婚約なんて致しません!

黒田悠月

文字の大きさ
10 / 12

見られてしまった秘密。

しおりを挟む
「メリおばさん!私ちょっと出て来るね?帰ったらまたお店手伝うから!」
「ありがとさん。助かるよ!」

厨房に鉄板を戻しながらリヴはメリおばさんに声をかけ、二階への階段をかけ上がった。
自室から大きな封筒を持ち出して、そのまま店の入口に走る。
ちゃんと家の玄関もあるが、こちらの方が近いのだ。
いっても数歩分程度の違いでしかないが。

「おうっ!リヴちゃん聞いたよ!プロポーズされたって?」
「リヴちゃん結婚するんだって?」
「相手は騎士様だってな!」

町に出るとさっそくアチコチからそういった声がかかる。
それに笑って誤魔化し、リヴはそそくさと人目の少ない路地に入り込んだ。
普段なら通らないが(スリやら人さらいやらが出るので)今日だけは致し方ない。
通りを歩くて絶え間なく声がかかりそうなので……。

(まったく迷惑)

そう思いながら狭い路地を駆け抜け、また通りに出る。
すぐ側の建物を曲がると、騎士団の訓練所が見える場所だ。
今日は行かないでおこうかと思っていたが。

(あー、やっぱり気になるー!(;>_<;))

一日一度は英雄さん×副団長のカップル(あくまでもリヴの妄想のである)を見ないと落ち着かない。

(明日は休息日だしなあ……)

月に二度だけ、騎士団の訓練は一日お休みがある。
あとは午前中だけ、という日が週に二日ずつ。
個別にお休み、という日はたまにあって、一人しかいない日はがっかりしてしまう。
明日見れないということは今日見なければ最短でも明後日までは見れないということで……。

(ちょっとだけ。ちょっとだけ、こっそり覗いてみようかな?)

まだいつもより早いし。
物陰に隠れてたら見つからないかも知れない。

本当は別の用事があって、出てきたのだけど。
リヴはぎゅっ、と胸に抱いた封筒を持ち直して、訓練所への曲がり角へと方向転換した。

あと僅かで訓練所の入口が見える。
そう思ったところで、リヴは足を止めた。
入口付近から出てきた人物に見覚えがあったからだ。

(……ロイ?なんで?)

それは少し前に店を出ていったメリおばさんの息子、ロイだった。
ロイもまた道の端で立ち止まっているリヴに気づき、駆けていた足を緩めた。

「……リヴ?なんで」

小さく呟いてから、ハッとしたような顔をする。
駆け寄ってくると、リヴの右手を掴んだ。

「あんな奴に会いにきちゃダメだよ!人もいっぱいだし、帰ろう、さあ!!」

ぐいっ!と腕を引かれて、リヴはその場でたたらを踏んだ。

「あっ……!」

するりと腕の中から抱いていた封筒が抜ける。
訓練所の入口から見知った長身の人物が出て来るのが目に映った。
その人物は慌てた様子でこちりに駆け寄ってくる。

バサッと音を立てて封筒が地面に落ち、中身が辺りに散らばる。

駆け寄ってきた人物はそれを拾ってくれていた。

(やっ!ヤバイっっ( ̄□||||!!)

「見ちゃダメー!!」

リヴは叫んだけれど。
時すでに遅し。

リヴが落とした封筒の中身、それを拾った人物ーー副団長ことハリムはしっかりとそれに目を落とし、驚愕に目を見張っていた。

封筒の中身は編集部に持っていく予定の小冊子用の短編だった。
編集部の想定よりも新作の売り上げがよく、早期の重版が決定したため、オマケとして小冊子を付けることになったのだ。
もちろんこれまでに購入した人にも希望があれば配布する。

その原稿。
しかもまだ仮の仮の分ということで、主人公たちの名前や特徴をモデルの二人で書いていた。

さすがにガッツリ読み込まずとも、自身や身近の人間の名が出ていたら目につくというものである。
中身はほぼ9割が濡れ場。
18禁だ。


(ヤバすぎるーΣ( ̄ロ ̄lll))

どうしよう、どうしよう。
リヴはオロオロと拾われた原稿とそれを手に唖然となったハリムの顔を見比べて、両手をわたわたさせた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

処理中です...