愛だ恋だと変化を望まない公爵令嬢がその手を取るまで

永江寧々

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憧れの人

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「アリスは婚約者いるの?」
「セシル、アリスに興味を持つのはやめろ」
 
 秒で反応したカイルにセシルはそれを無視する。
 
「カイルが兄様になるのは嫌だけど、美味しいご飯が出てくるのは良いよね」
「アリスの婚約者は俺が選ぶ。セシルはダメだ」
「妹の婚約者を兄が選ぶってどうなの? 偏見魔のカイルに選ばれた男ってろくでもない人間でしょ」
「俺の偏見と独断で決める」
「偏見と独裁?」
「偏見と独断!」
 
 カイルの騒ぎ声だけが響く穏やかな庭園に自分がこうして当たり前のようにいられる不思議さにアリスはどういう顔をして座っていればいいのかわからなかった。
 ここにいるのはティーナと一緒にいるよりも楽しい。だが、ここにはティーナの片想いの相手であるヴィンセルがいて、今日は話をした。ティーナに言えばきっと気に入らないという顔をするだろう。 

「大丈夫か?」
「あ、はっはい! 大丈夫です!」
「もし気分が悪いのなら医務室まで送ろうか?」
 
 ヴィンセルに気にかけてもらっただけでも夢のような瞬間なのに医務室まで一緒に歩くなどアリスには考えられないことで、そんなことをしてしまえば今日の帰り道、馬車が事故を起こして死ぬのではないかと思ってしまう。
 
「あのヴィンセルが女の子を送る……だって?」
「ヴィンセル…お前、大丈夫か?」
「医務室が必要なのってヴィンセルなんじゃない?」
 
 アリスよりも驚いた三人がかける言葉に眉を寄せながら目を閉じるヴィンセルの拳が震える。
 
「正常だ」
 
 シンプルに答えたヴィンセルに三人は顔を見合わせ首を振った。
 
「ヴィンセル、何が目的だ?」
「目的だと?」
「女嫌いのお前が自ら保健室に連れていくと立候補するとは天変地異の前触れでもなければありえない話だろう」
「疲れているように見えたから声をかけただけだ。本来ならお前が見てやるべきなのではないか?」
「おいおい、ヴィンセル・ブラックバーンが言うじゃないか。偉そうに」
「王子だからね、カイル。偉いんだよ」

 妹のことになると途端に態度が変わるカイルの独裁者ぶりが顔を出すのではないかとアルフレッドはハラハラする。
 相手が王子であろうとこの学園で最も権力を所持しているのはヴィンセルではなくカイルだ。
 だから学園では王子であろうとヴィンセルはカイルに許可を得て動く立場となっている。

「手を出そうとは思っていない。勘違いするな」
「ならいい。お前の婚約者は王女が相応しいしな」

 アリスもわかっている。ヴィンセルに相応しいのは自分ではないと。それでも兄にハッキリ言い切られると少しショックだった。

「セシル、俺は冗談でもお前を義弟にするつもりなんかないからな。料理が上手い嫁が欲しいなら他をあたれ」
「冗談じゃないって言ったら?」
「冗談にもするな、本気にもするな」
「だって彼女、うるさくないし親切だ。令嬢でお菓子作りできる子って少ないしね。シェフが作ったのを自分で作ったって嘘つく子は大勢いるけどさ。何を使ったか聞けばすぐわかるのにバカだよね。ああいう人たちと違ってアリスは僕の理想的な相手だから」
 
 笑わない、喋らないのセシルが毒舌や辛辣さを持つのは驚くことではない。ただ、まだ十七歳という若い年齢でなぜこうも女性に対して冷めた目や心を持っているのかわからなかった。
 婚約者はいないと言っていたが、今現在いないだけのか、今までもいなかったのかでは話が別。過去に何かあって女性への信頼をなくしたのだとしたら──と考えるが、考えたところで意味はない。
 
