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第29話 今さらながらクヨクヨする
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作業が終わったのは零時三十分だった。工具などを片付けてユキと現場事務所へ戻り、自分の車で部屋に帰ると二時を過ぎていた。
大急ぎでシャワーを浴びてベッドに潜り込む。ユキには定時に来ますと言った手前、寝坊は絶対にできない。
しかし現場での逆ギレと緊張のせいで目がさえてしまい、寝返りをうつばかり。体は疲れているのに頭の中が興奮し、次から次へと、とりとめのない思考が湧いて出る。
しょうがない。睡眠を諦めた佐野は照明を常夜灯にして、ぼんやりと天井を見上げた。
「ミスは、しなかった――と思う」
小さな声でぽつりと言う。そして現場での記憶をたぐり寄せる。
ユキは終始、自分のそばで作業をしていた。これは失敗をさせないためなのか、はたまた失敗を見つけるためなのかはわからない。現場の責任者は最後まで胡散臭そうにこちらを見ていた。他の技術者達も仕事以外では話そうとはせず、完全によそ者扱い。そんな中でアクティブに振る舞うのは並大抵のことではない。現に今、横になっているのに首と肩がガチガチにこっている。
さらに現場事務所へ向かう道中もこれまた疲弊した。ユキが自分へ妙に気を使い、朝はいくら遅く来てもかまわないし、何だったら昼からでもいいと言うからだ。
もちろん『佐野さん』ではなく『ケイ』と呼んで。その親しみを込めた話し方が、警戒しまくる自分の心を強く揺さぶり、生きた心地がしなかった。
「やっぱり単なる被害妄想か……いや、油断するな」
佐野はオレンジ色の常夜灯をキッと見据える。
言葉通りに遅く行ったら遅刻だと叱責するもくろみかもしれない。ならば意地でも定時に行こう。どうせ十七時で終わりなのだ。速攻で部屋に戻って寝ればいい。星崎には昨晩、急な深夜作業へ駆り出されたので直帰しますと電話で連絡すればいい。怒鳴られるだろうが、体の方が大切だ。
「うーむ。それにしても」
佐野は渋面で唸る。本当にユキは自分と縁を切るためにあの現場へ連れて行ったのだろうか。
そこでふと、出発前のユキの言葉が思い出される。
――古山建設の佐野だけは使える、と自分を売り込め。そうしたら俺も現場へ呼びやすくなる。
――これから行く現場で嫌な思いをすると思うが、俺がフォローするから心配するな。
けれどいざ現場へ足を踏み入れたら、あの空気、あの対応。次第に気持ちがささくれて来て、ユキすら信用できなくなった。
「一体、どちらを信じたらいいのだろう」
幸い、内心では逆ギレしていたが、ユキや周りの人達に失礼な態度は取っていない。その反対に、やり過ぎなくらい真面目かつ朗らかに振る舞った。なので落ち度はない。普通にユキと顔を合わせることができる。
「でもなあ」
気がつけば枕元の目覚まし時計は三時半。ジタバタ悶々してる間にクリスマスは終わっていた。
大急ぎでシャワーを浴びてベッドに潜り込む。ユキには定時に来ますと言った手前、寝坊は絶対にできない。
しかし現場での逆ギレと緊張のせいで目がさえてしまい、寝返りをうつばかり。体は疲れているのに頭の中が興奮し、次から次へと、とりとめのない思考が湧いて出る。
しょうがない。睡眠を諦めた佐野は照明を常夜灯にして、ぼんやりと天井を見上げた。
「ミスは、しなかった――と思う」
小さな声でぽつりと言う。そして現場での記憶をたぐり寄せる。
ユキは終始、自分のそばで作業をしていた。これは失敗をさせないためなのか、はたまた失敗を見つけるためなのかはわからない。現場の責任者は最後まで胡散臭そうにこちらを見ていた。他の技術者達も仕事以外では話そうとはせず、完全によそ者扱い。そんな中でアクティブに振る舞うのは並大抵のことではない。現に今、横になっているのに首と肩がガチガチにこっている。
さらに現場事務所へ向かう道中もこれまた疲弊した。ユキが自分へ妙に気を使い、朝はいくら遅く来てもかまわないし、何だったら昼からでもいいと言うからだ。
もちろん『佐野さん』ではなく『ケイ』と呼んで。その親しみを込めた話し方が、警戒しまくる自分の心を強く揺さぶり、生きた心地がしなかった。
「やっぱり単なる被害妄想か……いや、油断するな」
佐野はオレンジ色の常夜灯をキッと見据える。
言葉通りに遅く行ったら遅刻だと叱責するもくろみかもしれない。ならば意地でも定時に行こう。どうせ十七時で終わりなのだ。速攻で部屋に戻って寝ればいい。星崎には昨晩、急な深夜作業へ駆り出されたので直帰しますと電話で連絡すればいい。怒鳴られるだろうが、体の方が大切だ。
「うーむ。それにしても」
佐野は渋面で唸る。本当にユキは自分と縁を切るためにあの現場へ連れて行ったのだろうか。
そこでふと、出発前のユキの言葉が思い出される。
――古山建設の佐野だけは使える、と自分を売り込め。そうしたら俺も現場へ呼びやすくなる。
――これから行く現場で嫌な思いをすると思うが、俺がフォローするから心配するな。
けれどいざ現場へ足を踏み入れたら、あの空気、あの対応。次第に気持ちがささくれて来て、ユキすら信用できなくなった。
「一体、どちらを信じたらいいのだろう」
幸い、内心では逆ギレしていたが、ユキや周りの人達に失礼な態度は取っていない。その反対に、やり過ぎなくらい真面目かつ朗らかに振る舞った。なので落ち度はない。普通にユキと顔を合わせることができる。
「でもなあ」
気がつけば枕元の目覚まし時計は三時半。ジタバタ悶々してる間にクリスマスは終わっていた。
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