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仲直りに必要なこと3
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「私はセシルに好かれるための努力は何もしていません。趣味で焼いたパンを気に入ってくれて、まるで餌付けした子犬のように一緒に行動してくれるようになったんです。ナディア様のようにセシルに心から惹かれている方からすれば、それはズルいと言えることだと思います。好かれて良い気になっている」
あえて聞こえるように言う陰口にも慣れた今なら思い出したところで辛くはない。言われる陰口の内容の中にもナディアと同じことを言う女子生徒は少なくなかった。だからきっとそうなのだろうと肯定する。
言われたからそうだと思っているのではなく、アリスがナディアの立場でもきっとそう思う。
なんの努力もしていないくせにどうして好かれるんだと。
だが、それはアリスにもわからない理由だ。セシルに聞いても『アリスだから好きになった』と言うばかりで納得のいく答えはないが、それが恋というものならそれで納得するしかない。
「セシル様のしていることはエックハルトがわたくしにしてくれることと同じなのに、わたくしはそれを理解しようとしなかった。エックハルトはどんなレディが寄ってきても隙を与えず断ってくれますの。ナディア・アボットが好きだからと。それと全く同じなのに……わたくしはどうして贔屓などと……あああああぁぁああああああッ!」
「うるさっ……」
再び泣き叫ぶナディアにアリシアが思わず呟いた冷たい言い方にアリスは驚くもアリスに向ける笑顔は優しい。
「子供のように無視をして、あなたを傷つけただけでなく、セシル様にまで嫌われてわたくしッわたくしッ……もうこの学園に通えませんわ!」
「お父様に言えば……言っても意味ありませんわね。娘が恥晒しだと知っても庇うのは目に見えてますわ」
「ま、まあまあ、誰もナディア様の退学は望んでいませんから」
もともと友達がいなかったアリスにとってナディア一人の無視に傷つきはしたが、人生に痛手はなかった。
これがアリスに友人が多く、ナディアの指示によって友人のほとんどが無視をしてきたらアリスは泣きながら不登校になっていただろう。
しかし、それができるだけの友人がいなかったためナディア一人の無視で済んだ。
だからそれによって不登校を考えたり涙を流したりということはなく、ナディアを許せないほど怒っているというわけでもなかった。
「もう一度アリスに誠心誠意謝りなさい」
「も、もういいで──」
「謝りなさい!」
アリスの言葉を遮って怒鳴るアリシアにナディアが再び謝罪する。
「本当にごめんなさい! 本当にごめんなさいアリス!」
「いいんですよ、ナディア様。もう謝らないでください。また一緒にお茶会しましょう?」
「アリス……ごめんなさいッ」
グチャグチャの顔を歪ませて嗚咽をこぼすナディアをこれ以上どうすればいいのかがわからず、アリスはとりあえず傍に寄って背中を撫でた。
それから暫くは泣き止まないナディアを慰め続け、アリシアの提案で解散という話になり三人は別れた。
「ふー……疲れた……」
泣き続ける妹を慰める兄はこんな気持ちだったのだろうかと馬車に揺られながら思い出すのは何かあるとすぐに泣いていた幼少期の自分。
大丈夫だと言われても安心できず怖い怖いと泣き続ける妹をどうにかして泣き止ませようとした結果、妹が泣き止むのは不安が解消されてからだと気付いた兄はその不安を根幹から解消することを決めた。
スカートを捲られる恥ずかしさと不安を感じているならそうする指を折って二度とさせないよう恐怖を与える。
突き飛ばしたら突き飛ばし、血が流れれば血を流させる。
それら全てがやり返しではなく、妹の不安を取り除くためにしたことだと気付いたのはリオが国外追放されたときだった。
