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女神の気紛れ (雪side)
しおりを挟む街中を走り抜けると窓から見える景色が砂漠になった。
更に暫く走ると、長い塀に囲まれた門扉が開く。
そしてまた門からが、まあまあ走る。
皇宮の庭園は見慣れてるけど、外国の庭って新鮮。
背の高い亜熱帯の高木が立ち並ぶ中、オレンジ色の照明が等間隔に置かれて、ライトアップされている長~いアプローチ。
でも意外な事に、離宮の建物自体は結構普通な造りだった。
離宮って言うから、おとぎ話とかに出てくるようなお城みたいなのを想像してたけど、ライトアップされてる光で見る限り サンドカラーの建物に見えるが…。
玄関前に待機していた使用人達の1人が車のドアを開けてくれ、降りる。
5、6人の若い男性と、中年男性が1人。
王様んちにしては少ない気もする。
「大丈夫なんですか?」
「ウチに強盗に入る命知らずは居ないよ。俺がいる間はシールドも張れるし、警備システムも最新鋭だから大丈夫。」
…ま、そだよね。
実際、王族に牙を剥いた連中も鎮圧されて、既に獄中だ。
王族や皇族は魔力強いからシールド使えるの裏山。
世の中不公平だなあ…。
俺は一生1度使えるか使えないかの魔力も既に使い果たしてるし…。
それにしても、この国の王族って何千人といたらしいのに、それを根こそぎって…。確かにそれは既にテロだな。大虐殺じゃん。
先生、ほんと和皇に来ててよかったよね。
ひとりぼっちになったのは、気の毒だけど…。
「大半会った事も無いよ。
実際に家族として暮らしていたのは数十人だったかな。」
って言われたけど、それでも家族の単位からすると多いよね。
やっぱ国によってお家事情って違うんだなあ。
白い大理石の廊下を通り部屋へ案内されると、まだしてもイメージとは違ってシンプルなダークカラーの家具や調度で揃えられた広い部屋。
「俺がな、ゴテゴテした金ピカしたのが苦手だから。でもこれくらいが落ち着くだろ?ブランドホテルみたいで。」
「(…ブランドホテル?)そうですね…。」
先生がリモコンで長ーいカーテンをガーッと開けると、窓の外は池のある庭園だったんだけど、やっぱりライトアップされてて雰囲気が良い。
「綺麗ですねえ…」
思わず呟くと、
「和皇風だ。」
と先生が言う。
あ~、まあ…池の形とか橋の形からしてそうとも言えなくも?
「ここの内装は俺の趣味で替えさせてるから、シックだろ。」
「はい。」
確かにキンキラキンよりはこっちの方が遥かに趣味が良いし、更に言えば俺みたいな地味な和皇人にはモノトーンの方が落ち着きます。ありがとうございます。
窓を開けると少しひんやりした夜風が入って来て、流石に日が落ちると寒いんだなと直ぐ閉めた。
夜空を見上げると月が煌々と輝いている。それを一緒に眺めていた先生がふと呟いた。
「そうか…今夜は恵みの月の夜だな。」
「恵みの月、ですか?」
「恵みの月。月の女神が、知りたい真実を気紛れに見せてくれたり、願った事を叶えてくれたりすると言われているが…。俺は、1つは叶ったけどもう1つは未だ叶ってないな。」
「へえ…知りたいこと…。」
願掛けってガラじゃないけど、知りたい事はあるなあ…。あるけど、
「先生みたいな人でも、叶わない事ってあるんですね。」
俺的にはこっちの方も気になる。
「叶った方と、叶わなかった方は、どんな願いを?」
先生は少し考えて、
「叶ってない方は話せない。未だ希望を捨ててないからな。
でも叶った方は話せる。」
と、微笑んだ。
その話によれば、先生は実は最初から王宮で王子として暮らしていた訳ではなく、父である王様に愛された侍女の腹に宿った子供だった。
妊娠によって侍女から側妃に待遇は上がったんだけど、元の身分が低かった為に、他の身分のある家の出の側妃達に疎まれ見下され、嫌がらせにあっていたと言う。
その内、口にする物に変な混ぜものをされるようになり、無事に出産できないのではと危機感を抱いた先生のお母さんは、王宮を脱して知人を頼り とある田舎町で先生を産んだ。
それから5歳になる迄、先生はそこで普通の庶民の子供として、母ひとり子ひとりで暮らしていたという。
暮らしに困る事は無かったが、贅沢は出来なかった。
だけど近所には同じ年頃の子供も多くて、遊び仲間は多かったという。
思えばその頃が一番、のびのびと自由で楽しかったかもしれないと、思い出し笑いをしながら先生は話してくれた。
「んで、その頃、お父さんって存在に憧れててさ。母には父は死んだって聞かされてたし、それなら夢の中でも良いから会わせて下さい、って願ったんだ。」
夢は見られなかったが、それから間もなく王宮からの迎えが来たという。
実は 先生のお母さんが王宮から消え、慌てた王様は直ぐに行方を探った。
その過程で原因を追求すると、飲み物に堕胎作用のある毒物を混ぜさせた側妃の所業が明らかになったのを皮切りに、加担した数人の側妃達が実家に帰されたのだという。
皆、自分達には子が授からなかったから、という至極単純だが身勝手な動機からだった。
それから晴れて王様…先生のお父さんは、先生とお母さんを迎えた。そんな経緯から、先生は父である王様から特に愛されたらしい。
兄弟の中でも末っ子だったという事もあり、歳の離れた兄達にも、あまり会えない姉達にも可愛がられたと。
そりゃ、そんなに大切にされたなら、その家族があんな目に遭って殺されたなんて知ったら…飛んで帰るよね。
先生は兄姉達の事を、とても楽しそうに 懐かしそうに話してくれる。
上のお兄さん達は親と言ってもおかしくない年齢で、よく連れ回してくれたらしい。ファーストフード店にも、ペットを連れたドライブにも。
お姉さん達は、よく外国のお菓子をくれたり。
歳が離れていて嫉妬や羨望の対象にならなかったからじゃないかな、と先生は言ってたけど、俺が思うに 単純に小さい先生
が可愛かったからだと思うな。
これだけ美形なんだし、絶対天使のようなショタだっただろ…、と 綺麗過ぎる横顔を見ながら思った。
「岩城も願ってみると良い。
案外叶うかもしれないぞ。」
先生がにこりと笑って言ったので、俺も何となく願ってみる。
…結構知りたい事、色々あるな…。
その後、少し遅い夕食をご馳走になり、だだっ広くていい匂いのするバスルームでゆっくり風呂に浸かったら、やっと人心地ついた。
ベッドに潜ると草鹿が間接照明だけを残し、消灯した。
直ぐにうつら、と眠気が来た。
そして俺は、夢を見た。
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