水平思考ショートストーリー

・雨と5人の男

　とある荒野を、5人の男が進んでいた。
　周囲は草と砂利しかなく、建物と呼べる物は視界の中には一切存在しなかった。
　男達はお互い付かず離れずの距離でまとまって歩いていた。

　「なんだか空が怪しくなってきたな」
　男のうちの一人が、いつの間にか黒ずんできた空を見上げて言った。

　「今日は雨は降らない予報だったんだがな」別の男が返す。

　「この辺は天気が変わりやすいからな。雨が降り出す前に目的地に着けばいいが」


　しかし男達の心配は的中し、ポツポツと雨粒が肩に落ちてきた。雨粒は乾いた小路にマーブル模様をつくり、やがて湿った黒色に染め上げていく。
　
　「ひゃ、降ってきやがったな」
　「雨宿り出来るとこないか？」
　「ここは荒野の真ん中だぞ？」

　彼らは雨具を持っておらず、雨宿りする場所もない。話している内に雨足は強くなっていき、ほとんどスコールのような土砂降りになってしまった。

　「ここまで来たら引き返すのは無理だ、先を急ごう」
　男達は雨が降りしきる中を、黙々と進むしかなかった。

　雨で泥濘む地面に足を取られながら、何とか目的地に到着した。その頃には、男達は全身がずぶ濡れの状態だった。

　しかし、5人の中で一人だけ、一切服も体も濡らしていない者が居た。
　5人は皆、同じ速度で荒野を移動し、同じタイミングで目的地に着いていた。一体なぜ？
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【解説】
　5人のうち一人は既に亡くなっており、棺の中に入っていた。
　4人の男達は棺を担いで、歩いて火葬場へ向かっている最中だったのだ。