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第一章 鬼神と巫女
第十話 おかしな星宮
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夜見が三咲と別れて、不本意ながらも星宮のお見舞いに向かっているころ。
夜見は道中で、三咲が話していた、神社で会った女性のことを考えていた。
その女性が一般人であるという選択は元からない。三咲の巫女としての力はかなりのものだ。量も多いが、そもそも質の高さも規格外だ。
鬼神は、決して弱いあやかしではない。何千、何万といるあやかしの中から、強さの順に上から数えたとき、五本指に入るくらいの実力は持っている。
そんな最強格のあやかしの自分たちでさえ恐れるくらいの強い霊力を持っているのが三咲だ。
自分に宿っているその強くて高純度な霊力を駄々漏れにしているため、両親は近づくことすらままならない。
そんな三咲の霊力を、ほんの数分程度で鎮めてしまうのは、並大抵の技ではない。少なくとも、三咲と同じような強い巫女などにしかできない神業だ。
だが、そうなると、夜見にはまったく心当たりがない。三咲以外の、三咲ほどの強い力を持つ巫女が近くにいたのだとしたら、間違いなく自分は気づいている。
それに、そんな強い力を持つ巫女がいるのであれば、間違いなく父は知っているはずだ。あの父が知らないのであれば、その女性は、この街の出身ではない。
だが、それこそおかしな話だ。巫女や祓い師ならば、自分の管轄から離れることは滅多にないはずだ。
たとえ遠出したとしても、別の神社に行くことなどほぼない。自分が力をもらっている神を祀っている神社なら話は別だが。
(巫女や祓い師じゃないとするとなんなんだ……?)
霊力を整理してくれたというから、悪人というわけではないのだろうが、普通に怪しすぎる。
三咲の話を聞く限りでは、その女性は三咲が神社に来た理由も見抜かれていたのではという話だ。
それこそ、人間業ではない。できるとするならば、思考を読み取れるあやかしや、それこそーー
「赤城さま?いかがなさいましたか?」
「ーーあっ、いや、なんでもない。少し考え事をしていただけだ」
ずっと黙っていた夜見が気になったのだろう。乾が心配そうに話しかけてくる。
乾の声で、夜見も現実に戻ってきた。少なくとも、こんな生け贄みたいなことをさせた三咲に苛立ちを覚えるくらいには。
「ーーまさか、神野さんのことですの?」
高田がじっと不満げな視線を向けてくる。
「まぁ……そうだな」
夜見は、それに曖昧に答えた。
正直に考えたことを伝えてしまえば、それは三咲の正体を二人に明かすことになる。
別に、自分があやかしだと明かして、避けられる分には構わないどころか、一人が好きな夜見としては、纏わりついてくるのがいなくなるため、むしろ歓迎したいくらいなのだが、三咲にそんな扱いをさせるわけにはいかない。
ただでさえ、自分が昔のように側にはいられない状況だというのに、三咲と仲が良いのは、実質、篠田一人だ。
どこからか篠田の耳に入り、三咲を気味悪がって近づかなくなりでもしたら、三咲は孤独になってしまう。
あの二人を見ていれば、そんなことはないと思うが、念を入れておくことに越したことはない。
「あっ、赤城さま。着きましたわよ」
「さぁ、中に入りましょう。麗さまは五階に入院されているはずですわ」
「ああ……」
着いてしまったか、と落胆する。
夜見としては、三咲が行けと言ったから不本意ながらも来ただけで、本来なら来るつもりはなかった。
夜見は人間みたいな見た目をしていても、所詮はあやかしだ。人としての思いやりの部分は欠けているところがある。
特に大した仲でもない存在に、お見舞いに行く必要性を感じないくらいには。
三咲は夜見のことをお人好しというが、三咲だから助けている部分が大きい。
三咲は自覚していないようだが、三咲の言葉には言霊のような力がある。本人が意識していないため、効果としては弱いが、彼女の言葉は、信じやすく、従いたくなってしまう。
夜見も考えるより体が動いてしまっていた。言霊のような力があるとわかっていてもだ。
(さっさと終わらせて帰るか……)
夜見は、二人と一緒に病院の中へと入った。
◇◇◇
星宮が入院している病室へと歩いている途中、夜見は妙な力の気配を感じた。
それは、少し先の病室から漏れている。
(これは……瘴気、か……?)
