
だからこそ、婚約破棄され、国を追放された時、私は絶望よりも先に安堵を感じてしまったのだと思う。
ようやく終わる。
聖女という名の呪縛から、やっと逃れられるのだと。
雪の中で、あの巨大な狼の牙を見た瞬間、私は死を覚悟した。
恐怖はあったけれど、どこかで「これでいい」と受け入れている自分もいた。
誰にも愛されず、誰にも必要とされず、極寒の地でひっそりと命を終える。
物語の結末としてはバッドエンドかもしれないけれど、脇役の末路としてはお似合いだわ――。
そう思っていたはずなのに。
「……かい」
ふと、感覚が戻ってきた。
死後の世界にしては、妙に身体が重い。
それに、なんだか……温かい。
「……温かい?」
私はゆっくりと意識を浮上させた。
凍りついたはずの手足に、血が通う感覚がある。
ジンジンとした痺れと、柔らかな何かに包まれている感触。
頬を撫でる空気が、あの刃物のような冷気ではなく、穏やかな室温を保っている。
瞼が重い。糊付けされたように開かない。
でも、どこからかパチパチという音が聞こえる。薪が爆ぜる音だ。
それに、微かに香る、清潔なリネンの匂いと、ハーブのような薬草の香り。
(ここは……どこ?)
私は死んだのではなかったの?
それとも、天国には暖炉があるというのかしら。
もしここが地獄なら、もっと業火に焼かれるような熱さのはずだ。
「……っ」
喉が渇いていて、小さな呻き声しか出なかった。
すると、すぐに人の気配が近づいてきた。
衣擦れの音。そして、遠慮がちな声。
「……お目覚めですか?」
女性の声だった。
私は力を振り絞って、重たい瞼を持ち上げた。
ぼんやりとした視界に映ったのは、高い天井だった。
王宮のような華美な装飾はないけれど、重厚な黒檀の梁が通った、歴史を感じさせる石造りの天井だ。
シャンデリアの代わりに、魔石を埋め込んだランプが淡い光を放っている。
視線を横に向けると、ベッドサイドに一人の女性が立っていた。
白髪交じりの髪をひっつめ髪にした、初老の女性だ。
黒いワンピースに白いエプロン。整えられた服装は、使用人のものだ。
彼女は心配そうに私を覗き込み、私の目が開いたのを見て、ほっとしたように息を吐いた。
「よかった……。三日間も眠り続けておられたので、もう目覚めないのではないかと心配しておりました」
「みっか……かん?」
ガサガサの声が出た。
女性はすぐに察して、水差しからコップに水を注ぎ、私の唇に当ててくれた。
冷たい水が喉を潤すと、身体の細胞が歓喜の声を上げるのがわかった。
「ありがとうございます……」
ようやくまともな声が出て、私は礼を言った。
女性は少し驚いたように目を丸くした後、優しげに微笑んだ。
「お礼など、滅相もございません。ご気分はいかがですか? まだ手足に痺れは残っていますか?」
「いえ、少し重いですが……感覚はあります。あの、ここは……?」
私は上体を起こそうとしたが、背中に力が入らず、すぐに枕に沈み込んだ。
ベッドは天蓋付きの大きなもので、布団は羽毛のように軽くて温かかった。
部屋の中を見回すと、壁にはタペストリーが飾られ、床には厚手の絨毯が敷かれている。
家具はどれも黒や濃紺を基調としたシックなもので統一されており、質実剛健といった雰囲気だ。
少なくとも、罪人を収容する牢獄ではない。
「ここは、アイスバーン公爵城でございます」
女性の言葉に、私の心臓がドクリと跳ねた。
アイスバーン公爵城。
北の果て、ノースエンドを統べる「呪われ公爵」の居城。
王都の貴族たちが、「あそこは魔窟だ」「生きて帰ってきた者はいない」と噂していた場所だ。
「公爵、城……」
記憶が蘇る。
吹雪の中、私を助けてくれた、あの黒衣の男性。
