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20 海鮮粥めっちゃ美味い

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 侍女ちゃんが高梨医師を送る為、一緒に部屋を退出していくのをベッドの中から見送る。扉が閉まるのを見届けてから、薬袋から出した薬の包装シートを指で摘んでぼんやり眺めた。

...ピンク。ピンクと白ツートンカラーのカプセルが4錠。これが俺の生死を握る薬なのか...。服用すると凄絶な営みに耐えられるよっ☆て、一体成分は何なんだろうか。

「......」

 考えない事にした。いや、考えても仕方ないというか。きっと体力保持の為の滋養強壮剤的なアレだろう。
 薬を薬袋に戻してサイドテーブルに置く。

「うぅ~...」

 ふとんの中で唸りながらゴロゴロすると陛下の顔が思い浮かんで、少し気持ちが和んだ。今までなら、同じ状況になった時にはもっと、未来への不安感や焦燥感で苦しかった。でも今回はそんなものは全然無い。寧ろ、ヒート終わった後、俺まだ生きてるかな?っていう危機感の方が勝るというか...。
...いや、それとは別に勿論期待感もある。何せ、初めてアルファと一緒に迎えるヒートだからな。しかも、相手は稀に見るような超絶美男子、帝国最高のアルファ。そんで、俺に首ったけ。
 
 最高か。

 陛下とはもう結構イチャイチャしてるけど、やってる事はまだ相互オナニーの域を出てない。それだけでも毎回、すごく気持ち良いんだから... 控え目に言って、俺史上最高のヒートになる予感しかしない。例えセックス中に死を迎える事になろうともだ。...いや、そりゃ死にたくはないんだけどな?

 生欲と性欲の狭間で葛藤してたら、侍女ちゃんがワゴンを押しながら戻ってきた。

「さ、お昼はしっかりお召し上がりくださいね!食欲が無くてもお召し上がりになれるものをと朝の内に料理長に相談いたしましたら、秘伝レシピだとこちらの料理長特製・滋養たっぷり海鮮粥を用意してくださいましたの」

 丁寧且つ素早い動作でテーブルに食事のセッティングをしていく侍女ちゃん。卓上の全てを並べ終えると、侍女ちゃんは椅子の背を引いて、俺にめちゃくちゃ良い笑顔を向けながら言った。

「どうぞ、ユウリン様!」

「ありがとう...」

 ほんとはあまりベッドから動きたくなかったんだけど、歳下の女の子にそんな良い笑顔で言われちゃ断れない。
あまり食欲が無いのを押して、ベッドから降りて室内履きに足を突っ込む。テーブルに向かって歩き、引かれた椅子に腰を下ろして、差し出されたお手拭きで手を清めた。卓上に置かれたレンゲを手に持ち、湯気の上がる薬膳粥を見た。白い粥に白身魚、ホタテ、蓮根。赤い干し棗がアクセントになってるけど、ごく普通の海鮮粥に見える。ひと掬いして、息を吹きかけながら口に運ぶ。

(うわ、何これ...)

それは、前に隣県の中華街で食べたのと遜色無い...いやそれ以上に美味い海鮮粥だった。
 皇宮の事だから使われている食材が厳選されているのは当然なんだろうけど、何だろう...出汁?ベースの味が芳醇。一見シンプルだけど、これは超一級品。流石は後宮だよ。
 感心しながらぺろりと平らげた。ごちでした。

 食後に薬を飲んでベッドに入ったら、本格的に体温が上がってきて発汗が始まった。体の奥底からじわじわと湧き出してくる行き場の無い熱に悶々としてたら、枕の横に置いてたスマホが振動。手を伸ばして確認すると、画面には陛下の名前が表示されていた。

――大丈夫か?もう少し待っててくれ――

「陛下...」

 高梨医師から判定が出て、俺にヒートが始まった事が伝えられたらしい。平日の今頃は大学に居るから、授業が終わったタイミングで聞いたのかな。たった一行の文なのに、焦ったような様子が伺える。
 もう少しって事は...陛下、切り上げて帰って来るのかなあ...と思ってたら、ドアの開く音が聞こえた。同時に、大きな声も。

「ユウリン!!大丈夫か!!?」

「へっ?」

「わっ、すごい!!」
 
 息を弾ませながら部屋に飛び込んで来たのは、今しがたのメッセージの主、陛下だった。
 いや速過ぎるだろ...。シャワーすらまだ浴びてないんだが?来てくれるのは早くても夕方だろうと油断してたから歯磨きすらしてないんだが?メッセージから気構えの時間、30秒くらいだよな。後宮入ってからメッセージ打ったんだろうか。

「へ、陛下?」

「...」

「...隆たん」

「ただいまユウたん!具合はどうだ?」

「徐々に来てます」

「そうみたいだな、僕も部屋に入った瞬間からアテられてる」

 強靭な肉体と持久力を持つアルファがどれだけ急いだらこれだけ息が上がるのか、陛下は上気した顔で、肩で息をしている。その状態で俺のヒートフェロモンを吸い込んだら、回り早そう。
 因みに隆たん呼びをしてるのは、陛下は最近、2人きりの時に陛下と呼んだら返事をしてくれないからだ。引かないで...。

「ごめんなさい、学校から急いで帰って来たんでしょう?」

 俺が謝ると、陛下のすだれ前髪の下の唇の右端が上がった。

「大丈夫だ。空路なら信号は無いからな」

「空路...で、でもメッセージはつい今しがた...」

「移動のヘリの中で出来る仕事を片付けて、屋上ヘリポートに着いてから走りながら打った」

「此処のヘリポートから?!」

 そうだった。陛下って皇帝陛下なんだった。ヘリやジェットくらい使うよな、と今更にして相手の職業を思い出す俺。いや実際は忘れてる訳じゃないんだけど、日頃はあまり実感する事が無いっていうか。それにしても、後宮棟の建物の屋上ヘリポートからこの部屋までって、どれだけ急いでも5分以上はかかりそうだけど...陛下、どんだけ足速いんだ?と思ってたら...。

「さあユウリン、愛し合おうか」

 前髪をかき上げながらベッドに片膝を乗せてにじり寄ってくる陛下。その目は細められていて、上気したままの表情は恍惚としていて。

 そしてその体からは、甘い甘い薔薇の香りがした。




 







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