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第一章 襲われがちなアラサー女子
第27話 過去に引き戻されるっ!②
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「不破、それは堂島の許可を取ったうえでのことなんだよね?」
九条くんの咎めるような視線が不破くんに注がれる。
「当然だろ、なぁ堂島?」
「……ああ」
不破くんに対し、堂島くんは押し切られるようにやや遠慮がちに答えた。
この二人の関係もそう言えば対等な関係ではなかった気がする。
不破くんはこの素行は良くなかったが、成績はよく、中崎の有名な企業の息子だったので、教師からはお目溢しをもらっていた。
故に、謎のカリスマ性で他の男子生徒を惹き付け、女子からもかなり人気があった。
そんな彼と視線が合うと、私は嫌悪感から目をそらした。
「そう、ちなみに競技は?」
「ふっ……バスケだ」
バスケ、堂島くんの体格なら間違いなく活躍できる種目だが、私の記憶ではそういう結末にはならなかったはず。
不破くんの性格を考えれば、自分のプラスになること以外はしないはずだ。
堂島くんもその決定には逆らわないあたり、もしかしたらなにか弱みを握られているのでは、と勘ぐってしまう。
「ゆずゆずはなんの種目にするの?」
堂島くんに気を取られていたら、突然瑠美から声をかけられる。
「へっ、うーんどうしようかなぁ」
「卓球は瑠美と競技が被っちゃうし、他のにしてねー」
瑠美は興味なさそうに爪の手入れをしながら言った。
おそらく瑠美のことだし、爪が割れる心配のない卓球にしたのだろう。
相変わらず立ち回りが上手い。
バレーボール、バスケ、卓球、テニス、水泳。
女子はこの五種目のいずれか一つには参加しなければならない。
ただ私はこの中のどの種目になるのか、すでにわかっていた。
球技大会なのに、なぜか存在するその種目。
どういうわけか私も選ばれてしまうのである。
「それじゃ、水泳やりたい人ー?」
「「……」」
長い金髪をたなびかせるギャル風の女子、竹内マリナ。
モデル仕事をしていて、たまに週末に東京に行っているらしい。
その出で立ちから、中崎高校の中では一人垢抜けた都会風を吹かせる女子生徒だった。
竹内さんの言葉に、女子たちは渋い顔を浮かべる。
「あたしは、日焼けとかNGだからパスね。それにもうバレーボールに入ってっし」
竹内さんは早々に水泳パス宣言をした。
女子にとって水着になるというのは、どうしたって心理的に抵抗がある。
うら若き女子たちには、水泳キャップで髪をまとめ、ゴーグルをして泳ぐというのは、客観的に見て可愛いはずがないのだ。
「わ、私も他の種目あるし……」
「うちも、泳げないから……」
竹内さんに続き、続々と女子たちが敬遠していく中、一人の少女が手を上げて躍り出る。
「私やるー!」
「おー、さっすが海緒! その鮫肌は伊達じゃないね!」
「鮫肌って言うなー! 私は人間だっての!」
その肌はこんがりと焼け、しなやかな体躯に、ショートヘア。
浅香海緒、竹内さんのグループの一人で確かサーフィンをやっているのだったか。
人当たりが良く、誰とでも仲良く慣れるタイプの女子だ。
「でもこのままだとリレー、海緒一人でやることになっちゃうね」
「えー! 流石に二百メートルも泳ぐのはしんどいよー!」
「それなら、上村さんがいいんじゃない?」
竹内さんが私に視線を向けた。
その表情は微笑を浮かべているが、どこか空々しく違和感を感じさせる。
「えっ、私?」
「ええ、上村さんって確か泳げたでしょ? 授業で着ていた水着も本格的なものだったしさ」
「っ……」
私の水着は確かに少し際どいハイレグカットの競泳水着である。
というのも私がバレエをしていたため、高校一年生の頃に、レオタードに似た水着を着るものだという謎の固定概念を持ってしまっていたのが原因である。
いざ水泳授業が始まってみれば、みんなふとももまであるフィットネス水着だったという悲しい事件だ。