(嫌いになるぐらいの何かがあったとしたら私がどうこうできる問題じゃないだろうし)
 
 恋愛小説のように自分が手を貸して一緒に乗り越えるイベントではないと首を振るアリスをヴィンセルが不思議そうに見ていた。
 
「ね、なんでお菓子作ろうと思ったの?」
「料理やお菓子が出来上がるのを見ているのが好きだったんです。ある日、作業を見ていた私にシェフが一緒に作らないかと声をかけてくれて、そこから料理にハマりました。お菓子作りもイメージだと難しいって感じですけど、実際作ってみるとオーブンに入れるまでなら一時間かからないものがほとんどだし、手間じゃないって知ってから楽しくて頻繁に作るようになりました。まだ見習いみたいなものですけど」
 
 魔法の手が生み出す美しい料理やお菓子が変身していく姿が好きだった。全てバラバラの食材が一つずつ混ざり合って美味しい物へと姿を変える。見て食べてが楽しかったのが、いつの間にか作っているほうが楽しいに変わって、趣味となった。
 自分の手が魔法の手と呼ばれるようになるにはまだ遠いが、それでも誰かがこうして美味しいと言ってくれることが嬉しかった。
 
「じゃあ見習いからレベルアップしたら今より美味しくなるってわけだ」
「き、期待しないでくださいね! まだ十年は見習い予定ですから!」
「期待して待ってようかな、十年」
「ご、ご冗談を!」
 
 セシルはどういうつもりで言っているのだろうかと真意が掴めないため困惑する。
 人をからかうタイプではないように見えるのに実際は違う。どこか小悪魔めいた笑みを浮かべながらアリスを見ていた。こういう一面もあることを皆が知ればもっとファンは増えるだろうとアリスは思った。
 
「セシル、出禁になりたくなかったら俺の妹に目を付けるな」
「僕がいなくなっても平気なの?」
「お前がいなくなっただけで俺が泣くと思ってるのか?」
「三倍は仕事が増えるだろうね」
「サボり癖のあるお前の仕事を誰がカバーしてると思ってるんだ?」
 
 遠目から見ていたときは仲良さげに見えた二人が対峙する理由が自分であるなら申し訳ないとアリスは二人の顔を交互に見る。
 普段からこんな感じなのだろうかとアルフレッドを見ると大きなウインクが飛んできた。うっすらと苦笑滲む笑顔を返してゆっくり顔を逸らすと先にいたヴィンセルと目が合った。
 今まで一度も目など合ったこともないのになぜ今日はこんなにも目が合うんだろうと心臓がおかしくなりそうで、目を逸らしそうになったが今日を逃すともう二度と合わないかもしれないと呼吸を止めて目を見つめた。
 
「カイルが兄で大変だったことはないか?」
「ヒッ!」
 
 またヴィンセルに話しかけられると思っていなかっただけに悲鳴のような声が小さく漏れてしまった。
 
「すまない。失礼な問いかけだった」
「い、いえ! そういう意味ではないんです! 私が勝手に驚いただけですから! 気にしないでください!」
 
 いつも頭の中を流れる妄想ではもっと優雅に微笑んで紅茶を飲みながらヴィンセルと二人きりで会話を楽しんでいるのに現実はこうもみっともないのかと情けなくなる。
 
「お兄様はいつも私を心配してくださいます。私が頼りないからですが……もう少ししっかりしなければと思うんですけど思うばかりでまだ頼りっぱなしです」
「女性は守られている立場でいいのではないだろうか。自立を考えることは素晴らしいが、女性の社会進出はまだ難しい。社会に出て荒波に揉まれて苦労するよりは、妻として笑顔で出迎えるほうがいいように思う」
「ヴィンセル様は、そういう方がお好きなのですか?」
 
