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act31.老騎士と蛇の魔女

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「はじめまして、ディア―ナさま。プーシュカ・イヴァノヴァ・エフスターフィイともうします」

鈴が鳴るような可愛らしい声は、無抑揚な音の旋律でディア―ナの部屋に響いた。
ロングソファにしな垂れかかりながら、ディア―ナは目の前の少女を見つめる。

話に聞いていた通り、銀色の髪に銀色の目。
雪の様に白い肌、精巧な人形と見紛う程愛らしく美しい風貌の少女…プーシュカを見て、ディア―ナはにっこりと微笑んだ。

「貴女がプーシュカね、待っていたわぁ。さ、こっちへいらっしゃい。お顔をよく見せて?」

言われるがまま一歩踏み出したプーシュカは、きちんと丁寧に…淑女らしい足運びを見せている。
母であるアヴローラの躾が行き届いているのだろう。

「私の子供たち…キーロフとユーリーにはもう会ったかしら?」
「はい、ディア―ナさま。おへやをあんないしていただきました」

発音に幼さが残るものの、しっかりとした受け答えにおや、と思う。
キーロフもそうだったが、どうやらこの子も発育が良いらしい。

それともこの子の場合は、銀の血も関係しているのだろうか。

しかし、気になるのはその表情だった。

「…お顔が暗いわねぇ。笑顔じゃないと、折角の可愛いお顔が台無しよ」
「くらい、…ですか?」
不思議そうに小首をかしげると、更に人形のように愛らしい。
「そうよぉ。ここに来るまでに疲れちゃったかしら?」
「いいえ…いいえ!」
突然、それまでより大きな…はっきりとした否定に、驚いたのはディア―ナだった。
「わたしはつかれておりません!」

その顔こそ無表情に近いものだったが、…それでも子を持つディア―ナにはすぐに理解する。
これは、怖がっているのだ。

微かに手足が震え、けれどもそれを隠そうと、堂々とディア―ナの目を見つめてくる。
気丈な子だ。…同時に、それほど張りつめさせる環境に今までもいたのだろう事が推測できる。

「…大丈夫よぉ、そんなに緊張しないで。大人でもピークからここまで来るのは疲れるのだから、子供の貴女が疲れるのは当然。無理をしてはいけないわぁ」

優しい声で微笑んで見せても、プーシュカは首を振る。

「わ、わたしは、つかれていません!」
それでも繰り返し否定するプーシュカに、ふむふむと頷く。
「そう、それならいいのよぉ。ではプーシュカ?こちらに来て、私の隣にお座りなさい」
「へ…?」

ソファに座り、優しく隣を叩く。
目を丸くするプーシュカに、早く、と急かすとやがておずおずと隣に座った。
まるで小さな雪ウサギの様に思える。

「お手て触っても良いかしら?…うふふ、白くてきれいで、可愛い手ねぇ」

断りも入れず、肩を抱きよせて触れていく。
やはり緊張しているのだろう、きゅっと強く結んだ手は冷たい。
しかしユーリーや…同じ年だった頃のキーロフと同じく、細くて小さい可愛らしい手だ。

「あ、あの…」
「じっとしていてねぇ。…なんて綺麗な髪。柔らかくてサラサラで、ずっと撫でていたいわぁ」
手櫛で梳きながら、優しく頭を撫でる。
髪質は自分や息子たちと違い細く、真っ直ぐにするりと抜けていく。
「きれい…ですか?」

怪訝そうな顔でこちらを見つめるプーシュカは、どこから見ても作り物の様に美しい。

「ええ、とっても綺麗よぉ。私の髪は黒いでしょ?嫌いではないけれど、こんな風に冬の湖みたいに光る髪がとても羨ましいわぁ」

そう微笑むディア―ナに、プーシュカが突然震えだす。

「わ、わたし、…わたしのかみのけは、わるいかみのけなんです。さわったらだめです…!」
「沢山触っちゃってるから、もう遅いわねぇ」
「あ、あの、ごめんなさ…」
怯える目でデュシーカを見つめるプーシュカの頭を優しく撫でる。
「髪の毛に良いも悪いもないわよぉ。まあ、お手入れをしないぼさぼさな髪は悪いけれど…あなたの髪はちゃんとお手入れもされているし、柔らかくて触り心地も良い。とっても素敵な良い髪の毛よぉ」

