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第一章 鬼神と巫女
第二話 変な人
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月曜日に行われた入学式から三日の木曜日。今日も夜見は登校してこない。
夜見の席は私の隣なのだが、お陰で私の隣はいつも空席なのである。
私は、窓から夜見の家のほうを眺めている。こんなことをしても、夜見は出てこないだろうし、出てきたとしても姿は見えないというのに、なぜかこんなことをしてしまう。
「赤城くん、今日も来ないね」
クラスメイトとなった花音が私に声をかける。
その顔には、どこか心配している様子が見てとれた。
「うん。一応、チャイムは鳴らしたんだけど、誰も出なかったの」
「寝てるとかじゃなくて?まだ風邪が治ってないのかもしれないよ?」
そう言った花音に、花音は夜見の頑丈さを知らなかったことに気づき、私は説明する。
「夜見って、一度も風邪すら引いたことがないの。それなのに、一日ならともかく、三日も休むのは変かなって」
「じゃあ、風邪じゃなくて、ずる休みってこと?」
「多分ね」
でも、それもおかしな話だ。
夜見は、どちらかと言えば真面目な性格だ。めんどくさいと思いつつも、やるべきことはきちんと行う。
それなのに、夜見に限ってずる休みとかあるものなのだろうか。
もしかしたら、本当に風邪を引いたのかもしれない。
「じゃあ、よほど三咲に会いたくないんだね……」
「うっ……!」
花音の恐らくは悪意のない言葉の刃が私の心臓に突き刺さる。
否定はできなかった。私も、うすうすそう思っていたから。
私が項垂れていると、後ろから足音がする。
「神野さん。今の話、詳しく聞かせてくださる?」
急に会話に割り込んできたのは、同じクラスの星宮麗さん。
麗さんは、同じ中学校の出身で、夜見のファンクラブの一員でもあり、超がつくほどのセレブな生粋のお嬢さまだ。
「今のって……?」
「先ほど仰ったでしょう?赤城さまが学校に来られないのは、あなたにお会いしたくないからだと。どういうことですの?」
「そうよ!赤城さまが来ないのはあなたのせいなの!?」
「そうなら、今すぐに謝罪してきなさいよ!」
麗さんを筆頭に、他のファンクラブの人たちも私を責め立てる。
とはいっても、このファンクラブの人たちは、星宮さんの取り巻き的な立ち位置だ。夜見のファンクラブに入っているのも、星宮さんが入っているからというのが大きそうなくらい。
騒ぎを聞きつけたのか、なぜか他のクラスの子も廊下から私をじっと睨んでいる。
「り、理由は学校が終わったら聞いてみますから……」
私はそれしか言えずに、花音と共に、ファンクラブの人たちをなだめた。
(なんとしてでも夜見から理由を聞かないと……!)
そう決意した私は早かった。学校から帰って、夜見の家のチャイムを鳴らす。
もし病気とかなら、絶対に家にいるはずだ。
そして出なかったら、また明日も同じことをする。
チャイムを鳴らして、学校が始まるぎりぎりまで待つ。出てこなかったので、仕方なく私は一人で向かう。
それをかれこれ三日ほど続けていたけど、まったく会える気配はない。
「何がいけないんだろう……」
日曜日のお昼時。私は、近所のカフェでうなだれる。
それを、冷たい目で見下ろす存在がいた。
「いや、三咲。それ、普通に迷惑行為だから。やってることストーカーだよ?訴えられても文句言えないよ」
花音に相談していると、そう突っ込まれた。
確かに、考えてみれば迷惑行為だ。いくら話したいからってこれはやりすぎだ。
だけど、私が焦るのにも理由はある。
「でもさ、早く聞き出さないと、私が不登校になりそうなんだもの……」
「ああ……日を追うごとに険しくなってきてるもんね、ファンクラブの人たち」
花音の言う通り、私が焦っているのは、ファンクラブの人たちから睨みがすごいからである。
私、殺されるんじゃね……?と思ってしまうくらいには恐ろしい形相で見てくるのだ。
「でも、赤城くん、ほんとに学校に来ないよね。同じクラスだから、実はこの高校じゃありませんでしたはないと思ったけど……」
「うん。ちがう高校はないと思ってたよ」
「なんで?」
花音は、何の邪な思いもなく、純粋な思いで聞いているのだろう。
でも、私は恥ずかしくて顔を赤らめた。