 やってしまったと思った時には既に問いがヴィンセルの耳に届いた後で、アリスは激しい後悔に襲われていた。
 タイプを聞くなど下心がなければしない。
 ああ、こいつもそうかと思われでもしたら──いや、するだろうとアリスは魂が抜けていくのを感じながら目を閉じた。
 
(終わった…。私の毎日の楽しみよ、さようなら……)
 
 好きな相手の好きなタイプなど聞くべきではないと思っていたのに、いつも彼はどんな女性と結婚するのか、どんな婚約者ができるのかと気になってばかりいるせいで口を突いて出てしまった。
 
「アリスちゃん、ヴィンセルに好きなタイプはいないんだ。美しい花々を愛でるという感情が死んでるから」
「俺はお前も嫌いだぞ、アルフレッド」
「まあ、俺の美しさは花も同然だから」
「悪臭死体なんとかって花そっくりだしね」
「だからセシルひどいんだって!」
 
 誰一人として認めはしないアルフレッドの美しさに本人は『酷い!』と泣き真似をするも誰もフォローはしない。
 
「大体ヴィンセルは鼻が———」
「ちょっと! なんでアリスは入れて私が入れないわけ!?」
 
 アルフレッドの言葉を遮るように響いた声に全員が声のほうへ振り向いた。
 ティーナの声だ。
 アリスの心臓が不安で速く動き始める。
 
「来たよ、性悪女」
 
 ボソッと呟いたセシルは頭痛がすると目を閉じながら元々セシル用のデザートとして用意されていたマカロンを取って一口で頬張った。
 せっかくの味も台無しにしてしまう大声に苛立っているのは噛む表情を見ていればわかる。
 
「俺が行こう」
 
 やれやれと立ち上がったカイルが溜息を吐きながら向かうのを見て慌ててアリスが立ち上がって前に回った。
 
「私がもう出ますから! お兄様は時間いっぱいまでここでお休みください。セシル、本日はお誘いいただきありがとうございました。ヴィンセル様、アルフレッド様、ごきげんよう」
 
 迷惑をかけてはいけないと小走りで出ていくアリスは想像より早いティーナの行動に入口へと急いだ。
 
「だーかーらー! どうしてアリスは入れるわけ!?」
「カイル様の妹君であれば入場許可が出るのは当然です」
「私はその妹君の親友なんだけど!」
「立場が違いますので許可出来ません」
「はあ!? 意味わかんないんだけど! 私はヴィンセル様に渡す物があるから入りたいだけ!」
「どんな理由があろうと入場は許可できません」
 
 周りがどんな目で自分を見ているかなど気にもしていないティーナの怒声は今もあの四人に聞こえているだろう。
 少し考えればわかるだろうことに気付いているのかいないのか、ティーナは門番に怒鳴るのをやめない。
 
「アンタたちじゃ話にならないからヴィンセル様呼んでよ!」
「ティーナ!」
「アリス! ねえ、マジこいつらなんなの? ヴィンセル様に渡す物があるから入れてって言ってるのに入場させられないって言うばっかでさ、酷くない?」
「あのね、ティーナ。ティーナの声、中まで聞こえてたよ」
「ホント!? ヤバイじゃん! ヴィンセル様も聞いてたの!?」
「う、うん」
「ヤバー!」
 
 この瞬間、ティーナの喜びを理解できなかったのはアリスだけではなくティーナの声を聞いていた全員。
 あれだけの怒声を響かせながら理解ない発言を繰り返す女を誰が快く受け止めるのか。
 
