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仲直りに必要なこと
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アリシアとナディアがお茶をしているとそれを見たナディアが怒ってアリシアを呼ぶもアリシアは無視
昼休み、アリシアだけがアリスの教室にやってきた。
「アリス、ちょっとよろしくて?」
「アリシア様、だけ、ですか?」
「あら、わたくしだけではご不満ですの?」
「あ、いえッ、そういうわけではないんです! いつもお二人で行動されてるのでアリシア様お一人は珍しいと思っただけです」
ナディアには嫌われているためアリシアだけが来るのは納得だが、アリシアが来た理由がわからなかった。
「ナディアにはうんざりしていますの。あの子のバカさ加減には腹が立ちますわ」
「何かありました?」
「いいえ、いつも通りですわ。いつも通りの中にあるバカに拍車がかかって腹が立ってますの。だからお茶に付き合ってくださらない?」
「ええ、それはもちろん……セシル、いい?」
「僕も行くの?」
先に迎えに来ていたセシルに問いかけるとあからさまに嫌そうな顔でアリスを見る。
「申し訳ありません、アボット庭園は男子禁制ですの」
「じゃあ僕のが先だから君は放課後にしてよ」
「放課後は用事がありますの。今日は譲っていただけませんこと? 毎日一緒にいるのですから今日ぐらいはよろしいんじゃなくて?」
「今日と同じ日は二度とやってこないんだよ。今日は一日経つと昨日だし、明日はまだ来てない。僕にとって今日の日付の中でアリスと過ごすことが大事なんだよ」
「じゃあもうよろしくて? 過ごしましたものね?」
セシルに一切の媚びを見せないアリシアのハッキリとした物言いをセシルは不快には感じていない。むしろナディアのように媚びる女性のほうが苦手だった。
「わかったよ。でもこれは貸しだからね」
「あら、紳士がレディに貸しだなんて怖い」
「僕は一般的な紳士じゃないから」
「それなら納得ですわ。では貸しということでお借りしますわね」
立ち上がって二人で出ていくのを見たセシルはそのまま面倒な人間に絡まれないよう、いつものメンバーがいる庭園へと向かった。
「急に誘ってしまってごめんなさい」
「とんでもない。アリシア様とお茶ができて嬉しいです」
「わたくしもですわ。アリスとお茶ができなくなって退屈でしたの」
アリシアはいつも挨拶を返してくれた。アリシアには嫌われていないのだと安堵していたのだが、こうしてお茶会ができるとは思っていなかっただけに突然ではあったものの久しぶりのお茶会に喜びを感じている。
相変わらず立派なお茶会のセット。お茶好きのアボット夫人の娘らしくアリシアもまたお茶好きで有名。
「ナディア様と喧嘩でもされたのですか?」
「いいえ。ああ言ったのはアリスを譲ってもらうためですわ」
「あ、そうだったんですね」
「まあ、結局貸しになってしまったわけですけど」
人に甘くないセシルが快く譲ってくれるとは思っていなかったアリシアにとって貸しという言葉に大した驚きはなかった。譲ってくれたことのほうが驚きだ。
「セシルに行っておきますから」
「あら、妻のような言い方ですわね」
「アリシア様からかわないでください!」
明らかにからかっているような言い方に抗議をすると肩を揺らした笑いが返ってくる。
「セシルとの仲は深まりましたの?」
どういう意味だろうと疑問はあれど、どう答えてもからかわれそうでアリスは口を開かないまま窺うように視線を向けるだけにした。
「あら、キスしまくっている仲でしょう?」
「ッ!? ちょっ、えっ、なん、えぇッ!?」
キス“している”ではなく“しまくっている”と言うアリシアが一体どこまで知っているのか怖くなり、アリスは思わず動揺してしまう。
「あら、隠さなくてもよろしくてよ。誰にも言うつもりはありませんから」
「なんで……しまくっている、と?」
まずそこが聞きたいとアリスのほうから問いかけた。すると待ってましたと言わんばかりの怪しい笑顔を浮かべるアリシアが身を乗り出して顔を寄せる。
「だって目撃しましたもの。セシル様がアリスにキスしているところ」
