14 / 27
王太子の事情
8
しおりを挟む高等部の3年になる頃、何かと目につく女性が現れた。今まで見かけた記憶はなかったが、高等部1年から通い始めたらしい。
可愛らしい顔立ちの小柄な子で、コロコロと良く笑う。何故だか、今まで目につかなかったのが不思議なほどに、視界に映る。
目が合うとにこやかに会釈をくれるが、近寄っては来ない。なのに、目に付く。
初めて自分から声をかけた。
男爵令嬢でマリアというらしい。
不思議なことに側近達は何も言わなかった。煩いのが黙っているのだ。それで良い。止めが入らないのを良いことに、その子に事あるごとに声をかけた。
なかなか引っかからない彼女に、恋の駆け引きをしているようで、今まで以上に燃えるものがあった。ますますのめり込んでゆく。今までのどの女性よりも魅力的に思えた。彼女にハマっていく自分が嫌いではなかった。むしろ心地良いとさえ思った。
だんだん距離を縮めて行く駆け引きが楽しくて仕方なかった。
やっと彼女を捕まえた時には歓喜するほどだった。何か、今までの女性とは違い、大切に扱いたかった。たくさん話をし、また聞くように努めた。
初めて、私の内の鬱屈した感情を吐露した時、彼女は言ってくれたのだ。
「結果が1番ではなくても、1番努力をしたのはあなただね。俺はこんなに努力したんだぞー!って誇って良いんじゃないかな?」
そうだ。私は努力したのだ。たくさん。苦しみながら努力をしたのだ。
「それにいずれ王様になるんでしょ?リー君しか王様になれないんだから、何もしなくてもリー君は偉いんだよ。媚びたりへつらったり、卑屈になる必要なんかないよね。」
そうだ!私は王になるのだ!私にしかなれないのだ。私は唯一なのだから!
「ムカつくヤツなんか、王子様らしく、コラーッて叱ってやれば良いんじゃない?」
ああそうか。偉そうに上から命令するのが私の立場だ。王子らしく…そうか!王族らしくとはそういうことか!
この出会いに感謝した。得難い女性に出会えた。私は愛を知った。マリアこそ、私の運命の人に違いない!
初めて嫌われるのが怖いと思った。手放したくないと思うと、触れることにも躊躇った。
大切に大切に。ただマリアと過ごす時間が幸せでならなかった。
「ずっと共に居られたら良いのに。」
溢れる気持ちを言葉にした。
しかしマリアは即座に否定した。
「それは無理かな。リー君には婚約者さんが居るからね。」
「婚約していなければ、一緒に居てくれたか?」
「うーん…それでも無理かな。王妃様なんて、私にはできないもん。」
困ったようにはにかむ笑顔を見せるマリアに、私の胸はギュウッと苦しさを感じる。
「それは…マリアに苦労をさせたくはない…」
「そう思ってくれて嬉しいよ。だから今だけほんの少しの夢を見よう。一緒にいる時間を楽しもうね!」
マリアはそう言って頭を肩に乗せてきた。
愛おしい。可愛い。これをどんな言葉で表せば良いのか。
65
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
地味で結婚できないと言われた私が、婚約破棄の席で全員に勝った話
といとい
ファンタジー
「地味で結婚できない」と蔑まれてきた伯爵令嬢クラリス・アーデン。公の場で婚約者から一方的に婚約破棄を言い渡され、妹との比較で笑い者にされるが、クラリスは静かに反撃を始める――。周到に集めた証拠と知略を武器に、貴族社会の表と裏を暴き、見下してきた者たちを鮮やかに逆転。冷静さと気品で場を支配する姿に、やがて誰もが喝采を送る。痛快“ざまぁ”逆転劇!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる