先生、わがまま聞いて

香桐れん

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<一> 年上の男

2 年上の男

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     2 年上の男
 
 ――佐上さがみ三田みたって怪しいよな。
 そんな話を初めて耳にしたのは一年生の半ば頃だったと思う。
 佐上先生は教員の中でも年嵩の、五十代前半の古典担当だ。掠れた渋い声と背広の似合う引き締まった体型が特徴的な先生だ。
 もともとは遠方の系列校に勤めていて、校長の強い希望により家族を置いて単身赴任を続けているらしい。
 
 一方、英語の授業を受け持つ三田先生は、アーモンド型の大きな目が印象的な非常勤講師だ。
 二十代半ばで独身、女性アイドルグループにいそうな顔立ちに、華奢で小柄なのに意外と胸が大きいという、血気盛んな高校生には刺激的な体型をしている。その魅惑的な外見で毎年新入生の男子の視線を釘付けにするのだが、授業中は居眠りや雑談をする生徒に満面の笑みを湛えて英作文の宿題を追加したり、テストの結果如何で容赦なく赤点をつけたりする強烈なところがあるから、迂闊にちょっかいを出す生徒はあまりいない。
 顔立ちに似合わず古風な名前をしていて、「修子」と書いて「しゅうこ」と読ませることから、生徒たちからは陰で「しゅーちゃん」と呼ばれている。
 
 その「しゅーちゃん」と佐上が怪しいという根も葉もない噂が広まり始めた時、瑛斗はほとんど真に受けていなかった。「一緒にいるだけで付き合ってると妄想するのは子供の発想だろ」とさえ思っていた。
 確かに、ふたりが廊下ですれ違うたびに立ち止まっては親密そうに会話する姿はしばしば見かけていた。三田先生が系列校の卒業生で、彼らが昔は教師と生徒の間柄だったという事実も噂を広げる一因になったのかもしれない。
 しかし、月に一度は遠い自宅に戻り、授業中もたびたび家族の話を持ち出しては奥さんや子供のことを幸せそうに語る佐上先生が、よりによって不倫をするだなんて、瑛斗にとっては信じられないことだったし、三田先生に至っては、顔もスタイルも良いのにわざわざ歳の離れた既婚者に手を出すほど相手に困るような女には到底見えなかったのだ。
 
 だから、その「現場」を目撃してしまった時、瑛斗は少なからずの衝撃を受けた。
 呆然とするあまり背後の車にクラクションを鳴らされたぐらいだった。
 何しろ、あの建物は間違いなくホテルで、それも男女が情愛を交わすことを目的とする場なのだ。
 そんな場所にもかかわらず、ふたりは人目を忍びながら、そそくさと薄暗い光の中に消えていった。
 瑛斗はの当たりにしたその事実を受け止めきれず、消化もできず、かといってどういうわけか親しい友人に打ち明ける気にもなれなかった。
 自分自身のこれまでの高校生活が清らかだったとはけっして思っていない。初体験は高校に入って早々に済ませていたし、今日までの間にそれなりに女の子と付き合ってきた。
 そんな自分がこれほどまでに動揺してしまったこと自体が、瑛斗に言いようのないほどの衝撃を与えていたのだった。
 
 
 
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