「夜見が……私と一緒の学校に行くって言ってくれたから……」
私たちの入学した高校……紅月高等学校は、私立の高校で、この辺りの高校では一番設備が整っている、いわゆる進学校。とはいっても、そこまでハイレベルではない。進学校らしく、特待生制度はあるけど。
そして、紅月中学校というのもあって、高校にはこの中学校出身が多い。私も花音も、紅月中学校の出身だ。
私がこの紅月高校に憧れてて、夜見と一緒に行きたいなぁと夜見に話したら、『俺もそこに行ってやる』と言ってくれたというわけ。
「おやおや、初々しいですなぁ~。イケメン幼なじみがいたら惚れないわけないか」
花音がにやにやしながらそんなことを言うので、私は慌てて否定する。
「いや、そういうんじゃないからね!?ただの幼なじみだから!」
「はいはい。ただの幼なじみね」
くすくす笑いながら花音は言う。ただのを強調しているのは、絶対にわざとだ。
私は花音のほうを見れずに、脇へと目をそらすと、なんかおかしな女性がいる。
その女性は、入学式のときの私のように元気がなく、周りはなぜか黒いもやのようなもので覆われている。
なに?あれ?
「ねぇ、花音。あの人……」
いけないことだとはわかっていても、どうしても気になった私は、花音に耳打ちで話しながら女性を指差した。
「あの落ち込んでいる人?この前の三咲にそっくりだけど……それがどうかした?」
さらっとひどいことを言われた気がしたけど、今は置いておくとして、あのもやみたいなものは、花音には見えてないの?
「なんか変な気がしない?どんよりしてるっていうか、暗いっていうか……」
「まぁ、落ち込んでるみたいだし?」
「そうじゃなくて……」
「……?」
花音は訳がわからないといった様子で首をかしげている。
やっぱり、見えていないらしい。じゃあ、あれは一体なんなの?
「……よくわかんないけど、あの人よりも赤城くんのことでしょ。どうするの?」
そうだ。今は、女の人よりも夜見のこと。
でも、どっちにしても、正攻法では夜見は会ってくれそうもない。
「そうだな……。こうなったら……!」
「こうなったら?」
「待ち伏せするしかない!」
「それがストーカーだって言ってるのよ!!」
花音の大声のツッコミは気にせずに、私は夜見の家へと向かった。
その道中で、どきどきあの女の人みたいに黒いもやを纏っている人を見かけたけど、あまり気にすることはなく走っていく。
私は、花音に言ったように、ひたすら待つことにした。
もう日が沈もうかという夕暮れまで待ってみたけど、出てくることはない。なんとなく予想はできていた。
「やっぱり出てこないか……!」
もしかして、私がいることがわかってる?会いたくないから、外には出ない的な?
でも、窓から見えない位置を陣取っているのに、どうやって確認しているのだろう。
「明日にもう一回待ち伏せするか」
今日は出てきそうにもなかったので、私は家に戻ることにした。
夜見の家に背を向けると、そこには女性が立っている。その女性は、先ほど見かけたあの女性。
気のせいか、昼のときよりも、もやは濃くなっている。
その女性は、なぜか動かない。じっとこちらを見ている。
なんかそれが不気味で、私は気づかないふりして通りすぎようとすると、女性は私の腕を掴む。
「な、なんですか!」
私はなんとか振り払おうとするけど、女性の力が強すぎて振り払えない。
というか、なんかおかしい。いや、掴みかかってくる時点でおかしいんだけど、明らかにこんな華奢な女性が出せる力を越えている。
そして、気づいたらもやが大きく広がっていた。
「ミコ……」
「やめて!」
私は、空いていた左手で、思いっきり女性の腕をひっぱたく。
すると、女性の力が抜けて、私の右腕は自由になった。
そこから急いで離れようとすると、女性のもやは大きく広がる。というよりかは、何か女性から出てこようとしているみたいだった。
「えっ?えっ?」
訳がわからなかった。
そのもやみたいなのは、女性の頭上に浮かぶ。
女性は力が抜けたようにその場に崩れたけど、そんなことを気にしている場合ではない。
そのもやは、私のほうへと向かってきたからだ。
声も出ない。何もできない。でも、あれがヤバイやつというのは直感でわかった。
逃げなきゃと思っても、体が動かない。
あれとぶつかったらどうなるの?呪われるの?死ぬの?また、夜見から避けてる理由も聞いてないのに?
