幼なじみは鬼神。そして私は巫女でした

りーさん

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第一章 鬼神と巫女

第四話 夜見の初登校

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 家の中へと入った私は、形だけのただいまを言いながら、真っ先に本棚へと駆け出したーーが。

「う~ん……わからない」

 数十分ほどの時間が経った。
 いろいろ探してみたけど、それっぽい本とか文書みたいなのは見つからなかった。
 そんな伝承的なものは残していないらしい。代々とか家系とかなら、残しててもおかしくないと思ったけど、あてが外れてしまった。
 お母さんには聞いても意味はないだろう。信じていないのに、詳しいことを知っているとは思えない。
 見えない人だったかという言い方から、私の母親の血筋なのは間違いないんだけど……。

「三咲。さっきから何してるの」

 私があちこちうろちょろして本を読んだりしていたからか、家にいるお母さんには怪しまれる。

「えっと、暇だから本でも読もうかな~って。でも、面白いのがなくてさ」
「珍しいわね。中学生までは、暇さえあればテレビか赤城くんと遊んでいたのに」
「ま、まあね」

 もう遊べないからとは言えずに、言葉が濁ってしまう。
 でも、私が力を抑える方法を見つけて身につければ、夜見とも以前と変わらぬ交流ができるはずだから、なんとか探し出さなきゃ。

「そういえば、三咲。あなた、この間フルールに行ってたのよね?」
「うん。そうだけど」

 フルールというのは、私が花音に愚痴を言っていた近所のカフェ。
 あの私を襲ってきた女性を見かけた場所だ。

「実は、三咲がカフェに行った日、あの辺りで引ったくりがあったみたいなのよ」
「えっ!?そうなの?」

 私は夜見の家に行くのに夢中で、全然気づかなかった。
 もしかしたら、私がいないときにあったのかもしれないけど。
 でも、それだと花音が心配だ。巻き込まれているかもしれない。

「それでね、篠田さんのところのお嬢さん……花音ちゃんだったかしら?その子が目撃者だったから、事情聴取されたらしいの」
「……被害者とかじゃなくて、目撃しただけ?」
「ええ、そうみたいよ?」

 私は、その言葉にほっとする。
 被害者の人には申し訳ないけど、花音じゃなくてよかった。

「捕まってないの?」
「自転車に乗ってたから逃げられちゃったらしいわ。三咲も気をつけなさいよ」
「そう言われてもなぁ……」

 容姿がわからないから、被害に合わないためには、自転車を漕いでいる人を全員警戒しなければならない。それこそ無理という話だ。
 巫女パワーで退けられたらいいんだけど、そんな都合がいい力なんてあるわけないし。退けられるとしたら、悪霊とかそんなのだけだ。きっと。
 ……意外と悪霊とかのせいだったりして?
 そんな考えが頭をよぎったけど、そんなわけないと首を振る。
 でも、一度そう考えてしまうと、そんなわけないと思っても疑ってしまうものだ。
 でも、確かめる術なんて、それに詳しい人に聞くしかない。ネットは信憑性がないし。
 そして、詳しい人なんて、身近だと夜見しかいない。夜見に聞いてみるなんて、それも無理な話だ。
 それを聞くならば、まずは力を制御できるようになってからである。
 でも、それも難しい。はてさて、どうするかなぁ。

◇◇◇

 今日は、夜見の家のチャイムを鳴らすという日課は行わずに、学校へと直接向かっている。
 今日は春らしいぽかぽかした気候で、夜見の初登校にはピッタリだと言えるだろう。
 私は、くるりと後ろを振り返る。

「……やっぱいないか」

 もしかしたら、見える距離くらいまで近づいてきているかもという淡い期待のようなものはあったけど、そんな都合のいい展開は起きなかった。
 夜見が学校に来ることは間違いない。昨日の夜、電話で確認したから。
 いつも当たり前に隣にいてくれた存在は、わずか一夜で視界にも入らなくなった。
 だけど、また隣を歩ける可能性はゼロではない。
 長い道のりになろうとも、一歩ずつ進めばいいだけだ。
 ーーなんて、ポジティブに考えても、やはり気になってしまうもので、この後学校に着くまでに三回は確認してしまった。

◇◇◇

 学校に着いてから、教室へとやってきた私はおはようという形だけの挨拶をしながら花音のほうへと向かう。
 花音だけが私のおはようにおはようと返してくれて、彼女の優しさがよくわかる。
 花音のほうへと向かったのは、母親に聞いたことを確認するためだ。
 あまり聞かれたくないことかもしれないので、小声で話しかけた。

「ねぇ、花音。お母さんに聞いたんだけど、引ったくりを見たんだって?」
「うん。三咲が帰った後にね。後ろ姿だったんだけど、一部始終見てたせいで、警察にずーっと捕まってさ」
「そうだったんだ……」

 心配のような、同情のような、複雑な思いで呟く。
 警察の人からしても、目撃者から詳しく聞くのは当たり前だから仕方ないんだろうけど、花音の疲れた様子を見ると、真っ先に帰ったことが少し申し訳なくも思ってしまう。
 私が残って一緒に証言したとしても、花音と一緒に疲れるだけだというのに。

「そういえば、昨日は赤城くんのところに行ったんでしょ?どうだったの?」
「ああ。普通に風邪だったみたいで、今日は来られるらしいよ」

 私がそう言うと、ガタガタと机が動く。
 私がびっくりして周りを見ると、クラスの一部の女子が立ち上がっていた。
 あ、あれは……

「神野さん!本当なのですか?」
「赤城さまが来られるのね!?」

 そう言いながら私に詰め寄ってくるのは、星宮さん筆頭の、A組の夜見のファンクラブの会員の人たちだ。
 以前までの睨みとはちがって、今日の表情はキラキラとしている。
 まぁ、無理もない。先週は一度も来なかったから。

