知りたくないから

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11 想い (微R18描写あり)

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けれど今夜はあの時とは違う。時永はしっかりと意識があり、伊坂も…。

だから伊坂にとって、今夜は賭けだった。
素面の時永が、流されてでも抱かせてくれたら…。

伊坂は捕まえた時永を二度と離さないと決めていた。




「…いいか?」

窄まりに舌を這わせながら、欲情しきった声で伊坂が囁いた時、時永は喘ぎながら伊坂の肩に指を食い込ませていた。

伊坂は時永の体を貪りながら考えていた。
時永はきっとあの夜抱かれた事を覚えてはいない。
それくらい、丁寧に抱いたつもりだ。
けれど、覚えていて欲しいと思ってしまう矛盾。
告白する勇気すら無かった癖に、ろくでもない独占欲だと自嘲してしまう。
素面のままで、時永が応えてくれる訳がないのに。


だが、挿入れていいかという意味で問いかけた伊坂に答えた時永の声は、欲情しきっていた。
そして、伊坂にとっては意外な言葉を口にした。

「前みたいに、…前よりも激しくしろ…。」

「…俺だってわかってたのか。」

「さっきのキスでわかった。同じだって。だから、早く…。」

時永は思い出していた。
ねちっこく口内を味わい尽くすような、優しいけれど深く奪われるような口づけ。
朦朧とそれを受けていたあの夜の、断片的な少ない記憶の中に、それはあった。
そしてそれと紐付けられていた快楽の記憶も、しっかりと全てを思い出してしまった。
自分を貫いて揺さぶっていた”男”の、顔迄も。


あの夜、行為の後に深く眠ってしまい、翌朝その男の事を忘れてしまった状態で起きた時永は、それでも一度強制的に与えられてしまったそれを、無意識の内に追い求めた。
そして、その事に狼狽した末の、あさっての発想により、たくさんの男と寝る羽目になってしまった。

「…俺がずっと探してたのって、お前だったんだな。」

時永は吐息のように呟いて、伊坂の背中に腕を回した。

それを合図に挿入された伊坂のペニスは、思うさま時永を啼かせたのだ。あの夜のように…。





「つき合ってくれないか、俺と。」

翌日時永が目を覚ました時、隣には伊坂がいた。
その事にホッとするやら、探していたあの夜の男の正体が長い親友であった伊坂だった事に、気恥しいやら。
あの友人達の中の誰かだとは思っていた。けれど、そうか。伊坂か。

改めて思い出すと、顔から火が出る程の羞恥が襲ってくる。何で伊坂は自分を抱いたのだろうか。

あの夜、唯一覚えている言葉。

『やっと抱けた…。』

それは、伊坂がずっと時永を抱く機会を狙っていたと、そういう事なのか。

「…何で俺とつき合いたいんだ?」

伊坂は体目当てだけで親友を抱くような奴ではないと思うのに、つい意地の悪い質問をしてしまうのは伊坂が結婚していた、異性愛者だという事実があるからだ。
そんな奴が何故、自分と。
かく言う時永自身だって、元カノと別れた後に伊坂に抱かれなければ、きっと男に抱かれる事になんか一生無縁だったと思う。
それを考えると、納得いく答えが欲しいと思うのは当然の権利の筈だ。

時永の問いに伊坂は少し躊躇して、それから口を開いた。

「引かないで聞いてくれるか?」

伊坂はベッドの上に起き上がって、下着姿で正座をした。時永はそんな伊坂を、掛け布団の中から目だけを出して見た。起き上がった方が良いんだろうが、体の節々が痛い。
時永が伊坂の言葉に頷くと、伊坂は話し始めた。

「俺はずっとお前が好きだった。学生の頃からだ。
でも、お前はずっと彼女が居たし、同性を受け入れられるようには見えなかった。」

それを聞いて、つい最近も同じような事を言われたなと思い出す。

「…いつから?」

「え?」

「いつから俺の事を?」

「…中学で、会った時から。」

それを聞いて、流石に驚いた時永。
この間セックス後に後付けのように告白してきた九重が、高校の頃から何となくそうだったかも…的なニュアンスだったのに対し、こんなにもハッキリ、しかも中学の頃からしっかり自覚していたなんて。
一番多感な時期に同性の友人にそんな気持ちを抱えて何年も過ごしたのは、苦しかったのでは、と その方面に疎かった時永でも容易に想像が出来た。
それなのに、一番近くにいて想われていた事に気づかなかったなんて…自分は何て鈍感なんだろうか。

でも、と時永は思った。

それにしては、伊坂は女性とつき合って、破綻したとはいえ結婚もしたではないか。

「結婚したじゃん。ゲイって訳じゃ、ないんだろ?」

そう突っ込むと、伊坂は眉を寄せて苦しそうな顔をした。

「ゲイ…では無いと思う。
お前以外の男に惹かれた事が無い。
でもそろそろお前を諦めて踏ん切りをつけなきゃ…一生苦しむ事になると思った。
お前は結婚秒読みって話だったし、俺も結婚してどっちもが家庭を持って疎遠になれば…忘れられるかと。」

そう言った後、ふうっと息を吐いて、苦しげに微笑んだ。


「無理だった。
俺はお前と離れる事自体が苦しかった。
嫁だった女は、少しだけお前に似ていた。それで何とかなると思った俺が甘かった。
俺は俺の都合だけで安易に適当に妥協して、失敗した。彼女に向き合ってきちんと見ようとしなかったからだ。彼女が俺の条件面しか要らなかったように、俺も彼女の事を、家庭を作るのに必要なパーツとしか見ていなかった。」

伊坂はまるで自分自身を断罪するかのように語り出した。



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