きみに会いたい、午前二時。

なつか

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 どうしてなのか、自分でもよくわからない。というか、わかったらいけない気がして、思考をストップしているのかもしれない。

「……まぁなんでもいーけどさ。後悔だけはしないようにしろよ」
「いったぁ!!」

 俯いた俺の背中を思いっきり叩き、瀬良は前を歩いて行った。
 するとちょうど体育館ドアが開き、背の高い男たちがずらずらと出てくる。
 その中のひとりが、こちらに気が付いて顔を輝かせた。

「火月さん!」
「おっ、柊哉。おつかれ~」

 確か彼は、瀬良の恋人だ。
 二人の関係は、わざわざ公言しないけど、隠してもいないというスタンスらしい。
 知っている人は知っているが、知らない人からすれば、仲のいい先輩後輩にしか見えない。でも、”知っている”俺からしてみれば、なぜわからないのだろうかと思うほど、二人の間には甘い空気が漂っている。お互いが全身で『好きだ』と言い合っているように感じるほどだ。

 ――羨ましいな。
 ふと浮かんだ気持ちに、俺は内心驚いた。
 これは、恋人がいることに対する羨望だ。ただ、それだけのはず。

「瀬良。俺、先に行ってるから」
「ん、わかった。俺もすぐ行く」

 二人から目をそらすように少しだけ駆け足になると、北風が運んできた一枚の落ち葉がかさかさと音を立てて足元にまとわりついた。
 何となく踏むのはためらわれて、ひょいっと飛び越して部室を目指してまた歩き出す。
 あの落ち葉は仲間の元を離れてどこまで飛んでいくのだろう。一人ぼっちの旅路は寂しくないだろうか。
 ――俺はさみしい。一人は、さみしいよ。

 そんなセンチメンタルな気分のまま、部室のドアを開ける。すると、パッとこちらに顔を向けた晃成と目が合った。途端に、心臓がドクンと大きな音を立てた。

「智也先輩!」

 だって、俺に気づいた晃成の表情が、さっき瀬良を見つけた時の彼の恋人の顔と重なって見えたのだ。
 電気がパッとついた時のような、明るく、嬉しそうな笑顔。
 二人とも整った顔はしているけど、クールな雰囲気の瀬良の恋人と、人懐っこい晃成ではタイプが全く違うのに。

 意味が分からなくて、ドアの前で立ち尽くしていると、いつの間にか晃成が俺の目の前まで来ていた。

「どうかしました?」
「……ん-ん、なんでもない」

 そんなに近くで顔を覗き込まれたら、ドコドコ鳴る心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
 俺は晃成を押しのけるように部屋の中に入り、いつもと同じように窓際の席に座る。
 少しでも心を落ち着けようと窓の外へ視線を逃がすと、こちらに向かって歩いてくる瀬良と彼の恋人の姿が目に入った。
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