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恋のライバル出現?
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現在、王都に在中する王立騎士団第1、第2師団が訓練を行う訓練所の周囲には、まだ訓練開始前だというのに大勢の見物人で溢れていた。
「ププッ!あっちの令嬢は完全に夜会用のドレスですよ。オジサンオバサンもいっぱいだし、大人気ですね副団長」
朝から夜会用のドレスに髪をアップにした貴族らしき令嬢をこっそり指差し、第2師団の騎士の一人がハリムに囁いた。
「女性をそんな風に揶揄するものではない。準備はできたのか?」
「はいはい」と言って離れていく部下を見送って、ハリムは部下が指し示した女性を目だけで確認し、小さくため息をついた。
(カレン・ヤーロン伯爵令嬢だったか?)
以前夜会で数度踊ったことがある。
邸に送られてきていた見合いの肖像画の中にもその姿があったはずだ。
他にも周囲を見回せば見知った顔がちらほら。
その幾人かはカレン嬢ほどではなくとも朝の装いとしては気合いの入りすぎた出で立ちをしている。
なかの一人、大きく胸元の開いたドレスに派手な化粧の令嬢がハリムに向けて軽く腕を振ってきたのに極力無表情で会釈を返す。
(……彼女はいないか)
無意識に期待しリヴの姿を目で探している自分に苦笑する。
もっともリヴはいつも訓練開始からしばらくしてから来て昼過ぎの騎士が休憩に入る頃には帰る。
まだこの時間はいないものなのだが。
(昨日の今日だ。来ないかも知れないな)
むしろこの騒ぎでは来ない方がいいかもしれない。
着飾りハリムを口説き落とそうと待ちかねている令嬢たちのなかに見付かれば、嫌がらせやイヤミのひとつやふたつはあるだろうからだ。
こちらからプロポーズしているのだ。
無駄だとわかりそうなものだが。
彼女らはハリムが正式に婚約する前に自分に振り向かせようとでもいうつもりなのだろう。
なかには自分の意思ではなく親に言われてしぶしぶ、という女性もいるのだろうが。
部下に指示を出しつつ、視線を見物人から外していると、訓練所の入口の辺りからなにやらいさかいらしい声が聞こえてきた。
まさか令嬢たちの誰かが入り込みでもしているのかと、眉をしかめる。
が、どうやら聞こえてくるのは若い男の声のようだった。
「だから!ハリム・ウェントソンに話があるんだって!」
(ーー俺?)
男の口から自身の名が出たことで、ハリムはそちらに足を向けた。
入口の前で、一人の少年が騒いでいる。
17、8。リヴと同じ年頃だろうか。
物腰といい、服装といい、貴族ではなく平民の若者だろう。
騎士に取り押さえられながらも、腕を上げ、わめいている。
(危ないな)
少年が行っているのは非常に危険な行為だ。
これがゲイズの率いる第2師団の訓練でなければ騎士に楯突いたという理由で切り捨てられてもおかしくない。
(これが第3師団辺りならすでに腕の一本は折られているところだ)
「どうした?」
「副団長!」
「副団長?じゃああんたがハリム・ウェントソン?」
少年の物言いに、ハリムは鞘に入ったままの剣を腰から抜いた。
トン、と少年の肩に乗せる。
少年の目が恐怖に見開かれる。
怖い思いをさせて気の毒だが、ここで学習しないと後でより痛い目を見るのは少年自身だ。
「騎士に対してずいぶん無礼な態度だ。この場で切り捨てられたいか?」
あえて冷たい声で言うと、少年は唇を噛んで振り上げていた手を下ろした。たが、すぐにその目が敵意を持ってハリムを見上げる。
これでもわからないのか、とハリムはため息をつきたくなる。
この少年の未来はずいぶん暗いかも知れない。
「……リヴはあんたなんかに渡さない」
「……は?」
「リヴにプロポーズしたっていうからどんな奴かと思って来たけど、あんたみたいないきなり他人に剣を突き付ける人間なんかにリヴを任せられるもんか!」
「ち、ちょっ……君はリヴの知り合いなのか?」
ギョッとして、ハリムは剣を引いた。
知り合いに剣を向けたハリムのことをリヴはどう思うか……。
「リヴは、リヴは絶対に渡さないからな!」
展開に動揺し、力の緩んだらしい部下の腕から少年は抜け出し、そう捨て台詞を残して走り去って行く。
「……副団長、アレってもしかしなくても恋のライバルってやつじゃないですかね?」
「黙れ」
ーーお前に言われなくてもわかる。
「ププッ!あっちの令嬢は完全に夜会用のドレスですよ。オジサンオバサンもいっぱいだし、大人気ですね副団長」
朝から夜会用のドレスに髪をアップにした貴族らしき令嬢をこっそり指差し、第2師団の騎士の一人がハリムに囁いた。
「女性をそんな風に揶揄するものではない。準備はできたのか?」
「はいはい」と言って離れていく部下を見送って、ハリムは部下が指し示した女性を目だけで確認し、小さくため息をついた。
(カレン・ヤーロン伯爵令嬢だったか?)