氷の魔獣を一瞬で凍らせた圧倒的な力。
そして、死神のように美しく、冷たい瞳。
「……私を、助けてくださったのは……」
「はい、旦那様です。レオンハルト様が、吹雪の中で倒れていた貴女様を見つけ、ここまで運んで来られたのです」
女性――どうやらメイド長のようだ――は、畏敬の念を込めて言った。
「正直、驚きました。旦那様が人間の女性を、それも生きたまま城に連れ帰られるなんて、初めてのことでしたから」
「初めて、ですか?」
「ええ。この辺りは魔獣の領域ですし、何より旦那様の……その、体質のこともありますので。普通の方は、旦那様に近づくだけで……」
彼女は言葉を濁したが、その意味は痛いほど分かった。
あの噂は本当だったのだ。
近づく者すべてを凍らせる、氷の呪い。
「貴女様が無事で、本当によかった。運ばれてきた時は、全身が氷のように冷たくて、髪も霜で真っ白で……。医師も匙を投げかけたのですが、旦那様が『なんとしても救え』と」
彼が、私を?
王太子殿下からは「死んでこい」と送り出され、護衛の騎士たちには雪原に捨てられた私を、あの恐ろしいと噂される公爵が助けようとした?
なぜだろう。見ず知らずの、しかも不審な行き倒れなんて、放っておけばよかったのに。
「……私の荷物は、どうなりましたか?」
「ああ、あのトランクですね。中身は無事でしたよ。お洋服が濡れてしまっていたので、洗濯して乾かしてあります。今は、貴女様のために用意したこの部屋のクローゼットに」
「あ、ありがとうございます……」
私は自分の身なりを確認した。
着ていた薄手のドレスではなく、肌触りの良いシルクのネグリジェに着替えさせられている。
誰が着替えさせてくれたのかと考えると少し恥ずかしかったが、目の前のメイド長がやってくれたのだろうと思うことにした。
「あの……私は、エルナと申します。元……いえ、ただのエルナです」
聖女の称号は剥奪された。
公爵令嬢としての身分も、勘当同然で失った。
今の私は、ただのエルナだ。
「エルナ様ですね。私はマーサと申します。この城でメイド長をしております。何か御用があれば、何なりとお申し付けください」
マーサさんは恭しく頭を下げた。
その態度には、罪人や追放者に対する蔑みは微塵も感じられなかった。
王城での使用人たちの方が、よほど私を冷たい目で見ていたくらいだ。
「マーサさん、あの……レオンハルト様にお礼を申し上げたいのですが」
「旦那様ですね。今は執務中ですが、エルナ様が目覚めたと知れば、すぐにいらっしゃると思います。使いを出しましょう」
「いえ、そんな! 公爵様のお仕事を邪魔するわけには……」
私が慌てて止めようとした時だった。
カツ、カツ、カツ……。
廊下から、重く、規則正しい足音が近づいてくるのが聞こえた。
軍靴の音だ。
その音が近づくにつれて、部屋の空気がサァッと冷えていくのを感じた。
先ほどまで快適だった室温が急激に下がり、窓ガラスに白い霜の結晶が走り始める。
暖炉の火が、見えない圧力に押されるように小さくなった。
マーサさんが、反射的に身を強張らせ、一歩下がって頭を垂れる。
「……旦那様です」
部屋の扉が、音もなく開かれた。
そこには、ノックも従者による案内もなく、一人の男性が立っていた。
黒髪に、蒼い瞳。
記憶の中にある姿そのままだが、室内で見るとその異質さが際立っていた。
彼の周囲だけ、空気が歪んで見えるほどの冷気が漂っている。
床に踏み出した足元から、パキパキと音を立てて氷が広がり、絨毯を白く染めていく。
レオンハルト・アイスバーン公爵。
この世で最も冷たく、そして最も美しい男。
彼は部屋に入ると、無表情のまま私を見据えた。
