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第2章 日常の日々

第34話 刺客

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 『暁の明星』と話し合いをしてから1週間。
 少数精鋭での指導に決まったらしく、いつどこでするかも決まり、準備をしていた頃。

 「だんちょ~」

 「ああ。尾行されてるな」

 暇潰しにと、都内某所のゲーセンに行った帰り。
 シューティングゲームで桜をボコボコにして、気持ち良くなってた所なのに、そのテンションを逆撫でするお客さんがやってきた。

 「今日は軽く変装してるから、野次馬とかも居なくて楽しく遊べたのにな」

 「あの人~。ゲーセンからずっとだよ~」

 別に野次馬がいても良かったから本当に軽くなんだけど。実際、ちらほらと気付いてコソッとサインやら握手やらを求めてくる人もいた。

 でも変装してるからか、お忍びと思ったんだろう。大々的に喧伝したりせずに、コソッと接触してきてくれたお陰で、大きな騒ぎにもならずにすんだ。
 思った以上に現代の人達の民度が良いんだよなぁ。有名人には群がるもんだと思ってたんだけど。

 で、尾行してきてる奴なんだけど。
 厄介なストーカーなら無視しても良かったんだけどな。あれはダメだ。
 よろしくない雰囲気をプンプンさせている。

 「モロに裏の人間って分かるよな」

 「どこかからの刺客ってやつ~? あたし達を襲うって命知らずだとしか思えないんだけど~?」

 知らぬわい。こういうのは異世界でも多々あったんだ。暗殺とかならなんとかなると思ってる人間が一定数いるのも知っている。
 何故そういう思考になるのかは分からんが。

 俺をどうこうする気があるのは一目瞭然。
 どうせならそういう気配も隠せよな。
 異世界の人間の方がそういう面では上だぞ。
 一流の奴らはマジで直前まで気付かない事もザラにあったからな。ちょっと人間不信になりそうな時もあったぜ。

 直前まで普通に酒を飲んで、笑い合ってた奴が急に襲ってくるんだからな。
 そりゃ俺だって隠居したくなるってもんだ。

 「捕まえて事情を聞くか。一応相手に先に手を出させて正当防衛にはしておきたいな」

 「人通りの少ない所に行く~?」

 監視カメラがある所が良いですねぇ。
 しっかりと襲われたから反撃したんですよって証拠が欲しい。

 「あ、あそこで良いじゃん」

 「カメラ無さそうだけど~?」

 「ドラレコがあるだろ」

 大通りからちょっと外れた、駐車場がたくさんあるところ。
 所々に監視カメラもあるが、死角になる所もあって襲いやすいだろう。

 俺は歩くペースを少し落として、悟られないように周りを確認する。

 「うん。大体どの車にもドラレコがついてるな」

 「ちょっとあからさますぎな~い? 誘ってるのがバレバレだと--」

 桜が大丈夫なのかと疑問を呈していると、喋ってる途中で短剣が飛んでくる。

 「馬鹿で良かったね~」

 「確かに」

 飛んできた短剣は桜の糸で絡め取られる。
 おやおや? ご丁寧に毒までついてるじゃないか。
 日本は安全な国だと思ってたんだけどねぇ。
 狭間のせいで武器やらが普及するとこうなるのも致し方なしか。

 「桜」

 「ういうい~」

 短剣が飛んできたのもバッチリカメラに映っているだろう。
 これで警察さんに引き渡す時も正当防衛で通る筈。ボコボコにし過ぎると、過剰防衛になるから塩梅が難しいんだけど。

 尾行されてる時に、相手の強さも大体分かってたので、桜に捕縛を任せる。
 万能糸って対人で便利すぎるよね。
 俺の能力は人前で使うには派手すぎるし。
 桜の能力なら傷つけずに捕まえる事も可能だろう。

 物陰に隠れて次の攻撃の機会を窺っていた刺客に向かって極細なのに強度がもりもりの糸を伸ばす。
 ってか、最初の攻撃を防がれた時点で逃げろよな。なんでまだいけると思ってるんだ。


 「ぐえっ!!」

 「捕まえた~」

 何か他に隠してる事があるのかと思ったが、特にそんな事もなく。
 あっさりと桜の糸に捕縛されていた。
 桜の能力を極めたら一流の暗殺者になれるな。
 俺もあれだけ細かったら気付けるか自信はない。まぁ、俺に触ろうとしても、反転で糸を弾き返すだけなんだけど。

 「うーん? 普通に日本人っぽいな? 他国からのエージェント的なのを想像してたんだけど」

 「雇われとか~?」

 「まっ、聞いてみりゃ分かるか」

 自国に来てもらおうか的な展開だと思ってたのにアテが外れたっぽい。
 嫉妬からの犯行とかか? 流石にまだ早すぎると思うんだけど。嫉妬勢とか、日本の利権大好き勢が動くにしても、もう少し後だと思っていた。
 いずれ来るだろうとは思っていたけども。

 「どうするの~? 拷問~?」

 「そんな面倒な事するかよ。大丈夫。俺にはうってつけの悪魔さんが居るんだ」

 刺客の男は捕まえられても、余裕があるのかこちらを睨みつけている。
 拷問されても吐きませんってか。
 そんなの知ったこっちゃないが。

 俺は周りを見渡して、どのカメラにも死角になる所を探す。
 都内はカメラが多いな。場所を探すのも一苦労だ。

 「憑依ポゼッション:忠義ウリエル

 この悪魔さんは、かなり扱いにくい。
 天使との相性がこれでもかってぐらい悪いからね。仕方ないんだけど。

 「反転せよ」

 あんまり街中で能力使いたくないんだけどなぁ。
 目立つし、せっかく聖人キャラで売っていけそうなのに、悪魔に憑依するから尚更だ。
 でもこれの見た目は天使と相違ないから、万が一見られたとしても誤魔化せる筈。

 「傲慢ルシファー 
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