「ティーナ、こっち来て」
 
 ティーナの思考がわからないアリスは少し離れようと腕を引っ張るも乱暴に払われる。
 
「渡す物があるって言ったでしょ。これ、今日中じゃなきゃダメなの」
 
 冷たい言い方にアリスが固まっている近くにいた女子生徒の興奮の悲鳴が聞こえた。
 
「すまないが、騒ぎ立てるのはやめてくれないか?」
「ヴィンセル様!」
 
 顔を出したのはカイルではなくヴィンセルだった。
 大喜びするティーナは抱きつくのではないかと思うほど近くに寄っては背伸びまでして顔を近付ける。サッとハンカチで鼻をを押さえるヴィンセルの顔は眉が寄り、誰が見ても拒絶を露にしているのにティーナは気にしていない。
 目を輝かせながら真っ直ぐ見つめる姿は恋する乙女の熱量というよりは暴走そのもの。
 
「俺に何か用だろうか?」
「パンを焼いてきたんです! ほら、昨日パンを手掴みで渡しちゃったから今日はちゃんとビニールに入れてきたんですよ! アリスってばビニールに入れるの忘れちゃってたけど私はこうしてヴィンセル様の潔癖症に配慮して持ってきましたから受け取ってください!」
 
 あまりにも押し付けがましい言い方に追いかけられても苦笑という一種の笑みを浮かべるヴィンセルがティーナが差し出す袋を見ても苦笑一つ滲ませない。
 胸に押し当てられる紙袋にゾッとした表情へと変えるヴィンセルはティーナの顔を見てはすぐに視線を逸らし、押し当てられたそれを受け取ろうとはしなかった。
 
「悪いが受け取ることはできない」
「えー!? なんでですか!? 昨日たくさん練習してせっかく焼いてきたのに! ヴィンセル様のことを考えながら作ったんですよ?」
「君が食べてくれ」
「やだやだ! ヴィンセル様に食べてほしくて作ったんだからヴィンセル様が食べてください!」
 
 紙袋が他人の手にあった物という時点でヴィンセルは触るのも嫌なのだろう。ましてやここまで我が強い相手であれば中に何が入っているかもわからないという恐怖から笑顔も作れず、近付いてくる顔から顔を遠ざけたとき、ヴィンセルはアリスと目が合った。
 
「ティーナ! ヴィンセル様困ってるからもう帰ろう? ね?」
「邪魔しないでよ!」
「キャッ!」
「アリス!」
 
 突き飛ばされた衝撃で地面に倒れたアリスにヴィンセルが駆け寄って傍で膝をついた。
 アリスと名を呼んだのはセシルではなくヴィンセントで、聞き間違いかと誰もが耳を疑った。
 ヴィンセルの周りには女がいない。だから誰もヴィンセルが異性を名前で呼ぶのを聞いたことがなかった。
 それもあって皆どこか安心していたのだが、ヴィンセルはたった今、アリス・ベンフィールドを名前で呼んだのだ。
 
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「だ、大丈夫です」
 
 強く突き飛ばされたため、擦ったスカートの一部の生地が傷んでいるのが見えたが二枚三枚と持っているため気にすることなくすぐに立ち上がるもヴィンセルの心配そうな表情は変わらない。
 なぜ彼がそんな顔をしているのかわからず、アリスは戸惑いながらティーナを見ては凍りついた。
 
「なにそれ……。なんでアンタがヴィンセル様に心配されてんのよ……なんで名前で呼ばれてんのよ……」
 
 敵意さえ感じられる怒りにアリスの戸惑いが増幅する。
 アリス自身、なぜヴィンセルが名前で呼んできたのか、なぜ心配してくれるのかわからず説明しようにも言葉が出てこない。
 
「ねえ、これすごく美味しそうだけど君が焼いたの?」
 
 セシルの声に振り向いたティーナは『美味しそう』と言われたことに気を良くしたのか、ヴィンセルがアリスに駆け寄った拍子に押しつけていた紙袋が床に落ちて地面に転がっていたパンを拾った。
 
「そうですよ。食べたいのならどうぞ」
「何パン?」
「クルミとレーズンのパンです」
「生地は?」
「え?」
「パン生地だよ」
「紅茶ですけど」
「じゃなくて、紅茶を混ぜた生地はどういう手順で作ったの? 茶葉は入ってる? 紅茶の種類は? 何粉を使ったの?」
 