(く、夢でまで羞恥攻めをされるなんて……)
「確かに、あの水着は上手い人の水着だよねー。でも私だったら着ないかもー」
「上村さんくらいスタイルがいいと、ああいうの着ても恥ずかしくないんじゃない?」
「それにしても、あの水着は流石に攻めすぎでしょ……」
竹内さんの取り巻きの女子たちが、かしましく陰口を叩く。
私だって当然買い直そうかとも思ったが、それではなんだか屈したような気分になる。
それにあの水着は母が私に似合うと、選んでくれた水着でもあるのだ。
三年間使うからと少し良いものを買ってしまったのも地味に効いた。
「やっぱり上村さんの気合の入った水着は、晴れ舞台でこそお披露目されるべきっしょ。上村さん全然平気そうだし、注目されるのはそんなに苦じゃないでしょ。皆もそう思わない?」
竹内さんが周囲に働きかければ、同調するように嫌な視線が送られた。
女子高生のカーストは、基本的にはコミュニケーション能力や、人脈、容姿などによって決まる。
竹内さんのそれは、高校生モデルという美の指標、煌びやかな数々の写真によって醸成されていた。
多くが憧れ、慕うことで、絶対的な評価へと変わるのだ。
(そう言えば私、竹内さんからよく思われていなかったんだっけ)
高校生ともなればお互いの本音と建前は切り分けるものだが、竹内さんからは露骨に隔意を感じる。
私はどちらかというと人見知り、狭い範囲で人付き合いをするタイプだったから、瑠美と仲良くなるまでは孤立気味だった。
一人奇抜な水着で周囲と外れた行動を取る私が、異物に見えていたのだろう。
発言権のある竹内さんにかかれば、そんな私に対する包囲網を作るのは朝飯前だった。
(はぁ……。愛想笑いで受け流せれば良かったんだけどな)
竹内さんに想定外のことがあったとすればそれは、私が負けん気が強かったことか。
三年間羞恥に耐えながらハイレグ水着を履き続けた根性は伊達ではないのだ。
そのせいで私が泳げる人と思われてしまうとは思わなかったが。
「いいよ。私、水泳に参加する」
売り言葉に買い言葉、私はついそんなことを口走ってしまうのだった。
周囲は私の言葉にどよめきが生まれる。
女子は顔をしかめ、男子は好奇に表情を輝かせる。
「えっ、マジ? あたし冗談のつもりだったんだけど! 流石に全校生徒の前では可哀想かなって思ってたし、嫌なら全然言ってもらって良かったのに! でも、やるって言うなら止めないよ、上村さんが決めたことだもんね?」
竹内さんはそう、予防線を張ってくる。
あくまで自分は強制していないと、主張しているのだろう。
同調圧力を煽っておいて、なかなか小賢しいことをする。
私もぼちぼち意趣返しの一つでもしてみようか。
「そのかわりさ――竹内さんも水泳参加してよ」
私は努めて平静を装い、穏やかな笑みを浮かべて竹内さんに向き合った。
竹内さんの顔はみるみるうちに険しくなる。
「は? 嫌なんだけど」
竹内さんは、不機嫌そうに拒絶の言葉を返す。
女子が本当に嫌なときにする顔だ。
私は竹内さんが先程渡しに言った言葉をそのまま返す。
「どうして? 竹内さんスタイルいいし、注目されるのはそんなに苦じゃないんじゃないかなと思ったんだけどなぁ」
「……さっき言ったでしょ。あたし事務所的に日焼けNGだから」
日焼けNGならそもそも半袖にミニスカートもどうかと思うがそれは口にしない。
水泳をしたら日焼け止めが落ちちゃう、だのと理由をつけて有耶無耶にされるだろう。
「うんうん、日焼けをしたくない気持ちは皆一緒だよね。でも私みたいな水着じゃないし私ほど日焼けしないんじゃないかな?」
言外に「私は嫌だけど日焼けするのに、竹内さんはやらないんだね。へー」という意思表示をする。
これで日焼けNGとは言いづらくなるだろう。
それでも主張しようものなら、お高く留まっていると思われてしまうだろうから。
「っ……! だから、嫌だって言ってんでしょ!」
私は心のなかでほくそ笑んだ。
竹内さんからちゃんと言質を引き出せればこっちのものである。
「そっかぁ残念。もちろん嫌なら無理にとは言わないよ。モデルさんが全校生徒の前で水着になるなんて流石に――"可哀想"かなって思うし」