ふふ、と笑うディア―ナに、プーシュカの目が潤み光る。

「さぁ、寒いでしょう。これをお飲みなさい」
用意させていた蜂蜜入りのホットミルクを子供用カップに入れ、手渡す。
受け取って口を付けると、ようやく口元が綻び、体全体から力が抜けていくように見えた。

「おいしいです」
頬を染めて微笑むプーシュカは、やはり想像していた通り…いや、それ以上に愛らしい。
「それは良かったこと。お代わりはしてもいいけれど、あまり飲み過ぎてはだめよぉ。夜中のおトイレは寒いからね」
「…はい。ありがとうございます、ディア―ナさま」
「良い子ね、プーシャ」
銀色の頭を撫でながら、ディア―ナは甘いミルクの香りに包まれた部屋でつかの間のひと時を楽しんだ。







「奥様、お早うございます」


早朝、ディア―ナが呼び鈴を鳴らすときつく纏め上げた銀の髪が溌剌と輝く、目映いばかりに美しく育った若い傍付きが深々と頭を下げて挨拶した。
年は先日、14になったばかり。
大分女性らしさが身体に現れ、同時に彼女の生まれ持っての美しさがまさに開花しようとしている。

立派に育った傍付きを見て、ディア―ナが起きたばかりのとろりとした笑顔を浮かべる。


「お早う、プーシャ…」

プーシャと呼ばれた傍付き…プーシュカが、部屋の前に用意していたワゴンと共に入室する。
毎朝必ず、プーシュカが淹れる目覚めのハーブティーを飲むのが近頃の日課だ。

「今朝は何かしら」
「野イチゴが取れたそうなので、それに薔薇の実と合わせてみました」
手際よくソーサーにカップにとテーブルに並べ、ポットからゆっくりと注ぐ。
「あら、上品で良い香りねぇ」
ふわりと漂う甘く優しい匂いが鼻をくすぐる。
「如何ですか?」
口を付けたあと、ディア―ナは思わず顔を顰めた。
「んん…酸っぱい」

"してやったり"という顔で笑うプーシュカを見て、ディア―ナは再度顔を顰める。

「目が覚めますでしょう?」
「ん、んー…本当。…あ、でも後から甘さがきて、慣れると美味しい」
嘘ではない。爽やかな酸味と優しい甘さが癖になる。
「私も昨晩試したら、頭が凄く冴えてしまったんです」

これは奥様に使えるな、と思いまして。…と舌を出して笑うプーシュカに、ディア―ナはやられたと苦笑する。

「主人と、上の腹黒にも一杯出してやりたいわねぇ」
「ええ、はい。そう仰るだろうと、小父様とキーロフにもこれをお出しするようにお願いしました」
その返答によくやった!と笑って返す。

恐らく今頃二人も渋い顔をしているだろうと思うと、ディア―ナもなんとなく気分が良い。

「暫くは朝、これで行こうかしら。…慣れると本当に悪くないわよぉ」
そう言いながら口を付ける。気が付けば自然と手が伸びていた。

「今朝のお召し物は如何されますか?」
「そうねぇ…今日は青にしましょうか」
「畏まりました」

装いの世話をした後、ディア―ナの黒くたっぷりとした髪を丁寧に整えていく。
本来なら複数人の女中と共に用意していくのだが、わざわざディア―ナが一人でやらせるようにしている。
尤も、ディア―ナの服装は一人でも程度の装いであることも無関係ではないが。

「あれからもう10年なんて、早いわねぇ。あっという間に給仕も作法も完璧になってしまって、可愛い顔して可愛げのないこと」
「恐れ入ります」
「今の貴女をユーリーが見たら、とても驚くでしょうねぇ」
「目に浮かびます」

くすくすと、小気味のいい楽しげな笑い声が部屋に響く。
やがてディア―ナがカップに口を付け、ふう、と溜息を吐いた。

「あれはあれで、遊学だとか言って勝手に飛び出して。今頃どこで何をやっているのやら…。全く、うちの男どもは碌でもない連中ばかり。本当に、一体誰に似たのかしら…」
「可哀想ですよ。お二人は帝国でも非凡な優秀さで名を馳せていらっしゃるのに」
「悪名もねぇ」

