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火花散る2
教えてくれた部屋に行くと、廊下にひと気はない。仕立ての時間だというから、今の時間は誰も近づかないようにしている様子だった。
シリル様の部屋に近づくと、部屋の中から声が聞こえた。
「では、こちらのドレスで……」
「ええ、いつものようにお願いね」
ドレス? シリル様に!?
可愛い顔をしていても、シリル様は男の子だった。ドレスなど、絶対に必要ないはず。
そっと部屋の扉を開けて覗けば、シリル様は机にお行儀よく座って勉強をしている。
……仕立ての時間に勉強?
部屋には、ドレスが広げられてルイーズ様が楽しそうに選んでいる。どこからどう見ても、シリル様の仕立ての時間ではない。
すると、教鞭を持ったルイーズ様が、パンパンと音を立てて威嚇するようにシリル様に見せつけた。
「……終わりましたの? 早く終わらせてちょうだい。昼食の時間までに終わらなければ、食事は抜きにしますわよ?」
「……」
「本当に愛想のない子ね……髪の色も瞳の色もリクハルド様とは違うし、リクハルド様の子供というのも怪しいものね。そんな噂があるんだから、どうせ社交界には出られないわよ。期待しないでね。まぁ、誰も期待なんてしてないですけど」
ルイーズ様が、はぁーとあからさまにため息を吐いた。
「リクハルド様はずっと独り身よ。なんとも思わないのかしら? 穢らわしい不貞女の子供」
突っ込みどころはたくさんある。あるが、それ以上にプツンと何かが切れて、勢いよく部屋の扉を開けた。
「失礼しますわ!!」
突然入って来た私にルイーズ様たちが目を見開いて驚いていた。
「な、何です!?」
ルイーズ様が上ずった声で焦る。が、気にせずにシリル様に近づいた。
「シリル様。朝のご挨拶に参りました」
「……」
無言で見上げるシリル様も、突然私がやってきたことに驚いている。机の上には、たくさんの書物があり、なれない文字で書き記した紙がいくつもあった。
これが、五歳の子供の勉強量か!
「キーラ様。突然シリル様にお会いに来られては困りますわ。ちゃんと約束を取り付けてくださらないと……! これだから、非常識な令嬢は……さすが、ふしだらな令嬢と呼ばれるだけはありますわね。何度も何度も婚約破棄されて恥ずかしくないのですか?」
「まったく、恥ずかしくありませんわ。おかげで、お金もたっぷりとありますの」
婚約破棄の慰謝料は、たっぷりとある。おかげで、私のおこずかいは、おこずかいと呼べないほど。次から次へと婚約破棄をされる度に慰謝料をもらったせいで、邸ぐらいは買えるほどお金を持っている。
貰えなかったのはただ一人、ジェレミー・ヘイスティングス次期侯爵だけ。
「ふてぶてしいですわ。どうせ、今回もすぐに婚約を破棄されるのですから、それまでは、部屋で大人しくなさっていてください……って、聞いてますの!?」
ルイーズ様が、上から見下ろすように言っているが、気にせずに私は腰を下してシリル様の目線に合わせて話しかけた。
「シリル様。お菓子がお嫌いですか?」
「あの……」
「ドレスもお着になりませんよね?」
こくんと頷くシリル様。
「意思表示が出来て、お利口さんですわね。でも、もっとはっきりと話しましょう。私が手本を見せて差し上げますわ」
そう言って、シリル様を抱き上げた。
「シリル様に何をなさるの!? 教育の邪魔は困りますわ! 私は、リクハルド様にシリル様のことを一任されてましてよ!」
「うるさいですわ!!」
叫ぶルイーズ様を一喝した。
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