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48話 王宮
しおりを挟む夜中の出来事だったので、王宮に着いた頃には辺りがうっすらと明るくなり始めた頃だった。
「疲れただろう、とりあえずゆっくり休め 」
私はレオンハルト様が住まう区画にある客間に通された。
「はい、ありがとうございます 」
「エリシア、私は一度戻るけど、また来るからね、ゆっくりさせてもらうといい 」
「お兄様も大丈夫なの?」
「うん、私は大丈夫だよ、じゃあまたね 」
明るく手を振ってお兄様は帰って行った。
私が不安にならないよう、一緒に来てくれたのね、ありがとう。
「また昼過ぎに様子を見に来るから、それまでゆっくりしてろ 」
レオンハルト様もそう言うと去って行った。
私も案内された部屋で少し休むことにした。
いくらレオンハルト様の部屋とは離れているとはいえ、この状況はクリスティーナ様が羨むわね・・・
これからの事はどうなるのかしら、結局レオンハルト様に振り回されてばかりだわ、全然私の意思で動けてないのよね・・・
そんなことを色々と考えながらベッドに横になっていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
目が覚めるとすっかり日が昇りきって暖かな日差しが窓辺を照らしていた。
疲れていたのか、夢を見ることも無くぐっすり眠れたので体の疲れもなくスッキリしている。
「そうか、ここはお城の中なのよね 」
私は自分に言い聞かせるように言葉にして言ってみる。
ほんの半年ほど前までは絶対に関わりたくなかった場所に居るなんて、どうしてしまったんだろう。と自分で自問自答してしまう。
レオンハルト様はお昼すぎに来ると言っていたけど、もうそろそろかしら、そういえば、急に来る事になったので何も持ってきてない。着替えもないから寝巻きのままだ、レオンハルト様に貸してもらったコート以外何も着るものがないので外に出る事も出来ないわ、時間潰しに本も読みたいのに・・・
そんな事を思いながらしばらく待っていると、ドアが鳴ったので返事をする。
「はい、どうぞ 」
私の返事を待ってレオンハルト様が姿を現す。
「エリシア、少しは休めたか? 」
「はい、お陰様ですっかり疲れが取れました 」
にっこり笑って答えると、レオンハルト様はククッと笑いをこらえる。
「何ですか? 」
「いや、誘拐された後なのに逞しいなと思って、俺としては元気なエリシアで居てくれるのは助かる 」
んー、なんか今私はとても図太い人間だと言われた気がする。
まぁ、気にしないけどね。
「お陰様で逞しくなりました、それよりも、なにか着るものを兄に持ってきてもらえれば助かるのですけど 」
「ああ、その事なら・・・ 」
レオンハルト様がそう言って扉の方を振り返ると、何人かの人が大きな箱を持って現れた。
「これは? 」
「何着かは私が予め作らせておいた物だけど、間に合わない物は君の実家から取り寄せさせてもらったよ 」
「え? 予め作ってた? 」
どういう事?
「ん、またエリシア嬢にプレゼントしたくて作らせてたんだ、役に立って良かったよ 」
荷物を運んできたたくさんの使用人が居るので、レオンハルト様は猫かぶりモードです。
なんか今サラッと変なことを言っていたけど、聞かなかったことにしよう。
「それと、もう一つ大事なものを預かってきたよ 」
レオンハルト様はそう言ってドアの方を見る。大事なもの? 私は入口を見た瞬間、嬉しさのあまり叫んでいた。
「エミリー!」
レオンハルト様の言葉で部屋に姿を見せたのは私の侍女のエミリーだった。
「良かった、一人で心細かったの 」
「着替えが済んだら出てきてくれ、しばらくここに居ることになるから、エリシアが行動できる範囲を案内する 」
レオンハルト様はそう言うと部屋を出てしまった。
レオンハルト様は凄いわね、何でもお見通しで先回りして行動してくれる。
自分の事しか考えない上流階級の坊ちゃんとは全然違う。
それを言うと、夜の居酒屋で情報を探っていること自体、普通じゃないんだけど、今回は本当にレオンハルト様の事を見直してしまった。
私がここに連れてこられてからこれだけの事を用意するなんて・・・レオンハルト様は夜私を助けに来てくれてから寝ていないのじゃないかしら。
「お嬢様、早く準備をしませんと、殿下がお待ちですよ 」
「ああ、そうね、エミリー、来てくれてありがとう 」
「いいえ、まさか私がこんな所に来ることが出来るなんて夢にも思っていませんでしたけど、殿下のお心遣いのおかげです。レオンハルト殿下は本当にお心のお優しい方ですね 」
「そ、そうね 」
嬉しそうに話すエミリーに、私は微妙な返事しか出来なかった。
レオンハルト様が優しい? 鬼畜の間違いでは? でも確かに、からかいはするけど、決して嫌がることはしない。時折はめられるけど・・・意外と優しいのかもしれない。
あれ? 本当に優しいの?
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