幼なじみは鬼神。そして私は巫女でした

りーさん

文字の大きさ
10 / 23
第一章 鬼神と巫女

第十話 おかしな星宮

しおりを挟む
 夜見が三咲と別れて、不本意ながらも星宮のお見舞いに向かっているころ。
 夜見は道中で、三咲が話していた、神社で会った女性のことを考えていた。
 その女性が一般人であるという選択は元からない。三咲の巫女としての力はかなりのものだ。量も多いが、そもそも質の高さも規格外だ。
 鬼神は、決して弱いあやかしではない。何千、何万といるあやかしの中から、強さの順に上から数えたとき、五本指に入るくらいの実力は持っている。
 そんな最強格のあやかしの自分たちでさえ恐れるくらいの強い霊力を持っているのが三咲だ。
 自分に宿っているその強くて高純度な霊力を駄々漏れにしているため、両親は近づくことすらままならない。
 そんな三咲の霊力を、ほんの数分程度で鎮めてしまうのは、並大抵の技ではない。少なくとも、三咲と同じような強い巫女などにしかできない神業だ。
 だが、そうなると、夜見にはまったく心当たりがない。三咲以外の、三咲ほどの強い力を持つ巫女が近くにいたのだとしたら、間違いなく自分は気づいている。
 それに、そんな強い力を持つ巫女がいるのであれば、間違いなく父は知っているはずだ。あの父が知らないのであれば、その女性は、この街の出身ではない。
 だが、それこそおかしな話だ。巫女や祓い師ならば、自分の管轄から離れることは滅多にないはずだ。
 たとえ遠出したとしても、別の神社に行くことなどほぼない。自分が力をもらっている神を祀っている神社なら話は別だが。

(巫女や祓い師じゃないとするとなんなんだ……?)

 霊力を整理してくれたというから、悪人というわけではないのだろうが、普通に怪しすぎる。
 三咲の話を聞く限りでは、その女性は三咲が神社に来た理由も見抜かれていたのではという話だ。
 それこそ、人間業ではない。できるとするならば、思考を読み取れるあやかしや、それこそーー

「赤城さま?いかがなさいましたか?」
「ーーあっ、いや、なんでもない。少し考え事をしていただけだ」

 ずっと黙っていた夜見が気になったのだろう。乾が心配そうに話しかけてくる。
 乾の声で、夜見も現実に戻ってきた。少なくとも、こんな生け贄みたいなことをさせた三咲に苛立ちを覚えるくらいには。

「ーーまさか、神野さんのことですの?」

 高田がじっと不満げな視線を向けてくる。

「まぁ……そうだな」

 夜見は、それに曖昧に答えた。
 正直に考えたことを伝えてしまえば、それは三咲の正体を二人に明かすことになる。
 別に、自分があやかしだと明かして、避けられる分には構わないどころか、一人が好きな夜見としては、纏わりついてくるのがいなくなるため、むしろ歓迎したいくらいなのだが、三咲にそんな扱いをさせるわけにはいかない。
 ただでさえ、自分が昔のように側にはいられない状況だというのに、三咲と仲が良いのは、実質、篠田一人だ。
 どこからか篠田の耳に入り、三咲を気味悪がって近づかなくなりでもしたら、三咲は孤独になってしまう。
 あの二人を見ていれば、そんなことはないと思うが、念を入れておくことに越したことはない。

「あっ、赤城さま。着きましたわよ」
「さぁ、中に入りましょう。麗さまは五階に入院されているはずですわ」
「ああ……」

 着いてしまったか、と落胆する。
 夜見としては、三咲が行けと言ったから不本意ながらも来ただけで、本来なら来るつもりはなかった。
 夜見は人間みたいな見た目をしていても、所詮はあやかしだ。人としての思いやりの部分は欠けているところがある。
 特に大した仲でもない存在に、お見舞いに行く必要性を感じないくらいには。
 三咲は夜見のことをお人好しというが、三咲だから助けている部分が大きい。
 三咲は自覚していないようだが、三咲の言葉には言霊のような力がある。本人が意識していないため、効果としては弱いが、彼女の言葉は、信じやすく、従いたくなってしまう。
 夜見も考えるより体が動いてしまっていた。言霊のような力があるとわかっていてもだ。

(さっさと終わらせて帰るか……)

 夜見は、二人と一緒に病院の中へと入った。

◇◇◇

 星宮が入院している病室へと歩いている途中、夜見は妙な力の気配を感じた。
 それは、少し先の病室から漏れている。

(これは……瘴気、か……?)