意味なんかない。でも、思わず呟いた。
「夜見……」
「神通発破」
そんな声が聞こえた。
その声とともに、もやはまるで爆発したように散り散りになる。
この声の主を、私はよく知っている。
ずっと求めていて、ずっと会いたくて、何度も家に訪ねたんだから。
「夜見……」
私の目の前には、夜見が立っていた。
やっと会えたのに、何を言えばいいのかわからない。
「あれくらい追い払えよ。お前なら雑魚同然のはずだ」
夜見が何を言っているのかよくわからなかった。
いや、理解するほど余裕がない。
夜見に会えた私は、開口一番に叫ぶ。
「なんで私を避けるの!?学校にも来ないし!理由くらい話してくれてもいいじゃない!」
「……は?お前、何も知らないのか?」
夜見にそんなことを言われて、私はますますヒートアップした。
「知ってたらこんな風にならないよ!私がどれだけ悩んだと思ってるの!あんたのファンクラブにも睨まれるし!」
私が夜見のほうに近づくと、夜見は離れようとする。
逃がさないとばかりに私は夜見の腕を掴んだ。
「痛っ!」
夜見が痛がったので、思わず手を離してしまう。
すると、夜見はすぐに私から距離を取った。
確かに、逃がさないという思いで私は腕を掴んだけど、そこまで強くはなかったはずだ。
夜見の腕を見ると、私が握った辺りの場所が赤く腫れている。
それを見て、ヒートアップしていた私も少し冷静になった。
「……その様子だと、本当に何も知らないみたいだな」
「だから何がなの」
夜見は私の質問には答えずに、家のほうへと向かう。
「入れ。全部、話してやるから」
夜見のその言葉に操られるかのように、私は夜見の家の中へと入った。
夜見の席は私の隣なのだが、お陰で私の隣はいつも空席なのである。
私は、窓から夜見の家のほうを眺めている。こんなことをしても、夜見は出てこないだろうし、出てきたとしても姿は見えないというのに、なぜかこんなことをしてしまう。
「赤城くん、今日も来ないね」
クラスメイトとなった花音が私に声をかける。
その顔には、どこか心配している様子が見てとれた。
「うん。一応、チャイムは鳴らしたんだけど、誰も出なかったの」
「寝てるとかじゃなくて?まだ風邪が治ってないのかもしれないよ?」
そう言った花音に、花音は夜見の頑丈さを知らなかったことに気づき、私は説明する。
「夜見って、一度も風邪すら引いたことがないの。それなのに、一日ならともかく、三日も休むのは変かなって」
「じゃあ、風邪じゃなくて、ずる休みってこと?」
「多分ね」
でも、それもおかしな話だ。
夜見は、どちらかと言えば真面目な性格だ。めんどくさいと思いつつも、やるべきことはきちんと行う。
それなのに、夜見に限ってずる休みとかあるものなのだろうか。
もしかしたら、本当に風邪を引いたのかもしれない。
「じゃあ、よほど三咲に会いたくないんだね……」
「うっ……!」
花音の恐らくは悪意のない言葉の刃が私の心臓に突き刺さる。
否定はできなかった。私も、うすうすそう思っていたから。
私が項垂れていると、後ろから足音がする。
「神野さん。今の話、詳しく聞かせてくださる?」
急に会話に割り込んできたのは、同じクラスの星宮麗さん。
麗さんは、同じ中学校の出身で、夜見のファンクラブの一員でもあり、超がつくほどのセレブな生粋のお嬢さまだ。
「今のって……?」
「先ほど仰ったでしょう?赤城さまが学校に来られないのは、あなたにお会いしたくないからだと。どういうことですの?」
「そうよ!赤城さまが来ないのはあなたのせいなの!?」
「そうなら、今すぐに謝罪してきなさいよ!」
麗さんを筆頭に、他のファンクラブの人たちも私を責め立てる。
とはいっても、このファンクラブの人たちは、星宮さんの取り巻き的な立ち位置だ。夜見のファンクラブに入っているのも、星宮さんが入っているからというのが大きそうなくらい。
騒ぎを聞きつけたのか、なぜか他のクラスの子も廊下から私をじっと睨んでいる。
「り、理由は学校が終わったら聞いてみますから……」
私はそれしか言えずに、花音と共に、ファンクラブの人たちをなだめた。
(なんとしてでも夜見から理由を聞かないと……!)