その視線に射抜かれ、私は息を呑んだ。
怖い、という感情よりも先に、圧倒的な存在感に気圧される。
「……目が覚めたか」
低く、響く声。
それは吹雪の夜に聞いた声と同じだったが、心なしか安堵の色が混じっているように聞こえたのは、私の気のせいだろうか。
「は、はい……。あの、助けていただいて、本当にありがとうございます。なんと、お礼を申し上げればよいか……」
私はベッドの上で居住まいを正し、深々と頭を下げた。
布団を握りしめた手が震えていないことを祈りながら。
彼は何も言わず、ただじっと私を見つめていた。
沈黙が痛い。
もしかして、怒っているのだろうか。
得体の知れない女を拾ってしまい、処分に困っているのかもしれない。
「感謝するならすぐに出て行け」と言われたらどうしよう。
外はまだ冬の嵐が吹き荒れているのだろうか。今放り出されたら、今度こそ確実に死ぬ。
「……礼などいい」
しばらくの沈黙の後、彼は短く言った。
そして、ゆっくりとベッドに近づいてくる。
一歩近づくごとに、冷気が強まる。
マーサさんが寒さに耐えるように肩を震わせているのが見えた。
けれど不思議なことに、私はそれほど寒さを感じなかった。
むしろ、彼の纏う冷気が、私の枯渇した魔力回路を刺激し、心地よい波動となって伝わってくるような……奇妙な感覚だ。
彼はベッドの脇にある椅子に、どかりと腰を下ろした。
至近距離で見ると、その顔立ちは本当に整っていた。
長い睫毛、通った鼻筋、血の気の薄い唇。
まるで最高級のビスクドールのようだが、その瞳の奥には、人を寄せ付けない鋭い光がある。
「貴様の名は?」
「エルナ……エルナ・フォレスティです」
家名を名乗るべきか迷ったが、どうせすぐに身元は割れるだろうと思い、正直に答えた。
「フォレスティ……。王都の、公爵家か」
彼は少し眉をひそめた。
「王都の貴族令嬢が、なぜあんな場所にいた? 護衛も馬車もなく、たった一人で。自殺志願者か?」
「……いえ。その、捨てられまして」
「捨てられた?」
「はい。婚約破棄をされまして……国外追放の処分を受け、ここまで護送されたのですが、騎士の方々が怖気づいてしまって……途中で降ろされたのです」
私は努めて淡々と事情を説明した。
同情を引こうとは思わなかった。ただの事実として伝えたかった。
「なるほど。あのカイル王子の婚約者だった、『聖女』か」
彼は私のことを知っていたようだ。
まあ、聖女と王太子の婚約は国中が知る話だ。そして、その破棄も、今頃はゴシップとして広まっているに違いない。
「はい。……今はもう、聖女ではありませんが」
「ふん。愚かなことだ」
彼は鼻で笑った。
それが私に向けられた嘲笑なのか、王子に向けられたものなのかは分からなかった。
「だが、合点がいった。貴様があの吹雪の中で生きていた理由が」
彼は手を伸ばしてきた。
黒い革手袋に包まれた手が、私の顔に近づく。
私はビクリと身を引こうとしたが、なぜか身体が動かなかった。
恐怖で竦んだのではない。
本能が、彼を受け入れようとしていたのだ。
彼の手が、私の頬に触れようとして――寸前で止まった。
「……普通なら、私の半径五メートル以内に入った人間は、寒さで震え上がり、意識を失う」
彼は静かに語り出した。
「この城の使用人たちも、特注の魔道具で耐寒結界を張ってようやく動いている状態だ。それでも、私に直接触れることはできない。触れれば、その箇所から壊死するほどの凍傷を負うからな」
マーサさんが小さく頷いているのが見えた。
彼女がエプロンのポケットに入れている小さな石が、微かに光っている。あれが魔道具なのだろう。
「だが、貴様は違う」
彼の蒼い瞳が、探るように私を見つめる。
