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第2章 抗争
第38話 領主激怒
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「ま、負けただと!?」
「はい。進軍したほとんどの人員が殉職しました」
闇組織レーヴァンへの進軍。
表向きはスラムに蔓延る悪を断罪するという名目で兵を集めたのだが、領主の目的は違う。
捕えられたエルフを確保するという、私情しかない真の目的があったのだが、どうやら失敗してしまったみたいだ。
「我が軍はたかが一闇組織も潰せんのか! それにスラムは今抗争続きで疲弊してる筈だろう!!」
「失敗は失敗です。どうなさいますか?」
報告をしている執事は心底呆れていた。
あれだけ慎重に動きましょうと、進言していたのにも関わらずエルフ欲しさに暴走し、独断で兵を集めてスラムに向かわせた。
しかも相手は、表の人間でも知っているスラムのアンタッチャブル、レーヴァンだ。
武闘派の人間を多数抱えており、幹部は領主の騎士より強いと評判なのだ。
前回もスラムに進軍して痛い目にあったのに、何も成長していない。そして理由がエルフだ。
辺境伯軍は各地の貴族の次男三男が多数所属していた。
そんな預かってる立場の貴族の人間を、領主の私情で死なせてしまった。
執事はこれから来るであろう苦情を想像して憂鬱な表情になる。
先代辺境伯への恩が無ければ、とっくにこんな所を辞めているだろう。
「くっ! 平民の分際でぇ!!」
「旦那様。早く何か対策しませんと。今はスラムで争ってるので大丈夫かもしれませんが、報復として向こうから攻めてきてもおかしくありません。普通なら領主に歯向かうなぞあり得ませんが、スラムの人間は何をするか分かりませんからな」
「分かっておるっ!! すぐに軍を再編成して反攻に備えろ! 万が一の時の為に兵糧も集めておくのだ!!」
「再編成出来る程の兵が居ませんが」
「街中に散っている衛兵を集めよ! 治安など知ったことか! 今は私の身の安全の方が大事だ!」
無茶苦茶な指示を飛ばす領主に辟易して、ため息を吐きそうになるのをなんとかこらえる。
そんな事をしてしまえば、更にうるさくなる事だろう。
執事は了承の意味を込めて一礼してから、部屋を退出する。
「はぁ。とりあえずお抱えの商会に連絡をしてから…。ああ、スラムの情報も集めておかねば。生き残りに話を聞きましょうか」
執事は頭の中でこれからの事を考える。
言われた事を遂行する為に色々と考えていたが、領主が暴走したせいでかなり苦しい状況だ。
(万が一の時の為に脱出経路を用意しておきますか。あの馬鹿領主と心中するのはごめんです)
☆★☆★☆★
「やばいっすね」
後ろからの襲撃に対抗する為に、指揮を取りにきたアハムは思った以上に状況が良くない事に顔を顰める。
なんとか、後ろを纏めて反攻したい所だったが、相手の戦法が徹底し過ぎている。
こちらが反撃しようとした頃にはすっかり逃げていて、取っ掛かりを掴めない。
「この場所を指揮している人がかなり優秀って事っすね。一体どこの組織なんすか。うちの面々は既に逃げてる奴もいるってのに。こんな統制が取れてるスラムの人間なんて…」
独り言を呟きながら考えていた途中で、ふと思い付いてしまった。
そういえば、情報収集すらままならない組織があった事を。
「まさかクトゥルフっすか!? ちっ! やられたっす!」
アハムは瞬時に最悪を想像する。
気付けば二大巨頭に迫る勢いで勢力を拡大して、ラブジーの縄張りともかなり近くなっていた。
そのクトゥルフが、自分達の縄張り方面から攻めてきている。
それが出来るという事は…。
「これ、うちの縄張り、ほとんどやられてるんじゃないっすか? これはかなりやばいっす」
アハムはレーヴァンを攻めてる場合ではないと、ボスに進言しに行こうとする。
しかし、動こうとした瞬間、自分の鼻先を何かが掠めた。
「魔法!!」
その方向を見ると、フードを被った恐らく女性。
少し距離がある為、表情は伺えないが先程の魔法を行使した人物で間違いないだろう。
(あの人が指揮官っすか? 女の魔法使い。スラムにそんな人間が居るなんてレーヴァン以外で聞いた事ないっす。あれが情報を掴めなかったクトゥルフのボス?)
相手は自分に執着していないみたいで、こちらをチラッと見た後は矢継ぎ早に周りの人間に指示を出している。
その指示はかなり的確なようで、指示を受けた人間がどんどん組織的な動きをしてラブジーの下っ端を仕留めていく。
「くっそ! あれはだめっす!」
指揮官はかなり優秀なようで、一方向だけ防備を薄くして逃げやすくしている。
しかし、あれはどこからどう見ても罠だろう。
だが、必死に戦ってる人間にそんな事は分からない。怪我をしたラブジーの面々は、そこに向かってどんどんと逃げていく。
「いやらしいっすね。敢えて逃げ道を作るってのは」
十中八九逃げた先にも網を張ってるだろう。
しかし、アハムにそれを止める事は出来ない。
一度動き始めた流れを止めるのは、いくらNo.2といっても困難なのだ。
「こんな事をしてる場合じゃねぇっす。早い事なんとか撤退しないと」
アハムはローブの女を睨みつけつつも、ボスの元に戻る。
あの防備を抜け出すにはボスの暴力が必要になる。
こんな報告をしないといけない事を憂鬱に思いつつ、急いでボスの元に向かった。
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