そう決意した私は早かった。学校から帰って、夜見の家のチャイムを鳴らす。
もし病気とかなら、絶対に家にいるはずだ。
そして出なかったら、また明日も同じことをする。
チャイムを鳴らして、学校が始まるぎりぎりまで待つ。出てこなかったので、仕方なく私は一人で向かう。
それをかれこれ三日ほど続けていたけど、まったく会える気配はない。
「何がいけないんだろう……」
日曜日のお昼時。私は、近所のカフェでうなだれる。
それを、冷たい目で見下ろす存在がいた。
「いや、三咲。それ、普通に迷惑行為だから。やってることストーカーだよ?訴えられても文句言えないよ」
花音に相談していると、そう突っ込まれた。
確かに、考えてみれば迷惑行為だ。いくら話したいからってこれはやりすぎだ。
だけど、私が焦るのにも理由はある。
「でもさ、早く聞き出さないと、私が不登校になりそうなんだもの……」
「ああ……日を追うごとに険しくなってきてるもんね、ファンクラブの人たち」
花音の言う通り、私が焦っているのは、ファンクラブの人たちから睨みがすごいからである。
私、殺されるんじゃね……?と思ってしまうくらいには恐ろしい形相で見てくるのだ。
「でも、赤城くん、ほんとに学校に来ないよね。同じクラスだから、実はこの高校じゃありませんでしたはないと思ったけど……」
「うん。ちがう高校はないと思ってたよ」
「なんで?」
花音は、何の邪な思いもなく、純粋な思いで聞いているのだろう。
でも、私は恥ずかしくて顔を赤らめた。
「夜見が……私と一緒の学校に行くって言ってくれたから……」
私たちの入学した高校……紅月高等学校は、私立の高校で、この辺りの高校では一番設備が整っている、いわゆる進学校。とはいっても、そこまでハイレベルではない。進学校らしく、特待生制度はあるけど。
そして、紅月中学校というのもあって、高校にはこの中学校出身が多い。私も花音も、紅月中学校の出身だ。
私がこの紅月高校に憧れてて、夜見と一緒に行きたいなぁと夜見に話したら、『俺もそこに行ってやる』と言ってくれたというわけ。
「おやおや、初々しいですなぁ~。イケメン幼なじみがいたら惚れないわけないか」
花音がにやにやしながらそんなことを言うので、私は慌てて否定する。
「いや、そういうんじゃないからね!?ただの幼なじみだから!」
「はいはい。ただの幼なじみね」
くすくす笑いながら花音は言う。ただのを強調しているのは、絶対にわざとだ。
私は花音のほうを見れずに、脇へと目をそらすと、なんかおかしな女性がいる。
その女性は、入学式のときの私のように元気がなく、周りはなぜか黒いもやのようなもので覆われている。
なに?あれ?
「ねぇ、花音。あの人……」
いけないことだとはわかっていても、どうしても気になった私は、花音に耳打ちで話しながら女性を指差した。
「あの落ち込んでいる人?この前の三咲にそっくりだけど……それがどうかした?」
さらっとひどいことを言われた気がしたけど、今は置いておくとして、あのもやみたいなものは、花音には見えてないの?
「なんか変な気がしない?どんよりしてるっていうか、暗いっていうか……」
「まぁ、落ち込んでるみたいだし?」
「そうじゃなくて……」
「……?」
花音は訳がわからないといった様子で首をかしげている。
やっぱり、見えていないらしい。じゃあ、あれは一体なんなの?
