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第48話 猛省

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 ダメだ。ひとまずストップ。
 佐野はこの会話を終わらせることにした。
これ以上、ユキを深掘りすると自分の恋心までもが疑わしくなってしまうからだ。おりしもそろそろ仕事に入る時間。やることはてんこ盛り。レイナが粉砕した図面を復活させなければならない。
「ほんと、独り者の部屋って、放っておくとなし崩しですよね」
 佐野は机に積まれた図面を手に取り、業務開始の雰囲気をユキへ伝える。
「だよな」
 ユキも佐野の動作につられて作業モードに入った。それからは二人して黙々とパソコンに向かう。
 やぶ蛇だった。佐野は己の安易な観察と誘導を猛省する。そもそも人というのは多面的な存在。自分が見ている部分はほんの一部だ。今の会話でも、ユキの知られざる一面をわずかに垣間見ただけで全てじゃない。だから、オーナーが見ているユキと自分が認識しているユキはバラバラなのは当然だ。ユキに恋している人達も、めいめいが違う角度からユキを見ているのだ。
 やはり自分は焦っている。達観したと思っていたけど大間違い。状況によって思考は二転三転し、気がつけば始点に戻っている。ユキの魅力に正気が保てず、やれアタックだ、やれ諦めた、よし今度は達観だのと、心は浮つき右往左往。
 つまるところ、自分はユキの情報を収集して、要領良くこの恋愛を上手くいかせたいだけなのだ。謎のまま進むのが怖いのだ。失敗するのが嫌なのだ。ユキのそばにいられる間にスピード決着したいのだ。しかも、両思いのハッピーエンドに。
 ダサい。せこい。己の小心さにげんなりする。と、その時、佐野のスマホが鳴った。
「誰だ。こんな時間に」
 ユキが眉をひそめて不審がる。時間は二十一時を過ぎている。
「――」
 スマホを手にした佐野の顔が渋面になる。
「どうした」
 ユキが聞く。
「うちの星崎です」
 出る気にならず、着信音が鳴るままにしている。
「きっとろくなことじゃないです。留守電にしようかな」
「いや……待て。あっちの声をスピーカーから流して、ハンズフリーで通話しろ」
「え?」
「もちろん俺は喋らない。だからケイは普通に話せ」
 佐野はユキの意図がつかめぬまま、指示通りにした。
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