「……っ」
私は竹内さんの先程の言葉をそのまま返す。
女子の格付けを揺るがすのは、それほど難しくない。
単純に言葉で言い負かしてしまえば良い。
そのためには私と竹内さんを比較できる状況に持ち込む必要があった。
かたや嫌なことを引き受け、かたや、わがままで断る。
そうなればどちらが印象が良いかは日を見るよりも明らかだった。
もちろん全員がいる場で立場が上の者に立ち向かうのは勇気がいるが、私は昔から我慢ならないことはなりふり構わなくなってしまう。
それでも泣き寝入りするくらいなら、噛みついて共倒れするくらいが私らしい。
母のように傷つくのは私はゴメンだった。
「……いいわ。あたしも水泳に出る」
「一緒に頑張ろうね、竹内さん」
「はぁ……めんどくさ」
私は竹内さんに微笑みかけた。
プライドの高い竹内さんのことだ、私に憐れまれたままではいられなかったのだろう。
ため息をつく様子から、絡めば面倒くさいことは理解してもらえたと思う。
「じゃあ、もう一人は誰かいるー?」
竹内さんが周囲に呼びかけると、一人少女がおずおずと手を上げた。
私があまり関わりのない女子だった。
「えーっと……祖父江さんね」
「……はい」
竹内さんは少し間をおいて思い出したように、その女子の名前を呼んだ。
祖父江雪菜、目が隠れるほどに長い前髪にセミロング。
勉強も運動も、平均以下で、クラスではあまり目立たず、何を考えているかわからない女子だった。
「よろしく、祖父江さん」
「……」
私はそう言って祖父江さんに微笑みかける。
祖父江さんはそれを無視し、私を睨みつけると、自分の机に戻っていった。
どうやら祖父江さんも私のことをよく思っていないようである。
(なんか、私の高校生活って残念すぎない……?)
竹内さん、浅香さん、祖父江さん、そして私。
かくしてこの四人で球技大会のリレーを泳ぐことになる。
どうして今こんな夢を見ているのか、私にはわからない。
ただ夢が過去の出来事を見せる時、重要な暗示をしたり、天啓を与えたりすると聞いたことがある。
しかしこの夢が私に、一体何を伝えようとしているのか、あるいは何を見落としているのか。
この時の私にはまだわからなかった。
九条くんの咎めるような視線が不破くんに注がれる。
「当然だろ、なぁ堂島?」
「……ああ」
不破くんに対し、堂島くんは押し切られるようにやや遠慮がちに答えた。
この二人の関係もそう言えば対等な関係ではなかった気がする。
不破くんはこの素行は良くなかったが、成績はよく、中崎の有名な企業の息子だったので、教師からはお目溢しをもらっていた。
故に、謎のカリスマ性で他の男子生徒を惹き付け、女子からもかなり人気があった。
そんな彼と視線が合うと、私は嫌悪感から目をそらした。
「そう、ちなみに競技は?」
「ふっ……バスケだ」
バスケ、堂島くんの体格なら間違いなく活躍できる種目だが、私の記憶ではそういう結末にはならなかったはず。
不破くんの性格を考えれば、自分のプラスになること以外はしないはずだ。
堂島くんもその決定には逆らわないあたり、もしかしたらなにか弱みを握られているのでは、と勘ぐってしまう。
「ゆずゆずはなんの種目にするの?」
堂島くんに気を取られていたら、突然瑠美から声をかけられる。
「へっ、うーんどうしようかなぁ」
「卓球は瑠美と競技が被っちゃうし、他のにしてねー」
瑠美は興味なさそうに爪の手入れをしながら言った。
おそらく瑠美のことだし、爪が割れる心配のない卓球にしたのだろう。
相変わらず立ち回りが上手い。
バレーボール、バスケ、卓球、テニス、水泳。
女子はこの五種目のいずれか一つには参加しなければならない。
ただ私はこの中のどの種目になるのか、すでにわかっていた。
球技大会なのに、なぜか存在するその種目。
どういうわけか私も選ばれてしまうのである。
「それじゃ、水泳やりたい人ー?」
「「……」」
長い金髪をたなびかせるギャル風の女子、竹内マリナ。
モデル仕事をしていて、たまに週末に東京に行っているらしい。