「……よくわかんないけど、あの人よりも赤城くんのことでしょ。どうするの?」
そうだ。今は、女の人よりも夜見のこと。
でも、どっちにしても、正攻法では夜見は会ってくれそうもない。
「そうだな……。こうなったら……!」
「こうなったら?」
「待ち伏せするしかない!」
「それがストーカーだって言ってるのよ!!」
花音の大声のツッコミは気にせずに、私は夜見の家へと向かった。
その道中で、どきどきあの女の人みたいに黒いもやを纏っている人を見かけたけど、あまり気にすることはなく走っていく。
私は、花音に言ったように、ひたすら待つことにした。
もう日が沈もうかという夕暮れまで待ってみたけど、出てくることはない。なんとなく予想はできていた。
「やっぱり出てこないか……!」
もしかして、私がいることがわかってる?会いたくないから、外には出ない的な?
でも、窓から見えない位置を陣取っているのに、どうやって確認しているのだろう。
「明日にもう一回待ち伏せするか」
今日は出てきそうにもなかったので、私は家に戻ることにした。
夜見の家に背を向けると、そこには女性が立っている。その女性は、先ほど見かけたあの女性。
気のせいか、昼のときよりも、もやは濃くなっている。
その女性は、なぜか動かない。じっとこちらを見ている。
なんかそれが不気味で、私は気づかないふりして通りすぎようとすると、女性は私の腕を掴む。
「な、なんですか!」
私はなんとか振り払おうとするけど、女性の力が強すぎて振り払えない。
というか、なんかおかしい。いや、掴みかかってくる時点でおかしいんだけど、明らかにこんな華奢な女性が出せる力を越えている。
そして、気づいたらもやが大きく広がっていた。
「ミコ……」
「やめて!」
私は、空いていた左手で、思いっきり女性の腕をひっぱたく。
すると、女性の力が抜けて、私の右腕は自由になった。
そこから急いで離れようとすると、女性のもやは大きく広がる。というよりかは、何か女性から出てこようとしているみたいだった。
「えっ?えっ?」
訳がわからなかった。
そのもやみたいなのは、女性の頭上に浮かぶ。
女性は力が抜けたようにその場に崩れたけど、そんなことを気にしている場合ではない。
そのもやは、私のほうへと向かってきたからだ。
声も出ない。何もできない。でも、あれがヤバイやつというのは直感でわかった。
逃げなきゃと思っても、体が動かない。
あれとぶつかったらどうなるの?呪われるの?死ぬの?また、夜見から避けてる理由も聞いてないのに?
意味なんかない。でも、思わず呟いた。
「夜見……」
「神通発破」
そんな声が聞こえた。
その声とともに、もやはまるで爆発したように散り散りになる。
この声の主を、私はよく知っている。
ずっと求めていて、ずっと会いたくて、何度も家に訪ねたんだから。
「夜見……」
私の目の前には、夜見が立っていた。
やっと会えたのに、何を言えばいいのかわからない。
「あれくらい追い払えよ。お前なら雑魚同然のはずだ」
夜見が何を言っているのかよくわからなかった。
いや、理解するほど余裕がない。
夜見に会えた私は、開口一番に叫ぶ。
「なんで私を避けるの!?学校にも来ないし!理由くらい話してくれてもいいじゃない!」
「……は?お前、何も知らないのか?」
夜見にそんなことを言われて、私はますますヒートアップした。
「知ってたらこんな風にならないよ!私がどれだけ悩んだと思ってるの!あんたのファンクラブにも睨まれるし!」
私が夜見のほうに近づくと、夜見は離れようとする。
逃がさないとばかりに私は夜見の腕を掴んだ。
「痛っ!」
夜見が痛がったので、思わず手を離してしまう。
すると、夜見はすぐに私から距離を取った。
確かに、逃がさないという思いで私は腕を掴んだけど、そこまで強くはなかったはずだ。
夜見の腕を見ると、私が握った辺りの場所が赤く腫れている。
それを見て、ヒートアップしていた私も少し冷静になった。
「……その様子だと、本当に何も知らないみたいだな」
「だから何がなの」
夜見は私の質問には答えずに、家のほうへと向かう。
「入れ。全部、話してやるから」
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