「雪原で貴様を抱き上げた時、貴様は凍りつかなかった。それどころか……」
彼は言い淀み、意を決したように手袋を外した。
現れたのは、白く、形の良い素手だった。
その指先からは、目に見えるほどの冷気が立ち上っている。
「……試させてもらうぞ」
断りを入れてから、彼はその素手で、私の頬に触れた。
ヒヤリとした感触。
氷を押し当てられたような冷たさだ。
けれど、痛みはない。
むしろ、熱を持っていた私の頬には、その冷たさが心地よかった。
そして――驚くべきことが起こった。
彼の指先から立ち上っていた冷気が、私に触れた箇所からスッと消えていく。
それだけではない。
彼の肌を覆っていた、薄い氷の膜のようなものが溶け出し、水滴となって落ちたのだ。
「……やはり、か」
彼は目を見開いた。
その瞳に、初めて明確な感情の色が浮かんだ。
驚愕。そして、歓喜に近い揺らぎ。
「温かい……」
彼が呟いた。
その声は震えていた。
「貴様に触れると、私の氷が溶ける。……こんなことは、生まれて初めてだ」
彼は信じられないというように、私の頬を、額を、そして首筋を、指先で確かめるように撫でた。
そのたびに、彼の手から冷気が失せ、人の体温に近い温もりが生まれていく。
私は、されるがままになっていた。
彼の指の動きが、あまりにも切実で、何かに縋るような手つきだったからだ。
「呪われ公爵」として恐れられ、誰にも触れることの許されなかった孤独。
その深淵を垣間見た気がした。
「エルナ」
彼は私の名前を呼んだ。
先ほどまでの冷徹な響きとは違う、熱を帯びた声で。
「貴様……いや、君は、何をした? どんな魔法を使った?」
「な、何もしていません。私の魔力は空っぽで、魔法なんて使える状態ではありませんし……」
「無意識だと言うのか? ……だとしたら、尚更興味深い」
彼は口元を歪めた。
それは、獲物を見つけた猛獣のようでもあり、宝物を見つけた子供のようでもあった。
「いいだろう、エルナ・フォレスティ。君をこの城に迎え入れる」
「え……?」
「君は追放された身だ。帰る場所などないのだろう? ならば、ここにいろ。私の側に」
それは提案ではなく、命令に近い響きだった。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
王太子殿下からの命令には、いつも私の犠牲が伴っていた。
でも、彼の言葉には、私を必要とする純粋な響きがあったから。
「……私で、よろしければ」
「君でなくては駄目なんだ」
彼は強い口調で言った。
「君は私の『光』になるかもしれない。……この忌々しい呪いを解く、唯一の鍵に」
彼は私の手を握りしめた。
その手は、もう冷たくはなかった。
私の体温と、彼の体温が混ざり合い、じんわりとした温もりが二人を包み込んでいく。
こうして私は、極寒の地で死を覚悟した直後に、世界で一番温かい場所を見つけてしまったのだった。
ただ、この時の私はまだ知らなかった。
彼が私に向けた「興味」が、やがてとてつもなく重く、甘い「溺愛」へと変わっていくことを。
そして、この城での生活が、王宮とは比べ物にならないほど快適で、堕落したスローライフの始まりであることを。
(第3話 完)
手足の感覚はなく、思考すらも凍りついていく。
ああ、これが死ぬということなのか。
意外と苦しくはない。ただ、静かで、冷たくて、すべての責任から解放される安らぎだけがある。
走馬灯のように、これまでの人生が駆け巡った。
物心ついた時から、私は「聖女」として育てられた。
遊びたい盛りの子供時代も、恋に憧れる少女時代も、すべてを祈りと魔力の修練に捧げてきた。
『エルナ、お前は国のために生きるのだ』