「ど、どこで?」
「カフェテリアの奥の廊下の向かい側の廊下から」
廊下の壁はガラス張りに鳴っていて校舎の反対側がよく見える。だが、あるのは準備室ばかりで教師以外は通らないはず。なぜアリシアがと餌を求める魚のように口をパクパクさせるアリスを見て目を細めるアリシアは完全にこの状況を楽しんでいた。
「わたくし、散歩が趣味ですの」
「だからってそんな場所……」
「あら、人が歩かない場所を歩くのは穏やかでいいものですわよ」
「ぁぁぁぁぁ……」
今にも消えそうな声を漏らすアリスに反論の言葉はない。この学園の生徒がどこを歩こうとアリスに咎める権利などあるはずがない。
ああ、どうしたものかと今更焦ったところで目撃されているのでは誤魔化すことはできない。
何より“しまくっている”と言うのは目撃回数が一回ではないからで、アリスは別の意味で開いた口が塞がらなかった。
「うふふっ、いいじゃありませんの。キスは愛情の証。されて嫌な少女はいませんわよ。それとも、嫌でしたの?」
「嫌では──」
「でしょうね。あんなに何回も受け入れていて嫌なわけありませんもの」
「アリシア様、やっぱり意外と意地悪ですね」
「ええ、よく言われますわ」
上機嫌に笑うアリシアに降参だと首を振れば紅茶を一口飲んで大きく息を吐き出し覚悟を決めた。
それがわかったアリシアも乗り出していた身体を戻して同じように紅茶を一口飲む。
「じゃあ、話していただきますわよ」
「はい」
アリシアたちと話さなくなってからのことを根掘り葉掘り聞かれたアリスはどうせ正直に答えるまで逃してもらえないのだからとセシルには申し訳ないが、アリシアの誰にも話さないを信じて事細かに話した。
「キャー! ロマンチックですわね! ディートハルトにも見習わせたいぐらいですわ!」
話し終えると興奮が爆発したように高い声を上げてハシャぐアリシアとは対照的にアリスは苦笑する。
「それで彼を好きにならないなんて冗談でしょう?」
「これが恋なのかどうかわからないんです」
「まあ、難しいですわね。わたくしもディートハルトから婚約の申し込みをされたときはまだ恋なんてしてなかったような」
「そうなんですか?」
「ええ、誰もが当たり前のように口にする恋を明確に答えられる人なんているのかしら? わたくしたちの歳で」
恋という言葉は当たり前にあっても自由恋愛が少ない貴族の中で恋をしていると豪語できる者は少ないだろう。
「今は恋をしていますか?」
「今はね。聖フォンスを卒業したら結婚するつもりですのよ。あ、結婚式には来てくださる?」
「もちろんです」
「じゃあリストに入れておきますわね」
好きでもない相手と婚約して恋に変わったアリシアが羨ましい。
「恋かもしれないのに恋と言いきれなくてセシルにまだ応えられずにいるんです」
「紳士は待つ生き物ですもの、待たせておけばいいですわ」
慣れているような言い方にディートハルトなる婚約者は苦労しているような気がしたが、それでも結婚するつもりだと言ったアリシアの表情が優しかったことから全て受け止められる優しい人なのではないかと想像する。
「そのうちハッキリしますわ。まだ付き合いが短いんですもの。急いで出す必要は──」
「アリシアッ!」
上から聞こえた声にアリスが上を見上げるとナディアが窓から顔を出しているのが見えた。
アリシアは反応しない。
「アリシアこっち来て! どうしてわたくしを置いていきましたの!?」
上から怒声が降ってくるのにアリシアはまるで聞こえていないように反応せずクッキーに手を伸ばし、サクッと小気味良い音を立てて齧っている。
「もうッ! そこに行くから動かないで!」
顔を引っ込めたナディアが今からここに来ると思うと汗がながれそうなほど緊張する。
アリシアを見てもやはり何も気にしていないような素振りでシェフにクッキーへの文句をつけているだけ。
話したいと思っていたため逃げることはしないが、内心穏やかではなかった。
「どうしてアリスとお茶なんてしてますの!?」
早歩きで来たのか、ナディアが到着するのに時間はあまりかからなかった。
さすがに目の前まで来たナディアを無視することはできないのか、アリシアは大きなため息をついてから顔を向ける。
