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 私は2枚目の紙を捲るのを止めた。

 先は読まなくても予想がつく。
 何故なら似たような手紙をいくつも、いくつも私は目にしてきているから。


「…………ヒロインシンドローム」

 
 はそう呼んでいる。

 なんらかの切欠によって人がある日突然別人のようになる。あるいは前世の記憶が蘇ったと言い出す。

 多くは夢みがちな思春期の少女たちで、多くは実のところただの空想に囚われてそんな気になっているだけだったり、偶然の積み重なりによるもしかして、という願望込みの思い込み。

 けれど中には本物がいる。

 厄介で危険で、ものすごく面倒な存在。


「私が呼ばれたということは、ということですか?教皇猊下」

 私の問いに、御簾の向こうで微かに笑う気配がした。

「それを見極め本物であればに処理するのが貴女の役目ですよ。ミラリアーナ・クロッフィ」

 司教様の言葉に私は深く頭を下げる。

「失礼いたしました」

 部屋の中には護衛を除いても私、猊下、司教様と三人の人間がいるけれど、口を開き言葉を発するのはいつも私と司教様の二人だけだ。


 私はその昔孤児の浮浪児というやつで教会が運営する孤児院の神父様に拾われた。

 ミラリアーナ・クロッフィという名は孤児院を併設する教会の神父様が着けた名で、クロッフィは神父様のファミリーネームである。

 5才くらいで神父様に拾われて、7才の洗礼式で適性を認められて、教会からとある仕事を斡旋されている。
 12才までは散々お勉強をさせられ、どこにでも潜り込めるようにマナーだのも叩き込まれている。

 おかげで行儀の良い所作というのもお手の物だ。(中身は別として)

 丁寧に手紙を畳んで修道服の懐にしまい、スカートを軽く抓んでお辞儀をする。


「今回の任地はエブローズの魔術学園です。貴女の名はミラリアーナ・フライル子爵令嬢。クライフル公国からの留学生ということになっていますから、このまま任地に向かいなさい」

 私はお辞儀をしたまま僅かに唇を歪めた。

 よりによって学園か――と。



「了解いたしました。すべては主の御心のままに」




 



 



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