父である公爵の厳格な声。
『エルナ様、もう少し効率よく魔力を抽出できませんか?』
神官たちの要求するような視線。
『エルナ、君はつまらないな』
カイル殿下の飽き飽きした顔。
私の人生は、誰かの期待に応えるためだけのものだった。
そこに「私」という個人の意志は存在しなかった。
だからこそ、婚約破棄され、国を追放された時、私は絶望よりも先に安堵を感じてしまったのだと思う。
ようやく終わる。
聖女という名の呪縛から、やっと逃れられるのだと。
雪の中で、あの巨大な狼の牙を見た瞬間、私は死を覚悟した。
恐怖はあったけれど、どこかで「これでいい」と受け入れている自分もいた。
誰にも愛されず、誰にも必要とされず、極寒の地でひっそりと命を終える。
物語の結末としてはバッドエンドかもしれないけれど、脇役の末路としてはお似合いだわ――。
そう思っていたはずなのに。
「……かい」
ふと、感覚が戻ってきた。
死後の世界にしては、妙に身体が重い。
それに、なんだか……温かい。
「……温かい?」
私はゆっくりと意識を浮上させた。
凍りついたはずの手足に、血が通う感覚がある。
ジンジンとした痺れと、柔らかな何かに包まれている感触。
頬を撫でる空気が、あの刃物のような冷気ではなく、穏やかな室温を保っている。
瞼が重い。糊付けされたように開かない。
でも、どこからかパチパチという音が聞こえる。薪が爆ぜる音だ。
それに、微かに香る、清潔なリネンの匂いと、ハーブのような薬草の香り。
(ここは……どこ?)
私は死んだのではなかったの?
それとも、天国には暖炉があるというのかしら。
もしここが地獄なら、もっと業火に焼かれるような熱さのはずだ。
「……っ」
喉が渇いていて、小さな呻き声しか出なかった。
すると、すぐに人の気配が近づいてきた。
衣擦れの音。そして、遠慮がちな声。
「……お目覚めですか?」
女性の声だった。
私は力を振り絞って、重たい瞼を持ち上げた。
ぼんやりとした視界に映ったのは、高い天井だった。
王宮のような華美な装飾はないけれど、重厚な黒檀の梁が通った、歴史を感じさせる石造りの天井だ。
シャンデリアの代わりに、魔石を埋め込んだランプが淡い光を放っている。
視線を横に向けると、ベッドサイドに一人の女性が立っていた。
白髪交じりの髪をひっつめ髪にした、初老の女性だ。
黒いワンピースに白いエプロン。整えられた服装は、使用人のものだ。
彼女は心配そうに私を覗き込み、私の目が開いたのを見て、ほっとしたように息を吐いた。
「よかった……。三日間も眠り続けておられたので、もう目覚めないのではないかと心配しておりました」
「みっか……かん?」
ガサガサの声が出た。
女性はすぐに察して、水差しからコップに水を注ぎ、私の唇に当ててくれた。
冷たい水が喉を潤すと、身体の細胞が歓喜の声を上げるのがわかった。
「ありがとうございます……」
ようやくまともな声が出て、私は礼を言った。
女性は少し驚いたように目を丸くした後、優しげに微笑んだ。
「お礼など、滅相もございません。ご気分はいかがですか? まだ手足に痺れは残っていますか?」
「いえ、少し重いですが……感覚はあります。あの、ここは……?」
私は上体を起こそうとしたが、背中に力が入らず、すぐに枕に沈み込んだ。
ベッドは天蓋付きの大きなもので、布団は羽毛のように軽くて温かかった。
部屋の中を見回すと、壁にはタペストリーが飾られ、床には厚手の絨毯が敷かれている。
家具はどれも黒や濃紺を基調としたシックなもので統一されており、質実剛健といった雰囲気だ。
少なくとも、罪人を収容する牢獄ではない。
「ここは、アイスバーン公爵城でございます」