以前夜会で数度踊ったことがある。
邸に送られてきていた見合いの肖像画の中にもその姿があったはずだ。
他にも周囲を見回せば見知った顔がちらほら。
その幾人かはカレン嬢ほどではなくとも朝の装いとしては気合いの入りすぎた出で立ちをしている。
なかの一人、大きく胸元の開いたドレスに派手な化粧の令嬢がハリムに向けて軽く腕を振ってきたのに極力無表情で会釈を返す。
(……彼女はいないか)
無意識に期待しリヴの姿を目で探している自分に苦笑する。
もっともリヴはいつも訓練開始からしばらくしてから来て昼過ぎの騎士が休憩に入る頃には帰る。
まだこの時間はいないものなのだが。
(昨日の今日だ。来ないかも知れないな)
むしろこの騒ぎでは来ない方がいいかもしれない。
着飾りハリムを口説き落とそうと待ちかねている令嬢たちのなかに見付かれば、嫌がらせやイヤミのひとつやふたつはあるだろうからだ。
こちらからプロポーズしているのだ。
無駄だとわかりそうなものだが。
彼女らはハリムが正式に婚約する前に自分に振り向かせようとでもいうつもりなのだろう。
なかには自分の意思ではなく親に言われてしぶしぶ、という女性もいるのだろうが。
部下に指示を出しつつ、視線を見物人から外していると、訓練所の入口の辺りからなにやらいさかいらしい声が聞こえてきた。
まさか令嬢たちの誰かが入り込みでもしているのかと、眉をしかめる。
が、どうやら聞こえてくるのは若い男の声のようだった。
「だから!ハリム・ウェントソンに話があるんだって!」
(ーー俺?)
男の口から自身の名が出たことで、ハリムはそちらに足を向けた。
入口の前で、一人の少年が騒いでいる。
17、8。リヴと同じ年頃だろうか。
物腰といい、服装といい、貴族ではなく平民の若者だろう。
騎士に取り押さえられながらも、腕を上げ、わめいている。
(危ないな)
少年が行っているのは非常に危険な行為だ。
これがゲイズの率いる第2師団の訓練でなければ騎士に楯突いたという理由で切り捨てられてもおかしくない。
(これが第3師団辺りならすでに腕の一本は折られているところだ)
「どうした?」
「副団長!」
「副団長?じゃああんたがハリム・ウェントソン?」
少年の物言いに、ハリムは鞘に入ったままの剣を腰から抜いた。
トン、と少年の肩に乗せる。
少年の目が恐怖に見開かれる。
怖い思いをさせて気の毒だが、ここで学習しないと後でより痛い目を見るのは少年自身だ。
「騎士に対してずいぶん無礼な態度だ。この場で切り捨てられたいか?」
あえて冷たい声で言うと、少年は唇を噛んで振り上げていた手を下ろした。たが、すぐにその目が敵意を持ってハリムを見上げる。
これでもわからないのか、とハリムはため息をつきたくなる。
この少年の未来はずいぶん暗いかも知れない。
「……リヴはあんたなんかに渡さない」
「……は?」
「リヴにプロポーズしたっていうからどんな奴かと思って来たけど、あんたみたいないきなり他人に剣を突き付ける人間なんかにリヴを任せられるもんか!」
「ち、ちょっ……君はリヴの知り合いなのか?」
ギョッとして、ハリムは剣を引いた。
知り合いに剣を向けたハリムのことをリヴはどう思うか……。
「リヴは、リヴは絶対に渡さないからな!」
展開に動揺し、力の緩んだらしい部下の腕から少年は抜け出し、そう捨て台詞を残して走り去って行く。
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「黙れ」
ーーお前に言われなくてもわかる。
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