『もう大丈夫だ。これでお前が不安になることはなくなったからな』
笑顔でそう言った兄をここまで狂わせてしまったのは自分だとも思った。
泣き止ませることも慰めることも簡単なようで簡単ではない。それを兄は今まで嫌な顔一つ見せずにやってきた。きっとこれからもそうするだろう。
やりすぎなことは多々あったが、それでも感謝している。実際、兄がいるから安心している部分はあるのだ。
「……甘えすぎだわ」
オリヴィアの言葉は間違っていない部分もあった。自分が離れないから、頼ってしまうから兄は兄として妹を守らなければと思い続けた。それを使命だと感じて今もそうしている。
妹を守るためには完璧でなければならない。完璧でなければ誰かに隙を突かれる。なろうとしてなった完璧。それを超える人間でなければ妹は守れないと思っているのだ。
甘えすぎた結果が今だとため息をつくアリスは自分で何も考えずボーッと生きてきた自分を恥じた。
「あれ?」
家に着くまでに何度ため息をこぼしたかわからない。
兄に会ったら今まで甘えすぎていたことへの謝罪と感謝を伝えようと決めて馬車を降りると見知った顔が立っていた。
「リオちゃん?」
リオが立っているということはカイルは既に帰っているということ。
「いつから立ってたの?」
「一時間前」
「そんな前に生徒会終わらないでしょ?」
「今日は早く終わったんだよ」
「嘘! 本当に!? ずっと立ってたの!? 中に入ればよかったのに!」
そんなことあるのかと慌てるアリスに笑うリオが冗談だと告げる。
「さっき降りたばっかだ」
「もう……信じたじゃない」
安堵するアリスを見下ろしながら頬を掻くリオが何か言いたげにしているのを見てアリスは何も言わずその様子をジッと見つめる。
「あ、あのさ……」
「ん?」
「墓参り、行くんだけど……一緒に行かねぇか?」
「行く」
「え?」
即答すぎる返事に思わず目を見開いたリオ。リオが予想していた返事は「いいの?」だったが、実際は違った。
「ずっと行きたかった。でも、おばさんには私のせいで苦労かけたから言い出せなくて」
「なんでお前のせいなんだよ」
「だって私がもっと運動神経が良かったらあそこまで大袈裟なことになってなかったかもしれない。そしたらお兄様だってあんなに怒ることなくて、皆がいつも通り過ごせたかもしれないのに私……」
ずっと後悔していた。傷は残ったが、後遺症はなかった。だから国外追放なんて大袈裟なことはするべきではなかったのだ。
慣れない土地での苦労もあっただろう。そこで適切な治療は受けられたのだろうか。もしここにいれば助かっていたのではないだろうかと考えてしまう。
どこまで口を出していいのかわからず、ずっと何も聞けなかった。
「お前のせいじゃねぇよ。俺がお前を突き飛ばさなきゃあんなことにはならなかったんだ。それにお前には悪いが、母親は新しい土地での生活を謳歌してた」
「……それならいいんだけど」
リオは優しい。だからそれが真実かどうかはわからない。傷つけないために嘘をついている可能性もある。それでもアリスは真実は確かめない。本当かと警察のように尋問するつもりもない。
「ありがとう、リオちゃん」
「なんだよ」
「リオちゃんは優しいね」
照れたように唇を尖らせるリオの表情に微笑みながらアリスは鞄から手帳を取り出しスケジュールを確認する。
「ビッシリ書き込まれてんな。まだマナー講師なんか雇ってんのかよ」
「だってマナーは大事だもの」
「パーティーに出席しない奴にマナーが必要なのか? どこで披露すんだよ」
「……そのうちするの」
マナー講師を雇っているのは自分のためではなく家のため。自分だけが恥を描くのならいいが、両親の教育方針を疑われてしまうのは避けたい。
リオの言うことは尤もだが、まだ止める気はなかった。
「ピアノ、刺繍、マナー、家庭教師……オエッ、吐き気がする」
拘束が嫌いなリオにとってぎっしりと詰め込まれたスケジュールは見ているだけで吐き気がした。