女性の言葉に、私の心臓がドクリと跳ねた。
アイスバーン公爵城。
北の果て、ノースエンドを統べる「呪われ公爵」の居城。
王都の貴族たちが、「あそこは魔窟だ」「生きて帰ってきた者はいない」と噂していた場所だ。
「公爵、城……」
記憶が蘇る。
吹雪の中、私を助けてくれた、あの黒衣の男性。
氷の魔獣を一瞬で凍らせた圧倒的な力。
そして、死神のように美しく、冷たい瞳。
「……私を、助けてくださったのは……」
「はい、旦那様です。レオンハルト様が、吹雪の中で倒れていた貴女様を見つけ、ここまで運んで来られたのです」
女性――どうやらメイド長のようだ――は、畏敬の念を込めて言った。
「正直、驚きました。旦那様が人間の女性を、それも生きたまま城に連れ帰られるなんて、初めてのことでしたから」
「初めて、ですか?」
「ええ。この辺りは魔獣の領域ですし、何より旦那様の……その、体質のこともありますので。普通の方は、旦那様に近づくだけで……」
彼女は言葉を濁したが、その意味は痛いほど分かった。
あの噂は本当だったのだ。
近づく者すべてを凍らせる、氷の呪い。
「貴女様が無事で、本当によかった。運ばれてきた時は、全身が氷のように冷たくて、髪も霜で真っ白で……。医師も匙を投げかけたのですが、旦那様が『なんとしても救え』と」
彼が、私を?
王太子殿下からは「死んでこい」と送り出され、護衛の騎士たちには雪原に捨てられた私を、あの恐ろしいと噂される公爵が助けようとした?
なぜだろう。見ず知らずの、しかも不審な行き倒れなんて、放っておけばよかったのに。
「……私の荷物は、どうなりましたか?」
「ああ、あのトランクですね。中身は無事でしたよ。お洋服が濡れてしまっていたので、洗濯して乾かしてあります。今は、貴女様のために用意したこの部屋のクローゼットに」
「あ、ありがとうございます……」
私は自分の身なりを確認した。
着ていた薄手のドレスではなく、肌触りの良いシルクのネグリジェに着替えさせられている。
誰が着替えさせてくれたのかと考えると少し恥ずかしかったが、目の前のメイド長がやってくれたのだろうと思うことにした。
「あの……私は、エルナと申します。元……いえ、ただのエルナです」
聖女の称号は剥奪された。
公爵令嬢としての身分も、勘当同然で失った。
今の私は、ただのエルナだ。
「エルナ様ですね。私はマーサと申します。この城でメイド長をしております。何か御用があれば、何なりとお申し付けください」
マーサさんは恭しく頭を下げた。
その態度には、罪人や追放者に対する蔑みは微塵も感じられなかった。
王城での使用人たちの方が、よほど私を冷たい目で見ていたくらいだ。
「マーサさん、あの……レオンハルト様にお礼を申し上げたいのですが」
「旦那様ですね。今は執務中ですが、エルナ様が目覚めたと知れば、すぐにいらっしゃると思います。使いを出しましょう」
「いえ、そんな! 公爵様のお仕事を邪魔するわけには……」
私が慌てて止めようとした時だった。
カツ、カツ、カツ……。
廊下から、重く、規則正しい足音が近づいてくるのが聞こえた。
軍靴の音だ。
その音が近づくにつれて、部屋の空気がサァッと冷えていくのを感じた。
先ほどまで快適だった室温が急激に下がり、窓ガラスに白い霜の結晶が走り始める。
暖炉の火が、見えない圧力に押されるように小さくなった。
マーサさんが、反射的に身を強張らせ、一歩下がって頭を垂れる。
「……旦那様です」
部屋の扉が、音もなく開かれた。
そこには、ノックも従者による案内もなく、一人の男性が立っていた。
黒髪に、蒼い瞳。
記憶の中にある姿そのままだが、室内で見るとその異質さが際立っていた。
