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19話 国境
しおりを挟む「あ、そうそう、私が昨日読んでた本ってレオンハルト様が持ってません? 」
馬車は暫く走り、流れる景色を見ている中で大事な事を聞くのを忘れていたことを思い出す。
「ああ、これか? 」
そう言って取り出した本は私の大事な本だ。
「ええ、それです。良かった 」
レオンハルト様から本を受け取ってほっと一安心して胸に抱きしめる。
「大事な本なのか? 何度も読んでいるみたいだけど 」
「ええ、これはこの世に二つとない大事な本です 」
何度も読み返しているので表紙がボロボロになった本を、大事そうに抱きしめる私を不思議そうに眺めるレオンハルト様。
「その本が世に二つとない? たくさん増版されてると思うけど? 」
レオンハルト様が不思議がるのも無理はない。
「これは大切な友達から貰ったものなんです 」
「友達から? 」
「ええ 」
愛おしそうに本を眺める私を、レオンハルト様は複雑そうな面持ちで暫く眺めていた。
「ふーん・・・そうか・・・」
そう言った後、外を眺めるだけで何も言わなくなった。
静かになったので、私は何度も読み返したその本に視線を落として、またページを開いて本の世界に入っていった。
「エリシア、もうすぐ国境だ 」
暫くしてレオンハルト様の声に顔を上げる。
「国境ですか? 私見るの初めてです 」
国境ってどんな感じかしら、やっぱり大きな砦とかあるの?
興味津々で窓から外を覗いてみる。
国境は高い壁で覆われていて馬車の向かう先には大きな砦が建っている。馬車はその真ん中にある大きな門に向かって進んで行く。
「なんだか重々しい感じですね 」
向かう先の門は遠くからでもわかるくらい重厚な造りで、簡単に破られないようになっていることが分かる。
「これはまだマシな方だぞ 」
「そうなんですか? 」
「エリシア、今から入るディアルドの概要は以前確認したが、深い情勢については知ってるか? 」
私はレオンハルト様の不意に見せる真面目な表情にドキッとしながらも頷く。
「詳しくは知りませんが・・・ディアルド王国自体は治安もよく、気候も安定しているのでとても住みやすい国だと聞いています。ですが、北の大国ラグマドルが鉱山資源を狙っていて北側の国境はいつも冷戦状態です。それに、ディアルドから見て東に当たるサーカイン共和国も期を伺っています。我がアイスバーグ王国はディアルドとは友好関係を結んでいますので、北のラグマドルに対しても牽制を続けています。うちの軍事力はディアルドからの支援で成り立っていますからね、ディアルドも国王様自ら大剣を振るう戦士として周辺他国への牽制を行っています 」
「やはり流石だな、エリシア、我が国がディアルドと友好関係を結び、ディアルドを護る理由は分かるか? 」
「はい、ラグマドルが鉄資源を手に入れれば、まず軍事力の強化を行います。そして、我が国を落としに掛かるでしょう 」
「何故そう思う? 」
「ラグマドルは北に位置している為広大な土地の約半分は作物も実らぬ極寒の土地です。それに比べ、我国はラグマドルに継いで大国と言われる国土を持ち、その全てが安定した気候で、農作物もよく育つ為、豊かな国の代表となっています。ラグマドルからすれば我国は喉から手が出る程羨ましい、欲しいと思わせる国ではないでしょうか? 」
そこまで一気に話してレオンハルト様を見ると、レオンハルト様は口角を少し上げて笑っているように見える。
「流石はジルの妹だな、そうだ、ラグマドルは最終的には我が国を狙っている。その為にも今から行くディアルドと我が国は親密に付き合っている。絶対に渡してはならない国だ 」
「はい 」
レオンハルト様の鋭い視線に、思わず「はい」と答えてしまったけれど、私は軍の人間でも無ければレオンハルト様の部下でもない。ただの娘だ。渡してはならないと言われても、私にはどうすることも出来ない。
そう言えば、レオンハルト様って小説の設定では剣の天才っていう設定だったけど、実際のレオンハルト様はどうなんだろう?
剣を持っている所すら見た事ないので分からないわね。
そんな事を考えているうちに、馬車は国境を難なく潜り抜け、ディアルド王国へと入った。
流石は王族の馬車、すんなり通れたわね。
それにしても、初めての外国はやっぱりドキドキするわ!
まだ街は見えないけれど、どんな感じなのかしら。早く街に入らないかな~。
ワクワクしながら流れる景色を眺める私を、レオンハルト様はクスクスと可笑しそうに笑う。
「・・・・・・何ですか? 」
あまりにも楽しそうに笑う声に、ムッとしてレオンハルト様を睨む。
「いや、可愛いなと思って見てただけだ、外見てて良いけど、あんまり窓に近づくなよ 」
・・・・・・また私をからかっているわね。
「何故ですか? 」
「ここは友好国だが、俺は何時どこで命を狙われるか分からない。だから窓に近づきすぎるのは危険なんだよ 」
「そう言われれば、そうですわね 」
納得して頷く私を、またククッと声抑えて笑う。
「今度はなんですか? 」
「いや、やけに素直だなと思っただけだ、気にするな 」
・・・この人は本当に失礼ね!
これ以上話してもまたからかわれるだけだと、レオンハルト様を少し睨んでから窓の外へ意識を戻した。
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