 瘴気というのは、異形やあやかしが発するものだ。
 瘴気を浴びれば、体調に不調が出る。
 瘴気のある場所を通りすぎたくらいであれば、風邪程度の症状で済むが、その場に留まったりして、浴びた量が多かったり、濃い瘴気を浴びたりすると、瘴気が体に宿ってしまい、吐血や呼吸困難、意識不明になることもある。
 夜見は、少し警戒しながら星宮のいる病室へと近づいた。

「麗さまがおられるのはここですわ」

 乾が指を指した部屋は、瘴気を感じた部屋だ。
 まさか、と思いながら夜見は病室に入る。
 部屋には、星宮がベッドで横たわっており、その星宮を中心とするように、黒い霧のようなものが覆っている。

「麗さまーー」
「待て!近づくな!」

 駆け寄ろうとした高田の襟を掴んで引き留める。
 乾と高田は急にそんなことを言う夜見に戸惑っているが、夜見の顔は至って真剣だ。
 夜見は、一目で星宮が入院した原因があの瘴気であることを理解していた。
 そして、瘴気は、稀に人から人へ移ることがある。瘴気を宿している人間に触れなければ移ることはないが、逆に言えば、触れれば移ってしまう可能性がある。

(これは……誰からもらったんだ?)

 夜見がこの一週間、学校に通っていた限りでは、高校には瘴気を宿している人間はいなかった。
 それなら、同級生などからもらったわけではない。
 そうなると、家族や登下校中に触れたことになるが、そうなると候補が多すぎてわからない。
 霊力がほとんどない人間は、瘴気が体にある状態で長期間耐えられるわけがないので、ここ最近の話だ。
 それならば、触れたわけではなく、異形やあやかしが発するものを取り込んでしまったのだろうか。
 だが、そんな瘴気があれば、少なくとも両親は気づいているはずだ。

(……まさか、あの引ったくりか?)

 夜見は、先日のニュースを思い出す。
 三咲が早く捕まればなんてことを言ったからか、引ったくり犯は捕まっていた。
 でも、それは言霊とは関係ない。問題は、引ったくり犯が警察に説明していたことだ。
 女子学生を狙った後、不意に罪悪感が込み上げてきたと言っている。
 もし、あの引ったくり犯に異形が憑いていたとしたら?
 異形は、人の心に憑き、その人物の負の感情を倍増する。そのため、犯罪に走ることも少なくはない。
 そして、星宮は、以前に引ったくりの被害にあっている。それならば、どこか体が触れ合っていてもおかしくない。
 星宮は、中学校から夜見のファンクラブの一員だったため、三咲や夜見とよく接していた。
 その霊力の気配に異形が気づき、移動した可能性は高い。
 だが、それだと、一つ疑問が残る。
 異形は、強い霊力に反応するため、普通なら夜見のほうに寄ってくるはずだ。
 鬼神である夜見は、妖力はもちろんのこと、あやかしにしては珍しく高い霊力も持っている。
 体が動けないとしても、それこそ抜け出せばいい。
 異形が星宮に宿っているのだとしたら、夜見の高い霊力に気づかないわけがない。

(妖力混じりはいらないってことか?)

 あやかしの霊力と、巫女のような人間が持つ霊力はやはりちがう。どちらかといえば、後者のほうが狙う価値は高い。
 あやかしは必然的に妖力が混じってしまうため、純度という面では人間の霊力に劣る。霊力を狙うようなものは、なるべく純度の高い霊力を狙うだろう。
 そうなると、三咲が来たら狙われる可能性が高い。三咲は、またの機会と言っていたから、見舞いに来る可能性がある。
 霊力を使えば追い払えるだろうが、そうなればまた三咲の霊力に苦しむ日々を送ることとなってしまう。

(俺がなんとかしてみるか)

 すぐに帰るつもりだったが、長居することになり、夜見は軽くため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行かないで、と言ったでしょう?

松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。 病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。 壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。 人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。 スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。 これは、春を信じられなかったふたりが、 長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

君は恋人、でもまだ家族じゃない

山田森湖
恋愛
あらすじ 同棲して3年。 毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、 一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。 彼女は彼を愛している。 彼も自分を愛してくれていると信じている。 それでも、胸の奥には消えない不安がある。 「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」 結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。 最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。 周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。 幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には “言えない言葉”だけが増えていく。 愛している。 でも、それだけでは前に進めない。 同棲という甘い日常の裏で、 少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。 このまま時間に流されるだけの恋なのか、 それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。 彼の寝息を聞きながら、 彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。

あなたがすき、だったから……。

友坂 悠
恋愛
 あなたが好きだったから、わたしは身を引いた。  もともと、3年だけの契約婚だった。  恋愛感情なしに、偽装夫婦を演じよう。  そういうあなたに同意をして一緒に暮らし出した日々。  それなのに。  約束の期限の三日前、まさか酔ったあなたとそういう関係になるなんて、思わなかった。  だから。 わたしはそのまま翌朝家を出た。  わたしだけが、どんどんあなたを好きになってしまったことを隠したくて。  こんな気持ちを悟られ、あなたに迷惑がかかるのに、耐えられなくて。    ############# なろうさんで開催されていた、氷雨そら先生、キムラましゅろう先生主催、 シークレットベビー企画参加作品だった、「あなたが好きだったから」という短編に、少し加筆修正して連載化しました。 初めてのシクべ、ちょっと変わったタイプのシクべ作品となりました。 お楽しみいただけると幸いです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...