「これでも減らしたほうなんだから」
「何を減らしたんだ?」
「乗馬と射撃」
「やりゃいいだろ。俺のいた国では狩りに出てる女は多かったぞ」
「興味ない。狩りなんて悪趣味よ」
狩りは二度としないと誓った。両親はまた射撃の練習をすればいいのではないかと言ってきたが断った。
馬は好きだが、今は乗っていない。
アリスがお願いすれば父親も兄もすぐに射撃練習の許可申請を出してくれるだろう。でもアリスはやはり興味がなかった。
「いつ行く? 予定全部変更してもらうから」
「お前の都合の良い日に合わせる。いつ行っても同じだ」
「もうすぐおばさんの誕生日でしょ?」
「まあ……そうだけど……」
「だから誘ったんじゃないの?」
リオは答えなかったが、アリスの中では確信があった。だから付属のペンでリオの母親の誕生日を丸で囲んで予定に線を引く。
「一緒に行こ。お花も用意しておくね」
「そんな豪華なのはいらねぇぞ」
「うん」
「絶対豪華なのにするつもりだろ」
「うん」
「ったく……」
アリスの返事でわかるリオは呆れながらも顔には笑みをこぼし、アリスの頭を掻き乱すように撫でた。
「迎えに行くから待ってろ」
「馬車で迎えに行くよ?」
「女に迎えに来させるつもりか?」
「変なプライド。リオちゃんにもそういうのあったのね」
「俺に興味ないんだな」
「そんなことないよ? もう興味津々」
「へー、そりゃ気持ち悪ィわ」
同時に吹き出して笑い声を響かせる二人。リオはこのまま離れるのが惜しかった。
「馬車、貸そうか?」
「歩いて帰れる距離だっての」
「疲れてない?」
「バカにすんな」
「心配してるだけ」
「あっそ。いらねー心配だな」
帰る合図を送るアリスと同じ気持ちではないのだとわかると少し拗ねた反応を見せるリオにアリスは首を傾げる。
「ちゃんと遅れず迎えに来てよ?」
「寝坊したら置いてくからな」
「わかってる」
「ならいい。じゃあな」
アリスの頭に手を乗せて別れを告げるリオに頷いて手を振った。
男だから安全というわけではない。リオの風貌と背があれば大丈夫な気もするが、若さから考えるとチンピラに絡まれないとも限らないと極力見えなくなるまで見送ろうと立ったままでいると途中でリオが立ち止まって振り向いた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言ってまた歩き出したリオに小さく微笑みながら挨拶を返したアリスはリオが見えなくなってから階段を上がっていった。
階段の途中で振り返りリオが見えないか確認し、見えないのを確認して中へと入った。
あえて聞こえるように言う陰口にも慣れた今なら思い出したところで辛くはない。言われる陰口の内容の中にもナディアと同じことを言う女子生徒は少なくなかった。だからきっとそうなのだろうと肯定する。
言われたからそうだと思っているのではなく、アリスがナディアの立場でもきっとそう思う。
なんの努力もしていないくせにどうして好かれるんだと。
だが、それはアリスにもわからない理由だ。セシルに聞いても『アリスだから好きになった』と言うばかりで納得のいく答えはないが、それが恋というものならそれで納得するしかない。
「セシル様のしていることはエックハルトがわたくしにしてくれることと同じなのに、わたくしはそれを理解しようとしなかった。エックハルトはどんなレディが寄ってきても隙を与えず断ってくれますの。ナディア・アボットが好きだからと。それと全く同じなのに……わたくしはどうして贔屓などと……あああああぁぁああああああッ!」
「うるさっ……」
再び泣き叫ぶナディアにアリシアが思わず呟いた冷たい言い方にアリスは驚くもアリスに向ける笑顔は優しい。
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もともと友達がいなかったアリスにとってナディア一人の無視に傷つきはしたが、人生に痛手はなかった。
