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第二章
ロマンスのはじまり 1
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「ああ、お前が最後。でも、時間ピッタリだから遅刻ではないぞ。じゃあ、全員揃ったことだし始めようぜ」
藤本さんの声に、せいちゃんが私の席の前に座る。正面からイケメンにじっと見つめるものだから、何だか居心地が悪い。
「あの……、俺、あなたとどこかでお会いしたことありますよね?」
唐突に質問されて、私は驚いた。まさか、私の顔を覚えてる……?
驚きのあまり、咄嗟に返事ができない私に、藤本さんが茶々を入れる。
「おいおい、誠司。早速ナンパするなよ、ちゃんと後で自己紹介するんだからさ」
「いや、そんなんじゃないよ。でも俺、あなたとどこかでお会いしてますよね……?」
改めて問われた私は、頷くしかない。
「えっと……直接お話しとかしたことはないんですけど、多分、言えばわかると思います」
この場で美波ちゃんの名前を出していいものか、悩んだ末に、もったいぶるような歯切れの悪い返事となってしまった。
「ふーん……、まあいいや。で、みんなは飲み物もう頼んだ? 俺、今日非番だから酒は飲めないんだけどいい?」
せいちゃんこと誠司さんは藤本さんにそう言うと、藤本さんがわかったと言い、呼び出しボタンを押した。
ほどなくして、店員の女性が現れた。明るい髪色の、長い髪を後ろで一つに括ったかわいらしい人だ。
「飲み物頼む。俺と中井は生、誠司はウーロン茶でいいか? ……で、女性陣は?」
藤本さんがこの場を仕切ってくれ、こちらにドリンクをどうするか問いかける。すると小春が口を開いた。
「じゃあ、私はカシスオレンジと千紘はモスコミュール、愛美はどうする?」
「それじゃあ……、私もウーロン茶でお願いします」
私だけソフトドリンクを頼んだことで、場の空気を悪くしたりしないか心配だったけれど、小春には事前に車で来ることを伝えていたし、誠司さんもソフトドリンクだし大丈夫だよね……?
そう思っていたら、オーダーを取りに来た女性が注文を復唱した。
「では、生が二つとウーロン茶が二つ、カシスオレンジとモスコミュール、以上でお間違いないですか?」
「おい灯里、その話し方、何か気持ち悪い」
女性がオーダーの確認を終えた途端、藤本さんが口を開く。
灯里と呼ばれた女性は、笑いながら「だって仕事中だもん」と返した。
小春と奥に座る女性は、二人のやり取りを羨ましそうに見ている。すると藤本さんがニヤリと笑いながら再び口を開いた。
「灯里、さっきみんなが灯里の料理が美味いって褒めてたぞ」
その途端、小春も奥に座る女性も大絶賛した。
「私たち、灯里さんのお料理のファンなんです。でも、ランチメニューのオムライスは、いつ来てもすぐ売り切れるからなかなか口にできなくて……。今度、ランチタイム開始前に並びます!」
そんな二人の言葉を聞いて、灯里さんは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。藤本くんのお友達なら、こっそりサービスしちゃう。で、お料理は決まった?」
二人に返事をした後、灯里さんは藤本さんに問いかけた。
「いや、まだ。飲み物持ってきてくれる時に声かけるよ」
「了解。では、少しお待ちくださいね」
そう言って、灯里さんはカウンターへと向かって行った。藤本さんは、そんな灯里さんの後ろ姿を見つめている。藤本さん、もしかして……
「色々食べてみたいし、とりあえずここに書いてあるメニュー、ここからここまで頼んでみる?」
小春のとても豪快な提案に、今日は驚くことばかりだ。どのくらいの量が出てくるかわからないけれど、色々なものがちょこちょこと摘まめるのと、六人もいれば食べきれるだろうという安心感から、みんなも賛成した。
少しして、灯里さんが注文した飲み物を運んできた。私たちはメニュー表を見せながら、先ほどみんなが承諾した端から端までを注文すると、灯里さんは目を丸くする。
「お店的にはとってもありがたいんだけど……、それって結構割高になっちゃうけど大丈夫?」