瘴気というのは、異形やあやかしが発するものだ。
瘴気を浴びれば、体調に不調が出る。
瘴気のある場所を通りすぎたくらいであれば、風邪程度の症状で済むが、その場に留まったりして、浴びた量が多かったり、濃い瘴気を浴びたりすると、瘴気が体に宿ってしまい、吐血や呼吸困難、意識不明になることもある。
夜見は、少し警戒しながら星宮のいる病室へと近づいた。
「麗さまがおられるのはここですわ」
乾が指を指した部屋は、瘴気を感じた部屋だ。
まさか、と思いながら夜見は病室に入る。
部屋には、星宮がベッドで横たわっており、その星宮を中心とするように、黒い霧のようなものが覆っている。
「麗さまーー」
「待て!近づくな!」
駆け寄ろうとした高田の襟を掴んで引き留める。
乾と高田は急にそんなことを言う夜見に戸惑っているが、夜見の顔は至って真剣だ。
夜見は、一目で星宮が入院した原因があの瘴気であることを理解していた。
そして、瘴気は、稀に人から人へ移ることがある。瘴気を宿している人間に触れなければ移ることはないが、逆に言えば、触れれば移ってしまう可能性がある。
(これは……誰からもらったんだ?)
夜見がこの一週間、学校に通っていた限りでは、高校には瘴気を宿している人間はいなかった。
それなら、同級生などからもらったわけではない。
そうなると、家族や登下校中に触れたことになるが、そうなると候補が多すぎてわからない。
霊力がほとんどない人間は、瘴気が体にある状態で長期間耐えられるわけがないので、ここ最近の話だ。
それならば、触れたわけではなく、異形やあやかしが発するものを取り込んでしまったのだろうか。
だが、そんな瘴気があれば、少なくとも両親は気づいているはずだ。
(……まさか、あの引ったくりか?)
夜見は、先日のニュースを思い出す。
三咲が早く捕まればなんてことを言ったからか、引ったくり犯は捕まっていた。
でも、それは言霊とは関係ない。問題は、引ったくり犯が警察に説明していたことだ。
女子学生を狙った後、不意に罪悪感が込み上げてきたと言っている。
もし、あの引ったくり犯に異形が憑いていたとしたら?
異形は、人の心に憑き、その人物の負の感情を倍増する。そのため、犯罪に走ることも少なくはない。
そして、星宮は、以前に引ったくりの被害にあっている。それならば、どこか体が触れ合っていてもおかしくない。
星宮は、中学校から夜見のファンクラブの一員だったため、三咲や夜見とよく接していた。
その霊力の気配に異形が気づき、移動した可能性は高い。
だが、それだと、一つ疑問が残る。
異形は、強い霊力に反応するため、普通なら夜見のほうに寄ってくるはずだ。
鬼神である夜見は、妖力はもちろんのこと、あやかしにしては珍しく高い霊力も持っている。
体が動けないとしても、それこそ抜け出せばいい。
異形が星宮に宿っているのだとしたら、夜見の高い霊力に気づかないわけがない。
(妖力混じりはいらないってことか?)