 セシルの質問攻めにティーナは答えられず口ごもる。
 アリスはティーナが料理をしないのを知っている。だからあのパンはティーナではなくシェフが作った物で間違いない。
 セシルが言っていた『何を使ったか聞けばわかる』がこれなのだとアリスはティーナに同情する。
 あの言葉の通り、たくさん練習して自分で作って焼けばちゃんと答えられたこともティーナはシェフに『美味しいパンを作って』とだけ言って任せてしまったのだろう。そしてシェフから言われた『紅茶の生地で作ったクルミとレーズンのパンです』をそのまま伝えた。
 
「パン粉に決まってるじゃないですか。セシル様はそんなことも知らないんですか?」
 
 自信満々に答えたティーナの回答に小さく噴き出したセシルはすぐに大声で笑い始めた。響き渡る笑い声は次第にバカにしているように聞こえ、ティーナの顔に怒りが戻っていく。
 
「パン粉って…ッ、あははははは! 君って本当にバカだね! パン粉でパン作る奴がどこにいるの? もうっ、やめてよ! 笑いすぎて死にそうだ!」
 
 セシルにつられて笑う生徒たちの声に顔を赤くしたティーナはパンを拾い集めてそのまま走って校舎へと消えていった。
 恥を欠かされたのは生まれて初めてだろうティーナがよからぬことを考えていなければいいがと不安になるアリスはヴィンセルに頭を下げて追いかけようとしたのだが、腕を掴んで止められる。
 
「ッ!? あ、あの……?」
「血が出ている」
「え? あ、擦り傷ですから大丈夫です。」

 衝撃を緩和するために反射的についた手のひらが少し擦れていた。

「カイルに知られたら大変だ。すぐに医務室に行ったほうがいい。早く治療すれば傷は残らない」
「ハンカチなら持っていますからヴィンセル様のハンカチは———」
 
 少し血が滲んでいるだけの場所にハンカチを押し当ててくれたヴィンセルにアリスはときめきよりも血の気が引くのを感じた。
 
(このハンカチ、一体いくらするの?)
 
 王子が貸してくれたハンカチをまさか洗濯して返すわけにはいかず、新品で返さなければならないと頭にはあるものの王室御用たちのハンカチがいくらするのか気にしたことがないだけに調べるのも怖い。
 
「で、でもヴィンセル様はハンカチが必要なのでは……」
「……じゃあ、君のハンカチを貸してもらえるかな?」
 
 正気か?とその発言に疑いを持つアリスは凍ったように固まること三秒。ポケットから恐る恐るハンカチを出してみると冗談ではなかったらしく、ヴィンセルの手に渡った。
 薄桃色のシルクのハンカチ。男性が持つには可愛すぎるが、ヴィンセルは苦笑を見せない。 

「すまない。少し借りておく」
「ご自宅に到着次第捨ててくださって結構ですので」
「新しいのを買って返す。借りたとバレたらカイルに絞殺されそうだ」
「王子にそのようなこと———」
 
 さっきの様子を見るに、するはずがないとは言えず苦笑するアリスとヴィンセルの間にセシルが立っていた。
 
「仲良いね」
「キャアッ!」
「セシル、さっきのはやりすぎだ」
「僕、何かしたっけ? 何粉使ったのって聞いたら彼女がパン粉だって言って皆を笑わせただけ。僕は何もしてない」
「……まあ、ほどほどにな」
「アリス、医務室行こう。ついてってあげる」
 
 ヴィンセルの言葉を無視してアリスの手を引っ張るセシルについて行きながら顔だけ振り返ってヴィンセルに軽く頭を下げた。
 軽く手を上げて返してくれるヴィンセルがなぜ急に気にかけてくれたのかわからず、遅れて込み上げるときめきにアリスは恋する乙女の顔をしていた。
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