ここまで話すと、灯里さんは声のトーンを落とし、内緒話をするように小声で言葉を続けた。
「……一人分の予算決めてくれたら、その予算内で色々作るよ? その代わり、ドリンク代は別になるのと、メニューはこちらのお任せになるのと、これは本来事前予約がないとできないことだからみんなには内緒ね?」
灯里さんからのありがたい申し出に、私たちは甘えることにした。みんなで相談した結果、ドリンク代は別にして一人当たり三千円の予算で、色々作ってくれることとなった。
「多分裏メニューが出てくるから、楽しみだな」
藤本さんがぼそりと呟くと、それを聞いた小春たちが歓喜の声をあげた。
「飲み物も揃ったことだし、乾杯した後に自己紹介しましょう?」
千紘さんの言葉に、みんながグラスを持つ。藤本さんが乾杯の音頭を取り、乾杯を済ませると、藤本さんから時計回りに簡単な自己紹介が始まった。
「藤本翔太です。二十八歳で、市立病院で理学療法士と作業療法士をしてます。……じゃあ、次は中井」
そう言って隣の席に座る中井さんに自己紹介を促した。
「えーっと、中井健、二十八歳です。市役所勤務で、この四月に税務課から市民課に異動となりました」
中井さんの挨拶が終わり、藤本さんが誠司さんに挨拶を促す。
「じゃあ、次は誠司」
藤本さんに促されて、誠司さんが口を開いた。
「大塚誠司です。消防士やってます。男メンバーは全員高校時代の同級生です。……これって、今日は何、男側はみんな公務員?」
誠司さんの言葉に、何も聞かされていなかったのかと思ったけれど、黙っていると藤本さんが答えた。
「いや、女性もみんな公務員って聞いてるけど……」
そう言って、みんなの視線が私に集まった。順番から言えば、次の自己紹介は私の番だろう。
「えっと……、西川愛美です。四月の異動で港南幼稚園勤務になり、今年は年中クラスの担任をしてます。次、小春の番ね」
簡単な自己紹介を終えると、小春にバトンタッチした。小春は合コン慣れしているのか、全然物怖じする様子はない。
「山岡小春です。市立病院の看護師をしています。今は病棟に勤務しています」
そして最後に千紘さんが口を開く。
「長野千紘です。小春と同じく市立病院で、私も病棟勤務の看護師をしてます」
千紘さんは小春の同僚で、藤本さんと三人は同じ職場ということがわかった。
「あ、ちなみに私と愛美は高校時代の同級生なんです」
小春が私との関係性を説明したので、これでだれがどう繋がっているかがわかった。
藤本さんの声に、せいちゃんが私の席の前に座る。正面からイケメンにじっと見つめるものだから、何だか居心地が悪い。
「あの……、俺、あなたとどこかでお会いしたことありますよね?」
唐突に質問されて、私は驚いた。まさか、私の顔を覚えてる……?
驚きのあまり、咄嗟に返事ができない私に、藤本さんが茶々を入れる。
「おいおい、誠司。早速ナンパするなよ、ちゃんと後で自己紹介するんだからさ」
「いや、そんなんじゃないよ。でも俺、あなたとどこかでお会いしてますよね……?」
改めて問われた私は、頷くしかない。
「えっと……直接お話しとかしたことはないんですけど、多分、言えばわかると思います」
この場で美波ちゃんの名前を出していいものか、悩んだ末に、もったいぶるような歯切れの悪い返事となってしまった。
「ふーん……、まあいいや。で、みんなは飲み物もう頼んだ? 俺、今日非番だから酒は飲めないんだけどいい?」
せいちゃんこと誠司さんは藤本さんにそう言うと、藤本さんがわかったと言い、呼び出しボタンを押した。
ほどなくして、店員の女性が現れた。明るい髪色の、長い髪を後ろで一つに括ったかわいらしい人だ。
「飲み物頼む。俺と中井は生、誠司はウーロン茶でいいか? ……で、女性陣は?」
藤本さんがこの場を仕切ってくれ、こちらにドリンクをどうするか問いかける。すると小春が口を開いた。
「じゃあ、私はカシスオレンジと千紘はモスコミュール、愛美はどうする?」
「それじゃあ……、私もウーロン茶でお願いします」
私だけソフトドリンクを頼んだことで、場の空気を悪くしたりしないか心配だったけれど、小春には事前に車で来ることを伝えていたし、誠司さんもソフトドリンクだし大丈夫だよね……?