あやかしの霊力と、巫女のような人間が持つ霊力はやはりちがう。どちらかといえば、後者のほうが狙う価値は高い。
あやかしは必然的に妖力が混じってしまうため、純度という面では人間の霊力に劣る。霊力を狙うようなものは、なるべく純度の高い霊力を狙うだろう。
そうなると、三咲が来たら狙われる可能性が高い。三咲は、またの機会と言っていたから、見舞いに来る可能性がある。
霊力を使えば追い払えるだろうが、そうなればまた三咲の霊力に苦しむ日々を送ることとなってしまう。
(俺がなんとかしてみるか)
すぐに帰るつもりだったが、長居することになり、夜見は軽くため息をついた。
夜見は道中で、三咲が話していた、神社で会った女性のことを考えていた。
その女性が一般人であるという選択は元からない。三咲の巫女としての力はかなりのものだ。量も多いが、そもそも質の高さも規格外だ。
鬼神は、決して弱いあやかしではない。何千、何万といるあやかしの中から、強さの順に上から数えたとき、五本指に入るくらいの実力は持っている。
そんな最強格のあやかしの自分たちでさえ恐れるくらいの強い霊力を持っているのが三咲だ。
自分に宿っているその強くて高純度な霊力を駄々漏れにしているため、両親は近づくことすらままならない。
そんな三咲の霊力を、ほんの数分程度で鎮めてしまうのは、並大抵の技ではない。少なくとも、三咲と同じような強い巫女などにしかできない神業だ。
だが、そうなると、夜見にはまったく心当たりがない。三咲以外の、三咲ほどの強い力を持つ巫女が近くにいたのだとしたら、間違いなく自分は気づいている。
それに、そんな強い力を持つ巫女がいるのであれば、間違いなく父は知っているはずだ。あの父が知らないのであれば、その女性は、この街の出身ではない。
だが、それこそおかしな話だ。巫女や祓い師ならば、自分の管轄から離れることは滅多にないはずだ。
たとえ遠出したとしても、別の神社に行くことなどほぼない。自分が力をもらっている神を祀っている神社なら話は別だが。
(巫女や祓い師じゃないとするとなんなんだ……?)
霊力を整理してくれたというから、悪人というわけではないのだろうが、普通に怪しすぎる。
三咲の話を聞く限りでは、その女性は三咲が神社に来た理由も見抜かれていたのではという話だ。
それこそ、人間業ではない。できるとするならば、思考を読み取れるあやかしや、それこそーー
「赤城さま?いかがなさいましたか?」
「ーーあっ、いや、なんでもない。少し考え事をしていただけだ」
ずっと黙っていた夜見が気になったのだろう。乾が心配そうに話しかけてくる。
乾の声で、夜見も現実に戻ってきた。少なくとも、こんな生け贄みたいなことをさせた三咲に苛立ちを覚えるくらいには。
「ーーまさか、神野さんのことですの?」
高田がじっと不満げな視線を向けてくる。
「まぁ……そうだな」
夜見は、それに曖昧に答えた。
正直に考えたことを伝えてしまえば、それは三咲の正体を二人に明かすことになる。
別に、自分があやかしだと明かして、避けられる分には構わないどころか、一人が好きな夜見としては、纏わりついてくるのがいなくなるため、むしろ歓迎したいくらいなのだが、三咲にそんな扱いをさせるわけにはいかない。
ただでさえ、自分が昔のように側にはいられない状況だというのに、三咲と仲が良いのは、実質、篠田一人だ。
どこからか篠田の耳に入り、三咲を気味悪がって近づかなくなりでもしたら、三咲は孤独になってしまう。
あの二人を見ていれば、そんなことはないと思うが、念を入れておくことに越したことはない。
「あっ、赤城さま。着きましたわよ」
「さぁ、中に入りましょう。麗さまは五階に入院されているはずですわ」
「ああ……」
着いてしまったか、と落胆する。
夜見としては、三咲が行けと言ったから不本意ながらも来ただけで、本来なら来るつもりはなかった。
夜見は人間みたいな見た目をしていても、所詮はあやかしだ。人としての思いやりの部分は欠けているところがある。
特に大した仲でもない存在に、お見舞いに行く必要性を感じないくらいには。
三咲は夜見のことをお人好しというが、三咲だから助けている部分が大きい。
三咲は自覚していないようだが、三咲の言葉には言霊のような力がある。本人が意識していないため、効果としては弱いが、彼女の言葉は、信じやすく、従いたくなってしまう。
夜見も考えるより体が動いてしまっていた。言霊のような力があるとわかっていてもだ。
(さっさと終わらせて帰るか……)
夜見は、二人と一緒に病院の中へと入った。
◇◇◇
星宮が入院している病室へと歩いている途中、夜見は妙な力の気配を感じた。
それは、少し先の病室から漏れている。
(これは……瘴気、か……?)
