婚約なんて致しません!

黒田悠月

文字の大きさ
5 / 12

プロポーズの行方ーー1

しおりを挟む
(……やってしまった)

ダンスに誘うつもりがついプロポーズしてしまった。
しかも即座に断られた!

ハリムは茫然自失で立ち尽くしていた。

リヴはローニャ男爵の背中に隠れてしまっている。
男爵の後ろから顔の半分だけを出して、警戒するように大きな緑の瞳がこちらを見つめていた。

(ああ……パッチリとした目が栗鼠のようだ)

そう思って見つめているとまたいつもの笑顔でヘニャッと笑った。

(これは!)

心臓が早鐘を打つ。
今のは自分に笑いかけたのだろうか?

いきなりプロポーズしてきて断った男にその後すぐ笑いかける女性はいるものか。
普段のハリムならすぐその事実に気づいたことだろう。
だが、この時のハリムは普段の彼ではなかった。
というか、リヴに恋したその時から少しばかり頭のネジが弛んでいる。

「あー、で、貴方は確か……」
「ハリム・ウェントソン。騎士団に所属しています。お義父さん」

遅らばせながら自己紹介をして、ハリムは男爵の手を取った。

間違ってしまったが、間違っていない。
ただ予定より早まっただけだ。
リヴと結婚したいという気持ちは確かだ。 
なら、もはや貫き通すのみ。

ハリムはそう決意して、背筋を伸ばした。




ハリムとローニャ親子が固まりあっていた頃。
周りでは当然ながら大騒ぎになっていた。

夜会の、それも皆のいる会場内でのプロポーズである。
ないことはないが、普通はベランダや庭に誘い人目を避けた上で行うものだろう。
中には何十年と夜会に参加しているがこのようなものを見たのは始めてだ!と妙に感激する老貴族もいたが、大半は「いきなり何もやってんの?」と口には出さないまでも顔に出していた。

ハリム・ウェントソンといえば英雄の補佐官として社交界でも有名な人物だ。
将来有望な騎士であり、青年貴族。
親は子爵で彼個人も子爵であるが、すでに先の隣国との戦争の褒賞で伯爵位を与えられることが決まっている。

美形といってなんら差し支えのない端正な顔に鍛え抜かれ引き締まった長身。
実家は子爵だが領地は豊かでいくつもの商売で成功している。
つまり金持ちだ。
ハリム自身は次男のため領地を継ぐことはないが、現在彼が与えられている領地も急速に発展し始めているところ。
年齢は25。
騎士として国境に詰めていたため貴族にしては遅いがまだ独身である。

そんな彼を婿にと狙っていた貴族も当然多く、今日の夜会にも彼狙いの年頃の令嬢は数多くいた。
いや、独身令嬢のほぼ八割がそうであった。

そのため中には泣き崩れたりショックで倒れた令嬢もいる。

ーーそんななか。

「おお!やるな!皆の前で公開プロポーズとは!?」

ガッハッハ!と上機嫌に大笑いする筋骨隆々の大男。
英雄ゲイズ・マーホックは愉快愉快と胸筋を震わせて、ずかずかと騒ぎの中心に歩み寄った。

「ハリム、ローニャ男爵。ぜひ仲人は俺と妻にやらせてくれ!」

英雄が大声で告げた言葉により周りの騒ぎが高まり、その中心で視線を一身に集める令嬢がムンクの叫びのような顔になった。

僅かに冷静さの残っていた一部の貴族が「いや、でも断ってたよ?」と内心で考えていたが、口に出せる豪の者は存在しなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

処理中です...