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第二章
閑話 王太子殿下と王太子殿下(ルーセル視点)
しおりを挟むリーゼが、妖精の森に暗殺から逃げて帰って来ないと、リヒトが竜騎士団を率いてベルハイム国にやって来た。
確かにいつまでも出てこないと心配になる。あの中では、妖精が支配者なのだ。
妖精の森は、リーゼになら妖精も力を貸すと思うが……
「頼む! 俺を妖精の森に連れて行ってくれ! リーゼを迎えに行きたいんだ!」
「リヒトは、妖精の森には入らない方がいいよ。あそこは時間が狂ってらしいし、妖精はリヒトを嫌がっているんだよね」
リヒトが来るなり、私の妖精は執務室から逃げてしまっている。
「そんなことは関係ない!」
「関係大有りだよ。妖精に嫌われているなら、絶対に妖精の森からは出られないよ」
呆れるほどリーゼのことしかないリヒトだが、リーゼの心配よりも問題が起きている。
毎日、妖精の森の前でリーゼが出て来るのを張っていたリヒトに、数日も経てば異変が起きていた。
リヒトの魔力が、あり得ないほど溢れているのだ。
「……リヒト。これはなにかな?」
「魔力が溢れているんだ。いつもはリーゼが吸収してくれていたのだが……」
魔力が溢れるにも、ほどがある。
予想をはるかに超えて溢れる魔力に、すでに失神者が出ている。
妖精は、リヒトを嫌がり逃げてしまったままだ。
リヒトの側近が、女を勧めるがリヒトは「リーゼ以外はいらん!」と言ってさらに感情を高ぶらせた。
勘弁してくれ……こんな状態で妖精の森に入るどころか、近くに行くだけでも妖精に嫌われてしまう。
「とりあえず別荘から出ないでくれるかい?」
「リーゼを探しに行けないではないか!? いつあの森を出てくるかわからないのに!!」
「君は来なくていいよ」
「ふざけるな!」
「私はいつも真面目だよ……これでは誰も近づけないじゃないか」
「なら、ルーセルが魔力を吸収してくれ! 妖精の愛し子のリーゼにできたなら、ルーセルもできるんじゃないのか?」
「私は、魔力吸収の魔法は知らないんだよ。魔力不足も回復できなかったこともないからね」
リヒトは睨むが、困っているのはこちらだ。
仕方なく、急遽妖精にリーゼと同じ魔力吸収の魔法を教わることになるが……
「あぁ、嫌だ……」
「ルーセル。もっとしっかり吸収してくれ!」
魔力吸収には、リヒトに触れなくてはならない。そのために、彼と手を繋ぎ向かい合って座っている。
なぜ私が男の筋肉質な手を握らねばならないのか。
「リーゼは、もっと一気に大量に吸収してた気がするぞ!?」
「私は、たった今覚えたばかりなんだよ。リーゼより、魔力吸収の魔法レベルが低いんじゃないかね……」
「やる気も出してくれ……! リーゼに会いたいんだ……」
「私も早く会いたいよ。男と手を繋ぐ趣味はないんだよ……」
早く帰って来て、なんとかしてくれとリーゼに切に願う。
「リーゼは発見次第エクルースに送るから、リヒトは帰ってくれないかい?」
「リーゼに会うまでは絶対に帰らないぞ! それに、触れるところが少ないんじゃないのか? そのせいでリーゼほど魔力吸収ができてないのではないか?」
「鋭いことを言うなよ……」
魔力吸収には、触れる必要がある。妖精が花や植物から魔素を吸い上げるようにするのと同じだ。
「リーゼとは、抱き合ったりキスをしていたからあんな短時間で大量に吸収できたのか……」
「どうせ、キスも舌を入れていたんだろ……直接身体に入っているから吸収率が良かったのではないか? リーゼは、魔力吸収を妖精と同じで息をするようにしていたと思うし……」
「ということは……」
リヒトが、鋭い目で見てくる。抱きつかれては困る。リヒトと抱擁する気もキスをする気もない。
「勘弁してくれ。絶対に抱き合ったりしないし、キスもしない」
「俺だって嫌だが、背に腹は代えられん」
「女を召せばいいじゃないか。いくらでも呼んでやるから……リーゼみたいのが好みなら、可愛い女を探してやるよ」
「お断りだ。大体、どこにあんな可愛いのを隠していたんだ。王女がいるなんて初耳だったぞ!?」
「色々あるんだよ。リーゼを探し出すのに私も苦労したし……」
リヒトの従姉妹のシエラ嬢は、リーゼと違い美人だ。リヒトはシエラ嬢を嫌っていたから、美人なタイプよりも可愛いタイプの方がいいのかと思ったが……まさか、ここまでリーゼに惚れるとは驚きしかない。
「ルーセル。しっかりやってくれ。それに、せめて両手でやってくれ。俺だって男と抱き合う趣味はないんだ!」
「あぁ、嫌だ、嫌だ……」
今にも飛び出して行きそうなリヒトの両手を握る。どんよりとした気持ちで心の声がブツブツと出てしまう。
「早く国に帰れ、国に帰れ、国に帰れ……」
「心の声を隠さんか! 呪いみたいに吐くんじゃない! だが、リーゼを見つけるまでは、ルーセルには一緒にいてもらうぞ!」
それは、女を召したくないからリーゼの代わりの魔力吸収要員だ。勘弁してくれ。
この後、魔力が多少収まったリヒトに一服盛り、魔法の鎖で部屋に閉じ込めた。
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