瘴気というのは、異形やあやかしが発するものだ。
瘴気を浴びれば、体調に不調が出る。
瘴気のある場所を通りすぎたくらいであれば、風邪程度の症状で済むが、その場に留まったりして、浴びた量が多かったり、濃い瘴気を浴びたりすると、瘴気が体に宿ってしまい、吐血や呼吸困難、意識不明になることもある。
夜見は、少し警戒しながら星宮のいる病室へと近づいた。
「麗さまがおられるのはここですわ」
乾が指を指した部屋は、瘴気を感じた部屋だ。
まさか、と思いながら夜見は病室に入る。
部屋には、星宮がベッドで横たわっており、その星宮を中心とするように、黒い霧のようなものが覆っている。
「麗さまーー」
「待て!近づくな!」
駆け寄ろうとした高田の襟を掴んで引き留める。
乾と高田は急にそんなことを言う夜見に戸惑っているが、夜見の顔は至って真剣だ。
夜見は、一目で星宮が入院した原因があの瘴気であることを理解していた。
そして、瘴気は、稀に人から人へ移ることがある。瘴気を宿している人間に触れなければ移ることはないが、逆に言えば、触れれば移ってしまう可能性がある。
(これは……誰からもらったんだ?)
夜見がこの一週間、学校に通っていた限りでは、高校には瘴気を宿している人間はいなかった。
それなら、同級生などからもらったわけではない。
そうなると、家族や登下校中に触れたことになるが、そうなると候補が多すぎてわからない。
霊力がほとんどない人間は、瘴気が体にある状態で長期間耐えられるわけがないので、ここ最近の話だ。
それならば、触れたわけではなく、異形やあやかしが発するものを取り込んでしまったのだろうか。
だが、そんな瘴気があれば、少なくとも両親は気づいているはずだ。
(……まさか、あの引ったくりか?)
夜見は、先日のニュースを思い出す。
三咲が早く捕まればなんてことを言ったからか、引ったくり犯は捕まっていた。
でも、それは言霊とは関係ない。問題は、引ったくり犯が警察に説明していたことだ。
女子学生を狙った後、不意に罪悪感が込み上げてきたと言っている。
もし、あの引ったくり犯に異形が憑いていたとしたら?
異形は、人の心に憑き、その人物の負の感情を倍増する。そのため、犯罪に走ることも少なくはない。
そして、星宮は、以前に引ったくりの被害にあっている。それならば、どこか体が触れ合っていてもおかしくない。
星宮は、中学校から夜見のファンクラブの一員だったため、三咲や夜見とよく接していた。
その霊力の気配に異形が気づき、移動した可能性は高い。
だが、それだと、一つ疑問が残る。
異形は、強い霊力に反応するため、普通なら夜見のほうに寄ってくるはずだ。
鬼神である夜見は、妖力はもちろんのこと、あやかしにしては珍しく高い霊力も持っている。
体が動けないとしても、それこそ抜け出せばいい。
異形が星宮に宿っているのだとしたら、夜見の高い霊力に気づかないわけがない。
(妖力混じりはいらないってことか?)
あやかしの霊力と、巫女のような人間が持つ霊力はやはりちがう。どちらかといえば、後者のほうが狙う価値は高い。
あやかしは必然的に妖力が混じってしまうため、純度という面では人間の霊力に劣る。霊力を狙うようなものは、なるべく純度の高い霊力を狙うだろう。
そうなると、三咲が来たら狙われる可能性が高い。三咲は、またの機会と言っていたから、見舞いに来る可能性がある。
霊力を使えば追い払えるだろうが、そうなればまた三咲の霊力に苦しむ日々を送ることとなってしまう。
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