「わたくしとアリスは元々お茶友達ですもの」
「ちょっとこっち来て!」
「お断りしますわ」
「アリシアッ!」
怒るナディアにアリシアがスプーンを投げつけた。制服についた一滴分の紅茶が白い制服にじわりと薄いシミを作る。
「あなたがアリスを一年二年と無視し続けるのは勝手ですけれど、わたくしまで巻き込むのはやめてくださる? いい迷惑ですわ」
「アリスの味方だっていうの?」
「当然でしょう? 勝手に苛立って、勝手に敵視して、勝手に無視する勝手な人間の味方を誰がすると思っていますの?」
「わたくしたち、姉妹ですのよ?」
「その発言も随分と身勝手ですわね」
威圧的な言い方をするアリシアをナディアが睨みつけた。
「あなたもアリスもスタートラインは同じでしたのよ」
「同じじゃありませんわ!アリスは共通の相手であるカイル様がいましたもの!」
「でもアリスは彼の友達じゃなかったでしょう? 認識されていただけ。あなただって認識されていた。どこが違うというの?」
「アリスはズルいですわ!」
「論点をズラさないで。わたくしが聞いているのは二人のスタートラインが違うと言った理由ですのよ」
「だ、だって……アリスばっかり……」
ナディアの言い方にアリシアは心底呆れたように深いため息を吐き出して首を振る。
「今のあなたは一緒にいるのも恥ずかしいぐらい幼稚でどうしようもない人間ですわね」
「わたくしだけが悪いわけじゃありませんわ!」
「ほんの一パーセントでもアリスに悪い所があったのなら聞きますわよ」
「それは……」
「あなたが持っている感情は欲しい物を指をくわえていただけの子供が努力をしてそれを手に入れた子供を逆恨みしているのと同じですのよ」
「だってアリスはッ……」
そこまで言ったナディアから次の言葉が出てくることはなかった。
「ナディア様」
立ち上がったアリスが二人に寄ってナディアに声をかけた。
「少し、お話しませんか?」
「アリス、この五歳児よりも幼稚な女に情けをかける必要はありませんわ。反省するまで我が家の地下にでも押し込んでやりますから」
「どうかそのようなことなさらず、ナディア様と少しだけお話させてください」
お人好しだと呆れてしまうアリシアだが、拒否はせずナディアの背中を少し強めに押して椅子に座るよう促す。
昼休み、アリシアだけがアリスの教室にやってきた。
「アリス、ちょっとよろしくて?」
「アリシア様、だけ、ですか?」
「あら、わたくしだけではご不満ですの?」
「あ、いえッ、そういうわけではないんです! いつもお二人で行動されてるのでアリシア様お一人は珍しいと思っただけです」
ナディアには嫌われているためアリシアだけが来るのは納得だが、アリシアが来た理由がわからなかった。
「ナディアにはうんざりしていますの。あの子のバカさ加減には腹が立ちますわ」
「何かありました?」
「いいえ、いつも通りですわ。いつも通りの中にあるバカに拍車がかかって腹が立ってますの。だからお茶に付き合ってくださらない?」
「ええ、それはもちろん……セシル、いい?」
「僕も行くの?」
先に迎えに来ていたセシルに問いかけるとあからさまに嫌そうな顔でアリスを見る。
「申し訳ありません、アボット庭園は男子禁制ですの」
「じゃあ僕のが先だから君は放課後にしてよ」
「放課後は用事がありますの。今日は譲っていただけませんこと? 毎日一緒にいるのですから今日ぐらいはよろしいんじゃなくて?」
「今日と同じ日は二度とやってこないんだよ。今日は一日経つと昨日だし、明日はまだ来てない。僕にとって今日の日付の中でアリスと過ごすことが大事なんだよ」
「じゃあもうよろしくて? 過ごしましたものね?」
セシルに一切の媚びを見せないアリシアのハッキリとした物言いをセシルは不快には感じていない。むしろナディアのように媚びる女性のほうが苦手だった。
「わかったよ。でもこれは貸しだからね」
「あら、紳士がレディに貸しだなんて怖い」
「僕は一般的な紳士じゃないから」
「それなら納得ですわ。では貸しということでお借りしますわね」
立ち上がって二人で出ていくのを見たセシルはそのまま面倒な人間に絡まれないよう、いつものメンバーがいる庭園へと向かった。
