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自分の娘に触れることすらしない父親にライアス様が憤りを感じていた。



「……貴様には、爵位は渡せんな」



低くて怒りを込めた声音がスズランから響いた。起き上がったライアス様に振り向いたお父様が驚愕する。



「ノルディス公爵家は王侯公爵。王位継承権すら回ってくる公爵家だ。そして、現在の殿下はまだ幼い……その隙を狙う気だったか? 継承権がなくとも、殿下の側近にもなれる可能性は高く、殿下は幼いからな。だが、貴殿では城の中枢に置くことはできないな。なぜ、ノルディス公爵家の一門でありながら、側近に迎え入れられないのか、考えたことはないのか」

「男爵のままならそうだろう……だがっ……」

「違う……なぜ、俺たち側近が殿下を守っていると思うんだ。良からぬものを幼い殿下に近づけないためだ。その点で貴殿は削除されている。爵位など気にせずにいられたら良かったのに……ここまで執着するとは……ローズにまで手を出すことは、看過できない」

「……父親などと思ってませんわ」

「……まさかっ」



ライアス様の隣で起き上がった私に、お父様がさらに顔のシワを引きつらせた。



「……二人で謀ったな……飲んだのは仮死状態になる薬か……」

「そうでもしないと、臆病な貴殿は現れないからな」



ほんの少しだけの仮死状態。あの改良したスズランの実は、解毒になるように改良した。

私の身体の毒を、解毒するように作ったのだ。



ライアス様に頼まれた解毒剤を作って、最後の仕上げは、このスズランだった。

一度、ライアス様が死んだと思わせればいいのだと考えて、飲んだあとは仮死状態のようにする、呼吸さえも抑えた薬だった。



「だが、ローズに触れればどうなるか……どうやっても、ローズとは結ばれん」

「そうでもない。ローズはベラルド男爵と違い、努力家で才能に溢れている。だから、俺もローズも生きているんだよ。その解決法もすでにわかっている」



怒りと焦りを滲ませるお父様が、周りに視線を移している。



「また、逃げる気ですか? ライアス様からは、逃げられませんよ。これで私と会うこともないでしょう」

「お前など、どうでもいい」

「そうですか……私も、どうでもいいのです。ただ、自由になりたかっただけなので……」



これが最後の会話になるだろうに、お父様は何とも思わないのだろう。

周りの気配にも気付き始めているから、それだけではないのだろうけど……。



「ローズ。ベラルド男爵を捕らえるぞ」

「そうしてください……」



そう言って、ライアス様が指笛を鳴らした。



空の上と森の中に密かに隠れていた飛竜が一斉に羽ばたかせて現れた。

ライアス様が竜騎士団を、この森の薬屋に配置させていたのだ。



「スノウ……お父様を捕らえて……」

「はい。お嬢様」

「お前まで、裏切り者か!!」

「いいえ。これまで真摯に仕えました。だから、裏切ってはないのですよ……でも、お嬢様は、俺の妹の薬を昔から作ってくれていたのですよ。高くて買えなかった薬をね……おかげで、今は元気にやってます。あなたは、給金はくれたけど妹の高い薬を買うお金はくれなかったのに……でも、金をくれてたから、仕えていたでしょう。でも、お嬢様だけはダメです」



そう言って、見限ったように冷たい瞳でスノウが逃げようとするお父様を捕らえた。

それを、マントで身体を包んだ私は、ライアス様に抱かれたままで見ていた。





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