これがアリスに友人が多く、ナディアの指示によって友人のほとんどが無視をしてきたらアリスは泣きながら不登校になっていただろう。
しかし、それができるだけの友人がいなかったためナディア一人の無視で済んだ。
だからそれによって不登校を考えたり涙を流したりということはなく、ナディアを許せないほど怒っているというわけでもなかった。
「もう一度アリスに誠心誠意謝りなさい」
「も、もういいで──」
「謝りなさい!」
アリスの言葉を遮って怒鳴るアリシアにナディアが再び謝罪する。
「本当にごめんなさい! 本当にごめんなさいアリス!」
「いいんですよ、ナディア様。もう謝らないでください。また一緒にお茶会しましょう?」
「アリス……ごめんなさいッ」
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大丈夫だと言われても安心できず怖い怖いと泣き続ける妹をどうにかして泣き止ませようとした結果、妹が泣き止むのは不安が解消されてからだと気付いた兄はその不安を根幹から解消することを決めた。
スカートを捲られる恥ずかしさと不安を感じているならそうする指を折って二度とさせないよう恐怖を与える。
突き飛ばしたら突き飛ばし、血が流れれば血を流させる。
それら全てがやり返しではなく、妹の不安を取り除くためにしたことだと気付いたのはリオが国外追放されたときだった。
『もう大丈夫だ。これでお前が不安になることはなくなったからな』
笑顔でそう言った兄をここまで狂わせてしまったのは自分だとも思った。
泣き止ませることも慰めることも簡単なようで簡単ではない。それを兄は今まで嫌な顔一つ見せずにやってきた。きっとこれからもそうするだろう。
やりすぎなことは多々あったが、それでも感謝している。実際、兄がいるから安心している部分はあるのだ。
「……甘えすぎだわ」
オリヴィアの言葉は間違っていない部分もあった。自分が離れないから、頼ってしまうから兄は兄として妹を守らなければと思い続けた。それを使命だと感じて今もそうしている。
妹を守るためには完璧でなければならない。完璧でなければ誰かに隙を突かれる。なろうとしてなった完璧。それを超える人間でなければ妹は守れないと思っているのだ。
甘えすぎた結果が今だとため息をつくアリスは自分で何も考えずボーッと生きてきた自分を恥じた。
「あれ?」
家に着くまでに何度ため息をこぼしたかわからない。
兄に会ったら今まで甘えすぎていたことへの謝罪と感謝を伝えようと決めて馬車を降りると見知った顔が立っていた。
「リオちゃん?」
リオが立っているということはカイルは既に帰っているということ。
「いつから立ってたの?」
「一時間前」
「そんな前に生徒会終わらないでしょ?」
「今日は早く終わったんだよ」
「嘘! 本当に!? ずっと立ってたの!? 中に入ればよかったのに!」
そんなことあるのかと慌てるアリスに笑うリオが冗談だと告げる。
「さっき降りたばっかだ」
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安堵するアリスを見下ろしながら頬を掻くリオが何か言いたげにしているのを見てアリスは何も言わずその様子をジッと見つめる。
「あ、あのさ……」
「ん?」
「墓参り、行くんだけど……一緒に行かねぇか?」
「行く」
「え?」
即答すぎる返事に思わず目を見開いたリオ。リオが予想していた返事は「いいの?」だったが、実際は違った。
「ずっと行きたかった。でも、おばさんには私のせいで苦労かけたから言い出せなくて」
「なんでお前のせいなんだよ」
「だって私がもっと運動神経が良かったらあそこまで大袈裟なことになってなかったかもしれない。そしたらお兄様だってあんなに怒ることなくて、皆がいつも通り過ごせたかもしれないのに私……」
ずっと後悔していた。傷は残ったが、後遺症はなかった。だから国外追放なんて大袈裟なことはするべきではなかったのだ。