「急に誘ってしまってごめんなさい」
「とんでもない。アリシア様とお茶ができて嬉しいです」
「わたくしもですわ。アリスとお茶ができなくなって退屈でしたの」
アリシアはいつも挨拶を返してくれた。アリシアには嫌われていないのだと安堵していたのだが、こうしてお茶会ができるとは思っていなかっただけに突然ではあったものの久しぶりのお茶会に喜びを感じている。
相変わらず立派なお茶会のセット。お茶好きのアボット夫人の娘らしくアリシアもまたお茶好きで有名。
「ナディア様と喧嘩でもされたのですか?」
「いいえ。ああ言ったのはアリスを譲ってもらうためですわ」
「あ、そうだったんですね」
「まあ、結局貸しになってしまったわけですけど」
人に甘くないセシルが快く譲ってくれるとは思っていなかったアリシアにとって貸しという言葉に大した驚きはなかった。譲ってくれたことのほうが驚きだ。
「セシルに行っておきますから」
「あら、妻のような言い方ですわね」
「アリシア様からかわないでください!」
明らかにからかっているような言い方に抗議をすると肩を揺らした笑いが返ってくる。
「セシルとの仲は深まりましたの?」
どういう意味だろうと疑問はあれど、どう答えてもからかわれそうでアリスは口を開かないまま窺うように視線を向けるだけにした。
「あら、キスしまくっている仲でしょう?」
「ッ!? ちょっ、えっ、なん、えぇッ!?」
キス“している”ではなく“しまくっている”と言うアリシアが一体どこまで知っているのか怖くなり、アリスは思わず動揺してしまう。
「あら、隠さなくてもよろしくてよ。誰にも言うつもりはありませんから」
「なんで……しまくっている、と?」
まずそこが聞きたいとアリスのほうから問いかけた。すると待ってましたと言わんばかりの怪しい笑顔を浮かべるアリシアが身を乗り出して顔を寄せる。
「だって目撃しましたもの。セシル様がアリスにキスしているところ」
「ど、どこで?」
「カフェテリアの奥の廊下の向かい側の廊下から」
廊下の壁はガラス張りに鳴っていて校舎の反対側がよく見える。だが、あるのは準備室ばかりで教師以外は通らないはず。なぜアリシアがと餌を求める魚のように口をパクパクさせるアリスを見て目を細めるアリシアは完全にこの状況を楽しんでいた。
「わたくし、散歩が趣味ですの」
「だからってそんな場所……」
「あら、人が歩かない場所を歩くのは穏やかでいいものですわよ」
「ぁぁぁぁぁ……」
今にも消えそうな声を漏らすアリスに反論の言葉はない。この学園の生徒がどこを歩こうとアリスに咎める権利などあるはずがない。
ああ、どうしたものかと今更焦ったところで目撃されているのでは誤魔化すことはできない。
何より“しまくっている”と言うのは目撃回数が一回ではないからで、アリスは別の意味で開いた口が塞がらなかった。
「うふふっ、いいじゃありませんの。キスは愛情の証。されて嫌な少女はいませんわよ。それとも、嫌でしたの?」
「嫌では──」
「でしょうね。あんなに何回も受け入れていて嫌なわけありませんもの」
「アリシア様、やっぱり意外と意地悪ですね」
「ええ、よく言われますわ」
上機嫌に笑うアリシアに降参だと首を振れば紅茶を一口飲んで大きく息を吐き出し覚悟を決めた。
それがわかったアリシアも乗り出していた身体を戻して同じように紅茶を一口飲む。
「じゃあ、話していただきますわよ」
「はい」
アリシアたちと話さなくなってからのことを根掘り葉掘り聞かれたアリスはどうせ正直に答えるまで逃してもらえないのだからとセシルには申し訳ないが、アリシアの誰にも話さないを信じて事細かに話した。
「キャー! ロマンチックですわね! ディートハルトにも見習わせたいぐらいですわ!」
話し終えると興奮が爆発したように高い声を上げてハシャぐアリシアとは対照的にアリスは苦笑する。
「それで彼を好きにならないなんて冗談でしょう?」
「これが恋なのかどうかわからないんです」
「まあ、難しいですわね。わたくしもディートハルトから婚約の申し込みをされたときはまだ恋なんてしてなかったような」
「そうなんですか?」
「ええ、誰もが当たり前のように口にする恋を明確に答えられる人なんているのかしら? わたくしたちの歳で」