そう気安く笑い合っていると、ノック音がした。

許可を出すと、別の…赤みがかった茶色の髪を三つ編みにした、溌剌とした女中が現れる。
レーシィと言うディア―ナの傍付きだが、今はプーシュカと二人でキーロフの傍付きも兼任している。

「失礼いたします。奥様、プーシュカ様をお借りしても宜しいでしょうか?」

ディア―ナとプーシュカが顔を見合わせ、同時に赤茶髪の女中に向き直る。

「勿論構わないけれど、どうしたの?」
「はい、奥様。キーロフ様がお呼びです。至急、との事なのですが…」
「至急?…ハーブティーの件ではないのよね?」

ハーブティーと言う単語が出たあと、レーシィが一瞬吹き出しそうになるのをこらえて顔を綻ばせる。

「はい…ええ、そちらではありません」

取り澄まして頷く姿を見て、ディア―ナもふうん、と笑う。
プーシュカを見るも、思い当たる節はないのか首を傾げている。

「…そう。その間、こちらはレーシィが見てくれるんでしょう?行ってらっしゃい」
「畏まりました。では、途中で申し訳ありませんが一旦失礼いたします。レーシィ、ありがとう」

プーシュカの礼に朗らかに会釈するレーシィと入れ替わり、プーシュカが一礼して退室する。

「…キーロフ様は今朝のお茶が大層お気に召されたようですよ」
プーシュカの退出を見送りつつ、レーシィが苦笑いしながら口を開く。

「あらそう。私も気に入ったところよぉ。貴女も飲んだ?」
「はい、皆で頂きました。使用人の間でも好評なのですけれど、…うふふっ!」
笑いだすレーシィに、最初の一口がねぇ、とディア―ナも頷く。

「キーロフ様の珍しいお顔が見られて、個人的にはとても貴重な光景でしたから、とても元気が出ました」
「ああ、やっぱり。私も見たかったわぁ」

きっとあのひねくれ者の事だから、2度目は見せてくれないだろう。

それにしても、と、ディア―ナは鏡を見つめながらふっと頬を弛ませる。
「プーシュカも大分解れたわねぇ」

その言葉にレーシィも笑って頷く。
「私どもにもとても気遣って下さいますし、今じゃ使用人の間で一番人気ですよ。」
「あらぁ、薄情者どもだこと。オルラン家の人間を差し置いて」
そう言いつつも、ディア―ナが嬉しそうにしている事をレーシィは知っている。

「ディア―ナ様。プーシュカ様が成人をお迎えになったら、キーロフ様とユーリー様、どちらに嫁がれるのですか?」
ふと、思い出した様にレーシィが尋ねる。
使用人たちの間では当然、プーシュカはキーロフかユーリーの嫁候補として呼ばれたのだと思っているらしい。
「あら。やっぱりそういう話になっているのね。皆の間ではどちらが優勢なの?」
「順当にキーロフ様派が6割、ユーリー様派が3割、その他…オルラン家以外が1割です」
その配分に、恐らく…いや間違いなく、賭けの対象になっているのだろうことが見て取れた。
「そうねぇ…」
ディア―ナが楽しそうに口元を弛める。

「順番から言えばキーロフなんでしょうけど、あれは少し精神的に幼すぎるからプーシャが苦労しそうね。プーシャを思えば、ユーリーの方が合うと思うのよねぇ」
ディア―ナの意見に、レーシィが目を輝かせた。
「ですよね!ユーリー様はお優しいですし。ユーリー様が城をお発ちになる前はよくお二人が和やかにお庭で水をやっていたの、すごーく良い雰囲気だったんですよ!」
「そうねぇ…私もそうなればいいと思うのだけれど、決めるのはラザレフとイヴァンだから、どうなるかはわからないわね」
ディア―ナの忠告に、ああ、そうか…と、レーシィは多少がっかりしたような表情を浮かべる。
「なんにせよ、プーシャが納得のいく形であってくれればと願うしかないわねぇ」

