先生、わがまま聞いて

香桐れん

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<四> 傍にいるから

11 水色の車

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     11 水色の車
 
 三田先生に会えないまま週末を迎えた。
 最後に見た青ざめた三田先生の表情が、寝ても覚めても瑛斗の脳裏に浮かんでは消えた。
 土曜日と日曜日は自宅で馬鹿みたいに一日中バットを振り、飽きたら近所をランニングして、それから再びバットを握った。手のひらにまめができるほど素振りをしたのは野球部を辞めてから初めてだった。
 
 月曜日に学校へ着くと、真っ先に教員用の駐車場へ向かった。
 三田先生が淡い水色の軽自動車で通勤しているのを以前見たことがあった。すぐに見つけられる自信はあったが、ほとんど埋まった駐車スペースに目的の車はなかった。
 気落ちしながら校舎に入ると、掲示板に『三田修子先生:研修のため不在 火曜日まで』という張り紙が貼られてあった。
 その日の授業の内容をまったく覚えていないほど、瑛斗は人生を悲観した。
 火曜日もこの世の終わりのような心境で過ごした。校内で佐上を見かけるたびに、河村に「暗殺者みたいな目ぇすんな」と小突かれた。
 
 水曜日、校門をくぐるとまっすぐ教員の駐車場へ向かった。
 可愛らしい水色の車体は、しかしその日も見当たらなかった。既に大勢の生徒が登校している時間帯であり、教員がまだ到着していないという可能性は低い。
 掲示板の貼り紙には「研修は火曜日まで」と確かに書かれてあったし、何度も見直したから記憶違いのはずはない。瑛斗はほとんど駆け足で下足室に向かい、教室に行くよりも先に英語準備室のある棟に立ち寄った。
 準備室はしかし、今日も電気が消えていた。
 特別教室棟に向かう女子生徒たちに不審な目で見られながらひとりで悪態をついていると、別棟の廊下を歩く目的の姿が目に入った。
 後ろ姿ではあるが、いつもどおりわずかにウェーブのかかった長い髪を首の後ろでひとつにまとめ、軽快に歩く華奢な背中は、間違いなく瑛斗の会いたかった人のものだ。
 瑛斗は何日かぶりにやっと安堵し、同時に強く決意した。
 
 
 
 
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