恋という言葉は当たり前にあっても自由恋愛が少ない貴族の中で恋をしていると豪語できる者は少ないだろう。
「今は恋をしていますか?」
「今はね。聖フォンスを卒業したら結婚するつもりですのよ。あ、結婚式には来てくださる?」
「もちろんです」
「じゃあリストに入れておきますわね」
好きでもない相手と婚約して恋に変わったアリシアが羨ましい。
「恋かもしれないのに恋と言いきれなくてセシルにまだ応えられずにいるんです」
「紳士は待つ生き物ですもの、待たせておけばいいですわ」
慣れているような言い方にディートハルトなる婚約者は苦労しているような気がしたが、それでも結婚するつもりだと言ったアリシアの表情が優しかったことから全て受け止められる優しい人なのではないかと想像する。
「そのうちハッキリしますわ。まだ付き合いが短いんですもの。急いで出す必要は──」
「アリシアッ!」
上から聞こえた声にアリスが上を見上げるとナディアが窓から顔を出しているのが見えた。
アリシアは反応しない。
「アリシアこっち来て! どうしてわたくしを置いていきましたの!?」
上から怒声が降ってくるのにアリシアはまるで聞こえていないように反応せずクッキーに手を伸ばし、サクッと小気味良い音を立てて齧っている。
「もうッ! そこに行くから動かないで!」
顔を引っ込めたナディアが今からここに来ると思うと汗がながれそうなほど緊張する。
アリシアを見てもやはり何も気にしていないような素振りでシェフにクッキーへの文句をつけているだけ。
話したいと思っていたため逃げることはしないが、内心穏やかではなかった。
「どうしてアリスとお茶なんてしてますの!?」
早歩きで来たのか、ナディアが到着するのに時間はあまりかからなかった。
さすがに目の前まで来たナディアを無視することはできないのか、アリシアは大きなため息をついてから顔を向ける。
「わたくしとアリスは元々お茶友達ですもの」
「ちょっとこっち来て!」
「お断りしますわ」
「アリシアッ!」
怒るナディアにアリシアがスプーンを投げつけた。制服についた一滴分の紅茶が白い制服にじわりと薄いシミを作る。
「あなたがアリスを一年二年と無視し続けるのは勝手ですけれど、わたくしまで巻き込むのはやめてくださる? いい迷惑ですわ」
「アリスの味方だっていうの?」
「当然でしょう? 勝手に苛立って、勝手に敵視して、勝手に無視する勝手な人間の味方を誰がすると思っていますの?」
「わたくしたち、姉妹ですのよ?」
「その発言も随分と身勝手ですわね」
威圧的な言い方をするアリシアをナディアが睨みつけた。
「あなたもアリスもスタートラインは同じでしたのよ」
「同じじゃありませんわ!アリスは共通の相手であるカイル様がいましたもの!」
「でもアリスは彼の友達じゃなかったでしょう? 認識されていただけ。あなただって認識されていた。どこが違うというの?」
「アリスはズルいですわ!」
「論点をズラさないで。わたくしが聞いているのは二人のスタートラインが違うと言った理由ですのよ」
「だ、だって……アリスばっかり……」
ナディアの言い方にアリシアは心底呆れたように深いため息を吐き出して首を振る。
「今のあなたは一緒にいるのも恥ずかしいぐらい幼稚でどうしようもない人間ですわね」
「わたくしだけが悪いわけじゃありませんわ!」
「ほんの一パーセントでもアリスに悪い所があったのなら聞きますわよ」
「それは……」
「あなたが持っている感情は欲しい物を指をくわえていただけの子供が努力をしてそれを手に入れた子供を逆恨みしているのと同じですのよ」
「だってアリスはッ……」
そこまで言ったナディアから次の言葉が出てくることはなかった。
「ナディア様」
立ち上がったアリスが二人に寄ってナディアに声をかけた。
「少し、お話しませんか?」
「アリス、この五歳児よりも幼稚な女に情けをかける必要はありませんわ。反省するまで我が家の地下にでも押し込んでやりますから」
「どうかそのようなことなさらず、ナディア様と少しだけお話させてください」
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