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15話 貴方は誰ですか?
しおりを挟む「おい、聞いてるのか? 」
言葉遣いは変わって、表情もニコニコ笑顔ではなく少し不機嫌そうな顔だけど、相変わらず顔はイケメン。こういう俺様タイプも悪くないわね・・・
「エリシア? 」
「あ、ごめんなさい、聞いてますわ 」
危ない危ない、突然のギャップにやられるところだったわ。
「つまり、婚約者候補を押し付けられないようにする為には恋人が居ると見せるのが手っ取り早いと・・・そういう事ですね? 」
「そうだ、やっぱり理解力は早いな 」
「でも、何故私なのですか? 」
「そんなの決まってるだろ 」
「決まってる? 」
オウム返しに聞く私を、レオンハルト様は不意に柔らかな眼差しで見つめる。
「そんなの、俺がエリシアを好きだからに決まってるじゃないか 」
甘い声で囁くように言われて、思わず顔が赤くなる。
「なっ、わ、私はレオンハルト様の事は好きではありません! 」
焦って顔を背けながら答えると、クスクスと笑い声が聞こえる。
笑い声の主、レオンハルト様を見ると、楽しそうに笑っている。
「私はレオンハルト様は好きではありませんとお答えしたのに、何がおかしいの? 」
「ごめん、本気で捉えるとは思わなかった 」
「・・・はい? 」
「冗談だ 」
「なっ・・・・・・」
くやしい、また騙された!
レオンハルト様は自分の顔が良いのをいい事に、私で遊んでるんだわ。性格悪! もう騙されないわよ!
「・・・レオンハルト様の性格が歪んでいらっしゃるのはよく分かりました。で、本当の理由は何ですか? 」
私は平常心を装って、レオンハルト様を見る。レオンハルト様はクスクスと可笑しそうに笑いながら私を見ている。
「レオンハルト様! 失礼ですわよ! 」
「ああ、すまない、エリシアの表情がおかしくてつい、お前を選んだ理由だったよな 」
ついって・・・私の顔はそんなに変なのかしら。失礼ね!
「さっきも言ったけど、俺は婚約者が居ない。だから諸外国から俺はいい物件に写ってるんだが、俺はまだ結婚する気も婚約する気も無い。だから、虫除けとして女性同伴で行けば相手も何も言ってこなくなると思ってな、かと言って、その辺の令嬢に頼めばそれこそ勘違いされる。その点、エリシアは俺の事避けてるだろ? そういう令嬢の方が安心して恋人役を演じられる 」
そういう事? まぁ、確かに私はレオンハルト様と恋に落ちる気なんてないのでそれは一理あるわね。
「それに、君はジルの妹だ。ジルは俺の事情を知ってるから都合がいいし、おまけに・・・お前は顔が良い、連れて歩くには悪くない 」
「な、何ですか、その人を物のように扱う言い草! 」
「悪い、褒めたつもりだけど? 」
レオンハルト様は悪びれる様子もなく私を見る。
「褒め言葉になってません! 」
小説の中のイメージしか無かったから、今までのレオンハルト様が当たり前に感じてたけど、実はめちゃくちゃ性格歪んでる?これが本性なのね。
「レオンハルト様こそ、いつもはとても大きな猫を被っていらっしゃるのに、ここまで来て素に戻られたのはなぜかしら? 」
「エリシアを連れ出すことは出来たし、旅の間ずっと優しい王子を演じるのも疲れるからな 」
レオンハルト様は何でもない事のように、車窓を眺めながら肘掛に肘を乗せて頬ずえをつく。
つくづく絵になるイケメンだわ。これで性格が家を出るまでのレオンハルト様なら言うことないんだけど、夢物語はやっぱり物語の中でしかないのね、現実は程遠いわ・・・
「これから行くディアルドの事だが、どんな所か知ってるか? 」
しばらく私も車窓を眺めて物思いにふけっていると、レオンハルト様が頬杖を着いたまま話しかける。
「ディアルドですか? ディアルドは我が国の東に位置し、我が国の国土の三分の一程の国土です。ディアルドでは鉱山から沢山の鉄が取れる為、主な貿易は鉄製品です。後、茶葉が有名で、我が国の名品と言われるお茶はほとんどがディアルド産によるものです。現国王様のシュナイダー様は国産の鉄から作られた大剣を振るう豪快なお方だと聞きますが、民衆から愛される気さくなお方だとも伺っております。今回ご結婚されるのはシュナイダー王の三番目のご子息のコーディー様ですわよね? 」
一気に話し終えてレオンハルト様を見ると、微動だにせず話を聞いている。しまった、話しすぎたかしら・・・
そう思っていると、ククッといきなり笑い出した。
「さすが、見事な知識だな 」
そう言ってサファイアブルーの瞳で柔らかに見つめる。
まさか褒められるとは思っていなかったので焦って視線を逸らしたけど、やっぱりレオンハルト様は変わってるのかしら。
この世界では女が知識をひけらかすのは下品だと言われる超男尊女卑の世界なのよ!
だから、本を読むのは好きだけど、得た知識を表に出す事はして来なかった。
機会が無かっただけだとも言うけれど、女性ももっと社会に対して意見を言える世界になればいいなと思う。
って言ってもさっき話した内容は全然大したものじゃないんだけど、何故か満足そうに私を見るレオンハルト様の視線、ものすごく居心地が悪いんですけど・・・
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