そう思っていたら、オーダーを取りに来た女性が注文を復唱した。
「では、生が二つとウーロン茶が二つ、カシスオレンジとモスコミュール、以上でお間違いないですか?」
「おい灯里、その話し方、何か気持ち悪い」
女性がオーダーの確認を終えた途端、藤本さんが口を開く。
灯里と呼ばれた女性は、笑いながら「だって仕事中だもん」と返した。
小春と奥に座る女性は、二人のやり取りを羨ましそうに見ている。すると藤本さんがニヤリと笑いながら再び口を開いた。
「灯里、さっきみんなが灯里の料理が美味いって褒めてたぞ」
その途端、小春も奥に座る女性も大絶賛した。
「私たち、灯里さんのお料理のファンなんです。でも、ランチメニューのオムライスは、いつ来てもすぐ売り切れるからなかなか口にできなくて……。今度、ランチタイム開始前に並びます!」
そんな二人の言葉を聞いて、灯里さんは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。藤本くんのお友達なら、こっそりサービスしちゃう。で、お料理は決まった?」
二人に返事をした後、灯里さんは藤本さんに問いかけた。
「いや、まだ。飲み物持ってきてくれる時に声かけるよ」
「了解。では、少しお待ちくださいね」
そう言って、灯里さんはカウンターへと向かって行った。藤本さんは、そんな灯里さんの後ろ姿を見つめている。藤本さん、もしかして……
「色々食べてみたいし、とりあえずここに書いてあるメニュー、ここからここまで頼んでみる?」
小春のとても豪快な提案に、今日は驚くことばかりだ。どのくらいの量が出てくるかわからないけれど、色々なものがちょこちょこと摘まめるのと、六人もいれば食べきれるだろうという安心感から、みんなも賛成した。
少しして、灯里さんが注文した飲み物を運んできた。私たちはメニュー表を見せながら、先ほどみんなが承諾した端から端までを注文すると、灯里さんは目を丸くする。
「お店的にはとってもありがたいんだけど……、それって結構割高になっちゃうけど大丈夫?」
ここまで話すと、灯里さんは声のトーンを落とし、内緒話をするように小声で言葉を続けた。
「……一人分の予算決めてくれたら、その予算内で色々作るよ? その代わり、ドリンク代は別になるのと、メニューはこちらのお任せになるのと、これは本来事前予約がないとできないことだからみんなには内緒ね?」
灯里さんからのありがたい申し出に、私たちは甘えることにした。みんなで相談した結果、ドリンク代は別にして一人当たり三千円の予算で、色々作ってくれることとなった。
「多分裏メニューが出てくるから、楽しみだな」
藤本さんがぼそりと呟くと、それを聞いた小春たちが歓喜の声をあげた。
「飲み物も揃ったことだし、乾杯した後に自己紹介しましょう?」
千紘さんの言葉に、みんながグラスを持つ。藤本さんが乾杯の音頭を取り、乾杯を済ませると、藤本さんから時計回りに簡単な自己紹介が始まった。
「藤本翔太です。二十八歳で、市立病院で理学療法士と作業療法士をしてます。……じゃあ、次は中井」
そう言って隣の席に座る中井さんに自己紹介を促した。
「えーっと、中井健、二十八歳です。市役所勤務で、この四月に税務課から市民課に異動となりました」
中井さんの挨拶が終わり、藤本さんが誠司さんに挨拶を促す。
「じゃあ、次は誠司」
藤本さんに促されて、誠司さんが口を開いた。
「大塚誠司です。消防士やってます。男メンバーは全員高校時代の同級生です。……これって、今日は何、男側はみんな公務員?」
誠司さんの言葉に、何も聞かされていなかったのかと思ったけれど、黙っていると藤本さんが答えた。
「いや、女性もみんな公務員って聞いてるけど……」
そう言って、みんなの視線が私に集まった。順番から言えば、次の自己紹介は私の番だろう。
「えっと……、西川愛美です。四月の異動で港南幼稚園勤務になり、今年は年中クラスの担任をしてます。次、小春の番ね」
簡単な自己紹介を終えると、小春にバトンタッチした。小春は合コン慣れしているのか、全然物怖じする様子はない。
「山岡小春です。市立病院の看護師をしています。今は病棟に勤務しています」
そして最後に千紘さんが口を開く。
「長野千紘です。小春と同じく市立病院で、私も病棟勤務の看護師をしてます」
千紘さんは小春の同僚で、藤本さんと三人は同じ職場ということがわかった。
「あ、ちなみに私と愛美は高校時代の同級生なんです」
小春が私との関係性を説明したので、これでだれがどう繋がっているかがわかった。
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