彼の周囲だけ、空気が歪んで見えるほどの冷気が漂っている。
床に踏み出した足元から、パキパキと音を立てて氷が広がり、絨毯を白く染めていく。
レオンハルト・アイスバーン公爵。
この世で最も冷たく、そして最も美しい男。
彼は部屋に入ると、無表情のまま私を見据えた。
その視線に射抜かれ、私は息を呑んだ。
怖い、という感情よりも先に、圧倒的な存在感に気圧される。
「……目が覚めたか」
低く、響く声。
それは吹雪の夜に聞いた声と同じだったが、心なしか安堵の色が混じっているように聞こえたのは、私の気のせいだろうか。
「は、はい……。あの、助けていただいて、本当にありがとうございます。なんと、お礼を申し上げればよいか……」
私はベッドの上で居住まいを正し、深々と頭を下げた。
布団を握りしめた手が震えていないことを祈りながら。
彼は何も言わず、ただじっと私を見つめていた。
沈黙が痛い。
もしかして、怒っているのだろうか。
得体の知れない女を拾ってしまい、処分に困っているのかもしれない。
「感謝するならすぐに出て行け」と言われたらどうしよう。
外はまだ冬の嵐が吹き荒れているのだろうか。今放り出されたら、今度こそ確実に死ぬ。
「……礼などいい」
しばらくの沈黙の後、彼は短く言った。
そして、ゆっくりとベッドに近づいてくる。
一歩近づくごとに、冷気が強まる。
マーサさんが寒さに耐えるように肩を震わせているのが見えた。
けれど不思議なことに、私はそれほど寒さを感じなかった。
むしろ、彼の纏う冷気が、私の枯渇した魔力回路を刺激し、心地よい波動となって伝わってくるような……奇妙な感覚だ。
彼はベッドの脇にある椅子に、どかりと腰を下ろした。
至近距離で見ると、その顔立ちは本当に整っていた。
長い睫毛、通った鼻筋、血の気の薄い唇。
まるで最高級のビスクドールのようだが、その瞳の奥には、人を寄せ付けない鋭い光がある。
「貴様の名は?」
「エルナ……エルナ・フォレスティです」
家名を名乗るべきか迷ったが、どうせすぐに身元は割れるだろうと思い、正直に答えた。
「フォレスティ……。王都の、公爵家か」
彼は少し眉をひそめた。
「王都の貴族令嬢が、なぜあんな場所にいた? 護衛も馬車もなく、たった一人で。自殺志願者か?」
「……いえ。その、捨てられまして」
「捨てられた?」
「はい。婚約破棄をされまして……国外追放の処分を受け、ここまで護送されたのですが、騎士の方々が怖気づいてしまって……途中で降ろされたのです」
私は努めて淡々と事情を説明した。
同情を引こうとは思わなかった。ただの事実として伝えたかった。
「なるほど。あのカイル王子の婚約者だった、『聖女』か」
彼は私のことを知っていたようだ。
まあ、聖女と王太子の婚約は国中が知る話だ。そして、その破棄も、今頃はゴシップとして広まっているに違いない。
「はい。……今はもう、聖女ではありませんが」
「ふん。愚かなことだ」
彼は鼻で笑った。
それが私に向けられた嘲笑なのか、王子に向けられたものなのかは分からなかった。
「だが、合点がいった。貴様があの吹雪の中で生きていた理由が」
彼は手を伸ばしてきた。
黒い革手袋に包まれた手が、私の顔に近づく。
私はビクリと身を引こうとしたが、なぜか身体が動かなかった。
恐怖で竦んだのではない。
本能が、彼を受け入れようとしていたのだ。
彼の手が、私の頬に触れようとして――寸前で止まった。
「……普通なら、私の半径五メートル以内に入った人間は、寒さで震え上がり、意識を失う」
彼は静かに語り出した。
「この城の使用人たちも、特注の魔道具で耐寒結界を張ってようやく動いている状態だ。それでも、私に直接触れることはできない。触れれば、その箇所から壊死するほどの凍傷を負うからな」