そうして、日が昇ったばかりの空を窓から眺め、ディア―ナはふぅ、と溜息を吐いた。





















とっぷりと日の暮れた夜中。
とはいえ昼間の様に明るい空は、夏至である今のこの季節にしか見られない光景だろう。

帝国の人間は、銀色の悪魔が練り歩く為に夜を照らすという伝説から『銀夜』または『偽夜』と呼ぶ。

極寒に耐え夏に至る喜びから、この時期は特に銀色の悪魔が喜ぶという。

「銀色…」

ガラス越しに、銀夜の空を眺めながらぽつりと零れる声がした。
やや掠れた甘く漂うような声は吐く息と共に消えていく。
動くだけでするりと脱げそうな、上等な絹のガウンを羽織り、椅子にもたれ掛りながら果実酒を口に付ける。

「どうした」

寝台の方から、低く厳つい声が届く。
同じくガウンを羽織り横ばいに寝そべる壮年の男…ラザレフは、女…自身の妻であるディア―ナの方に目を向ける。

「眠らないのか?」
「…あの子達の事をね。考えていたのよ」

目を細めて空を眺めるディア―ナの横顔に、ふむ、とラザレフが起き上がる。

ラザレフは先だってディア―ナのトイカロットから外され、自身…ラザレフの命により単身で帝城へと向かったプーシュカに思いを馳せた。
そろそろ明日辺りには帝都に付く頃合いだろう。

「プーシュカは上手くやる。あれはいつも私の期待に応えてくれる」

満足げに頷くラザレフを見て、ディア―ナは微かに溜息を吐いた。

「そうねぇ。プーシャはそうでしょうね。…でも、キーロフはどうかしらね」
「全く、あの馬鹿は一体何を考えているんだ」

流れて出てきた息子の顔を思い浮かべ、ラザレフは眉間にしわを寄せる。

「勝手な行動ばかりとって、領地も好き放題。安定はしているようだから文句はないが…何がしたいのやら、一見従順そうなふりをしてこちらの言う事には聞く耳も持たん」
「…あの子はあなたの悪いところを全て受け継いでしまったわねぇ」

ラザレフを眺めながら、ディア―ナがぽつりと呟く。
「何だそれは?」
憮然とする夫の姿を見て、ディア―ナはどこかおかしそうに笑った。
「素直じゃないところと、自分の中だけで完結しているところ。…自分の一番大切なものに、きちんと向き合おうとしないところ」
空いたグラスに果実酒を入れ、ラザレフに差し出す。
受けとって一息に飲むと、そのまま対面の椅子に座ってしっかりとディア―ナを見つめた。
「お前にはきちんと向き合っているだろう」
「あらぁ、嬉しい。ちゃんと私が一番だって言えるようになったのね。感心感心」
ころころと笑うディア―ナに、ラザレフは更に憮然する。
「茶化すな」
「茶化してなんていないわよぉ。あなたをからかって遊ぶのにはもう随分前に飽きたもの」
「ふん。…何が言いたい」
ぎらりと睨みつけるラザレフに、ディア―ナは手をふらふらと振って空を指さす。
その指は、北に向かっていた。

「………そろそろ、許してあげたら」


ディア―ナの言葉にラザレフは目を見開き、持っていたグラスが大きな音を立てて弾け落ちた。

「…」

わなわなと震えるラザレフの手からうっすらと血がにじむ。
さほど深く切れていないのは、その手の皮膚に分厚く硬いこぶができているからだろう。


「旦那様、奥様!如何されましたか!」

グラスを割る音を聞きつけ、控えていた不寝番の使用人が扉を叩く。

「大丈夫よぉ。この人がグラスを割っちゃったの。朝にでも片づけてくれればいいわぁ…ごめんなさいね、下がって良いわよぉ」
ディア―ナがにっこりと微笑み、心配そうに見つめる使用人を下がらせる。