その出で立ちから、中崎高校の中では一人垢抜けた都会風を吹かせる女子生徒だった。
竹内さんの言葉に、女子たちは渋い顔を浮かべる。
「あたしは、日焼けとかNGだからパスね。それにもうバレーボールに入ってっし」
竹内さんは早々に水泳パス宣言をした。
女子にとって水着になるというのは、どうしたって心理的に抵抗がある。
うら若き女子たちには、水泳キャップで髪をまとめ、ゴーグルをして泳ぐというのは、客観的に見て可愛いはずがないのだ。
「わ、私も他の種目あるし……」
「うちも、泳げないから……」
竹内さんに続き、続々と女子たちが敬遠していく中、一人の少女が手を上げて躍り出る。
「私やるー!」
「おー、さっすが海緒! その鮫肌は伊達じゃないね!」
「鮫肌って言うなー! 私は人間だっての!」
その肌はこんがりと焼け、しなやかな体躯に、ショートヘア。
浅香海緒、竹内さんのグループの一人で確かサーフィンをやっているのだったか。
人当たりが良く、誰とでも仲良く慣れるタイプの女子だ。
「でもこのままだとリレー、海緒一人でやることになっちゃうね」
「えー! 流石に二百メートルも泳ぐのはしんどいよー!」
「それなら、上村さんがいいんじゃない?」
竹内さんが私に視線を向けた。
その表情は微笑を浮かべているが、どこか空々しく違和感を感じさせる。
「えっ、私?」
「ええ、上村さんって確か泳げたでしょ? 授業で着ていた水着も本格的なものだったしさ」
「っ……」
私の水着は確かに少し際どいハイレグカットの競泳水着である。
というのも私がバレエをしていたため、高校一年生の頃に、レオタードに似た水着を着るものだという謎の固定概念を持ってしまっていたのが原因である。
いざ水泳授業が始まってみれば、みんなふとももまであるフィットネス水着だったという悲しい事件だ。
(く、夢でまで羞恥攻めをされるなんて……)
「確かに、あの水着は上手い人の水着だよねー。でも私だったら着ないかもー」
「上村さんくらいスタイルがいいと、ああいうの着ても恥ずかしくないんじゃない?」
「それにしても、あの水着は流石に攻めすぎでしょ……」
竹内さんの取り巻きの女子たちが、かしましく陰口を叩く。
私だって当然買い直そうかとも思ったが、それではなんだか屈したような気分になる。
それにあの水着は母が私に似合うと、選んでくれた水着でもあるのだ。
三年間使うからと少し良いものを買ってしまったのも地味に効いた。
「やっぱり上村さんの気合の入った水着は、晴れ舞台でこそお披露目されるべきっしょ。上村さん全然平気そうだし、注目されるのはそんなに苦じゃないでしょ。皆もそう思わない?」
竹内さんが周囲に働きかければ、同調するように嫌な視線が送られた。
女子高生のカーストは、基本的にはコミュニケーション能力や、人脈、容姿などによって決まる。
竹内さんのそれは、高校生モデルという美の指標、煌びやかな数々の写真によって醸成されていた。
多くが憧れ、慕うことで、絶対的な評価へと変わるのだ。
(そう言えば私、竹内さんからよく思われていなかったんだっけ)
高校生ともなればお互いの本音と建前は切り分けるものだが、竹内さんからは露骨に隔意を感じる。
私はどちらかというと人見知り、狭い範囲で人付き合いをするタイプだったから、瑠美と仲良くなるまでは孤立気味だった。
一人奇抜な水着で周囲と外れた行動を取る私が、異物に見えていたのだろう。
発言権のある竹内さんにかかれば、そんな私に対する包囲網を作るのは朝飯前だった。
(はぁ……。愛想笑いで受け流せれば良かったんだけどな)
竹内さんに想定外のことがあったとすればそれは、私が負けん気が強かったことか。
三年間羞恥に耐えながらハイレグ水着を履き続けた根性は伊達ではないのだ。
そのせいで私が泳げる人と思われてしまうとは思わなかったが。
「いいよ。私、水泳に参加する」
売り言葉に買い言葉、私はついそんなことを口走ってしまうのだった。
周囲は私の言葉にどよめきが生まれる。
女子は顔をしかめ、男子は好奇に表情を輝かせる。