慣れない土地での苦労もあっただろう。そこで適切な治療は受けられたのだろうか。もしここにいれば助かっていたのではないだろうかと考えてしまう。
どこまで口を出していいのかわからず、ずっと何も聞けなかった。
「お前のせいじゃねぇよ。俺がお前を突き飛ばさなきゃあんなことにはならなかったんだ。それにお前には悪いが、母親は新しい土地での生活を謳歌してた」
「……それならいいんだけど」
リオは優しい。だからそれが真実かどうかはわからない。傷つけないために嘘をついている可能性もある。それでもアリスは真実は確かめない。本当かと警察のように尋問するつもりもない。
「ありがとう、リオちゃん」
「なんだよ」
「リオちゃんは優しいね」
照れたように唇を尖らせるリオの表情に微笑みながらアリスは鞄から手帳を取り出しスケジュールを確認する。
「ビッシリ書き込まれてんな。まだマナー講師なんか雇ってんのかよ」
「だってマナーは大事だもの」
「パーティーに出席しない奴にマナーが必要なのか? どこで披露すんだよ」
「……そのうちするの」
マナー講師を雇っているのは自分のためではなく家のため。自分だけが恥を描くのならいいが、両親の教育方針を疑われてしまうのは避けたい。
リオの言うことは尤もだが、まだ止める気はなかった。
「ピアノ、刺繍、マナー、家庭教師……オエッ、吐き気がする」
拘束が嫌いなリオにとってぎっしりと詰め込まれたスケジュールは見ているだけで吐き気がした。
「これでも減らしたほうなんだから」
「何を減らしたんだ?」
「乗馬と射撃」
「やりゃいいだろ。俺のいた国では狩りに出てる女は多かったぞ」
「興味ない。狩りなんて悪趣味よ」
狩りは二度としないと誓った。両親はまた射撃の練習をすればいいのではないかと言ってきたが断った。
馬は好きだが、今は乗っていない。
アリスがお願いすれば父親も兄もすぐに射撃練習の許可申請を出してくれるだろう。でもアリスはやはり興味がなかった。
「いつ行く? 予定全部変更してもらうから」
「お前の都合の良い日に合わせる。いつ行っても同じだ」
「もうすぐおばさんの誕生日でしょ?」
「まあ……そうだけど……」
「だから誘ったんじゃないの?」
リオは答えなかったが、アリスの中では確信があった。だから付属のペンでリオの母親の誕生日を丸で囲んで予定に線を引く。
「一緒に行こ。お花も用意しておくね」
「そんな豪華なのはいらねぇぞ」
「うん」
「絶対豪華なのにするつもりだろ」
「うん」
「ったく……」
アリスの返事でわかるリオは呆れながらも顔には笑みをこぼし、アリスの頭を掻き乱すように撫でた。
「迎えに行くから待ってろ」
「馬車で迎えに行くよ?」
「女に迎えに来させるつもりか?」
「変なプライド。リオちゃんにもそういうのあったのね」
「俺に興味ないんだな」
「そんなことないよ? もう興味津々」
「へー、そりゃ気持ち悪ィわ」
同時に吹き出して笑い声を響かせる二人。リオはこのまま離れるのが惜しかった。
「馬車、貸そうか?」
「歩いて帰れる距離だっての」
「疲れてない?」
「バカにすんな」
「心配してるだけ」
「あっそ。いらねー心配だな」
帰る合図を送るアリスと同じ気持ちではないのだとわかると少し拗ねた反応を見せるリオにアリスは首を傾げる。
「ちゃんと遅れず迎えに来てよ?」
「寝坊したら置いてくからな」
「わかってる」
「ならいい。じゃあな」
アリスの頭に手を乗せて別れを告げるリオに頷いて手を振った。
男だから安全というわけではない。リオの風貌と背があれば大丈夫な気もするが、若さから考えるとチンピラに絡まれないとも限らないと極力見えなくなるまで見送ろうと立ったままでいると途中でリオが立ち止まって振り向いた。
「おやすみ」
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