「いちいち癇癪起こさないの。…そういうところも、あの子が似ちゃったわねぇ」

扉を閉めて、ディア―ナが長い息を吐き出した。

「あの子は本当にあなたにそっくり。見た目は私に似て悪くない筈なのに、外見にも服装にも無頓着だし。そんな野暮ったいところまで似なくても良いじゃない、ねぇ?」
「それは……いや……うん…」
服装に関しては、どちらかといえばお前のせいだろう…という言葉を飲み込む。
毒気を抜かれたラザレフがふう、と息を吐いて椅子に座り直した。

「…私が悪いのか」

小さくぽつりと零すラザレフに、ディア―ナが微笑んで背中から手を回す。

「あなたは間違っていないわ。今も昔もずっと、間違っていない。けれど、それが正しいかどうかは怪しいわねぇ」

ラザレフがゆっくりと…眉間のしわを解きながら目を閉じる。
肩に豊満な胸の感触を受けながら、回された妻の白い手に自分の手を重ねた。

「けれど、あなたはもうお義父さまの人形ではないのでしょう?貴方は自分の手で夢を掴むと決めた。…なのに、未だ過去ばかりに目を向けていたら、見えるものも見えないわよぉ」
「…例えば、なんだ?」
ディア―ナはくすりと笑う。
「あなたが世界で一番だーい好きな、私のおっぱい」

回り込んで、ラザレフの膝の上にどかりと乗る。
不敵に微笑むディア―ナの顔をまじまじと見て、それから微かにラザレフが笑った。

「老けたな」
「お互い様よぉ。見た目に気を遣わない分、あなたの方が年よりも余計老けて見えるんだから」
「私はお前よりも年が上なのだから当たり前だろう」
「そうね。…そしてそれは、彼にとっても同じことだわ」

ディア―ナは目を細めながら、ラザレフの髭を撫でる。
「…」
渋い顔をするラザレフに、ディア―ナは柔らかく笑む。

「ねえラザレフ。…私があなたと結婚しようと決めた理由、覚えてる?」
「忘れた」
「そう、じゃあ改めて言うわね。私はあなたの窮屈そうで危なっかしいところがとても好きなのよ」
「…私は危なっかしいか?」
じろりと睨むも、楽しげに笑うディア―ナには何の意味もなさない。

「ええ。とっても真っ直ぐなのに意地っ張りで、聞き分けの良い顔はするくせに頑として自分を曲げなくて。自由なんて自分とは無縁だって顔をして、自分で自分を追いつめて、どんどん自分の首を絞めていく…あら、これも誰かさんに似ているわね?」
「ん?…それは…誰の事だ?」

首を傾げるラザレフに、ディア―ナは若干悲しげに眉を落とした後…再び笑う。

「ん…いいわ、気にしないで。…私はそういう危なっかしいのを見ると放っておけないの」
「?」
訝しがるラザレフの頬を撫で、立ち上がる。

「窮屈そうにしているのを見ると、もどかしくて仕方がないの。剥がして中身を全部曝け出して、解放してあげたいって思ってうのよ…あなたのように」
「お前が明け透けすぎると思うのだが…」
「だからあなたは私のことが好きで好きでしょうがないのよぉ。曝け出したくても曝け出せない窮屈な貴方には、私はとても目映いでしょう?」
「成程」

納得したような、しないような顔でラザレフが頷く。

「私はあなたのすることに反対はしないけれど。…それでも、あなたのその意地も解いたっていいと思うのよ」
「意地と言うものは貫き通すものだ。信念なくして何を誇る?戻れない道を行くのならば、せめて貫かなければ会わせる顔がない」
「それは誰に向かって会わせる顔なのかしら?」
「…」

答えようとしないラザレフに、これ以上は無理だと悟ったディア―ナはやれやれと肩を竦めて欠伸をする。

「眠れない時は退屈な話をするに限るわねぇ。…良い感じに眠れそうだわぁ」
「…そうか」

ガウンを脱いで寝台に寝そべると、ラザレフも続いて横になる。

「ディア―ナ」
「なぁに?触っても良いけど、ほどほどにね…」
全裸でだらりと伸びるディア―ナに、ラザレフが苦笑する。

「…それでも私は…自分のしたことを後悔したくはないのだよ」

妻の頬に軽くキスをした後、そのまま手を伸ばして抱き寄せ、ゆっくりと微睡んだ。
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