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デビュタントの夜。ハリム目線
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社交界においてデビュタントの令嬢たちは白いドレスを着る。
今夜の夜会にも何人かいるようだ。
貴族の令嬢たちはだいたい13、4でデビュタントを向かえる。
上位貴族の令嬢ならその年ですでに婚約者のいる娘も少なくない。
婚約者のいる令嬢は婚約者にエスコートされて、いない令嬢は父親にエスコートされるのが一般的だ。
(……気の毒に)
ただし何事も例外はある。
たとえば令嬢が父親ではなく英雄の兄にエスコートを頼んだ場合など。
緩やかにアップにした薄茶の髪に同じ色の瞳をした令嬢を緊張の面持ちでエスコートしてきた上司兼友人の様子を見守りながら、ハリムは彼らの父親に同情した。
娘のデビュタントのエスコートは父親にとっても特別なものだと聞く。
実際彼らの父親は張り切ってこの日のためのタキシードを新調したのだと話していた。
それなのに。
直前になって「やっぱりお兄様にエスコートしてもらう!」と言い出された父親の心情やいかに。
(あとで挨拶がてら慰めに行くか)
さて、彼らの父親はどこにいるものか。
ーーいた。
広い会場の片隅。
カーテンにくるまるように隠れて悔しげに娘と息子を見つめている筋骨隆々の大男。
(何をしてるんだか)
仮にも一国の公爵位にある人間のやることか。
やはりアソコの家族はどうかしている。
ハリムは呆れ顔で視線を外した。
と、ちょうど一組の親子が会場に入ってくるところだった。
白いドレス。
こちらの令嬢もデビュタントらしい。
同じ白いドレスといえどもそれぞれ形を特徴的に変えたり透明や薄い色味の宝石を縫い付けたりと趣向を凝らすものだが、その令嬢のドレスは良く言えばシンプル、悪く言えば安っぽいなんの飾りもないものだった。
少し赤みのある茶色の髪もまた飾りもなく頭の上で団子に丸められている。
濃い緑の瞳は俯きがちで、瞼に薄く化粧がされていた。
健康的な赤みのある頬は紅を指していないようだ。
小ぶりだがぷっくらとした唇は薄くピンクに染められている。
装いも地味な上に令嬢自体も目立つところはない。
顔はせいぜい中の中。
年の頃は16、7。
デビュタントにしては若くない。
デビュタントの時期がそれほど遅れるのは家に金がないか、病弱だからか、何らかの問題があるか。
それでもハリムの目は彼女に釘図けになった。
彼女の名はリヴ・ローニャ。
17才でローニャ男爵の長女。
領地にすでに結婚している兄が一人。
それがハリムがこの一月に調べあげた彼女のプロフィール。
ハリムの愛しい少女がそこにいた。
心臓はばくばくと脈打ち、目は彼女から一時も離せない。
(……ダンスを)
彼女のダンスの始めては何がなんでも自分が努めたい。
いや、最初から最期まですべて自分が。
シャルロットに、上司兼友人の妹に「最初はお兄様。次はハリム様お願いしますね」と言われているが知ったことか。
気の毒な父親とでも踊っておけばいい。
ギクシャクとハリムは彼女に近づいていく。
「失礼、レディ」
掠れた喉で声をかけると彼女は驚いたように目を見張った。
(……可愛い)
誘え。
誘うんだ。
ダンスに。
私と踊って下さいと。
彼女に見つめられていると思うと頭が真っ白になった。
(可愛い、好きだ。結婚したい!)
そんなことを思っていたからだろう。
「……私と結婚して下さい!」
口から出た言葉は、言うはずのものとは違っていた。
今夜の夜会にも何人かいるようだ。
貴族の令嬢たちはだいたい13、4でデビュタントを向かえる。
上位貴族の令嬢ならその年ですでに婚約者のいる娘も少なくない。
婚約者のいる令嬢は婚約者にエスコートされて、いない令嬢は父親にエスコートされるのが一般的だ。
(……気の毒に)
ただし何事も例外はある。
たとえば令嬢が父親ではなく英雄の兄にエスコートを頼んだ場合など。
緩やかにアップにした薄茶の髪に同じ色の瞳をした令嬢を緊張の面持ちでエスコートしてきた上司兼友人の様子を見守りながら、ハリムは彼らの父親に同情した。
娘のデビュタントのエスコートは父親にとっても特別なものだと聞く。
実際彼らの父親は張り切ってこの日のためのタキシードを新調したのだと話していた。
それなのに。
直前になって「やっぱりお兄様にエスコートしてもらう!」と言い出された父親の心情やいかに。
(あとで挨拶がてら慰めに行くか)
さて、彼らの父親はどこにいるものか。
ーーいた。
広い会場の片隅。
カーテンにくるまるように隠れて悔しげに娘と息子を見つめている筋骨隆々の大男。
(何をしてるんだか)
仮にも一国の公爵位にある人間のやることか。
やはりアソコの家族はどうかしている。
ハリムは呆れ顔で視線を外した。
と、ちょうど一組の親子が会場に入ってくるところだった。
白いドレス。
こちらの令嬢もデビュタントらしい。
同じ白いドレスといえどもそれぞれ形を特徴的に変えたり透明や薄い色味の宝石を縫い付けたりと趣向を凝らすものだが、その令嬢のドレスは良く言えばシンプル、悪く言えば安っぽいなんの飾りもないものだった。
少し赤みのある茶色の髪もまた飾りもなく頭の上で団子に丸められている。
濃い緑の瞳は俯きがちで、瞼に薄く化粧がされていた。
健康的な赤みのある頬は紅を指していないようだ。
小ぶりだがぷっくらとした唇は薄くピンクに染められている。
装いも地味な上に令嬢自体も目立つところはない。
顔はせいぜい中の中。
年の頃は16、7。
デビュタントにしては若くない。
デビュタントの時期がそれほど遅れるのは家に金がないか、病弱だからか、何らかの問題があるか。
それでもハリムの目は彼女に釘図けになった。
彼女の名はリヴ・ローニャ。
17才でローニャ男爵の長女。
領地にすでに結婚している兄が一人。
それがハリムがこの一月に調べあげた彼女のプロフィール。
ハリムの愛しい少女がそこにいた。
心臓はばくばくと脈打ち、目は彼女から一時も離せない。
(……ダンスを)
彼女のダンスの始めては何がなんでも自分が努めたい。
いや、最初から最期まですべて自分が。
シャルロットに、上司兼友人の妹に「最初はお兄様。次はハリム様お願いしますね」と言われているが知ったことか。
気の毒な父親とでも踊っておけばいい。
ギクシャクとハリムは彼女に近づいていく。
「失礼、レディ」
掠れた喉で声をかけると彼女は驚いたように目を見張った。
(……可愛い)
誘え。
誘うんだ。
ダンスに。
私と踊って下さいと。
彼女に見つめられていると思うと頭が真っ白になった。
(可愛い、好きだ。結婚したい!)
そんなことを思っていたからだろう。
「……私と結婚して下さい!」
口から出た言葉は、言うはずのものとは違っていた。
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