公女は祖国を隣国に売ることに決めました。

彩柚月

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王太子の事情

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高等部の3年になる頃、何かと目につく女性が現れた。今まで見かけた記憶はなかったが、高等部1年から通い始めたらしい。

可愛らしい顔立ちの小柄な子で、コロコロと良く笑う。何故だか、今まで目につかなかったのが不思議なほどに、視界に映る。

目が合うとにこやかに会釈をくれるが、近寄っては来ない。なのに、目に付く。

初めて自分から声をかけた。

男爵令嬢でマリアというらしい。

不思議なことに側近達は何も言わなかった。煩いのが黙っているのだ。それで良い。止めが入らないのを良いことに、その子に事あるごとに声をかけた。

なかなか引っかからない彼女に、恋の駆け引きをしているようで、今まで以上に燃えるものがあった。ますますのめり込んでゆく。今までのどの女性よりも魅力的に思えた。彼女にハマっていく自分が嫌いではなかった。むしろ心地良いとさえ思った。

だんだん距離を縮めて行く駆け引きが楽しくて仕方なかった。

やっと彼女を捕まえた時には歓喜するほどだった。何か、今までの女性とは違い、大切に扱いたかった。たくさん話をし、また聞くように努めた。

初めて、私の内の鬱屈した感情を吐露した時、彼女は言ってくれたのだ。

「結果が1番ではなくても、1番努力をしたのはあなただね。俺はこんなに努力したんだぞー!って誇って良いんじゃないかな?」

そうだ。私は努力したのだ。たくさん。苦しみながら努力をしたのだ。

「それにいずれ王様になるんでしょ?リー君しか王様になれないんだから、何もしなくてもリー君は偉いんだよ。媚びたりへつらったり、卑屈になる必要なんかないよね。」

そうだ!私は王になるのだ!私にしかなれないのだ。私は唯一なのだから!

「ムカつくヤツなんか、王子様らしく、コラーッて叱ってやれば良いんじゃない?」

ああそうか。偉そうに上から命令するのが私の立場だ。王子らしく…そうか!王族らしくとはそういうことか!

この出会いに感謝した。得難い女性に出会えた。私は愛を知った。マリアこそ、私の運命の人に違いない!

初めて嫌われるのが怖いと思った。手放したくないと思うと、触れることにも躊躇った。

大切に大切に。ただマリアと過ごす時間が幸せでならなかった。

「ずっと共に居られたら良いのに。」

溢れる気持ちを言葉にした。
しかしマリアは即座に否定した。

「それは無理かな。リー君には婚約者さんが居るからね。」

「婚約していなければ、一緒に居てくれたか?」

「うーん…それでも無理かな。王妃様なんて、私にはできないもん。」

困ったようにはにかむ笑顔を見せるマリアに、私の胸はギュウッと苦しさを感じる。

「それは…マリアに苦労をさせたくはない…」

「そう思ってくれて嬉しいよ。だから今だけほんの少しの夢を見よう。一緒にいる時間を楽しもうね!」

マリアはそう言って頭を肩に乗せてきた。
愛おしい。可愛い。これをどんな言葉で表せば良いのか。





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