幼なじみは鬼神。そして私は巫女でした

りーさん

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第一章 鬼神と巫女

第十三話 価値観のちがい

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 私は、夜見の家のチャイムを鳴らす。
 すると、インターホンから声が聞こえてきた。

「話があるなら、鍵は開いてるから入ってこい」

 それだけ言って、通信は切れた。おいこら。
 今すぐここで文句を言いたいところだけど、ぐっと堪えて、私は夜見の家の中へと入る。
 夜見の家に入ってからは、一応「お邪魔します」と声をかけて、リビングに続くドアを開ける。
 中の様子を伺うと、夜見がキッチンで何かやっている。

「夜見。何してるの?」
「今日は父さんも母さんも帰ってくるのが遅いから、夕飯作ってるんだよ」
「えっ!?夜見、料理できるの!?」

 学校では学食のため、お弁当を見る機会はほとんどないし、中学校までのイベントでも、てっきり親が作っているものだと思っていた。

「家庭料理程度ならな。あまり家に帰ってこないから、大抵の家事は俺がやってるし」
「そうだったんだ……」

 まったく知らなかったけど、正直に尊敬してしまう。
 私は、家事は全部お母さんに任せてしまっている。家事なんて、たまにお風呂掃除をやるくらいだ。

「でも、夜見の料理って気になるかも……」

 一応、調理実習で見たんだろうけど、あまり記憶にない。
 そのときは、私は自分のことでいっぱいいっぱいだったし。
 自慢ではないが、私は不器用なところがあるので、料理なんてものをするときに、他の人を見る余裕なんてない。

「なら、朝に焼いたパンのあまりがあるから、持って帰るか?」
「えっ!?パンも焼けるの!?」

 女子力高いを越えてる!
 世の中の主婦でも、パンを焼けるって人は多くはないと思う。
 少なくとも、高校生のうちからできましたという人はほぼいないだろう。

「ああ。冷蔵庫に……ほら、これ」

 夜見は、冷蔵庫から白いお皿の上に乗せたパンを取り出す。
 見た目はロールパンみたいな感じだ。

「どういうやつ?」
「普通のロールパン。いくつかあるから、おばさんの分も持っててやりな」
「あ、ありがと……って、こんなことしてる場合じゃなくて!」

 あまりにも夜見の女子力が高すぎて、本来の目的を忘れるところだった。

「夜見。病院で何かあったでしょ」

 私がそう言うと、夕飯の支度をしている夜見の動きが一瞬硬直した。
 それは、幼なじみとして小さい頃から一緒にいる私しか気づかないくらいの些細な変化だ。

「何があったの?教えて」

 私が有無を言わさずそう言うと、夜見は案外あっさりと教えてくれる。

「星宮に憑いていたあやかしを追い払っただけだ」
「あやかしって……アッキとかいうの?」
「ああ、やっぱり三咲の家にいたのか」

 どうやら、アッキがいたことは、夜見も気づいていたらしい。
 そして、そう言うということは、あのアッキに非人道的な行いをしたのは夜見のようだ。

「なんでそんなことしたの」
「星宮が入院した理由が、そいつが発した瘴気だったから、祓わなければ治らなかったんだよ」
「えっ?そうなの?アッキは何もしてないとか言ってたけど……」

 あれは嘘をついていたのだろうか。でも、そんな風には見えなかった。

「悪いこととは思ってないんだろ。あやかしにとっては、自分が良ければ、人間の小娘のことなんか気にしないからな」
「そんな……」

 やはり、あやかしと人間では価値観はちがうらしい。
 普通の人間は、見ず知らずの他人を犠牲にしたりはしない。でも、あやかしはちがうようだ。目的のためなら、使えるものはなんでも使うということだろう。

「全部のあやかしがそんな倫理観を守っていたら、あやかし退治する巫女なんかいらないだろ」
「それはそうだけど……」

 でも、やはり納得はいかない。
 だって、その言い方だと、まるでーー

「……夜見もそうなの?」

 夜見も見た目は人間だけど、中身は純粋なあやかしだ。
 両親もあやかしなら、きっとあやかしの価値観で育てられているだろ。

「そうだな。別に俺は人間を犠牲にしたりはしないが、共感なんてものはできないし、思いやりなんて欠片もないぞ」
「えっ、でも、夜見はいろいろ私に優しくしてくれたのに」
「あれはお前のーーいや、なんでもない。とにかく、俺もあやかしなんだ。人間と同じにはなれない」

 何を言いかけたのかは少し気になったけど、それよりも、その言葉に少しショックだった。
 夜見は、あやかしだとしても、夜見は夜見だと思っていた。だから、私が霊力の制御ができるようになれば、また友達として交流できると思っていた。
 でも、夜見がそれはちがうとはっきりと否定してきた。自分はあやかしだと。人間にはなれないと。
 それは、私と夜見との間に、見えないけどはっきりとした壁ができた瞬間だった。
 きっと夜見は、私の霊力の関係がなくても、距離を取っただろう。私の霊力は、建前でしかない。
 もう、距離を取ったほうがいいのかもしれない。その判断が賢明だろう。夜見も、そのつもりでこう言っているにちがいない。

「……わかった。もう帰るね」
「ああ。じゃあな」

 まるで他人事のように夜見はそう言った。
 そして、もう私はそこにはいないかのように、ご飯の支度を再開する。
 多分、ひどいことを言ったとは思ってないんだろう。だから、何もなかったように振る舞っている。
 私は、廊下に出て、玄関から外に出る。
 そして、静かに玄関のドアを閉めた。
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