マーサさんが小さく頷いているのが見えた。
彼女がエプロンのポケットに入れている小さな石が、微かに光っている。あれが魔道具なのだろう。
「だが、貴様は違う」
彼の蒼い瞳が、探るように私を見つめる。
「雪原で貴様を抱き上げた時、貴様は凍りつかなかった。それどころか……」
彼は言い淀み、意を決したように手袋を外した。
現れたのは、白く、形の良い素手だった。
その指先からは、目に見えるほどの冷気が立ち上っている。
「……試させてもらうぞ」
断りを入れてから、彼はその素手で、私の頬に触れた。
ヒヤリとした感触。
氷を押し当てられたような冷たさだ。
けれど、痛みはない。
むしろ、熱を持っていた私の頬には、その冷たさが心地よかった。
そして――驚くべきことが起こった。
彼の指先から立ち上っていた冷気が、私に触れた箇所からスッと消えていく。
それだけではない。
彼の肌を覆っていた、薄い氷の膜のようなものが溶け出し、水滴となって落ちたのだ。
「……やはり、か」
彼は目を見開いた。
その瞳に、初めて明確な感情の色が浮かんだ。
驚愕。そして、歓喜に近い揺らぎ。
「温かい……」
彼が呟いた。
その声は震えていた。
「貴様に触れると、私の氷が溶ける。……こんなことは、生まれて初めてだ」
彼は信じられないというように、私の頬を、額を、そして首筋を、指先で確かめるように撫でた。
そのたびに、彼の手から冷気が失せ、人の体温に近い温もりが生まれていく。
私は、されるがままになっていた。
彼の指の動きが、あまりにも切実で、何かに縋るような手つきだったからだ。
「呪われ公爵」として恐れられ、誰にも触れることの許されなかった孤独。
その深淵を垣間見た気がした。
「エルナ」
彼は私の名前を呼んだ。
先ほどまでの冷徹な響きとは違う、熱を帯びた声で。
「貴様……いや、君は、何をした? どんな魔法を使った?」
「な、何もしていません。私の魔力は空っぽで、魔法なんて使える状態ではありませんし……」
「無意識だと言うのか? ……だとしたら、尚更興味深い」
彼は口元を歪めた。
それは、獲物を見つけた猛獣のようでもあり、宝物を見つけた子供のようでもあった。
「いいだろう、エルナ・フォレスティ。君をこの城に迎え入れる」
「え……?」
「君は追放された身だ。帰る場所などないのだろう? ならば、ここにいろ。私の側に」
それは提案ではなく、命令に近い響きだった。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
王太子殿下からの命令には、いつも私の犠牲が伴っていた。
でも、彼の言葉には、私を必要とする純粋な響きがあったから。
「……私で、よろしければ」
「君でなくては駄目なんだ」
彼は強い口調で言った。
「君は私の『光』になるかもしれない。……この忌々しい呪いを解く、唯一の鍵に」
彼は私の手を握りしめた。
その手は、もう冷たくはなかった。
私の体温と、彼の体温が混ざり合い、じんわりとした温もりが二人を包み込んでいく。
こうして私は、極寒の地で死を覚悟した直後に、世界で一番温かい場所を見つけてしまったのだった。
ただ、この時の私はまだ知らなかった。
彼が私に向けた「興味」が、やがてとてつもなく重く、甘い「溺愛」へと変わっていくことを。
そして、この城での生活が、王宮とは比べ物にならないほど快適で、堕落したスローライフの始まりであることを。
(第3話 完)
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