「えっ、マジ? あたし冗談のつもりだったんだけど! 流石に全校生徒の前では可哀想かなって思ってたし、嫌なら全然言ってもらって良かったのに! でも、やるって言うなら止めないよ、上村さんが決めたことだもんね?」
竹内さんはそう、予防線を張ってくる。
あくまで自分は強制していないと、主張しているのだろう。
同調圧力を煽っておいて、なかなか小賢しいことをする。
私もぼちぼち意趣返しの一つでもしてみようか。
「そのかわりさ――竹内さんも水泳参加してよ」
私は努めて平静を装い、穏やかな笑みを浮かべて竹内さんに向き合った。
竹内さんの顔はみるみるうちに険しくなる。
「は? 嫌なんだけど」
竹内さんは、不機嫌そうに拒絶の言葉を返す。
女子が本当に嫌なときにする顔だ。
私は竹内さんが先程渡しに言った言葉をそのまま返す。
「どうして? 竹内さんスタイルいいし、注目されるのはそんなに苦じゃないんじゃないかなと思ったんだけどなぁ」
「……さっき言ったでしょ。あたし事務所的に日焼けNGだから」
日焼けNGならそもそも半袖にミニスカートもどうかと思うがそれは口にしない。
水泳をしたら日焼け止めが落ちちゃう、だのと理由をつけて有耶無耶にされるだろう。
「うんうん、日焼けをしたくない気持ちは皆一緒だよね。でも私みたいな水着じゃないし私ほど日焼けしないんじゃないかな?」
言外に「私は嫌だけど日焼けするのに、竹内さんはやらないんだね。へー」という意思表示をする。
これで日焼けNGとは言いづらくなるだろう。
それでも主張しようものなら、お高く留まっていると思われてしまうだろうから。
「っ……! だから、嫌だって言ってんでしょ!」
私は心のなかでほくそ笑んだ。
竹内さんからちゃんと言質を引き出せればこっちのものである。
「そっかぁ残念。もちろん嫌なら無理にとは言わないよ。モデルさんが全校生徒の前で水着になるなんて流石に――"可哀想"かなって思うし」
「……っ」
私は竹内さんの先程の言葉をそのまま返す。
女子の格付けを揺るがすのは、それほど難しくない。
単純に言葉で言い負かしてしまえば良い。
そのためには私と竹内さんを比較できる状況に持ち込む必要があった。
かたや嫌なことを引き受け、かたや、わがままで断る。
そうなればどちらが印象が良いかは日を見るよりも明らかだった。
もちろん全員がいる場で立場が上の者に立ち向かうのは勇気がいるが、私は昔から我慢ならないことはなりふり構わなくなってしまう。
それでも泣き寝入りするくらいなら、噛みついて共倒れするくらいが私らしい。
母のように傷つくのは私はゴメンだった。
「……いいわ。あたしも水泳に出る」
「一緒に頑張ろうね、竹内さん」
「はぁ……めんどくさ」
私は竹内さんに微笑みかけた。
プライドの高い竹内さんのことだ、私に憐れまれたままではいられなかったのだろう。
ため息をつく様子から、絡めば面倒くさいことは理解してもらえたと思う。
「じゃあ、もう一人は誰かいるー?」
竹内さんが周囲に呼びかけると、一人少女がおずおずと手を上げた。
私があまり関わりのない女子だった。
「えーっと……祖父江さんね」
「……はい」
竹内さんは少し間をおいて思い出したように、その女子の名前を呼んだ。
祖父江雪菜、目が隠れるほどに長い前髪にセミロング。
勉強も運動も、平均以下で、クラスではあまり目立たず、何を考えているかわからない女子だった。
「よろしく、祖父江さん」
「……」
私はそう言って祖父江さんに微笑みかける。
祖父江さんはそれを無視し、私を睨みつけると、自分の机に戻っていった。
どうやら祖父江さんも私のことをよく思っていないようである。
(なんか、私の高校生活って残念すぎない……?)
竹内さん、浅香さん、祖父江さん、そして私。
かくしてこの四人で球技大会のリレーを泳ぐことになる。
どうして今こんな夢を見ているのか、私にはわからない。
ただ夢が過去の出来事を見せる時、重要な暗示をしたり、天啓を与えたりすると聞いたことがある。
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