「は、はい。今日は来るって言ってました」

 ファンクラブには、どうしても敬語になってしまう。下手に逆らうと怖い。

「赤城さまのブレザーがやっと見られますわ!」
「きっと、とてもお似合いに違いないもの!」

 夜見の制服姿の妄想でもしているのだろう。ファンクラブの人たちはキャーキャー言いながら盛り上がっている。
 確かに、夜見にこの学校の制服はよく似合うだろう。
 この学校の制服は、可愛い&格好いいで地元では有名だ。可愛くも格好よくもあるのは、女子と男子で微妙にデザインが違うためである。
 上のブレザーは、女子も男子も黒だけど、細部が異なっている。
 女子は青いラインで、襟や袖などが縁取りされている。
 リボンは青と白のチェック。
 スカートは、青と水色を基調としたチェックのスカートだ。
 男子は、基本、装飾はほとんどない。女子は少し水色が混じった明るめの青だったけど、男子のブレザーの縁取りは、紺色に近い暗めの青だ。
 そして、男子もネクタイの模様は同じだけど、色が違い、男子は白と黒である。ズボンは無地のグレー。
 簡単にまとめると、女子は青系統が基調で、男子はモノクロが基調となっているといった感じだった。
 だから、思いを馳せたくなるのはわかる制服だ。
 でも、私はというと、早く来いって感じだった。これで今日も休みましたなんてことになったら、いよいよ夜道で背中から刺されそうな気がするから。

「赤城くんの風邪が治ったなら、なんで二人で登校してこないの?中学校のときはいっつも一緒だったくせに」

 その言葉に、私の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
 花音は、敏感なわけではないけど、こういう勘はよく働く。

「え、え~っと……花音にさっきのことを聞きたくて、夜見を待たなかったから……」
「そんなに気になることかなぁ……?」

 私の言葉に、花音は少し疑いの言葉を呟く。
 一緒にいられないなんて言おうものなら、私と夜見の正体も話さなければならない。花音には、下手なごまかしは聞かないから、ちょっとは真実を混ぜないと、簡単に見破られる。

「だって、私もそこにいたわけでしょ?早く帰ってなかったら、巻き込まれてたかもしれないじゃん」
「……まぁ、そうかもね」

 まだ少し疑っているような気もするけど、とりあえずは納得してくれたらしい。
 私がそれに少しほっとすると、急にキャーという黄色い声が沸く。その声は、ドアの向こうの廊下から響いているようだった。
 その声の理由は見なくてもわかる。私と花音が通った中学校のアイドルだった人がやってきたのだ。
 ガラガラとドアの開く音がする。当然、教室にいるファンクラブの人たちも黄色い声をあげる。入ってきたのは夜見。知ってた。
 私はというと、それを冷たい視線で見ているだけだった。
 花音はというと、始まったかとばかりに苦笑いしている。

「相変わらずすごいね、赤城くん」
「うん。この歓声を無視できる度胸は褒めていいと思う」

 こんなにキャーキャー言われているのに、当の本人は眉一つ動かさない冷たい表情のままなのだ。
 まるで、夜見の耳には何も聞こえていないかのように。

「赤城さま!風邪は大丈夫なのですか?」
「お体が優れないようでしたらすぐにおっしゃってください!」

 私が風邪と断言したからか、そんな声もちらほら。
 夜見はじっと私のほうを見てきたけど、爽やかな笑みを向けておいた。
 決して、まだ勝手に避けられたことを怒っているわけではない。風邪という言い訳に乗っかってやっただけなのだから。
 夜見は、私に向けてジェスチャーしてくる。
 手で追い払うような仕草をしているので、その場から離れろという意味だろう。
 私は指示通りに離れる。一番離れることができる距離である、対角の位置に移動した。
 花音は少し訝しそうな目で見ていたけど、すぐに私からは目をそらした。
 夜見が近づいてきたからだ。いつの間にかファンクラブの人たちが夜見の後ろにいるので、多分掻き分けるように歩いてきたのだろう。

「篠田。俺の席ってどこだ?」
「え、え~っと……あそこの列の前から二番目のあの席で……」

 花音は、戸惑いながらも、窓側の列を指差しながらそう言った。
 赤城という名字である夜見の出席番号は当然ながら早めになる。出席番号は二番だ。
 それ自体におかしなことはないんだけど、問題はーー

「ちょうど三咲の隣だね」

 そう。問題はこれだ。
 花音からその言葉を聞いた夜見は、一瞬硬直した。そして、じっと私のほうを見る。
 言葉を発していなくてもわかる。これは、なんで言わなかったんだという意だ。
 うん。ごめん。私もそのときは気づいてなかったんだよ。
 私は、両手を合わせて、謝る動作を行う。
 私の名字は神野。か行になるので、私もそこそこ早めになる。
 クラスは横六列縦六列の計三十六人。
 夜見は二番で私は八番となってしまったため、席が隣同士なのだ。
 ちなみに、これに気づいたのは、登校直前の今朝である。
 夜見が来るから、今日は私の隣が埋まるなぁと考えていたら気がついた。
 いつも私の隣が空いていることを頭に入れておけばすぐに注意できたはずなのに、夜見に会えたことでいっぱいいっぱいで忘れていた。
 夜見は軽くため息をついてから、自分の席に座る。
 私は、心の中でがんばれとエールを送ることしかできなかった。
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